訪問者
イレーヌの首都アイルーン。
広大な森の全域を国とするイレーヌの中心都市でであり、その規模は国のほぼ3分の1を占める。
ただし、それは都市郊外を含めればの話である。
イレーヌは複数の集落が集まった果てに出来上がった国であり、もともとアイルーンはその中心にあった大きな集落の事を指しており、小さな集落がアイルーンと周辺の都市の間に点在している形となっている。
そのこまごまとした集落も含めてアイルーンとしているため、アイルーンが3分の1を占めているということになっているのである。
その周辺の集落部分はアイルーンの郊外にあたり、その郊外の一角にその教会は建てられていた。
アイルーンの繁華街へ続く大通りから外れて数分もすれば見えてくる場所であり、街の喧騒が聞こえぬ穏やかな場所だった。
教会の近くにはちらほらと家が見えるものの、それほど多くは建っておらず、人通りもかなり少ない。1時間に30人も通れば多いくらいではないだろうか。
そんな静かな教会の正面入り口付近に一台の車が止まった。
教会に用があるものすら珍しいというのに、その教会に7人も乗せた車が止まったのだ。それもただの車ではなく魔動車である。
魔動車は国の上層部のものや一部の富豪が所持しているような高級品であり、2馬引きの馬車が30台買ってもお釣りがくるほどの金額である。
そんな高級車に乗って現れた者がただものなわけがない。当然教会の人間もそれを理解している。
ただ、荷台から降りてきた5人の者の顔を見た瞬間に少し困惑した。
5人はエルフではなく人間だったのだ。それもそのうち一人はとても愛らしい少女だった。
人間の年齢換算ではまだ10にも満たないだろう無垢な姿のそれは常に微笑みを絶やさず、むしろ旅行にはしゃぐようにうきうきとした表情を見せる。
その少女を連れて歩くのはいかにも冒険者という風合いの4人の男女である。
容姿が整っているという以上にその立ち居振る舞いが洗練されており、エルフの貴族を見ているようである。
年も若く、とても子連れの夫婦といったようには見えず、結果この5人がどういうものたちなのかが余計にわからない。
教会の人間がどうするべきか早口に意見を交わすうちにも彼らはこちらに向かってきている。とりあえず教会の責任者である司祭が話を聞くべきであるとして彼らの方に向かおうとしたその時であった。
「やっと来てくれたか!待ちくたびれたぞ!」
孤児院の方からリィーネがやってきて彼らに声をかけた。
「お久しぶりですリィーネさん。これでもかなり急いできたつもりなのですが。」
5人の先頭にいた男とリィーネが親しそうに言葉を交わしていることから二人は知人であるということがわかる。
司祭は6人のそばに近づき、事情を聴いてみることにした。
「リィーネ殿。こちらの方々は?」
「ああ。エルニア司祭殿。こちらは冒険者をしているエレアナのみなさんだ。以前こちらに伺いに来るものがいると伝えていたでしょう?」
「なるほど。例の人間の知人ですか。」
リィーネの答えに数日前の話を思い出した。
リィーネが手紙をしたためて送った後、珍しく教会を訪れて司祭を訪ねて来た日の事だ。リィーネは事前に4人の人間がこの教会を訪れだろうと話しており、司祭もそのことについて了承していたのだ。
ただ、今回そのことを思い出せなかったのは理由がある。
「しかし、確かあの時は4人の人間が来るとの話だったが・・・。」
司祭は4人のうちの一人。魔法使いと思しき女性の手を握る少女を見て言う。
「私もまさか子供を連れているとは知らなかったもので。」
そう言ってリィーネは苦笑いしながらルーナとレナに目をやる。
「それで。その子供は誰の子だ?」
「誰の子でもないですから!」
リィーネの言葉に突っ込んだのは弓を携えた少女である。彼女も少女のもう一方の手を握っており、少女はレナが勢いよく前に出たことで引っ張られる形となり、それの何が楽しかったのかケラケラと笑い出す。
「あ!ごめんねライムちゃん。」
「だいじょうぶ!」
あどけない表情で笑いながらそう言うライムと呼ばれた少女。
「この子は旅の途中で拾った私の弟子です。こう見えて、かなりの腕を持っていますよ。」
魔法使いの少女はそう言っていまだ楽しそうな表情を崩さないライムの頭を撫でる。
「そうか。君の弟子か。以前会った時に聞いた話とはだいぶ違う気がするが。もしや2人目か?」
「はい。以前お話しした弟子はニーナという少女で、彼女は今リングルイというパーティーで活躍しています。」
「なるほど。君が認めるほどの力をその歳で持っているとするなら、ライムは類い稀なる才能を宿しているのだな。」
「すぐに私も追い抜かされるかもしれません。」
魔法使いの女性はそう言うと悔しさを全く見せず、むしろ誇りであるかのように少女の頭に手を置いて胸を張る。
「ふむ。そういえば以前にも人間の冒険者がこの国を訪れたことがありましたが、もしや彼らが?」
「ええ。彼らは以前にもこの国を訪れています。そこの弓使いは私の弟子でもあります。」
「ほう!リィーネ殿に弟子が居るとは聞いておりましたが、まさか人間の女性だとは思いませんでした。」
「レナ=フロアといいます。師匠に弟子と認めてもらうまではかなり時間がかかりましたけどね。」
レナと名乗った弓使いの少女は少し照れながら小さくお辞儀をした。それもエルフ式の作法である両手を広げて見せるやり方だった。
「なるほどなるほど。では彼がディラン殿で彼がポート殿、そして彼女がルーナ殿ですな。お噂はかねがね。」
「それほど大したものではありませんよ。ただ、今この国にいる間は私の事はディランではなくヴァン=シュタットとお呼びくだされば幸いです。」
「・・・なるほど。苦労を掛けるな。」
リィーネはディランが発した言葉の意味を即座に理解すると、了承するようにうなずく。
「立ち話もなんだ。孤児院の中に入って話さないか?」
「・・・わかりました。」
ディランはリィーネの言葉の裏の意味を探りながら静かに賛同し、リィーネの後をついていく。
ほかの4人もディランとリィーネの後について孤児院の方に向かっていった。
それを見計らっていたように魔動車のそばで待機していた二人のエルフが司祭の方に向かって歩いてきた。
「エルニア司祭殿。ここにエレアナが来たということは他言無用となっております。」
「どうかご理解願います。」
「わかっております。」
司祭は孤児院の方をちらっと見ると、すぐに視線を二人に戻し、目を細める。
「彼らが早々に問題を解決していただければいいだけの話ですからな。」




