不穏な影 1
イレーヌの首都に当たる中央森林街アイルーン。その南の郊外に教会と併設される形で孤児院が設けられていた。
その孤児院では毎年十数人の子供を預かり、6人の教会関係者が子供の面倒を見ていた。
イレーヌでも上位の弓使いであったリィーネ=フィストゥアは突然弓術部隊ファラの隊長を副長に任せ、今は孤児院の手伝いとして毎日顔を出しては子供の世話をしていた。
最初は教会側も有名なリィーネに子供たちの世話をさせるのには気が引けていたのだが、彼女が子供と接するところを見てからはその考えを改め、彼女が好意で手伝ってくれるならと任せることにしている。
そうして彼女が初めて教会に手伝いに来てくれてからかれこれ3年がたった今年の夏。彼女は初めて森で不穏な動きをする者たちの影を捉えた。
最初は気のせいかと思って考えないようにしていたが、日を追うごとに影を見かけることが多くなり、晩夏になって初めて明らかな異変が起きた。
それは孤児院の子供たちの何人もが孤児院の近くで幽霊を見たとのことだった。
このことがきっかけでリィーネは昔のつてを頼りに隠密部隊の数人を貸してもらい、孤児院の周りを警戒してもらった。
予想は見事的中し、一人の人間を捕らえることに成功した。
人間がこのイレーヌの首都に通されることはほとんどない。それこそこのアイルーンまで通されたものの顔と名前ははっきりと覚えてもらうためにお触れを出すほどだ。
ゆえに見かけない人間がいたらそれは十中八九侵入者であるといえるのである。
エルフの子供、それも大半が外から保護されたハーフエルフの子供たちを多く預かる孤児院の周りで人間がこそこそと動き回っていた。そのことから侵入者は子供たちを狙っていたのだということがわかる。そしてそれは尋問した結果真実であるということもわかった。
ただし、その規模が予想以上に大きかった。
今回は欲望に目がくらんだ不届き者が人を雇ってしでかしたことだろうと思っていた。本質も変わらずその通りであった。聞いてみれば貴族がコレクションのために数人のエルフの子供を欲しがり、そこでかなりの大金を受け取った裏家業で身を立てる侵入者が行動したのだとか。
ここまで聞けば悲しいことに年に何回か起こっている誘拐事件とさして変わりはなかった。
それが、今回は何人もの貴族や闇取引を生業とするものが手を取り合って協力し、イレーヌに何人もの人間を送っているのだとか。いや、イレーヌだけではない。世界各地にあるエルフの街や集落を狙った作戦行動を起こしているのである。
この事態を重く見たイレーヌの王ディーレア=イルト=イレーヌは軍を編成し、貴族たちに報復するための行動を開始した。侵入者を徹底的に洗い出し、捕らえたものを片端から尋問して情報を得ようとした。
だがその努力は実らず、黒幕である貴族や闇の連中の名前さえも聞き出すことはかなわなかった。
それもそのはず。彼らは全員直接会って依頼を受けたわけではなく、必ず仲介役の人間を置いて依頼をしていたのだ。ゆえに彼らは名前はおろか顔すらも知らず、ただただ前金と報奨金の額に目がくらんで行動するような程度のしれた者たちばかりだったのである。
ただし、全く情報を得られなかったのかといえばそうではない。彼らはほぼ同じ場所でその依頼を受けていたということが分かったからである。
場所はイレーヌ南部に隣接する王国レゼシア。そのレゼシア王国の北東に位置するテラリクス侯爵領とその隣のモルフォル男爵領の各街から依頼を受けていたのである。




