これでも頑張ってます!
私たちが滞在していた街はフェンディル領のノルクアというレゼシア王国の中でも最も北に位置する街で、国境線も近いことから街の中も非番の衛兵を普通に見かけることができる場所である。
王国の北西側にあるフェンディル侯爵家の領は2か月前までいた南東のフランベル男爵領のショープとは丸々2週間歩いたり馬車を利用したりしないと辿り着けない距離であり、それだけ距離が離れていれば周りの気候なども随分変わる。
特に今は秋に当たる季節に入っており、緑の多いノルクアの周りは徐々に赤に染められていた。
そしてそのノルクアから北東に向かった先にある大森林が、エルフの国であるイレーヌである。
レゼシア王国は話を聞く限り、南部が亜熱帯、北部が温帯と亜寒帯の中間あたりの気候であると思われる。今のノルクアは秋だというのに日本の初冬ほどの寒さを感じるし、ほぼ間違いないと思う。
そのノルクアからさらに北上するということは本格的に亜寒帯の地域に足を踏み込むというわけで、私たちはこの時期に北海道に行くような面持ちで静かに温度感知をオフにした。
そう。しれっと話したが、実は温度を感知することのほかにも色々と能力を開発させてきたのだ。
そりゃ2か月もあれば私たちも成長するってもんです。もう本当に人の機能と遜色ないどころかそれ以上の機能を併せ持つスーパースライムと呼ばれても過言ではなくらいに。
詳しくはこちらをご覧ください。
名称:希・美景
愛称:ライム
種族名:ピンクスライム
レベル:1
戦闘経験数:232回
勝利数:232回
戦闘貢献度:40%
各種ステータス
筋力:×(硬度:7 軟度:411)
敏捷:測定不能
知能:測定不能
魔力:834
精神力:2372
抵抗力:251
運:測定不能
耐性
火:虚弱
水:回復
氷:弱
電気:無効
風:弱
闇:無効
光:回復
斬:強
打:弱
刺:無効
特殊能力
【変形】【特殊発声】【誘惑】【特殊移動】【五感再現:完】【ステータス化】【特殊変形】【変形固定】【体色変更】【改変】【???】【並列演算】【魔導の資格】【精密制御】
いや、ぶっちゃけステータスが表れた当初と比べて私たち何倍も強くなりました!
一番高かった精神力なんて2000超えてるしね。もう本当に私たち頑張った!
(どちらかというと私の方が頑張った気がするけど。)
(まあまあそれは一緒の体なんだし私も一緒に勘定してよ。)
(一緒の体・・・。ま、まあ別にのーちゃんと私は運命共同体だし、何もしてなかったわけじゃないしね。)
美景もこう言っている通り、私も体をこねくり回していろいろと頑張っていた。
戦闘の際の体の動きとかはもちろんの事、特殊能力にも追加されている通り【精密制御】なんてものも獲得できた。
そしてこれを使えば念願のあれもできる。これは美景だけが頑張っているわけじゃないという十分な証拠になるだろうと思う。
そして五感の再現も無事進み、こうして温度を感じることもできるのだ。
ただ、この五感再現の最もいいところは任意でオフにしたり弱めたり、逆に強めることができることだ。
例えば嗅覚ならめちゃくちゃにおいがきついところに来ればオフにしてにおいに悩まされる心配がなくなるし、逆に警察犬のように匂いをたどるなんてこともできたりする。かすかなにおいも逃さないほどの嗅覚は周囲に注意を向けてからでないと痛い目を見るけどね。
このようにとっても便利な【五感再現:完】はこれからもかなり重宝される能力だし、これも私がぐーたらしていなかったという証明になる。
私は美景の腰巾着ではないのである!
さて、話を今の現状に向けることにしよう。
今私たちは一刻も早くイレーヌへと向かうために少しペースを上げて歩いている。
馬車などが出ていればよかったのだが、あいにく国境を越えてくれる御者はおらず、イレーヌまでの道は森や山を抜けないといけなかったりするので自前で馬車を調達するわけにもいかなかった。
なら馬で行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、イレーヌまではモンスターも頻繁に遭遇するために道中で馬を亡くす恐れがあり、結局歩いて向かうことになってしまう。
モンスターの強さは中級程度だがなめてかかれるほどではないため、それならば歩いて臨機応変に対処した方が効率的であるということになったのだ。
いけるところまで馬で行って、危なくなったら放してしまえばいいとも思うのだが、それをしないのはレナの動物をかわいがる性格に配慮しての事だと思う。
買った馬を危ないところに連れまわして結果死なせるのはレナからすればよく思わないところだろう。
なので馬なしの代わりに少しでも早く足を動かし、いつもの2倍に近いペースでイレーヌに向かっていたのだった。
「この分だと早くともあと2日はかかりそうだな。」
そろそろ暗くなってきたので野営しようと準備しているとき、ヴァンに扮したディランがいつもの調子で話した。
「仕方ないだろうな。普通だったら1週間はかかるだろう道のりだ。あと2日でたどり着けるってのがむしろすごいと思うけどな。」
ノルクアを出発してから2日が経ち、広い森を避けてではあるが最短ルートを通ってここまで来た私たちは、夜になるまではずっと歩き続けている。
昼食は歩きながらとれるサンドイッチなどの軽食で済ましており、朝食なんかも素早く済ませられるものを用意して手早く終わらせているのだ。
それほど時間を短縮させてなおかつペースを上げて歩いているが、さすがに歩いて1週間かかる道のりはそうやすやすと踏破できるものではないようだ。
道中は川を渡ったり危険な谷を越えたりしないといけないし、道中ではモンスターが襲い掛かってくる。警戒をおろそかにすることもできず、結果見通しのいい場所以外はペースを落とさざるを得なくなる。
直線距離の平坦な道を行くわけではないのだ。それにいくら足を速めたからといって踏破しなければいけない距離が短くなるわけではないため、精いっぱいやっている今あと2日でイレーヌにつくという事実はむしろ賞賛すべきことである。
しかしみんなの表情は暗い。特にレナは心配するあまり時々イレーヌのある方角を見て作業に集中できていなかったりする。
「心配なのはわかります。しかしこれ以上はどうすることもできないのはレナもわかっているでしょう?」
ルーナが夕食の準備の手を止めているのをみて声をかける。
レナもハッとしてルーナの方に向き、ひきつったような苦笑いをした。
「わかってるんだけどね。あの師匠がわざわざ手紙を出して私たちに依頼するくらいの事態なのかと思うと・・・不安で。」
最後の言葉には力がなかった。まるで零れるように口から出てきたに違いない。
ルーナはそんなレナの手を握る。
「大丈夫・・とは言えません。軽々しくそんな気休めを言えるほど、今回の件は重いものだと思いますから。けれど、それでも今はまだ大丈夫と思いましょう。どうせここにいる私たちでは何もできないですから。」
ルーナが落ち着いた声でそう励ますと、レナも徐々に表情をやわらかくしていく。
「そうだね。信じなきゃだめだよね。」
レナはルーナの手を握り返すと、その手を放して夕食の準備に戻る。
「もうすぐ調理も終わるから。ライムちゃんも待っててね。」
そんなレナに私たちがグーサインを出すと、レナは笑顔になって最後の仕上げにかかったのだった。




