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運命との邂逅

 気温が低くなり始め、木々の青葉が次第に赤く色づく季節。秋。


 日本と同じように四季の移ろいが感じられる地方であるアーデラル地方の中心に位置する大森林では、人と似た姿を持つ種族が文明を築いていた。


 大森林そのものが国であり、その中でいくつもの町が点在しており、種族特有の文化が織りなす幻想的な街並みは、国を訪れた者全てを魅了する。


 国の名はイレーヌ。人に次いで数多く存在するエルフと呼ばれる種族の故郷と呼ばれる大国である。


 その国の中心都市であるアイルーンの街はずれにあるウェアラの木の下でエルフの少女が一人、その小さい体をさらに小さくするようにうずくまっていた。


 厳密にいえば、彼女はエルフではなくハーフエルフであり、その特徴として普通のエルフよりも耳が短く、青い瞳であるはずが緑の瞳をしていた。


 その彼女は涙を浮かべ、小さな嗚咽を漏らしながら小さくなっているのには理由がある。ただし、それは外見の差異からくる虐めが原因ではない。


 彼女が泣いている理由。それは両親がいないこと、家族がいないことである。


 エルフは基本的に美形で性欲が弱く長寿である。


 全員が美形であることから美醜の概念がほとんどなく、そういったいざこざは全く起きず、性欲が弱いために長寿であるにもかかわらず一生のうちで子をなす数は人と同じほどである。


 さらに他種族であるということからエルフ以外のものと交流することはあっても恋愛関係に発展することはまずない。


 ならばなぜハーフエルフなどという人と交わった混血のものが生まれるのかというと、それは人がエルフを捕らえて奴隷にし、無理やり子をなしたときに生まれるのである。


 つまりハーフエルフとは同胞悲しみと苦しみの結晶ともいえるものたちなのである。


 そんなものたちはエルフに発見され次第エルフの国へ保護され、大事に育てられるのである。


 同胞が胸に秘めた無念を少しでも晴らすため、せめて望まれぬ形で生まれてしまった子だけでも安心して暮らしてほしいと願って。


 そんなハーフエルフの子供は同じ子供があつまる施設で育てられるわけだが、記憶も定かでない幼子からそこにいたものは別として、稀にちゃんと会話ができるほどに歳を重ねてから保護される子はそれまでの記憶から精神が不安定になっている場合が多い。


 暴力を受けた者は触れ合うことを異常に恐れ、理不尽に叱られ続けたものは自分に言われたことをすべて命令ととらえて失敗したときは何度も謝り、どこかにずっと閉じ込められていたものは暗い場所や狭い場所を極端に怖がる。


 彼女はそのトラウマとは少し違うものの、非常に似た心の傷を負っていた。


 彼女の母親は奴隷として太った人間の貴族に飼われていたが、その子供である彼女は母親の楔として石材でできた小さな檻の中に幽閉されていた。


 彼女は毎日残飯を死なない程度の最低限の量だけ与えられていた。周りは冷たい石の床と石の壁。月明かりが差し込む小窓は鉄格子がはめ込まれていて、残飯を中に入れるための開閉口を取り付けている思い鋼鉄の扉がここからは逃げ出せないことを雄弁に語ってくれる。排泄をする場合は部屋の隅にある穴でするのだが、下水も完備されていないただの穴であるから汚物のにおいが部屋に漂ってしまう。


 そんな過酷な状況で何年も過ごせば心が壊れるのも当然の事であるといえるが、廃人にならずに済んだのは一日一度母親が会いに来てくれたからだった。


 鋼鉄の扉越しで交わされる会話は少女の生の中で唯一の光であり、最後の希望であった。


 彼女はそれを糧にどうにか壊れずに済んでいた。たった一日一度だけの短い間の会話であっても、彼女にとってはそれだけの力があったのだ。


 しかしそれでも7年もすれば瞳に生の光がささなくなり、感情の起伏もなくなっていった。


 母親はそんな彼女を助けるべく、一つの賭けに出た。それは彼女を外に連れ出し、故郷であるエルフの国へ連れていくことだった。


 彼女を生んでからずっと考えていた計画であったがために準備も万全であり、計画はすべてうまくいった。母親が残るということさえも、計画のうちであった。


 母親はどうにか貴族の屋敷の外に彼女を連れだしたが、追ってきた警備兵を足止めするために残る必要があった。


 彼女は母親のもとを離れたくなかったが、運よくその場に居合わせたエルフによって彼女は保護され、母親と引き離されて今ここにいる。


 ゆえに彼女は夢想する。


 母親と幸せに暮らす日々を。優しい父親がいる日々を。


 夢想するたび、心は暗い闇に覆われる。


 あの男さえいなければ。


 そう思わない日は来ない。生まれてから今までずっと思い続けてきたこの怨念は、いつか晴らされることがあるのだろうか。


 「どうしたの?」


 母親と引き離されてから一層表情が変わらなくなった顔を上げ、うずくまっていた自分を見下ろす何者かを見据える。


 そして少し驚いた。美形ぞろいであるエルフですらかすむほどの愛らしく美しい子供が自分を見つめていたのだ。


 白を基調として所々に赤のラインが入ったローブを着ており、頭には見たことがないような不思議なつば付きのとんがり帽子をかぶっている。


 そんな目立つ格好をしていてもごまかすことができないほど、その子供の容姿は美しかった。


 大きな瞳はきれいなピンク色で、肌はまるで透き通っているかのような純白であり、頬はうっすらと紅潮しており、神様の子供と言われても納得してしまうほどの美しさがそこにはあった。


 「具合でも悪いの?」


 彼女が少女の容姿に見惚れていると、少女はどこか悪いのかと心配してキメが細かすぎて見えないほどつるつるとした美しい手を持ち上げ、彼女の額に当てる。


 「熱はないみたいだけど。」


 少女はさらに困ったような表情をして天使のような透き通った声を響かせる。


 ハーフエルフの少女はまだ少し見惚れてボーっとする頭をふるふると振って、ゆっくりと立ち上がる。


 「だ・・・大丈夫。どこも・・・悪くない。」


 何も問題ないと彼女が身振りで示すと、美しい少女は顔をほころばせてにっこりとほほ笑んだ。


 「よかった。」


 またも呆けてしまいそうになる頭を同じく振って元に戻す。


 「私はレーン。あなたは・・・何者?」


 「私はライム。今年で8歳になる人間よ。」


 こうしてハーフエルフのレーンはこの先の未来で自身の運命を大きく変える者との邂逅を果たしたのである。


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