熱くなってきやがったぜ!
カバンが激しく揺さぶられ、今がどんな状況かを理解できぬままに数秒間暗闇の中を落ちていった。
突然のことだったので何もできず、ただただ落ちていく中で、しかしながら思考が止まるということだけはなかった。
私たちは落ちているみんなをつかんで一か所に固め、次いでカバンから体を出してそれを肥大化させる。
肥大化といっても風船のように膨らませているだけで体積は全く変わっていない。
いや、まったく変わっていないと流石にすぐ破裂してしまうような薄い膜が出来上がってしまうので、その補強のために異次元ポケットに貯蔵していた食料を食べたけど。
つまり私たちがいやろうとしていることは体を張ったエアクッションである。
いや、これほんとに大丈夫だよね?
(大丈夫大丈夫。破裂しても四散するだけだから。)
(ジーザス!)
全然大丈夫じゃない発言だけど余裕からくる冗談だろう。たぶん。
もうすでに落ち始めてから4秒かかっているが、それでもまだ底は見えない。そしてエアクッションで全員をカバーできるほど大きくするまであと3秒かかる。
間に合ってくれと思いつつ精一杯膨らましたクッションが出来上がった瞬間、体を薄い光が覆い、さらにその次の瞬間に私たちの体は地面と衝突した。
衝撃を吸収しきれずに私たちの体はまるでボールのようにバインバインと飛び跳ね、天井すれすれまで高く飛び跳ねては落ちてまた飛び跳ねてをしばらく繰り返した。
ここで変なことをして上に乗っているディランたちが落ちるのを避けたい私たちは微妙に進行方向を調節しつつ、ゆっくりと衝撃が発散されるのを待つ。
そして十数秒後、ようやく飛び跳ねることもなくなったので、体から空気を抜き、徐々にディランたちを地面におろしていく。
「う・・気持わりぃ・・・。」
ポートが私たちから降りたとたんに口元を抑えてうなだれる。
ポート以外も酷く酔ってしまったようで、みんな口元を抑えて地面に手をついている。
私たちも元の体でこんなことをやった日には盛大に吐いていただろうと思う。
しかしながら今の私たちには三半規管が存在せず、脳みそも胃も何もないので気持ち悪くなったりはしない。
しばらくみんなの気分がよくなるまで待っていると、まずディランが立ち上がり、ゆっくりと深呼吸をしてから落ちてきた穴を仰ぎ見た。
「かなり深くまで落ちたようだな。向こうが見えない。」
ディランは次に周囲を確認すると、途端に険しい表情になる。
他のみんなも気分が落ち着き、現状を確認するために周囲を見回したが、同じように表情が厳しくなる。
「まさかとは思ったが。ここが最奥か。」
私たちがいた場所は深奥の入り口ほどの位置だった。そこから落ちたとして、複雑に入り組んだこの洞窟内である。下が深奥の中ほどくらいであることも十分考えられるのである。
しかしディランはその可能性を周囲を確認した瞬間に即座に破棄せざるを得なかった。
なぜなら周囲は溶岩に囲まれており、幸いにも普通の熱い地面だった足元も半径10メートルほどの陸地でしかなかったのだ。
そこをバインバインと飛んでいたのだから私たちの冷や冷や度も理解できるだろう。正直死ぬと思った。
一応道も存在するけれど、どれもやたらと細く、人一人が渡れるかどうかというほどの狭さである。
それが3方にあり、そのどの道の先もやたらと曲がりくねっていてどこにつながるか分かったものではなかった。
「溶岩のおかげで周囲がほのかに明るいのは救いですが、この暑さだとクーラードリンクがどれほど持つかわかりませんね。」
ルーナは私たちを手招きする。おそらく私たちのポケットにあとどれくらい物資があるか確認するためだろう。
私たちはルーナが聞いてきたアイテムの個数を紙に書いて渡そうとしたが、しばらくして紙が燃えだした。そんなにか!?
「私もうかつでした。そうですね。これで地面に書いてもらえますか?」
ルーナが汗のにじむ額をぬぐって冷静になろうと努め、持っていた銀貨を私たちに渡してきた。
私たちは銀貨を受け取ると、それを使って先ほど紙に書いたものと同じものを地面に書いて見せる。
ちなみに書いてる途中でルーナが風の障壁を周りに張ったようで、厚さがだいぶ引いた。なぜわかるかというと、もらった銀貨で文字を書いている途中で持っている部分がジュウジュウと焼ける音がしていたのだが、風の障壁が張られてからそれが徐々に収まったからだ。
「ライム。痛くはないですか?」
ルーナが何事もなく最後まで書ききった私の手を見ながら不安そうに聞いてきたが、銀貨を持っていた手を見せて大丈夫なことを知らせるとホッとした表情を見せた。
「大丈夫ならいいです。・・・そうですか。やはりクーラードリンクはあと2本しかないですか。ポーションはまだ全部残っていますが、それでも早く溶岩地帯を抜けないと厄介ですね。」
ルーナの魔法を展開させていればまだしばらくは持つだろうし、理論上はおそらく2日間ぶっ通しでももつはずである。
ただ、この溶岩流れる最奥でも適応した特殊なモンスターが少数だが存在し、そんなモンスターが相手をしているうちに魔力を消費しきってしまう可能性がある。
なのでここは迅速に溶岩地帯から抜け出る必要が出てくるわけだ。
しかし、私たちは自らの足でここまで来たわけではない。
地面が崩落して上から落下してここまで来てしまったのである。
ゆえに確実にわかっている帰り道は頭上にある大きな穴だが、しかしながらこれをよじ登ることは不可能である。
そもそもその穴の入り口まで何メートルもの高さがある上に、どこまで登らなくてはいけないのかも不明とくる。
上に残してきたリングルイのメンバーたちの声や明かりなども届かないとすれば相当なものだといえるだろう。
そうならば残された道はこの3方に続く細い道だけである。
「さて・・・どうしたものかな。」
ディランも答えをすぐに決めることができず、レナもポートも頭を捻って打開策を模索している。
みんなそれぞれどうするか考えるものの一向に妙案は出ず、美景はもう答えがわかっているものの、しかしそれは答えというものとは呼べないほど誰もが思い浮かべているものだった。
数分考えた末、ディランは他に良い案もないと諦め、おもむろに立ち上がってから顔を上げてこう宣言した。
「今から好きな道を選べ。一番多い道を選択して先に進む。」




