我慢できなかった。後悔はしていない!
食事が始まってしばらくたつが、私たちはあまり食べ進められていない。
理由は言うまでもないが、目の前にいるリングルイのメンバーを目があるからだ。
あまりがつがつ食べればルーナのこともよく知っているだろう彼らは当然異変に気付くだろうし、そもそも触手を伸ばすことも容易じゃない。
そんなわけでルーナが食べるものを少しずつかじっているだけにとどまっているのだ。
(う~ん。個々の料理もおいしいのにちょっとずつしか食べられないなんて・・・。)
(それに人の目を気にしながら食べないとなんて味に集中できないよ。)
もうほんとに窮屈!
そもそもカバンの中に入ったままなのだから窮屈なのは当たり前なんだけど、問題はそこじゃなく、精神的な窮屈さがこたえる。
そもそも私たちの体は睡眠を必要としない上に痛みも感じないし、圧迫感も感じない。
けれどそれゆえにか精神的苦痛が前世よりもよりひどく感じられるのだ。
このままでは楽しく食べれないということで、私たちはカバンの中でひっそりと紙にメッセージを書き、ルーナの手にその紙を握らせる。
私たちの行動に気付いたルーナはさりげなく手を引いて握らされた紙を広げ、メッセージを見る。
『このままでは非常に窮屈でご飯もおいしくないので、私たちのことを話してくれませんか?』
そのメッセージを見て目を閉じ、少し考えるそぶりを見せるが、それほど時間もたたずにメッセージの書かれた紙を隣に座るディランに渡す。
「ディラン。そういえばこの間こんなものを拾いまして。」
「なんだ?」
ディランにそういって渡すと、ディランはその紙を広げて文面を確認し、ルーナと同じように少し考えるそぶりをする。
「なにみつけたんだ?おっちゃんにもみしてみろって!」
そうやってランベルがディランの持つ紙を取ろうとしたが、ディランはそれをかわし、ポケットにしまう。
「リングルイの皆さん。少しお話を聞いていただけますか?」
ディランがかしこまってそういうと、話に花を咲かせていたみんなが黙ってディランのほうを向く。
「話って何だい?また一緒に冒険しようとかそんなところ?」
リーノはそうやって茶化しながらディランに話の続きを促す。
「皆さんのことを疑っているわけじゃない。ただ、信じてもらえるかどうか不安なので、まずは今から話すことを他言しないことと、敵対しないことを誓ってほしい。」
真剣な目をしたディランはさすが王子様といえるほどの貫録を見せ、リングルイのメンバーもその空気を感じ取ってただ事ではないと思い、真面目な顔をしてうなずいた。
「我らは盟友であるエレアナに対して決して敵対せず、またここで聞いた話は一切他言しないと誓おう。」
「ありがとうございます。」
誓いを立ててくれたリングルイのメンバーに感謝の礼をとりつつ、ディランはルーナに目配せする。
そしてルーナはその合図の意図を察して私たちが入っているカバンに手を伸ばし・・・て今ここで見せるの?!
「この子を見てください。」
ルーナはカバンに入った私たちをリングルイのメンバーに見せるべくカバンのふたを開け、口を大きく開く。
みんなに見られる前に私たちはとりあえずおなじみのユミルン形態に変身し、ここぞとばかりにうるんだ目をして上目遣いをする。
「なにこの子かわいい!!」
「こら、ニーナ!あんまり大声を出さないで!」
ニーナがいち早く私たちに反応して大声をあげるが、それをなだめるようにメイリーンが口を塞ぎつつ叱りつける。
「これは・・・いったいなんですか?」
エラルダは驚いているようだけどあまり顔には出さず、声も落ち着いている。さすが紳士。
「こんなかわいい生き物初めて見たぜ。なんなんだこいつぁ?」
ランベルは驚きよりも興味のほうが勝っているのか、物珍しそうな目でこっちを見てくる。
「この子はライムという名前で、私たちが十数日に遭遇したスライムです。」
ルーナが私たちのことを紹介すると、今度は全員そろって驚き顔となった。さっきまでかわいいと騒いでいたニーナまでもである。
「ス、スライムって、あのモンスターの?」
「はい。」
「害獣指定の?」
「そうだ。」
「消化できるものなら何でも食べてしまうあの?」
「そうだよ。」
「知能とか皆無のあのねばねばした?」
「ああ、そうだよ。」
「「「「それがこれ?!」」」」
みんな声をそろえてたいそう驚いてくれる。
その声に周りで食事していた人たちもこっちを気にするように目を向けている。
そのことを察知してルーナはカバンのふたを閉めて私たちを隠し、ディランは咎めるような目をしてリングルイのメンバーを睨み、ポートとレナは周囲に何でもないという素振りをしてごまかす。
周囲もエレアナとリングルイというメンツの話に興味をひかれつつも、内密の話に聞き耳を立てるのもマナー違反とわきまえているようで、大人しく自分たちの食事に目を戻し、リングルイのメンバーも冷静になるように反省した。
「すまないね。あまりに話が突拍子もないものだったから、ついつい驚きを隠せなかったんだ。」
「まあ、私もこの場で明かすのはどうかと思っていたんだがな。本人たっての希望となれば話は別だ。」
「本人?それってまさか・・・。」
「そうだ。ライムは人の言葉を介することができ、魔法を使うこともできる。」
「そんな―。」
メイリーンがまた大声になりそうだったのでディランが目で制し、メイリーンもはっとして落ち着き、軽く咳払いをしてから話を続ける。
「そんなバカな話あるわけないでしょう?モンスターは人の言葉を理解することができないし、ましてや知性のかけらもないスライムが言葉を理解するなんて。」
「まあ、普通は信じねーよな。俺でも最初会ったときは普通のモンスターだと思って攻撃したし。でも一回話してみりゃすぐわかるぜ。そこいらの人間よりよほど賢いってよ。」
ポートがなにやらニヤニヤした顔でメイリーンに言っているが、メイリーンはそんなポートの言葉をまる信じず、いぶかしげにカバンの中にいる私たちを見ている。
「一度見ればあなたたちもわかります。ライム。彼らにあいさつして。」
ルーナに言われたことの意味をすかさず理解した私たちは、紙とペンを異次元ポケットから取り出し、スラスラと文章を書く。
まず私たちがどこからともなくペンと紙を取り出したことに唖然としていたが、そこから実際に私たちが文字を書きだしたことにさらに驚き、開いた口が塞がらないでいる。
挨拶を書いた紙を私たちは掲げてみんなに見えるようにする。
『こんばんは。私はライムというスライムで、今はエレアナの皆さんとともに旅をさせてもらっています。リングルイの皆さんもこれからどうぞよろしくお願いします。』
その文章を読み終えたであろうみんなが私たちに目を戻したところで、私たちは小さくお辞儀した。




