戦闘訓練
本日2戦目
ショープで入念に準備を重ねた私たちは今日、ついに新たな旅を始めることになった。
目的地はドルン山脈。この間遭遇したグルアガやウーノートとは比較にならない中級以上のモンスターがうようよしているという、冒険者でも有数の実力者しか赴かない危険区域らしく、さらに今回は山脈が活動期に入っていることからさらに危険度は増すのだとか。
そんな危険な場所に行って本当に大丈夫なのかと心配はするものの、どうやらエレノアの皆さんはすでに一度ドルン山脈に行ったことがあるらしく、危険度もその実を持っているということだった。
一度経験しているかどうかは冒険者にとって何物にも代えがたい財産らしく、また大きな武器でもあるという。
一度行ったことがある場所ならばそれなりの情報を事前に得ているということで、事前の準備も万端にできるし、基準があるからこそそこからより危険度が増したとしても対処できる。
情報は力。そして命綱でもあるわけだ。
しかしながら、今回はそこに荷物が一つ増えているので、少し不安な面もある。
そう、言わずもがな私たちのことである。
私たちはほぼすべてにおいて初心者。魔法も覚えたてだし、物理攻撃は点でダメ。武器も扱うことが難しく、結局は後方支援がいま私たちにできる唯一の役割。
ただ、それもまだ一度も連携をしたことがないパーティーでは逆に足手まといになりかねない。
ということで、ルーナの補助のもと、何回か戦闘の経験を積んでおいたほうがいいということになった。
ドルン山脈の道中で見つけた手ごろな相手をレナやポートが引っ張ってきて、広い場所で連携の練習をするのだ。
ようは実地訓練。これ以上の練習はない。
練習なのでディランたちも本気を出さず、あくまで私たちがうまくみんなの動きを把握して支援できるように長く戦闘を継続させてくれる。
私たちにできる支援は魔法での牽制と道具の提供だ。
美景の努力によってどうにか魔法絵の理解を深め、ある程度強い魔法を繰り出すことができるようになったけど、それでも下級モンスターですら数十回当てないと倒せないほど弱い。
そんな弱い攻撃を当て続けるよりは、ディランたちが立ち回りやすく、あるいは相手を遠ざけるための技術を身につけたほうがいい。
美景は悔しがっていたけれど、それでも美景がここまで悔しく思って努力しているのならきっとすぐに上達してルーナのようなすごい魔法が使えるようになると思う。
でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。
これは命の奪い合いだ。そして私たちは死にたくないどころか傷つきたくもない。傷つけさせたくもない。迷惑はかけられない。
私たちのエゴに付き合ってもらうんじゃなく、自分たちが今できる範囲でみんなに貢献できるような立ち回りをしないと。
独りよがりで進めるほど、私たちは強くないから。だからみんなを頼って、みんなが動きやすく、より活躍できるようにしないと。
「ライム!」
ルーナの声に思考を戦闘に引き戻す。
現在戦闘は10回目。そして今戦っているのはグルアガ2体とディノアというオオカミのような中型犬モンスターが3匹。
グルアガの装備はこの前遭遇したものよりも少々良いものに見える。つまりこの前のグルアガよりも格上ということだ。
そしてそのグルアガと一緒にいるディノアもウーノートよりよほど危険だ。
ディノアは素早く動いて敵をほんろうし、少しでも油断すれば一気に加速して自慢の鋭い牙で喉笛を噛み千切るのだとか。
ウーノートとは違って魔法を使ってくることはないけれど、その分弱い魔法だとはじいてしまう特殊な毛皮を持っている。売ればそれなりの値段で取引されるほど冒険者に人気な装備素材なのだとか。
話を戻して、今はそのディノアが三方向に分かれて私たちを包囲しているという場面。この前と同じ包囲戦。
この状況で私たちができる最善手は、何とかして包囲を崩し、包囲から逃れて態勢を整えるために壁の薄い場所に牽制を仕掛けること。
私たちはグルアガと一番離れている右後ろのディノアに向けて火の魔法と風の魔法の合わせ技をぶつける。
すると、火の魔法を大きく巻き上げた赤く小さな竜巻がディノアを襲う。
その間に救援に来られるとまずいので、同時にほかのディノアとグルアガにも小さめの火の魔法を撃って牽制する。
炎の竜巻にビビったディノアは横に大きく飛びのき、包囲が一気に崩れたところをパーティー全員で抜け、また包囲されないように今度は横に大きく陣を展開する。
「よくやりましたね。これで不意打ちを気にせずに戦うことができるようになります。ドルン山脈の洞窟ではあまり包囲されることはなく、挟み撃ちという状況になるために今の戦法は使えませんが、こういう広い場所では役に立つので覚えておいてください。」
ルーナはカバンの中にいる私たちに向かってそういう。
そう。今までの戦闘中、私たちはずっとカバンの中で支援を行っていた。
理由は簡単。ほかの人たちに私たちのことを見られないようにするため。ルーナのカバンの中から魔法を使っていれば勘違いしてくれるだろうし。
私たちがエレアナと一緒にいることをほかの人たちに見られるとエレアナのメンバーに迷惑がかかるし、私たちは私たちで危険にさらされる。
奴隷として扱っているならともかく、私たちは対等に接しているし、変な勘繰りをする人なら私たちがディランたちを操っているのではなんて思う人もいるかもしれない。というか最初のディランとポートもそう思ってたし。
ということで、いらない問題を増やすより、こうして隠れて戦っていたほうが何かと面倒がないということだ。
おっと、また思考がそれてしまった。再び戦闘に集中。
敵は包囲するのをあきらめて各個撃破に作戦を変更するようだ。さっきからちらちらとレナのほうを見ているからわかりやすい。
見た目だけで言えばルーナのほうが狙うには最適そうに見えるけど、私たちは陣の中央にいるため、手を出しづらい。すぐ隣にはディランもいるしね。
対してレナはややみんなとは離れた右端にいる。敵方からしたら一番ねらい目なのは確実にレナだろう。
まあ、そういう風に見せかけているだけなんだけどね。
ディノア2匹がポートとディランのほうに走った瞬間にもう一匹のディノアとグルアガがレナのほうに向かって疾走。
その時を待ってましたとばかりにレナは隠し持っていた煙幕をディノアたちの進行方向に放り投げる。
まんまと誘い出されたディノアたちはすぐに煙幕から飛び出そうとするが、そこで私たちの魔法で牽制を入れる。
すると煙幕の中で目が見えないディノアたちは攻撃の音を聞いて行動を停止。警戒するように慎重に行動し始めた。
その隙をついてディランとポートに向かっていったディノアたちを逆に各個撃破。
正直一対一に持ち込んだ時点でディランとポートは余裕で倒せるのだが、これはあくまで私との連携の練習。ちゃんと私たちも攻撃を入れつつ倒していく。
そうして2匹のディノアを倒したところで煙幕の効果が切れ、ディノアとグルアガ2体が戦況を把握。ディノアが倒されているのを見て戦況が悪くなったと判断したグルアガは撤退しようとする。
だが、こちらは逃がす気は全くない。
ということで、先ほどとは逆に私たちがグルアガを包囲する。
ちょうどこの展開を予測していたレナが逃げる道をふさいでいたので余裕を持て方位を完成させることができた。
ここからは包囲殲滅戦に移るわけなんだけど、正直な話、ここまで持ってきたら私たちのやることはほとんどなくなる。
何せ私たちの攻撃ではひるませることはできても決定打を与えることはできないのだから、必然的にディラン達中心で攻撃することになるからだ。
その間の私たちの役割はというと、周辺の警戒とドロップ品の回収、あとは敵の攻撃で負傷した際のポーション支援くらいだ。
周辺警戒は割といつも美景がやってくれているから任せている。
ドロップ品の回収はどこの部位が価値のあるものなのかわからないので、とりあえず根こそぎ異次元ポケットに収納している。
ポーション支援は今回の場合本当は必要ないんだけど、ルーナの提案で、負傷したていでランダムに私たちに要求し、要求されたものをすぐに渡すという訓練を実践中に行っている。
割と余裕のないときに要求してくるので私たちはひいひい言いながら受け渡しているんだけど、そのおかげかかなりスムーズに答えられるようになってきた。
「よっし。これで終わりだな!」
「なかなか様になってきたな。触手でこちらに道具を受け渡すのもだいぶ早くなってきたし、これならドルン山脈でも活躍を期待できるだろう。」
「ちゃんと私たちの連携についてこれるんだもん。ライムちゃんは賢いね~。」
みんなからの評価も上々だ。ちゃんと役に立てているみたいで少し安心する。
「まだ10回目の実践だというのにもう私たちについてこれるとは、さすがですね。」
ルーナもそういって鞄越しに撫でてくれる。
「しっかし周りに人がいないから道具の支援なんかできるけどよ、これが周りに人がいる状況だったらそうもいかないぜ?」
「その時は私がライムに言って道具を取り出してもらうことだけしてもらい、私が今まで通り支援をすればいいだけです。ライムにも魔法の支援を中心にしてもらえればそこまでパフォーマンスが落ちることもないでしょう。」
ポートの意見ももっともで、人に見られないように鞄の中にいるのに触手を伸ばしていたら結局ばれてしまう。
けどルーナの言う通り、その時は道具を体から出してルーナに受け取ってもらうようにすればいい。その分空いた手を魔法支援に回せばいいわけだしね。ただ、今の私たちの魔法がドルン山脈にいるモンスターにも通用するとは思えないけど。
「ライムの牽制もなかなかうまくいくようになってきたからな。今は大したことのない威力であっても、見せ方によって危険だと思わせることはいくらでもできる。こけおどしと言われればそれまでだが、それが実践で生きてくるのはままあることだしな。」
そう。たとえ張りぼてだとしても、大きくリアルに見せれば相手は割と警戒してくれる。
本当だった時のリスクを計算してしまうからだ。それは知能が高ければ高いほど効果が高い。
今回のグルアガが特にそうで、私たちは相手に一撃も与えていなかったけれど、当たるのはよくないと思わせるような派手な魔法ばかりを使って牽制していた。
なまじ考えが回る分、グルアガはかなり目障りに思っていたと思う。
そのいらいらが冷静さを欠いた行動を生み出し、結果パーティーに貢献できる。
これで本当に威力のある魔法が使えるようになればもっとこの脅しが効果を発揮するんだけど、まだまだ精進しなきゃってことだね。
(うん!私、頑張るね!)
(お、おう。)
美景の張り切りようは尋常じゃない。今夜もずっと魔法の練習に明け暮れるんだろうな。
「それじゃあ今日はこの辺にして、野営の準備でも始めるか?」
あたりは少し暗くなり始めていて、山の向こう側に太陽が沈みかけていた。暗闇の中で行動するのはよくないので、ここらで切り上げるのが無難だといえる。
私たちはすぐに近くで見つけた小さな川の付近で野営の準備をして、その日は休息をとった。




