勇気を出してみよう。
本日2巻目
赤木がやってきてから3日経った今日の朝。
ルーナは無事に復活した。
体のどこにも異常はないみたいで、3日間寝たきりだったから少し体が重いくらいで、行動するのには別段問題ないとのことだった。
ルーナが回復した原因はどうも私たちにあるらしい。
慈愛の光という光治癒魔法を私たちが無意識のうちに発動させていたことで、ルーナの体を癒していたのだとか。
慈愛の光とはただ細胞を活性化させるだけではなく、傷の治りを妨げる雑菌などを死滅させたり、悪性細胞を出さないようにするといった効果があり、結果、無理なく治りが早くなるのだという。
ちなみにこの世界での医療技術は前世と同じ経緯ではないにしろ、成果だけを見ればほぼ同じ水準に達しているらしいことをルーナの説明を聞いていて感じた。
この世界では魔法によって人体の構造などを調べる研究がされているらしく、前世でのCTなどの役割を魔法で担っているようだ。
ただ、完全な魔法だよりなわけではなく、ちゃんとある一定のレベルの機械もちゃんとあるらしい。
この世界はどこか中世のヨーロッパのような、ファンタジーでありふれた世界観なのだけど、それにしては家のつくりや上下水道などのライフラインは近代的なのだ。
ちぐはぐとまではいわないが、この世界独自の発展の仕方をしているというのは間違いない。
話を戻そう。
ルーナの体が元に戻ったということで、今日は冒険の準備をするための確認や下見をして、明日はその買い出し。明後日にはドルン山脈に向かうということを決めた。
食堂で朝食を食べてから、簡単な買い物の打ち合わせをして、そのあとは自由行動となる。ルーナと私たちを除いてだけど。
そこで、打ち合わせ中に私は紙に謝りたいことがあると書いてみんなに見せた。
「どうしたんだ。謝りたいことって。」
みんなが黙ってこっちを見る。
私たちが隠していること。それは結構あるのだけど、今ここで言っておいた方がいいと思ったことが一つあるのだ。
もちろんアース連合のことではない。
これは確かに言わないといけないようなことかもしれないけど、もしかしたら転生者のことや転移者のことはみだりに言ってはいけない理由があるのかもしれないから、このことは言えない。
なら何なのかというと。
『壊したポーションについてですが。』
「ポーション?」
そう。私がぼーっとしていたために無駄にしてしまったポーションのことについてだ。
これはそれほど気にするようなことではないと思いつつも、やっぱり赤木が来たことを笠に着てごまかしてしまうのは、今後の関係を良好にしていく上で大切なことだと思ったのだ。
これはどちらかというと自分のためだ。
黙っていればばれない。
それを一度やってしまうと、今度同じ状況になったときもきっと、同じことをしてしまう。
そんな自分を私は許すことができない。
美景も同じ気持ちだし、あの時どうして正直に言わなかったのだろうと後悔してさえいる。
平気でうそを重ねられるような心なんて、私たちは持ち合わせていないのだ。
秘密は誰にだってあるし、それをすべて吐露しなければ友達でも家族でもないなんてことはない。
けれどこれは違う。
そう思ったからこそ、私はけじめをつけるために、話すことにしたのだ。
と、いっても結構緊張するもので、怒られるかもしれないと思って覚悟が決まらないのは小心者のあかしなのだろうか。
『あれは、私が道具の出し入れを練習していた際に不注意で投げてしまい、壊したのです。』
と、言っても怒られるために告白しているようなものなので、怖がっていても始まらないと、一気に書ききった。
それをみんなに見えるように、特にルーナに見えるようにユミルンの手でその紙を掲げた。
「そう、ですか。」
ルーナの表情が一気に冷たくなったような気がした。
あ、やっぱやめた方が良かったかも?
(往生際が悪いよのーちゃん。)
(いや、そんなこと言ってでもですね。)
私がいろいろと意味のない反論を考えているうちにも、冷たい目をしたルーナが刻一刻とこちらに迫ってきている。
冷たいけれど、背には閻魔の炎のようなものが見える気がする。
(ひ、ひえええええ!)
私は後ろに下がろうとして躓き、しりもちをついてしまった。
そうしている間にとうとうルーナは私の目の前に迫ってきて、その手を振り上げ。
ぺち。
ルーナが掲げた手は、そのままゆっくりと振り下ろされ、私たちの額めがけてチョップした。
ただ、そのチョップはかなり弱く、まるで威力がなかった。
そしてもう一度チョップ。さらにチョップ。もひとつチョップ。
何回かそのまったく威力のないチョップが繰り返され、間の抜けたぺちぺちという音が部屋中に響く。
そして気が済んだのか、何十回かチョップした手を戻し、ルーナは微笑んだ。
「では、これでお仕置き完了ということにしましょう。」
そういうと、今度はチョップし続けた私たちの額に手を当て、なでてくる。
「よく、正直に言いましたね。黙っていることもできたでしょうに。」
私たちはそのルーナの言葉に少々もじもじとする。
正直に言ってよかった。
そう思った瞬間だった。
ルーナは怒らなかったんじゃない。私の気持ちを汲んでくれたのだ。
小さくもチクチクとむしばむ針を抜きたくて、でも自分では抜けないし、抜いてもらうのは痛い。
それでも痛いのを覚悟をして抜いてもらいに行くと、ルーナはわざわざ痛くない方法を考えて、抜いてくれたのである。
本当に。
(あんた女神やわー!)
(ルーナさんマジ天使!)
私たちはルーナに飛びついてきゅっと抱き着く。
しばらくそうしていると何やら周囲の目線が生暖かいことに気づいて、そっとルーナから離れ、わざわざ咳払いの真似事までする。
『ごめんなさい。』
そして、私たちはぺこりと頭を下げ、謝ったのであった。




