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家族の明かり

本日3階目

次の日も、その次の日も、ルーナは寝込み続けた。


 体がよっぽど大きなダメージを受けていたらしく、復活するのにはまだ少し時間がかかるようだった。


 ただ、これはそれほど異常なことではなく、どんなに効果の高いポーションを使ったとしても結局は体の治りを早くする以上の効果は出ず、無理やり治りを早めようとすれば体に支障をきたす恐れもある。


 今はただゆっくりとルーナが治るのを待つばかりなのだ。


 しかし、よくよく考えてみれば、骨が折れているのも治りかけ、内臓も損傷していたらしいがそれもあと少しで完治。おまけに普通に食事もできる。


 前世では考えられない速度で回復していることは確かで、私たちが魔法やポーションなどのファンタジーに過大評価し過ぎていたということも余計な心配の原因につながっている。


 ゲームやアニメだったら、薬草は貼っ付ければすぐに効果を現して傷が消えるし、ポーションは飲めば不思議な光のエフェクト付きで傷も魔力も回復してすぐ戦えるようになるし、魔法もかければアッという間に治る。


 でも実際にそんなことは起きないし、再現したとしたら体がその急激な活性化についていけずに終わるだろう。


 それでも私たちは心配しながらルーナのそばに寄り添い続ける。


 ルーナはそんな私たちに「心配しなくてもいいですよ」というけれど。私たちはそれを耳に入れずにルーナのそばを離れない。


 心配で、心配で、悲しくて、悔しくて。


 私たちにできることは一切ない。


 だけどせめて隣にいるくらいはしたい。


 それは私が子供の時、熱を出して小学校を休んだ時。美景はそんな私にお見舞いといって私のそばにずっといてくれた。


 その時私は初めて、寂しかったのだとわかった。


 病気でつらいとき、だけれど両親も私にばかり構っていられない。両親は共働きだったし、すぐに休みを取れるような職場でもなかった。


 それこそ私は当時小学生。幼稚園児や乳幼児ならともかく、もうそこまで幼くなかった私は、一人家で病気と闘っていた。


 その時はまるで感じていなかった寂しさが、美景がそばに来てくれた時に初めてわかったのだ。


 ああ、私は寂しかったのだと。


 その時は涙ながらに美景に感謝したことを覚えている。


 私はルーナにそんな気持ちを味わってほしくなかった。


 たとえこの世界が前世でも過酷で、生きるのも大変で、治療中に孤独になることなんかで寂しさを感じていられないような場所であっても、私がそれを良しとしない。


 せめて、私だけでも、私たちだけでも、つらい思いをしているはずのルーナに寄り添っていなければ。


 美景も私の気持ちを汲んでくれている。


 だからこそだろうか。


 私たちがそんな気持ちでルーナに寄り添っていると、徐々にルーナと私たちを包み込むように、光が集まりだしていた。


 「慈愛の・・光・・・。」


 ルーナがそんなことをつぶやいた気がした。


 けれども私はそんなことはお構いなしにルーナの体にユミルンの顔をうずめるようにしてきゅっと抱き着く。


 「ライム。本当にありがとう。」


 いつも丁寧な口調をこんなにも砕けさせていう言葉は、とても柔らかで温かい感謝の言葉で。


 ルーナは抱き着く私たちを手で包み込み、また深い眠りに落ちる。



 

「ライムは本当に不思議な奴だ。慈愛の光なんて、本当に相手を思いやる心と魔導士並みの魔力がないと発動しないものなのにな。」


 「ライムちゃんは優しいからね。本当にモンスターとは思えないほど。」


 「だな。ライムはマジでいい奴だよ。」


 ルーナとライムが抱き合って、寄り添って眠っているのを遠巻きに見ている3人は、微笑みながらその光景を見守ってそう話した。


 モンスターとは自分以外のものを誰彼構わず襲い、命を奪う存在。


 とりわけスライムとはたとえ格上相手でも襲い掛かるような見境のないモンスターで有名だ。


 しかし、今目の前でかわいらしいぬいぐるみのような形態に変身しているライムは、そのスライムの性質からも、モンスターの性質からも逸脱した異質な存在だ。


 それも、魔法使いの中でも優秀な部類に入る魔導士レベルの魔力を秘め、人間の言葉を解し、文字を覚え、意思の疎通も可能である。


 こんなモンスターは今まで一度たりとも3人は見たことがなかった。


 いるとすれば、高位の竜種くらいだろうか。


 そんな存在とある意味同列であるライム。


 ディランはふと思う。ライムはこの世界を巻き込むほどの大きな台風の目になるかもしれない。


 特殊すぎるものは、それ相応に騒動に巻き込み、あるいは騒動を引き起こすものだ。


 ならばライムはその渦中にいやおうなく巻き込まれてしまうだろう。


 そして、これほどまでに優しく、ともすればもろいライムが、そんなものに巻き込まれて無事で済むだろうか。


 ディランはふとポートやレナを見る。


 すると二人もちょうどこちらに目を向けてきたところで、変なところで気が合うものだと互いに苦笑する。


 「ディランの言いたいこと、なんとなくだけどわかるよ。」


 「やっぱりな~、仲間は全力で守らねーとってことなんだろうな。たとえそれが、今まで敵として戦っていたモンスターであっても。」


 「ああ。そもそもライムは俺たちにとってモンスターですらない。」


 ディランはそういって再びライムを見やる。


 「ライムは、ルーナの言葉を借りれば、家族なんだろう?なら、ライムのことも、人と同じ存在であると認めなければな。」


 「この国の王子様がそんなこと言っていいのかよ!」


 「いいさ。他の誰より、私たちはライムのことを知っている。ライムは人に危害を加えるようなものではないし、むしろああやって友好的に接してくれる。人を殺して回るようなモンスターと一緒にしては失礼だろう?」


 ディランは優しく微笑みながらそう言い、窓の外に見えるショープの街並みを見る。


 カラナックの3階は他の建物よりも高いところに位置しているために、この街を見渡すことができる。


 外はもう真っ暗で、家からは暖かな明かりが漏れ出している。


 「彼らにも、この部屋の明かりが暖かく見えるだろうか。」


 ディランがつぶやいたその言葉の意味を理解して、ポートとレナは黙ってディランと同じく外を見る。


 「願わくば、彼らにも、私たちと同じ景色を見てもらいたいものだ。」


 ディラン達から見れば、確かにライムは仲間であり、友人であり、家族だろう。


 しかし、ひとたび外に出て、他人にみられてしまえば、他人はライムをモンスターといって恐れ、あるいは怒り、襲い掛かってくるだろう。


 それをかばうディラン達もまた、敵だと思われるかもしれない。


 ディラン達だって、ライムと出会うまではそうだったのだ。ならば冒険などしたことのないモノ言うに及ばず、様々なもの見て体験しているような冒険者でさえ、所見ではライムを敵と判断して剣を向けるだろう。


 私たちは本当に狭い世界で生きてきたのだな。


 そう、ディランは思わずにいられなかった。


 ライムは異質で、特別で、同じようなものは他にいないかもしれない。けれどそれを言い訳にできない何かがそこにあるのだ。


 この国の王子であり、民のことを想うディランだからこそ、ライムが安心してこの国をめぐり、また民たちもそんなライムを見て恐怖しないような、そんな未来を願わずにはいられないのだ。


 「けどよ。それはあんまりにも現実的じゃねえよ。」


 ポートは表情に影を落としてそう言い切る。


 「人同士でさえいがみ合うような人間社会だ。モンスターと和気あいあいと暮らすなんて、夢のまた夢だろうさ。人間と魔族が敵対関係にあるようにな。」


 魔族と人間はもう3百年ほど前から戦争を続けている。今は休戦中であるが、そのうちまた開戦するだろう。魔族の動きが観られないだけで、実際には水面下で活動しているということだってありうる。


 しかし、人間と魔族が対立している間でも、人間同士が真にまとまりを見せることはついぞなかった。


 隣国と戦争をすることは当たり前。そうでなくても交渉というテーブルでは自国の利益を優先するためにたびたび舌戦が繰り広げられる。


 戦争をしていなくても争い事が絶えない人間社会で、奴隷や家畜としてならともかく、良き隣人としてスライムを迎えることなどできようはずもなかった。


 「悲しいことだけど、みんながみんなライムちゃんみたいに優しくないからね。」


 レナも暗い顔をしながらライムを見てそう言う。


 「わかっているさ。それでも。言葉を解することができるライムなら、それができるんじゃないかと、俺は信じてるんだ。」


 ディランは窓の外からライムに視線を移し、そう語かたった。


 そして強くこぶしを握る。


 「いや、俺たちだけは、それを信じていなければいけない。ライムを真に仲間と認めているからこそ、ライムの幸せを信じなければ。」


 ディランはそう言うと、握った拳から力を抜き、ゆっくりと立ち上がった。


 「それでは今日はこれくらいで寝るとしよう。あの様子だと、明日にはここを発つことができそうだしな。」


 気づけばルーナの顔色が随分と良くなっており、体調が戻っていることがうかがえた。


 これが慈愛の光の恩恵なのだろう。


 ディランとポートは部屋に帰り、レナもライムを挟む形でルーナの隣で横になる。


 「きっと、ライムちゃんはこれからいっぱい傷つくかもしれないし、悩むかもしれないけど。」


 レナはルーナとライムをまとめて腕で包み込んでそうライムにつぶやく。


 「大丈夫。私たちがいるからね。」


 そういってレナも静かな寝息を立てて、深くて穏やかな暗闇に意識を沈ませた。


 ライムはそれを聞き、心の中で何度目となるかわからない感謝と謝罪の雫を溢れさせるのだった。


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