嘘
本日2階目
ディランとポートが風呂から上がってきたところでパーティー会議が始まった。
ディランととポートは騒ぎのあった頃、全く気付かずに湯船でゆっくりしていたそうだ。
レナから事情を聴いた彼らは少し申し訳なさそうなと態度をとり、しゅんとなっている。
そして私たちも、ルーナとレナが脱衣所で戦っていたことを聞いて、馬鹿なことを考えている場合じゃなかったと思い、人知れず猛省している。
ちなみにルーナは私の頭をひとしきり撫でてから、痛みが限界に達したからか、まるで糸が切れた人形のようにいきなり意識を失って、現在ベッドで安静中である。
私たちはいきなり意識を失ったルーナを見て慌てたが、レナの迅速な対応によって、あと少しすれば意識を取り戻すだろうということだった。
ポーションによって傷も治りかけており、痛みも引いてまた動けるようになるだろう。
しかし、ルーナとレナが戦っていた少女というのは十中八九赤木の仲間だろう。その少女が二人を寄せ付けないように道を塞いでいた。
私たちが転生者であるということをそうまでして隠す必要があったのだろうか。
「あの女の子、めちゃくちゃ強かった。大鎌をあれだけの速さと正確さで扱える人なんて見たことないよ。」
レナは少女の動きを見切れなかったといい、悔しそうにそう話した。
ディランとポートもそれを聞いて真剣な表情をし、次に私たちを見た。
「ライム。お前のところにも人が来たと思うが、何をされたんだ?」
私たちの前には魔式ペンと紙が用意されている。
それに書いて返答してくれということなんだろうけど。正直、どう返答した方がいいのかわからなかった。
赤木の行動が、もし私のことも含めて考えた行動だとすると、アース連合が接触してきたということは伏せるべきなのではないか。
アース連合はかなり大きな組織みたいだったし、ディラン達なら名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。
しかし、赤木の仲間だろう少女はアース連合であると名乗っていない。
それはつまり自分たちの身分をエレアナに伝えたくない、または伝えるとまずいことになると考えたうえでの行動だと思うし、それは同じ転生者である私たちにも同じことが言えるのではないだろうか。
最悪、今までの関係が破綻してしまうかもしれない。
(どう答えるべきだと思う?)
(アース連合と赤木の名前を伏せると説明できないしな~。でも言っちゃうとまずい気がするし・・・。)
うんうんと悩んだ結果、あんまり長く答えないでいるとまずいということもあり、私たちは恐る恐るペンをとって紙に返事を書きだす。
『私に何か話しかけてきたけど、何を言っているかわからなかった。』
これが通じるかどうかで次の対応が変わるのだけど。
そう思って3人の様子をこっそり見てみるが、私の返事を見て3人は思案している。
「それは・・・言語が違うということか?それとも内容の意味が分からなかった?」
ディランがそう私たちに尋ねてきた。
どっちが正解だろうか。
しかし、これもあまり考え込んでしまっては不審がられてしまうので。『言葉がわからなかった。』と答えた。
「違う言葉・・・もしかして魔族だったのかな。」
レナは深刻な顔をしてそう答える。
その答えにディランもポートも一層真剣な面持ちに変わり、雰囲気は重くなっていく。
「私たちが相手していたのは間違いなく人間だと思うけど、もしかしたらライムに接触してきたのは魔族の一人だったのかも。」
「しかし、そうなると厄介だな。最近は目立った動きを見せていなかった魔王国が動き出しているのか。それともただのはぐれなのかで話はずいぶん変わってくる。」
「もしも魔王国が動き出してたらかなりマズいぞ。また戦争が勃発するかもしれねえ。」
話がどんどんあらぬ方向に行ってしまっていることに私たちは内心慌てる。
魔族?魔王国?戦争?
ち、ちょっと答えマズったかも?
ディラン達は黙してしばらく考え込むが、やがて息をつき、ディランが顔をあげた。
「いずれにせよ、今はまだ情報がそろっていない。ひとまずこれはまだ公にしない方がいいだろう。」
「・・だな。こんなこと衛兵に教えた日にゃ街中大騒ぎになるだろうし。」
「そうだね。」
いったんこの話は終わりとした。それよりもまず、脱衣所の被害はどういう解決をするのかを宿の女店主に聞きに行かなければならない。
そういうことでディランが聞きに行ったのだが、そのことならもう解決済みだと返答されたという。
なんでも大鎌を持った少女が出ていく際に金貨の詰まった袋を出して詫びてくれたのだとか。
名前などは一切名乗らずにすぐに出ていってしまったから彼女のことは全く分からないそうだが、そういうことでこのことについて私たちのことは不問とするみたいだ。
「えらく手際がいいな。金貨なんてそうそう大量に持ち出さないものだろうに。」
「それに、それだけの実力者に目を付けられてたんだったら俺が気づかねえはずない・・・」
ポートは言いかけた言葉を飲み込み、少し考えてから何かを納得したように天を仰いだ。
「なるほど。あのへったくそな尾行は気をそらすための囮か。」
「そういことか。どおりで俺でも気づけるほどずさんな尾行だと思った。」
尾行?なにそれ。
(やっぱりのーちゃんは気づいてなかったんだね。)
(え?なになに?美景は気づいてたの?)
(まあね。ただ、尾行っていうよりただ単についてきてただけみたいなすっごい下手な尾行だったけど。)
尾行したことのない人がこういう位下手だったってことはよっぽどだったんだろうな~。
(尾行は結構したことあるよ。)
(え?!初耳なんだけど!)
(当たり前だよ~)
(だ、誰を尾行してたの?)
(さ~て、誰でしょう?)
美景はとぼけたっきり教えてくれなかった。
しかし、下手な尾行を囮にして本命をうまく隠したり、足止めできるように仲間を配備したり、宿に迷惑をかけないようにあらかじめお金を用意していたり。
準備が良すぎることもそうだけど、本当にこちらのことを気遣ってくれているような気がするし、悪い奴らじゃないのかな。
でもルーナにこんなことした人たちをなかなか信じる気になれない。
ただ、私たちを歓迎するって言ったあの言葉に嘘があるとも思えない。
いったいどんな人たちなんだろうか。
「うっ・・・」
ディラン達とあれこれ話している間にルーナの意識が戻ったみたいだ。
私たちはすぐにルーナの下に駆け寄り、大丈夫かどうか心配になってルーナの手を取る。
「ライム・・・私は大丈夫ですよ・・・。」
そういうルーナの声はいつもよりも少し弱弱しく、とても大丈夫とは思えないほど覇気がなかった。
私たちはレナの顔をうかがったが、それに気づいたレナが私たちの頭に手を置いてにっこりと笑う。
「骨とか折れてたし、見た目以上に重傷だったから、治るのにかなり体力を使っているんだよ。だから、ちゃんと食べてゆっくり寝たらいつも通りのルーナに戻るよ。」
レナの言葉を聞いて安堵するも、やっぱり相当ダメージを負っていたようで、私たちは少しうつむく。
「ライムのせいじゃないから、そう落ち込まないの!」
レナはそう言ってくれるけど、転生者である私たちがみんなのそばにいたから起こったことに変わりはなく、少々責任も感じてしまう。
確かに自分が蒔いた種でないことはわかっているし、私たちがどうこうできることでもないことも承知している。
けれども全くの無関係でないということ、そしてそれを伝えられない自分に負い目を感じてしまうことはしかなたいことだろうと思う。
やっぱりちゃんと説明するべきなんじゃあ。
そう思いはするけれど、やはり関係が壊れてしまうことが怖くて、結局何もせず、ただただルーナに引っ付いてしばらく添い寝していた。




