知らない人にご用心
本日2機目
(う~ん・・・まだ遅いかな?)
(もう少しスムーズにできればいいんだけどね。)
今私たちが何をしているのかというと、異次元ポケットに収めている道具の出し入れの練習である。
ルーナの心配をおしてまでドルン山脈に行きたいといったのは私たちだ。なら足手まといにならないように試行錯誤するのも、努力するのも私たちが主体となっていなければいけない。
考えた末にこの部屋の中でできる訓練は異次元ポケットをより自在に機能させ、咄嗟のタイミングで適切なアイテムの取り出しができるようにすることだと考えた。
もちろん魔法や技の習得など、戦闘面で活躍できるようにすることが一番だけれども、戦闘経験値が圧倒的に低い私たちが多少強くなったって足を引っ張っることは目に見えてる。
それにルーナが私に頑張ってほしいこととはまた違うような気がする。
パーティーとの連携。そして道具を使った臨機応変なサポート。私たちは前に出ず、常に後方から求められている支援をする。それが一番私たちが活躍できる役割だと思うのだ。
そもそもこの部屋の中じゃ戦闘訓練はできないしね。
(そういえば、いつこんなタグとかつけてたの?)
(のーちゃんが鉄砲で試し打ちしてるときにちょっとね。)
(ふーん。なかなか便利だからいいんだけどさ。)
私が知らない間に美景が異次元ポケット内で作業して付けたタグ。これが結構便利なのだ。
道具の名称はもちろん、ルーナが教えてくれた効能や使用タイミングなどが詳細に記載されていて、そのうえで美景が考えた応用法も書かれている。
これがあるだけで一目でどの道具かがわかるようになっていて助かっている。
(じゃあ次緑ポ!)
(ほい!)
(赤ポ!)
(ほほい!)
(縄!)
(ほほほい!)
緑ポとは緑色のポーションで、正式名称はヒーリングポーション。その名の通り傷の回復力を高める薬品で、傷口に振りかけることでその部分の細胞が一気に活性化し、みるみる回復していく薬品らしい。
ただ、傷の程度によっては回復不可能な場合もあり、そうでなくても傷口が大きく深ければそれだけ治りも遅くなるのだとか。
また、あまり短時間に使いすぎると体が抗体を作ってしまうために治りが悪くなり、最悪悪化する場合もあるのだとか。
薬の乱用が危険なのはどこも一緒なんだね。
赤ポはお察しのとおり赤い色のポーション。正式名称はブラッドポーション。つまりは造血剤ということである。
ヒーリングポーションは基本的に細胞の活性化を促す薬品であるため、流れた血が戻ることはなく、細胞が活性化することによってより早く止血するがそれだけである。
なのでヒーリングポーションを使う場合は必ずこのブラッドポーションを飲んで増血する必要があるのだ。
あまりにもひどい傷を治療・手術するために輸血パックが必要なのと同じことである。
これも多用は禁物で、無理に血を増産させていることから肝臓に多大な負担をかけるため、最悪肝不全になる可能性もある。
縄は縄であるため、詳細は省くが、冒険では必需品とされているため、古くなっていたり傷ついていたらすぐに新しい物と交換する必要があるのだとか。
おそらく縄を使った下降なんかで古い縄を使用した場合、途中で切れて落下する恐れがあるからなんだろうな。
ちなみにルーナが私たちに異次元ポケットがあるとわかって、ショープでのお店巡り時にしれっと10本ほど新しい縄を買って私たちに預けていた。
「縄は多くあったほうがいいのです。様々な用途で活躍しますので。」とはルーナの言である。
(ふーむ。だいたい言われてから取り出すのに3秒くらいはかかるかな。もう少し早くできないかな。)
(こればっかりは経験じゃないかな。それに戦闘時にルーナたちが必要なものを冷静に分析しながら取り出す必要があるし、その時にならないとわからないことが多い気がするな。)
確かにそうなんだけど。
私は早くみんなに貢献できるように努力しているつもりだ。
けれど実際はまだまだで、結局まだ結果に結びつかない。
そうやってもやもやした気持ちのままで練習していたのが悪かった。
私がヒーリングポーションを早く取り出そうとすると、勢い余ってそのままスポーンと部屋の壁に飛ばしてしまったのだ。
カシャン!
ヒーリングポーションは壁に液体をまき散らして瓶が割れ、床に破片が散らばった。
(あー・・・やっちゃった・・・。)
私はぼーっとしていたことを悔やみながらヒーリングポーションをどうするか思案する。
(正直に話すかな・・・。)
(怒られるかな・・・。)
ルーナがこの惨状を見てどんなことを言うか少し怖くなりながらも、そのままにしておくのはやっぱり駄目だろうと思い、破片を回収しようとしていた時だった。
「あれま。それちょっとお高めのポーションじゃないか?」
気づいたら知らない人が割れたポーションがある壁とは反対方向にある窓際に佇んでいた。
あれ、というかこの人・・・なんか懐かしいような。
不審者は窓際から割れたポーションのほうに向かい、破片の一部である瓶の口元を手に取った。
「あーやっぱり。リンドブルフ製だったか。これ、銀貨2枚するやつだぞ。」
ぎ、銀貨二枚・・・って高いのかな?
えーっとこの宿に泊まるために出していたお金が確か銀10枚だった気が・・・。この宿のランクがいまいちわからないから相場がわかんないな。
(でも口ぶりからすると、高級ポーションってのは本当なのかも。)
確かに。
そうだとしたらルーナにどれだけ怒られることか・・・。
「君は少しおっちょこちょいなのかな?」
おっと、いかんいかん。
今はこの不審者のほうが重要だ。
なぜなら私たちはスライム。モンスター。害獣。
人とは敵対関係にあるはずなのだ。だからこの人がなぜここに侵入してきたのか、逃げた方がいいのかどうかを見極めないと。
けど、なんでこの人は私たちに話しかけているのだろうか。
「おーい。聞こえてる?聞こえてるよな?もしかして話せないのか?」
不審者はそうぼやきながら私たちに近寄ってきた。
私たちはその分だけ後ろに後退し、気づけば私たちは壁際まで後退していた。
逃げ場がない。
「そう警戒しなくても大丈夫だよ。俺はあんたの敵じゃない。」
不審者はそういってしゃがみ込み、私たちをまっすぐ見る。
「俺は赤木直人。今から約25年前にこの地に転移された地球人で、日本人だ。」




