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ルーナ=モルフォル

本日3℃目

 食事が終わり、私たちは男女に分かれて宿の部屋に入った。


 ルーナは護身ということで部屋に結界を張り、聞耳をたてられたりピッキングされることを防いだ。


 「もう出てきてもいいですよ。」


 なにか隠れている密偵に対して「お見通しだ」とでもいうようなセリフだが、実際には一匹の小さなスライムがカバンからはい出ただけ。


 出てきた私たちはすぐさまユミルン形態にモードチェンジ。すぐに二人に抱き着かれた。


 しばらく遊ばれてからはルーナが紙とペンを取り出し、それを私に渡してお勉強タイムになった。


 今回ので簡単な文字は一通り教え終わるようで、それからは以前見せてもらった魔法の教科書を見つつ図形や魔法式を教えてくれるらしい。


 「これが『わ』です。」


 「もうそこまで覚えたんだ。まだ2,3日しかたってないのにすごいね。」


 レナはさっきまでめちゃくちゃ酔っていたのに、さっきトイレから出てきたあたりから大分酔いがさめた感じになっていた。


 あ、服の裾に・・・。


 レナに気づかれないようにさっとブツを拭い、味覚を遮断して消化した。


 女の子がつけていいものではない。


 しばらく同じ文字を書く練習をした後、次の文字、その次の文字へと移り、ようやく最後の文字である『ん』を覚えて終了した。


 「まだ特殊な文字がありますが、簡単に伝えたいことがあれば今まで教えた文字で十分伝わると思うので、あとは追々教えていくことにします。」


 これでようやく私たちも文字を使ってみんなに話すことができるようになった。それでは早速。


 『ありがとう。ルーナ。』


 「どういたしまして。それにしても本当にこちらの言っている意味も理解しているのですね。」


 ルーナは唐突の感謝の言葉に歯噛みしながらも、私たちの理解力の高さに感心していた。


 まあ今はこんなだけど、もとは同じ人間だからね。


 『聞きたいことがあります。いいですか。』


 それはさておき、とりあえず聞いてみたかったことを一通り聞いていきたいと思う。長い間話せずにいたからね、聞きたいことの10個や20個あるわけですよ。


 「いいですよ。答えられる範囲でなら。」


 『では、ルーナとレナはどうして冒険者になったのですか?』


 その外見から、どことなくいいとこの娘さんな感じがしてならない二人のことが知りたくなっても何ら不思議じゃないはず。ただ、スライムに自分の素性とか話しても理解できるのかという疑問が出ると思うけど。


 ちなみに言葉は全部ひらがなで、どうやって伝えているのかといえば、単語や修飾語などの間を少し開けて、意味が分かるように工夫している。句読点とか習ってないしね。


 「そうですね。こんなことを言ってもライムに理解できるかどうかわかりませんが。私とレナはもともとこの国の貴族でした。」


 ほう。貴族とな。


 でもそうなるともっとわからない。貴族って働かなくても生活できるほどお金持ちだったり、娘さんだったりすると若いうちから結婚させられるもんじゃないの?


 「レゼシア王国北東に位置する四季のある領、モルフォル男爵領。それが私の元いた場所で、活気のある領の一つです。そのモルフォル家の3女として生まれた私は、優しいお父様とお母様に何不自由なく育てられ、幸せの日々を送っていました。」


 ルーナは懐かしむように私たちを通り越してどこか遠くを見るような眼をして答える。


 「けれど、6年前。当時10歳だった私が通っていた学園から家に帰ったとき、お母様が玄関口で倒れていました。」


 段々とトーンを落としていくルーナの顔は、当時のことを思い出してか悲痛なものに変わっていた。


 「私がお母様の名前を叫ぶと、一番近くにいただろうメイドの人がお母様の状態を知ってすぐに医者を呼びました。そのころ王城に出ていたお父様に知らせを届けましたが、お父様が家に着いた頃にはもう・・・」


 ルーナが目を閉じ、しばらくうつむいていると、レナが背中をさすって慰めた。


 ここまで重い話になるとは思っていなかった私たちは、もう止めようかと思ったが、ルーナは私たちの表情で察してそれを制し、話しを続ける。


 「お父様はお母様の死を受け入れられず、しばらくふさぎ込んでしまい、そのせいで仕事が滞り、ゆっくりと領の運営に支障をきたしていきました。立ち直ったときにはもうすでに財産の余裕もなく、すべてを領地運営のために回しても、私たち姉妹を育てる余裕がなくなっていました。おまけに男爵ということもあり、経営が火の車である私たちに縁談を持ち掛けるような人はほとんどいませんでした。それこそ男爵の地位がほしい準貴族くらいのものでした。」


 そこまで言って深呼吸をし、少し表情をいつものものに戻しながら、再び遠い過去を思い出すように目を細めて話す。


 「そこで私たち姉妹は、それぞれ得意な分野でお金を稼ぐことにしました。長女は恐るべき剣の才能から騎士に。次女は興味のあった政治を学んで文官に。そして私は幼少から才能を開花させた魔法を使った魔動研究施設に行きました。」


 暗い話から抜け出したからか、さっきよりもずいぶん晴れた表情で話すルーナ。


 レナもそれを見て安心したのか、また黙って話を聞く。


 「魔動研究施設では、主に魔法を使って道具の研究をしている施設で、この魔式ペンや魔動車、魔動式ライトスティックなどもそこの施設で作っています。ちなみにそのどれもに私は携わっていました。」


 ニコニコしながら魔式ペンを持ち上げてそういうルーナは普段見せないようなあどけない少女のような様子で何とも可愛らしかった。


 「そして徐々に領地運営も軌道に乗り、私たちの頑張りとお父様の手腕によって何とか立て直しました。運営がうまくいくようになってからは私たちが稼ぐ必要がなくなったのですが、騎士や文官はおいそれと辞められるものでもなく、結局少し施設に不満があった私だけが領に戻ってきました。そして他にやりたいことを考えていた最中に街でレナと会ったのです。」


 ルーナはそっとレナの方見て、少し笑顔を見せた。


 レナはそれが少し気恥ずかしかったのか目をそらして指で頬をポリポリと掻いている。


 「私はモルフォル領のフロア商会ってところの次女だったんだけど、かなりの大商会だったから貴族とかからも結婚の申し込みとかも多くって、お父さんはそんな私を早く嫁に出したかったみたいなの。私は商会の手伝いをしていきたかったのに、お父さんには私は邪魔だったんだって思って、それで家出したんだ。」


 レナはまだ少し恥ずかしそうにしながら目を合わせずに話し出す。


 こんなレナはなかなかレアだな。


 「夕焼けに染まった街はすごくきれいだったけど、どこか寂しく見えて。きっと私が見放されたと思ってたからだと思うんだけど。それで、この街から出ていきたいなと思ってた時に偶然ルーナと出会ってね。何度かモルフォル家の人もうちの商会に来ていたからルーナとは面識があって、それで自分のことを相談したら、冒険者になるのはどうかって言われたんだ。」


 レナはなおも恥ずかしそうにしながら話し終えた。


 ルーナはそんなレナの頭をなでて微笑む。


 普段はルーナのほうが子供っぽいのに今は逆になっていて少し面白い。けど今ここで笑うと絶対起こるだろうな。


 「レナが結婚をしたくないという理由に自分と重なる部分があったので、私も協力するからと言って冒険者になったんです。レナの成長速度には驚きましたが。」


 楽しそうに話すルーナ。それを赤面しながらうつむくレナ。


 ほほえましい。


 「そして、冒険者での活動をしているときにディランとポートに出会い、今に至るというわけです。」


 そう話を締めくくったルーナは、部屋にかかっている時計を見ると、自分の荷物のほうに向かっていった。


 「次の質問はお風呂から上がってからにしましょう。さすがにライムをお風呂場に連れていくことはできないので、ここで待っていてもらえますか?」


 そう言ってルーナは自分のリュックから着替えと各種お風呂セットを取り出して私たちのほうに振り替える。


 本音は私たちも入りたいだけど、さすがに人目についてしまうためにやめとく方がいいだろう。

そもそも私は汚れておらず、嗅覚を使って自分の体臭を確認してみても、臭いどころか少しフローラルな香りがするほどだ。なんでだろ。


 ともかく、私たちは危険な目に合ってまでお風呂に入る必要性はないので、紙に『待ってる』と書いてルーナと同じく支度したレナを送り出した。


 (さて。一人になったということで。)


 (また何かよからぬことを考えてるな、のーちゃん。)


 (そーんなことないよー。)


 別に悪いことしようってんじゃない。ただ実験をするだけなのさ。


 (本当に大丈夫?)


 (大丈夫だ。問題ない!)


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