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向かいたい方向へ

本日2℃目

 食事が進んでご飯も終わりに差し掛かったところで、ディランが小さい地図を手に取り眺めながらぽつりと言った。


 「今度はどこに行こうか。海沿いは今は勘弁願いたいから南以外だが。」


 「じゃあ山とかどうよ。寒くなってくるからその前に足を延ばしといてもいいんじゃないか?」


 ポートはジョッキに残っている酒をちびちびと飲みながらそう言う。


 「山っていうと~このあたりだと~どこにあった~っけ?」


 かなり酔っているレナは、それでもまだ頭は働いているらしく、机に突っ伏しながらも話に参加してくる。


 「周辺でいうとヘリアル山でしょうか。ただ、あそこはそれほどモンスターがいるわけでもないですし、宝というものもないでしょう。」


 ルーナはかなりお酒が強いのか、ディランやポートでもうっすら顔が赤いのに全くの素面のままだ。


 ちょっとジョッキの中を確認。


 ・・・あ、これジュースだ。葡萄ジュースと同じ味がする。


 最初はみんな一緒のお酒だったけど、後から頼んだものは全部ジュースにしたのかもしれない。


 「ならドルン山脈はどうだ?ここから少し遠いが、5日あればつく距離だし、何よりあそこにはまだ眠っている財宝もあると聞く。少々危険に首を突っ込むことになるかもしれないが、まあ大丈夫だろう。」


 ディランは地図をみんなに見せるように机に置き、ショープから東に向かった先にある大きな山脈、ドルン山脈を示した。


 「おー、いいね。なかなかスリルがあっていいじゃねえか。」


 「た~しかに~。みんな~力合わせれば~大丈夫だよね~。」


 ポートもレナも賛成のようだ。というかレナはもう完全にフラフラでまともに考えが回らないようだ。


 けれど、ルーナだけは少し承諾しかねるといった表情になった。


 「確かに私たちは大丈夫かもしれませんが、ライムが心配です。」


 そして私が入っているカバンに手を置いて、隙間をそっと見る。


 「ライムは確かに魔法が使えたり、ライムならではの技も持っています。しかし、それはあくまで下級モンスターになら通用するという程度のもので、ドルン山脈にいるような中級以上がはびこる場所では通用しないでしょう。私たちも戦闘中にライムをかばう余裕が常にあるかどうかわかりませんし、肌身離さずということもできませんから。」


 そういってカバン越しに私たちをなでる。


 ディランたちもそのことを聞いて顔をしかめる。


 このショープに来る前に現れたモンスターたちは、今の会話からするとおそらく下級モンスターなのだろう。


 荷物を降ろして戦闘をしていたのはディランとポートだけだったし、ルーナに至ってはほぼ戦闘開始から終了まで動かなかった。つまりそれほど余裕の戦闘だったということだ。


 けれどドルン山脈ではそうはいかないらしい。


 今の会話からするとルーナも激しく動くことがわかるし、そんな中で動きが制限されるような荷物を持って戦うことはしないだろう。


 肩掛けかばんは戦闘中でも持っているものだからふつうは問題にならないが、私という護衛対象が入っているとなるとそうもいかなくなる。戦闘中にカバン越しに攻撃が当たってしまうことも考慮して荷物と一緒に置いておく必要があるだろう。


 けれど今度はそうすることで強力なモンスターとの戦闘になったときにおいそれと逃げられなくなってしまう。


 どっちに転んでも私が戦闘において邪魔になるのだ。


 ルーナは私たちのことを案じてそう言ってくれているのだ。けれどもその心配は私たちにとっては深く心に突き刺さるものでもある。


 邪魔になる。戦闘の、冒険の、人としての生活の。それは私たちの望むところではない。


 「うーむ。やっぱりほかの場所を考える方がいいか?」


 「私はそうおも・・・」


 ルーナが言い終わる前に、私たちはルーナの手を振ってアピールした。


 「どうしましたか?」


 ルーナが困惑している。


 (やっぱりこういうのはよくないよね。)


 (うん。みんなの邪魔になるんだったら一緒にいない方がいいし、何より一緒にいたいと思ったのは私たちだし。私たちが邪魔にならないように頑張らないと。)


 ルーナの手を地図のところまで持っていき、ディランが先ほど示していたドルン山脈の上に置いた。


 「そこに・・・行きたいのですか?」


 私たちに何ができるか。それは簡単な支援程度しかないかもしれない。今から頑張ったって中級モンスターに届くほどの技や魔法を使えるようになるとは思わない。


 けれどそんな自分たちがみんなの足かせとなるのだけは嫌だ。


 結局これも私たちのエゴなのかもしれないけど、それでもみんなと一緒にいたいと決めたのなら、私たちは守られるだけの存在ではいられない。


 ルーナの手を動かし、何度もドルン山脈の上に手を置く。


 するとディランは私たちの意図を察したのか、うっすらと微笑んだ。


 「ルーナ。ライムは心配無用だといいたいんだと思うぞ。」


 戸惑っていたルーナは、ディランの言葉を聞いて納得するとともに、それでも心配そうな顔をして私たちに目を向ける。


 「しかし・・・もしかしたらあなたを守れないかもしれない。」


 「それが余計だってことだろ。俺らがライムを仲間だって思ってるのと同じかはわかんねーけどよ、ライムも俺たちのことを仲間だと思ってくれてるんじゃねーか。だから気にすんなってよ。」


 ポートは少し辛辣に、けれど的確に私たちの言いたいことを言ってくれた。


 言葉を話すことができれば、こんなに回りくどくて面倒なことはなかったのに。そうは思えど私たちに口はなく、喉はなく。


 歯がゆい気持ちを抑えつつ、肯定の意味を込めて手を縦に振る。


 「・・・わかりました。ライム自身がそれを望むなら、ドルン山脈に行くことに何も異論はありません。」


 ルーナは諦めたように、けれど少しうれしそうに顔をほころばせながら私たちにそう言った。


 「ですが。」


 しかしすぐに真剣な表情になり、私たちに顔を近づけてきた。


 「それならば、少しでも生存確率が上がるように、ライムとの連携、ないしライム自身の戦闘訓練もしなければいけません。わかりますね?」


 ニヤッと笑ったルーナの顔は美人ながらもこれぞ魔女といった怖い顔で、その表情を向けられていないディランやポートでも少し身震いするほどの迫力があった。



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