第1話
私には幼馴染の男の子がいる。
名前は 小林 翔太。
ちなみに私の名前は安田 希美子。
翔太はハッキリ言ってカッコ良い。
昔からモテモテだ。
でも、こう言っちゃなんだが女性関係のトラブルが絶えない。
本人曰くみんなと仲良くしたいらしい。
うん、無理だよ。
だって、みんな翔太の1番になりたいんだもん。
そんな中、翔太は私のことを幼馴染兼親友と公言している。
それと言うのもかれこれ10年程前に遡る。
私と翔太が幼稚園の頃既に争いは始まっていた。
「キミちゃーん!あのね、ノリちゃんとシノブちゃんがボクにどっちがいちばんすきなの?ってコワイかおでいうの。ボクはみんなとなかよくあそびたいのに…。」
悲しそうな顔で今にも泣きそうな翔太を見て私はなんとかしたかった。
「ショーちゃん!だいじょうぶだよ。わたしはずっとショーちゃんとともだちだからね!ともだちだからどっちがすきとかないよ。だからなかないで」
私の言葉に翔太は笑顔を見せてくれた。
「ほんとうに?キミちゃんはぼくとずっとともだちでいてくれるの?ずっとだよ。わすれないでね!」
今にしてみれば何だってあんなことを言ってしまったのか…。
あの頃はただ翔太の泣き顔を見たくなかったんだよね。
はー、とぼんやりため息をついていると友達が話しかけてきた。
「ねえ、希美子。翔太くんまた彼女変わったんだね。」
うん、ソウデスネ。
高校2年にして何人目だっけ?
数えるのも面倒だ。
基本来るもの拒まずなので、彼女がいない期間というのはほぼない。
そして周期が短い。
さすがに二股はしないけど、基本彼女がいようがみんなでワイワイするのが好きなのだ。
今は昼休みなので、翔太の周りには女子がいっぱい張り付いている。
凄いね、あーいうのをハーレムって言うのかな。
そんな中教室のドアが開き、1人の女子生徒がやって来た。
タイの色を見るに1年生だね。
迷わず翔太の方に向かう。おいおい2年の教室で勇敢だな〜。
「翔太先輩!」
「あ、律ちゃん。いらっしゃい。どうしたの?」
どうやら、今回の彼女は年下らしいですな。
律ちゃんとやらは周りの女子に臆することなく翔太の前に進んだ。
勇者がいるよ…。
「翔太先輩。今日帰りに寄り道して帰りませんか?私、美味しいケーキのお店見つけたんです!」
ふむふむ、なかなかやりますな。翔太は甘い物に目がないからね。
これはついてくでしょ。
あ、でも確か今日はうちでゲームする約束があったような………。
やばい、この流れはやばい。
流れ弾が来る前に避難しなければ。
私が席を立とうとしたところでお声がかかってしまった。
「あー、ごめん!今日はキミちゃんとゲームする約束だから。また今度に、ね。」
おおーい!
私を断る口実に使うのはよしてくれ。
ほら、律ちゃんとやらが可愛い顔を台無しにしてこちらを睨んでいるよ。
なかなか行動力のある律ちゃんは私の所にやって来た。
「あの、安田先輩ですよね?キミちゃんって言うのは。」
うわ〜、怖いわ〜。
これだから恋する乙女は嫌なんだよ。
何でこっちに矛先がくるのさ。
悪いのは翔太でしょ?
「安田先輩!翔太先輩に付きまとうの止めてくれませんか?迷惑です!翔太先輩と付き合って一週間ですがもう3回もそうやって断られてるんですよ!普通彼女持ちの人と遊ぶ約束しますか?空気読んで下さい!」
あう〜、怒られたよ〜。
可愛いのに般若だよ〜〜。
空気読んでますよ〜。私から約束したことはないんだよ〜〜。
私が何て返したらいいか困っていると翔太が割って入ってきた。
「ねえ、律ちゃん。俺言ったよね?キミちゃんは幼馴染兼親友だからって。なのに何でキミちゃんに文句言ってるの?」
律ちゃんは焦ったように翔太に話しかけた。
「で、でも翔太先輩。私、彼女ですよね?私が1番じゃないですか!なのに安田先輩とばかり遊ぶなんて酷いですよ。」
あ、これダメなやつだ。
この子は地雷を踏んでしまった。
それは、今まで踏んだ人の末路を知っているクラス中が感じ取ったようだ。
空気が冷える。
「律ちゃん…、俺彼女にして下さいって言われて、付き合っている人がいなかったからOKしたけど、1番じゃないよ。俺はみんなと仲良くしたいからね。それにキミちゃんに暴言を吐くような人とは付き合えない。申し訳ないけどお別れだね。」
あー、やっちゃった。
なんか、もう本当にすまん。
何回見ても申し訳なく感じる。
翔太は私のことを傷つける人をとにかく排除する。
昔の約束が翔太を縛っているかのようだ。
律ちゃんは走って教室を後にした。
チラッと見えたが泣いていた。
そりゃ、そうでしょう。彼氏が他の女を大事にするんだもん。
これが翔太が長続きしない最大の理由だ。
私も何回か苦言を呈したことがある。
私の約束より彼女を優先しろと。
でも、翔太は親友を大事にして何が悪いと言ってきかない。
それ以来私からは翔太と約束はしなくなった。
「キミちゃんゴメンね。嫌な思いさせちゃって。お詫びに何か奢るよ。今日の帰りにどっか行こう」
翔太は平常運転だ。
さっきの修羅場は何だったんだろう。
慣れたもので取り巻きのみなさんもまた翔太の周りに集まり出した。
私はどうしたらいいのかな?
このままだとお互いの為にならないよね。
友達にでも相談するか…。
「そりゃ、あれだよ。希美子が彼氏作ればいいんじゃない?」
友よ、それは短絡的では。
私の考えていることがばれたのか、いい笑顔で頭をグリグリされた。
地味に痛いっす。やめれ。
「でも、私好きな人もいないし。私と付き合ってくれる物好きもいないと思うよ。」
「希美子は自己評価低すぎるのよ。あんた意外とモテんのよ。ただ、近くにあのモテモテ魔神がいるから近寄れないだけで」
うーん、俄かには信じ難い話ですな。
でも、一縷の希望を託してもいいのかしら。
「でもどうすればいいのかな?好きでもない人と付き合うのも違うような…」
「ふむ、じゃあ付き合っているフリをしてもらったら?そしたら翔太くんだって少しは気を使って約束とかしなくなるんじゃない?」
試してみる価値はあるかもしれない。
どっちにしろこのままじゃダメだと思うし。
「で、誰がそんなマネに付き合ってくれるのかしらね」
「そうね〜〜。違う学校だけど私の従兄弟にお願いしてみようか?イタズラとか大好きだから乗ってくると思うよ。」
イタズラが好きってところに一抹の心配もあるけどしょうがないよね。
相手を選んでる場合ではないのだよ。
「んでは、よろしくお願い致します。貢ぎ物はケーキセットでよろしいですか?」
「うむ、よくわかっておるな希美子くん。」
こんなやり取りで計画がスタートした。
きっと大丈夫だよね?