[1-5] 空建型村落(スカイハイ・ビレッジ)
菖蒲が指したのは、確かに村だった。なだらかな緑の丘陵に木組みの建物が点在している。
「ほら、もう着くよ」
菖蒲はどんどん高度を落としていく。それで、木組みの家が全て高床式になっていること、建物と建物の間を木組みの遊歩道が結んでいることがわかった。
菖蒲は栞とともに、その遊歩道の真ん中に着地した。それと同時に足元の魔法陣も消える。
「ほら、こっち」
菖蒲は栞の手を引いて遊歩道の上を歩く。遊歩道は木の板で作られており、両端に柵らしきものはない。さながらハイキングコースのようだ。
栞は、菖蒲の後をついて歩きながら周りの建物を眺めた。建物はどれも同じような形をしている。高床式の床は地面から1~3メートルほど離れており(地面の起伏に左右されず、どれも同じ高さになるように調整されているのだ)遊歩道とちょうど同じ高さになっている。床を支える四つの足は、平たい石を土台としていた。
建物はどれも二階建てだった。一階部分には玄関があり、遊歩道と繋がっている。玄関の扉は木版によって作られた簡素なものだが、右上の方に「真木」「柏」などの漢字が白い文字で書かれてあった。住人の名前だろうか?
二回には窓や張り出しがあり、家によってはそこに花が飾っている。屋根は三角屋根で、窓の配置から屋根裏と思しきスペースもあるのが見て取れた。壁は全て木製だが窓はちゃんと硝子が使われている。昼間なので室内の様子は見えなかったが、時折品の良い刺繍を施したレースカーテンが見えた。
「ほら、ここだよ」
菖蒲は、一つの建物の前で立ち止まった。その建物は、他の建物と同じ大きさ、同じ形をしているが、ただ一つ違った点があった。
それは、玄関に扉がないことである。扉があるはずの場所は筒抜となっており、その代わり円形の光る魔法陣が入り口を塞いでいた。
「あれは……?」
「ああ、魔法認証扉ね。貴族のお屋敷はああやって魔法陣が扉になってるの」
菖蒲はそう言うと、魔法陣に触れた。
「こんにちわ、シルヴァーユ侯爵。赤の百七番――露草菖蒲です」
次の瞬間、魔法陣から女性の顔が浮かび上がった。