[1-3] 魔法少女(ピュエラ)
森の小道の真ん中に、まるで最初からそこにいたかのように少女は立っていた。
少女の服は、冗談のように色彩豊かで、そしてヒラヒラとして装飾が多い。
多段フリルのついたスカートに胸元に大きなリボンのついた上半身のドレス。
丸く絞った袖口に白い手袋、そしてその手には、先端に丸い硝子(?)球のついた長い杖を持っている。
そして何より目を引いたのは、桃色に輝く髪と、少女の横に遊弋するマンボウのような魚だった。
「ふぅ……なんとか間に合った。ダメだよ、悪虫が現れたら魔法少女を呼び出ししなきゃ」
「あ、あの……」
「あ、それ片付けるからちょっと待ってね」
少女は、先端を正面に突き出すようにして杖を構えた。
「配列型・六弾環状」
少女が唱えると、杖の先端を取り巻くように6つの光球が出現する。
ちょうどピンポン玉ほどの大きさのそれは、さっき虫に当たったものだと気がついた。
「弾種――半破砕弾」
6つの光球がわずかに明滅した。さらに杖の周りを回るようにゆっくりと回転を始める。
杖を握る少女の手に、わずかに力がこもった。
「発射」
次の瞬間、6つの光球は発射された。
それと同時に栞が虫のほうに視線を転じると、ちょうど虫の四肢と羽が光球によって破壊されるところだった。
羽と足をもがれた虫は、木の葉のようにゆっくりと地面に墜落した。
「装具変形――封印型」
少女が唱えると、杖が変形した。
先端の硝子球を支えていた二本の支示架が変形し、細長くなる。
また、支示架の付け根から二本の羽が吹き出し、その様は一対の羽のようだ。
「封印処理」
少女は唱えた。
その瞬間、杖の先端から光(まるでレーザー光線のようだ)が迸り、地面に倒れ伏した虫へ直撃する。
その後の変化は劇的だった。
光の当てられた虫はみる間にその姿を小さくしていき、最後には赤い正八面体の結晶となり、光に乗って杖へと吸い寄せられた。
「ふう――」
少女は左手で赤い結晶を取ると、額の汗を拭い、杖を持った右手を水平に振るった――と、その瞬間杖は虚空に掻き消えた。
「大丈夫? ダメだよ、こんな森の中を一人で歩いちゃ。もうすぐ夕方だし、暗いところは悪虫が現れやすいんだから」
少女は栞に近寄って気さくな調子で一方的にまくし立て、
「あれ……?」
言葉を切って、栞の身体をじろじろと見る。
「あ……」
少女の言葉で、栞は自分の格好を初めて意識した。
栞が着ているのは、真っ白なワンピース状の服だ。
手術衣のように前で合わせる形になっており、細い帯一本で腰を締めているだけ。
(人前に出る格好じゃなかったかも……)
栞は急に恥ずかしくなって頬を染めたが、すぐにそんな場合じゃないと気がついた。
まずは、自分の境遇を説明しなければならない。
しかし、少女は不意に納得したような調子でこう言った。
「そっか、あなた、取り替えの子なんだ!」