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密造人間

「最近、秘密裏に遺伝子情報を盗み出し、その情報を基に密かにクローン人間を作成する密造人間が社会問題化しています」

 男がテレビを見ていると、ふとそんなニュースが彼の耳に入ってきた。密造人間、この言葉には人間が完全にモノと化している何とも冷たい言葉だ。クローン人間、複製人間とて冷たい言葉であることには変わらないが、それはどこか科学的で、何となく知的な感すらある。しかし密造はどうだ。密造酒などに代表されるが、密造、この言葉のおかげでまるで人間に金銭価値のある商品、物品であると錯覚すら覚えさせられる嫌な言葉だ。確かに人間には金銭的価値がある。それは労働力として、性的玩具として、娯楽的道化師として。だから、昔は奴隷、今は労働者という意味での金銭的商品としての人間は存在する。しかしだと言えども、密造人間はそれとは一線を画す。密造、つまりは作られるのだ、最初から商品としてのみの人間が。それも秘密裏に、社会の地下で。再生医療の発達で臓器売買は減ったというが、技術の発展にも光と影があるものだ。男の思考の中にもその様な漠然とした不安定さがよぎり、隣に居る妻にふと思考を漏らす。

「密造人間って何に使うんだろうな」

答えを分かり切っていながらも、何の答えも求めずにただ、本当に聞くという動作だけをして聞いた。

「そうね。考えたくないけどいやらしい事とか。あっ、けど確か密造人間って造っても赤ん坊からって話だから、それはないかしらね。そう考えると一番あるのは、子供が欲しい家族とか、若しくはすくな人を赤ん坊から育てたいとか少し病気の人が欲しがるんじゃないかな」

「子供を欲しがってても、密造してまで欲しいか」

「それでも欲しい人はいるんでしょ。多分」

男は少しそれらの実在するであろう非実在の人間達を想像して、背筋に蛇が這う様な悪寒を覚える。この男と妻には幸いにも子供が二人ほど生まれている。二人とも可愛く、今まさに育ち盛り。一番可愛く、一番愛おしい時期であるから、殊更にその守りたい感情が少し汚され、そしてそれが脳にこびりつく。

「理解したくないな、そんな気持ち。確かに僕らは子供に恵まれているけど、そこまでして、人間を道具、売り物を買うみたいな感覚の密造人間を買うなんて、到底信じられないよ」

「そういう考えの人が多いけど、多分それ、時代に取り残されるよ。きっとね」

「取り残されたって構いやしないよ。人間性を失ってまで、時代の先端を行きたいとは思わない」

「フフフ、おかしいわね」

「何がさ」

何もおかしなことは言っていない。男が言ったのは少なくとも現代の倫理観の多数派を占めるであろう考え方だ。少なくとも男の今生きる現代では。別に男の学の許容を上回った発言でもないし、人間が人間である事は普遍であってほしい価値観だ。

「だってあなた、密造人間だもの」

「え」

 男の思考が完全に停止した。イミガワカラナイ、口を開けずにその顔は物語る。

「昔、好きな男の子がいてね。えっと、たしか幼稚園くらいだったかな。ウチの親に頼み込んだのよ。あの子が好きって。そうしたらウチの親ったら酷くてね。あんな片親の貧乏人の家の子を好きになるなんて、駄目だってね」

男の親は、二人とも健在だ。

「でも私は好きだったから、本当に駄々をこねてね。そうしたら造ってくれたのよ。あなたを。あの頃は密造人間って名前じゃなくて、確か地下人間って名前だったかしら。全く酷い名称ね、どっちも」

男の脳には、いや耳さえもその言葉は入らない。目には、妻の姿が映らない。

「造った時は赤ん坊だったけれども、それを父の知り合いで子供に恵まれなかった夫婦の人たちに事情を説明して、親になっていてもらったのよ」

男には兄弟がいる。が、似てはいなかった。

「ああ、そうそう。今あなたの元になった人は今もまだアルバイト生活しているんだって。それを聞いて私あなたで良かったと思うわ。遺伝子的に優れていても、やっぱり環境でおおきく変わるものね。それに遺伝的欠陥は少しいじったと聞いているから、元になったあの子よりもあなたはきっと優秀な人よ」

男はまごう事なき、工芸品である。

「全く、私の両親に感謝してよ」


 翌日から男は人間として生きている気がしなかった。あれだけ可愛く見えた子供は、ただの気持ち悪い生き物、いや気持ち悪い売り物にしか見えなかった


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