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1-7 異世界の草原でボクは自警団の団長に会った

『がぁーっはっはっは!撃てっ!撃てっ!!撃てっ!!!』

天幕全体からすると左手側の林から、

典型的な三下っぽい台詞が聞こえる。

一斉砲撃。

林が一斉に火を噴いたかと思えるようなつるべ打ち。

打ち込んできているのは大砲のようなものなのか、

天幕の周辺に火柱が上がる。

何発かは天幕自体に直接当たったようだ。

中央付近でひとつの天幕が燃え始めた。

『ちっ!糞が!!てめぇら、撃ち返せ!!』

天幕手前に恐ろしい速さで塹壕を掘りぬいたキュウキの命令で、

何名かの兵士が塹壕に飛び込んでいく。

手には鉄砲。

ライフル、あるいは火縄銃に見える形状。

キュウキはそれを巨大化させたような、一種の大筒を左肩に担ぎ、

右手には神々しいシャベルを持っている。

意識を集中すると、説明文が表示される。

それによると『サルマーンのシャベル』という宝具、らしい。

宝具というのは魔法の道具だそうだ。

このシャベルの効果は、とにかくすごい速度で塹壕が掘れる。

近接格闘用の武器としても一級品らしい。

轟く砲声、上がる土煙。

塹壕の前に後ろに盛大に着弾する。

もう三下の声も聞こえない。

しかし大砲と火縄銃では勝負にならないと思う。

塹壕から兵士が狙撃。

少しだけ砲撃がやむ。

え、届いてるの?

林まで結構距離あるんだけど。


といった戦争のような一幕を、ボクとエルザは見ていた。

実は食堂の天幕にいきなり火がついてしまって、

焼け出されてきたのだ。

中央部は安全じゃなかったのか・・・

エルザはボクの手を握っている。

不安なのかプルプル震えているみたいだ。

「お兄ちゃん、神様と会ったんだね。

 でも怖がらなくて良いよ、エルザが守ってあげるから」

震えていたの、ボクでした。

超怖い。

ひざもガクガク言ってるし、このままじゃ漏らしてしまうかもしれない。

あれ、でもなんで神様とあったってわかったんだろう。

「神様と会うまで、こっちに来た人の心は神様が保護してくれているらしいの。

 ご飯食べているまでのお兄ちゃんは、すごい落ち着いていて、

 ほとんど心が動いていない感じだったけど、天幕から逃げてきたとたん、

 感情豊かないつものお兄ちゃんに戻ったから、神様と会ったんだろうなぁって」

「は、ははは、ぼぼ、ボクは常に冷静沈着だよ。

 ハードボイルドに生きるのがががボクさ」

歯がカチカチ言う。

エルザが心配そうに見上げてくる。

「どうしたらお兄ちゃんを安心させてあげられるかな・・・

 エルザ、人間になったばかりだから良くわからないの」

元気出して、とエルザがボクの顔をなめる。

女の子が顔を!?

これはもう、キスに相当するんじゃないでしょうか!?

と興奮するとともに、この子は本当に元犬なんだなぁという思いも頭をよぎる。

犬への、というかエルザへの恐怖はいつの間にかなくなっている。

少し前のボクなら、頭の犬耳を見ただけで恐怖で震えていた可能性すらあるのに。

異世界に来た際にどうにかなったんだろうか。

「・・・エルザ君、人間の女の子がそんな気軽にキスをしちゃ駄目だぜ。

 キスは好きな人にだけするもんだよ」

とイケメンボイス(とボクが思っている声)で教える。

この子は元犬らしいので、人間の常識には疎いようだ。

一緒にこの世界に来た縁だ、常識を教えてあげたほうがいいかもしれない。

何でボクのことが好きといっているのかは未だによくわからないけど、

・・・あ、ボクのこと好きって言ってるじゃん、諭し方間違えた!

「キス?ペロペロするのもキス?

 エルザ、お兄ちゃんのこと大好きだからキスもしていいね!」

といってまたボクの顔をなめる。なめる。なめる。

あ、今唇に当たりましたよ?

これ、ボクのファーストキスなんじゃないの!?

「あ、お兄ちゃん、震えがとまってるよ。

 キスってすごいね。

 それにエルザもなんだか幸せな気分になっちゃうの」

目が少しトロンとしてきて、ボクに強く抱きついてくる。

ボクの胸に魅惑の果実が押し付けられ、女の子特有の甘い匂いがする。


「そこのカップル、すまないんだが戦場でピンク色の空気を出さないでもらえないか」

ビクッとして振り返ると、黒い髪を後ろで束ねた大男がこちらを見下ろしている。

なんとなくキュウキに似ている気もしないではないが、こちらは長いひげを蓄えていて、

一目で男だということがわかる。

全身、これ筋肉という感じで着ている服はパッツンパッツン。

肩にボクより大きいんじゃないかと思うようなとんでもない刀を持っている。

顔や肩などの露出している部分には刺青のようなものが見え、

さらにガラス球のようなものが身体に埋め込まれているようだ。

「お前らがトウコツの連れてきた奴らだな?

 俺様がこの自警団の団長、シュンテイだ。

 山賊ども、どうも本気を出してきたみたいでな、

 林と逆側の丘のほうにもだいぶ集まってるみたいだ。

 中央の天幕でも砲弾叩き込んでくるみたいだが、逃げるに逃げられねぇ。

 商都に持ってくための倉庫として使っている天幕が、結界も張ってあって一番安全だ。

 お前らはそこに隠れてな!右手側の緑の天幕だ。入り口にコントンのやつがいるだろう」

「はい、わかりました」

「お客さんもあそこに逃げてもらった。

 彼らは日ノ本言葉はしゃべれないから、なるべく問題は起こさないでくれよ?」

「え?でも今朝、シルヴァって娘とは普通に話せましたけど・・・」

「んなわけねぇだろ。

 シルヴァは山出しだから、それこそササラナ語の方言しかしゃべれねぇはずだぞ。

 ・・・ん、でもそうすると名前を知ってるのがおかしいか・・・

 まぁそういう祝福なのかもな。話せるんなら話せるで別にいいか。

 行け!なんかあったらコントンに聞け」

「わかりました。ありがとうございます」

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