1-1 異世界の草原でボクは裸の犬娘に抱きつかれた
ざあざあと音が聞こえる。
草が風に吹かれる音。
青臭いにおい。
なんとなく、ぽかぽかと暖かい日差し。
体の上には何か暖かいものが覆いかぶさっている。
少し重くて、やわらかい感触。
「・・・ちゃん」
誰かが、呼びかけてくる。
徐々に意識がはっきりとしてくる。
うっすら目を開くと、目の前に人の顔があった。
かわいい女の子だ。
茶色いさらさらの髪。
調った目鼻立ち。
大きく開いた瞳に大粒の涙をためて、
必死に何かを言っているように見える。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!・・・起きたの!?」
女の子が呼びかけていたのはボクに対してみたいだった。
ボクの目が覚めたことに気がついた女の子は抱きついてくる。
やわらかい、感触。
あれ?
ぎゅうぎゅうと押し付けられる女の子の感触が、
妙に生々しいというか・・・
「生きてたよぅ・・・よかったよぅ・・・私、
お兄ちゃんが遊んでくれてるとばかり思ってて・・・
ごめんなさい、ごめんなさいおにいちゃん!」
抱きしめられた体を動かそうとして、気がついた。
この子、服、着てなくない?
「うぅ・・・」
つい呻いてしまう。
少し手を動かしたら、女の子のすべすべの体に触ってしまったのだ。
そんな事を認識してしまったら
思春期真っ盛りのボクが動揺しないわけがない。
ボクは生まれてこの方、女の子と付き合ったことなどないし、
こんな間近に女の子と接したことだって、ほとんどないのだ。
ましてやこんなかわいい子が、裸でなんて・・・
「え?どうしたの・・・・あ!ごめんね、ごめんね。
重かったよねお兄ちゃん。離れるから・・・」
体の上から、温かさと柔らかさと、ほんの少しの重さが離れた。
距離が離れて、女の子の顔だけじゃなく、上半身が、見える。
本当に何も着ていない。
全裸だ。
ついつい目が下を向いてしまう。
女の子は目の前にちょこんと座っている。
服は一切身につけて・・・あれ?
なんとなく見覚えがあるような何かが、茶色い何かが見えたが・・・
おっと、ついじっくり見ようとしてしまったが、
裸の女の子をじっくり見るなんてマナー違反だ。
心のフィルムに焼き付けてはしまったが、これは不可抗力だ。
「大丈夫?お兄ちゃん、痛いところない?」
逸らした目を一瞬だけ戻してしまう。
小首を傾げたかわいらしいポーズ。
そしてたわわに実った麗しい果実。
だめだ、またガン見してしまった。
あわてて目を逸らす。
ここは・・・草原?
見渡す限り青い草だけが見える。
「あれ・・・どこだ?ここ・・・」
「わかんない・・・気がついたらここにいたの・・・
でもね、でもねお兄ちゃん!」
女の子がわざわざ逸らした視界の先に移動してきた。
「あ、あのね!あのねお兄ちゃん!」
女の子はこっちを見つめ、千切れんばかりに尻尾を振っている。
・・・尻尾?
「夢がかなったんだよ。
私、毎晩、神様にお願いしてたの。
お兄ちゃんが犬になれますように。
そうじゃなかったら、私が人間になれますようにって!」
よく見ると、さらさらの髪の毛の間に髪と一体になるように
垂れ耳が見える。
「エルザね、こうやってお兄ちゃんとお話したかったの」
「いつもね、遊んで!遊んで!って言ってるつもりだったんだけど、
お兄ちゃんに伝わらなくて・・・」
「あのね、あの・・・」
この女の子は自分が近所の犬だといっているのだろうか。
なんてファンタジー。
と、突然ボクたちの上に影がかかった。
上を見上げると
「お兄ちゃん危ない!」
上を見上げようとした俺にエルザが飛び掛ってきた。
顔に当たる柔らかい感触。
そうかこれが、幸せの感触というやつなのだな・・・
と考えていると、エルザともみくちゃになりながら転がるボクの眼前、
先ほどまでボクらが話をしていたところに巨大な足が落ちてきた。