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1-11 異世界の平原からボクは商業都市に辿り着いた

それは巨大なリアカーだった。

タイヤだけで直径5mは下らないような、巨大なものだ。

そのリアカーに燃え残っていた天幕や、資材が積み込まれていく。

リアカー自体は、ボクたちが避難していた倉庫代わりの天幕に、

解体されて収納されていた。

幾つものパーツを組み合わせて、巨大な荷台やタイヤが組み上げられていくのは、

圧巻だった。

現在、僕たちは荷物とともにリアカーの荷台に居る。

リアカーを引いているのはヨロイたちだ。

こういった組み立て式リアカー荷台をヨロイで引いて、

サイカチ村自警団は移動しているらしい。

まぁ人はいっぱいいるのに馬車とかそういうものがないなぁとは思っていたのだが。


『とりあえず今回はなんとかなったが、自警団は半壊状態。

 これ以上護衛を続けるのは難しい、と思う』

サイカチ村自警団は、ピジョンさんたちを最寄の商業都市チヴァシまで送り、

そこで別の護衛団と交代するのを確認してから、サイカチ村に戻るという。

チヴァシは峻険な山に囲まれ、町に入る三方の道にそれぞれ、堅牢な砦を兼ねた門を備えた、

一種の城塞都市でもあり、チヴァシの先はササラナ神聖帝国のお膝元のため、

ここまでの道程よりは、だいぶ安全に移動できるらしい。


チヴァシに着くまでに身の振り方を考えろ、といわれていたボクらは、

彼ら自警団について、サイカチ村に向かうことを決めた。

というのも、三毛に言われてはじめて気がついた、衝撃の事実があったからだ。

「ダーリンは、自警団の連中についていくか、分かれるか迷ってるんだよねぇ」

「そうだね」

「アタイが思うにぃ、自警団の連中以外と言葉の通じないダーリンじゃ、厳しいんじゃないかぃ?」

なぜかいきり立って三毛に殴りかかるエルザを片手であしらいながら、三毛は笑った。

「エルザが翻訳しないと、ダーリンこの世界の言葉、わからないだろ。

 自警団の連中とは、言葉が通じるみたいだけど」

実はそうだった。

ボクはこの世界の言葉を一切理解していなかった。

逆にエルザはこの世界に漂うありとあらゆる存在と意思を通わせることが出来る、

特殊能力を神様からもらったらしい。

ボクが言葉がわかると思っていたのは、エルザがボクにくっついて、

接触テレパシーで同時通訳をしていたからだった。

声が二重に聞こえるわけだ。

違和感を覚えて当然だった。

エルザはボクの役に立てる、と張り切ってこのことを秘密にしていた。

ボクにくっついている理由にしたかったらしい。

「勉強なんてしなくても、エルザが、いつも一緒に居るから・・・ね?」

と上目遣いに涙目で訴えてきたが、ボクも自由に人と意思疎通がしたいなぁと思う。

サイカチ村には日本から”落ちてきた人”が何人も居たとのことで、

日本語が通じる。

ササラナ神聖帝国は基本的に西洋人風の人種ばかりだが、

サイカチ村の人々はほとんど全員、日本人風の外見だ。

妙にムキムキだったり、変な刺青をしていたり、体にビー玉を埋め込んでいたりする人もいるが。

趣味は人それぞれ、もしかしたら傭兵として仕事をするための箔付けかもしれない。

とりあえず日本語の通じるサイカチ村で暮らしながら、この世界で通じる言葉を習っていこうと思う。

「アニキ、その村とやらには、アッシや姐御も連れて行っていただけるんですかいのぅ」

全身真っ青な禿げたおっさんが声をかけてきた。

彼は青面金剛、正体は巨大なサルで眼が三つ、腕が四本生えている。

彼はサイカチ村のよろいを封印していた岩に封印されていたらしい。

三毛と同じように大災害を起こした逸話・・・があると思いきや、

見た目ほど凶悪な妖怪ではなかったようで、何かしたという記録は残っていないとか。

ただ面倒くさいことに、完全に雄、

というかおっさんにしか見えない青面金剛にも気に入られてしまったみたいで、

不必要に肉体的に近寄ってくる。

たまに堪えられなくなって手を上げてしまうのだが、それで嬉しそうな顔をするとんでもない変態だ。

「一応コントンやシュンテイにも確認したから問題ないみたいだよ。

 暴れたり、しないだろ?」

「そりゃもう、アッシは理性の塊みたいな存在ですからねぇ。

 姐御だって、アニキやエルザの姐さんに手を出されなけりゃ何もしないと思いやすぜ」

おもむろに上半身に着ていたシャツを破りながら筋肉を誇示するポーズを取る、

青くて暑苦しいおっさんはとてもじゃないが理性と縁がありそうには見えないが、

これでいて本当に理性的な性格だということは、ここ数日で理解できた。


しばらくして、問題なく商業都市チヴァシに着いた。

自警団の面々は、巨大すぎてリアカーが扉を通らないので、

ラゴウ門と呼ばれる門の前で荷降ろししている。

町のほうから牛車や大八車を幾つも出してもらって、

それで町の方まで運ぶようだ。

町から来た人たちはリアカーの巨大さにはなぜか驚かず、

ただ自警団の天幕の残骸や黒焦げの荷物に目を見開き、

数珠繋ぎにされた山賊の護送にも、凶悪な犯罪者に対する恐れのようなものを抱きながら

慎重になっているようだった。

普通に考えて、味方の勢力が全てを焼き尽くしたとは考えないものだし、当然だった。

そういえば捕まえた山賊たちにはスカートつきの操縦者とその父親が居た。

操縦者は小さな女の子だったが、何か怖いことでもあったのか、

常に小刻みに震えており、誰かと目を合わせると泣き出す。

赤い髪の人は特に怖いらしく、絶叫したり失禁してしまったりする。

髪も真っ白になってしまっていて、かわいそうな事になっている。

あのヨロイという兵器は恐ろしいものだなぁ、と改めて思った。

父親のほうは、なんと言うか絵に描いたような駄目貴族というか、

プライドの塊のような男で、偉そうな物言いをしては衛兵に小突かれている。

見た目は金髪碧眼の巻き毛で、カイゼル髭をはやしている。

立派で古ぼけた銀色っぽい大仰な鎧を着込み、

昔は白かったと思われるマントをまとっている。

山賊仲間も彼の横柄な態度には辟易しているようで、

彼が衛兵に小突かれていて求める様子はない。

むしろ目で「いいぞ!もっとやれ!」といっている節すらある。

あの髭が、小さな女の子を戦場に駆り立てたと考えると、それもしょうがない気はする。


荷物は順調に町に運ばれていった。

荷降ろしにヨロイ三台と屈強な男たち、そしてうちの妖怪二名が協力したからだ。

三毛と金剛にはあまり目立たないようにお願いした。

事情を知っている人たちはともかく妖というのは、

ササラナ神聖帝国ではモンスター的なものらしいので混乱を抑えるためだ。

そのお陰か、空とかは飛ばないものの、明らかにヨロイと同等の力を発揮して動き回る彼らは目立った。

まぁ町の人たちは目を丸くした後、サイカチ村のサムライ衆はすごい、と何か誤解したようなので、そのままにした。

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