1-10 異世界の平原でボクは半裸の男たちと会った
外からはすごい音が響き、たまに眩しい光が天幕の破れ目から差し込んでくる。
「・・・あー、三毛飛び出していっちゃったねぇ。
なんか無駄に強そうだから、たぶん大丈夫なんだろうけど・・・」
『少年、我々としてはここを脱出したいところなのだが・・・
もし先ほどの女性が本当にアカネコの三毛なのだとしたら、
それも危険だろうなぁ・・・』
幼女を肩に担いだ変態、いや審美官のピジョンさんは深刻そうな顔をして天幕の破れ目をみている。
「お兄ちゃんを狙う悪い子だけど、ひどい事をするような子には見えなかったよ、三毛ちゃん」
「えっと、都を焼いた、でしたっけ?」
ボクらはいまいち、先ほどの彼女がとんでもない大妖怪、というイメージがわかない。
確かに石から出てきたり、巨大な剣を受け止めたりと人間じゃないことは間違いないが。
『我々も伝聞でしか知らないのだがねぇ。
かつて帝都はかの大妖怪と戦闘状態に入り、焼き払われたといわれている。
人に仇なす妖怪は数多いが、ここまでの被害をもたらしたものは他に類を見ないと聞くね』
外から一際激しい光と大轟音が響き、天幕の破れ目からは熱波が吹き付けてくる。
あれ・・・なんかやらかしてない?アカネコさん・・・
天幕を含めた地面や空気もびりびりと震える。
ピジョンさんの肩の上を見ると、信じがたいことにシルヴァはこの轟音の中でも寝ている。
とんでもない大物だ。
ピジョンさん、変な薬でも飲ませているんじゃないかな。
「えっと、女の子に変な薬を飲ませると、将来が心配かなぁと思うのですが・・・」
『いやいやいや、何も飲ませてないですよ!?
この子、とんでもなく寝つきがいいんですよ。
三色昼寝付の生活が理想だっていつも言ってまして・・・』
ピジョンさんのしゃべり方が言い訳がましくなっている。
まぁでも、寝ているなら無理に起こす必要はないかなぁ。
「・・・お兄ちゃん、外が静かになったよ」
いつの間にか、外の喧騒が静まっている。
『・・・良いか悪いかはともかく一段落はついた感じ、かね。
天幕の外に出るのは、色々な意味で怖いが』
天幕を抜けると、そこは廃墟だった。
横ではピジョンさんが大きく口を開けてあっけに取られている。
肩からシルヴァがずり落ちそうになって、慌ててエルザが支えている。
見渡す限り、黒焦げのクレーターが広がっている。
大破したロボが見えるが、あれがスカート付だろうか。
これ、敵味方関係なくジェノサイドだろ・・・
「ダーリン!敵は片付けたよぅ」
天幕から出てきたボクらに気がついたのか、三毛たちが近づいてきた。
三毛「たち」だ。
なぜか上半身裸に、腰に破れたカーテンみたいなのを巻きつけた男たちが
後ろに何人もいる。
先ほどあったシュンテイさんやコントンさんもいるようだ。
なぜ裸なのか・・・
「自警団のやつらはみんな無事だよぅ。
山賊のやつらも基本的には生きてるよぅ」
地面で縄でぐるぐる巻きにされ、呻き声を上げているのが山賊なのかな。
これも男ばかりだ。
まぁ女性の山賊ってあまり想像できないけど・・・
「おやぁダーリン、女の子がいないことを気にしているのかぇ?
・・・ちょぉっとアタイとそこの天幕に行こうかぇ。
たっぷり楽しませてあげるからねぇ・・・」
そんなボクの様子を目敏く見つけた三毛が、肉食獣の笑みを浮かべてこちらににじり寄ってくる。
「だ、だだだ、だめっ!お兄ちゃんは渡さないんだからっ!」
ボクの前で両手を広げながら、エルザが立ちふさがる。
・・・そういえばこの前話した時は変に聞こえた三毛の声が、普通に聞こえる。
この違いはなんなんだろう。
「はっはっは、抜け駆けする気なんてないさねぇ。
エルザはかわいいなぁ。
・・・で、ダーリンは女どもがいないことを気にしてたんだろぅ?」
たしかに男だらけの半裸大会の理由は気になるかなぁ・・・
自警団にも女の人がいなかったわけじゃないはずだし。
キュウキとか。
「まぁなんさねぇ・・・服が、全部燃えちまったからねぇ。
女衆は残った天幕で着替えの真っ最中さ。
一応、山賊側にも若干名いた女どもにも、自警団の女衆が服を着せているはずさね」
女の人だけ選別して殺した、とかじゃなかったんだね。
でもどうやって服だけ燃やしたんだろう。
そういう破廉恥系の必殺技とかがあるんだろうか・・・
「まぁとりあえず、この周辺の山賊とか言う連中はおそらく全滅だろうさ。
あとはあの、割られた青面金剛に囚われた木偶人形どもをなんとかすりゃ、
万事解決だろう?
そのあとはエルザと、ダーリンと、アタイでいっぱい子供を作ろう!」
「だだ、だめなんだからっ!お兄ちゃんはエルザのっ!
こ、子供・・・は、何人欲しいの・・・?お兄ちゃん・・・?」
二人とも駄目な感じになっている。
とりあえず今回の襲撃はなんとかなった、のかな。