表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

1-9-3 山賊壊滅

スカート付きに物理的に釘付けにされた俺は、切り裂かれた天幕からスカート付きの剣が弾かれ、

二人分の人影が飛び出してくるのを見た。

跳ね飛ばされた剣はその質量の大半を失っているようだった。

飛び出してきた人影のうち、一人はまるで荷物でも持つように、片手で襟首を掴まれている。

地面なら引き摺られているような感じだ。

「あれは・・・コントン・・・か?」

コントンを片手で振り回している方は、

肉感的な肢体に服を着ているのかどうかもはっきりと判別できない。

赤い髪には冠のようなものが括りつけられており、

全体的に燃え盛る炎のような印象を受ける。

天幕から出てきたが、あんな人間がいるなんてことは把握していない。

・・・いや、そもそも人間なのだろうか。

コントンを手に提げて、どうやったら天幕を飛び出せるのか。

自分と同じ侍にも見えない。

そんな空中の二人に向けて、スカート付きは少しだけよたついたあと、

胸をそらせるような体勢になり。

ベルトのバックルが火を噴いた。

響く轟音。

大地が、大気が鳴動し、砲弾が放たれた。

よたついた様に見えたのも、射線の調整だったのだろう。

確実に空中の二人への直撃コースだったはずだ。

だったというのも双方の距離が近すぎることもあり、はっきり視認できなかったからだ。

天幕の裂け目に打ち込まれていけば、内側から焼き尽くしていたであろう大火力。

それが、空中の人影に当たった瞬間に、消滅した。

比喩ではなく、空中の女が差し出した手に吸い込まれるように爆炎が消滅した。

空中に吊り下げられたコントンが、両手を振り回して抗議しているようだ。

人影が一瞬赤く光った。

次の瞬間、スカート付きの右肩が吹き飛んだ。

丸く抉られた様な大穴が開き、右腕が盾ごと空中に跳ね上げられる。

断面はきれいなもので、煙が棚引いていた。

少し間をおいて、スカート付きのはるか後方の山から轟音があがる。

再び、大地が震える。

山からも煙が上がっている。

何がおきたのかまったくわからない。


「は、はは・・・何の冗談だよこれは・・・

 あんた何をしたんだよ?なんで遠く離れたスジン山から煙が上がってるんだよ?」

コントンもそろそろ気がついていた。

自分の襟首を掴んでいるのが、人間ではなく妖、しかも神とも言われるような大妖怪であることを。

こんな化け物が、どこから出てきたというのか。

「禿、うるさいぞぇ!

 この雑魚がアタイに火を向けてきたから、ちょっと焔の使い方を教えてやろうかと思ってねぇ。

 同じだけの火力を圧縮して打ち返してやっただけだよぅ」

吹き飛ばされたヨロイ付きの右腕が天幕をひとつ潰して地面に突き刺さる。

「あ・・・空中で溶かすべきだったねぇ・・・

 ダーリンたち、怒らないといいけど」

化け物にはまったく緊張感がない。

これだけの力を持っていれば当然なのかもしれないが。

だがこんな化け物に何をどうすればいいというのか。

しかも自分は完全に命を握られている。

気まぐれ一つで命が消える状況が続いているのだ。

「禿、ダーリンたちの味方だけ判別するつもりであんたを連れてきたけど・・・

 面倒くさくなってきた。

 ダーリンもエルザも甘ちゃんだからねぇ・・・

 殺すより生かしておいたほうが喜ぶと思うんだよねぇ」

化け物は右腕をスカート付きに向け、掌を握るような動きをした。

握りこぶしがガクガクと震え、目に付き刺さるような鮮烈な赤い光を放ち始める。

「まぁそんなわけで、全員こんがりさせるけど、殺さないから良いよねぇ?

 良いと言え!あわよくばお前がそうしろ言ったのだとダーリンたちに言え!

 ・・・微塵と、散れぃ!」

気合一閃、掌を開いてスカート付きに突きつけると、無数の赤い閃光が矢のように放たれる。

スカート付きの周辺からその背後に広がる、サイカチ村天幕と、

さらにその先に展開していた山賊同盟軍の全てに豪雨のように光が降り注いだ。

地面に着弾すれば、大地は抉れ、大人一人分埋めれる程度のクレーターが無数に量産される。

八割方の天幕と、山賊同盟軍の車両を含めた部隊と、スカート付きと。

見える範囲に含まれる全てが煤にまみれ、地面はデコボコとなり、無事なものは何一つなかったが、

人は一人も死んでいないようだった。

黒焦げで呻きながら、生きている。

スカート付きは操縦者のいる胴体中央部を残してほぼ壊滅。

原形をとどめていない。

金属製のヨロイは断面が融解しており、煙を上げている。

化け物は右腕を焔の剣にすると、ヨロイの残骸を十字に切り裂いた。

中にはひざを抱えて小刻みに震える、真っ白な髪の怯えた少女がいた。

服装はほぼ全裸、薄絹はヨロイの内部で粘液にまみれほぼ透けている。

「もっとこう、精悍な顔つきをしていると思っておったのだがねぇ。

 ただの小娘ではないかぇ」

化け物が視線を向けると、少女は頭を抱えてその場にうずくまった。

何かつぶやいている様だが、命乞いか、祈りの言葉か。

それとも気でもふれてしまったのだろうか。

コントンは地面に下ろされた。

襟首も離され、開放される。

「さて禿。

 アタイは帳尻を合わせなきゃならないのだぇ。

 ちょっとお前、ひとっ走り周辺の仲間をここに集めてきな。

 アタイがチョイチョイのチョイっと治してやるからよぅ」

化け物はそういうと少しはなれたところに転がっていた大きな黒い塊・・・

いや、おそらくはうちの大将、シュンテイの成れの果てだろう、に近づいた。

スカート付きにやられたのか、今のとばっちりで焼かれたのかはわからないが。

「ほれっ!」

化け物が気合とともに両腕を黒い塊に向けて突き出す。

黒い塊は眩しい位の真っ白い炎に包まれ・・・次の瞬間には全裸のシュンテイになっていた。

どうも大将は意識が合ったようで、目を白黒させながら自分の体を見回し、

化け物の顔を見上げ、コントンの顔を見た。

狐につままれたような顔をしている。

「こんな感じになぁ・・・っと、こいつは治してよいやつかぇ?

 殺しておく?」

「ま、待ってくれ!

 そいつは身内なんだ!うちの大将首だ!!」

コントンは慌ててシュンテイをかばうような位置に移動し、シュンテイに自分の上着を渡した。

「じゃあお前ら二人でさっさと仲間をかき集めてきな!

 多少体が欠けていたって構いやしないよぅ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ