表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

1-9 異世界の平原でボクは猫の妖怪に会った

「じゃあピジョンはシルヴァを迎えに来たんだ?」

『・・・そうだなぁ。

 私たち審美官は出身地域から一名、

 宮女候補を選ぶことになっているのだが、

 この周辺、サイカチ村やカサイ村は私の一族の領地と隣接していてね。

 シルヴァは顔は良かったのでね。

 ほかはこれから教育していけばいいだろうと来てもらったのだよ』

「誘拐?」

『失敬な。

 希望者を募った中からの私の選抜の結果だよ。

 ・・・まぁ、彼女はどうも、何か誤解しているような節があるが・・・

 サイカチ村でも希望者は募ってみたものの、こちらは希望者がいなくてね。

 後宮に入れるというのは相当な名誉なのだが・・・』

「で、そのシルヴァは?」

『・・・それが、天幕の奥で寝ているのだよ。

 外で砲撃が轟こうが、最初に私たちがいた天幕が燃え上がろうが

 まったく起きる気配がないね』

「あれ?ボクらの朝食・・・兼昼食のときに顔出してたけど」

『・・・あれは私の授業を抜け出していたのだがね。

 そこからキュウキに運ばれて私の元にきっと来た時には寝ていたな』


「お兄ちゃん・・・誰か呼んでる・・・」

ボクの背中に張り付いていたエルザが肩をゆすってきた。

「ボクは聞こえないけど・・・」

「・・・あそこ、あの大きな石から聞こえるよ」

エルザが石のほうにボクの体を引っ張ろうとする。

「石・・・ねぇ?」

『ん、私がさっきまで乗っていた座り心地の良い石かね。

 あれは確か殺生石だったかな。

 あんな大きさのものをどこから運んできたんだか知らないが』

石に意識を集中すると、説明文が出る。

殺生石。

法力によって封じられた大妖怪”アカネコの三毛”の結晶。

「んー・・・アカネコの三毛とかいう妖の結晶らしいが」

『な!アカネコだと!?』

「お兄ちゃんありがとう。

 名前がわかれば出してあげられるらしいの。

 さすがお兄ちゃんだね!

 『おいで!アカネコの三毛ちゃん』!」

エルザが呼びかけると殺生石が発光し、天幕内に禍々しい空気が漂い始めた。

『・・・本当にアカネコの封印を解いてしまったというのか・・・

 過去、旧帝都を三日三晩に渡って焼き滅ぼしたというあの大妖怪を・・・』

気がつくと殺生石はなくなっていた。

大きなものがなくなった不自然な空間が開いている。

天幕内の空気は息をするのも苦しいほどに強い圧迫感を伴ったものとなってきている。

『はっはっははは、久々のシャバだねぇ!

 エルザとかいったかい?あんたにゃ感謝しても仕切れないねぇ』

目の前で唐突に大きな炎が燃え上がると、それが人の形に変化した。

長身で外見年齢は30後半くらいだろうか。

炎そのままのような真っ赤な髪に黒い鉄製の冠をかぶっている。

冠を挟み込むように猫耳。

手には竹ざおのようなものを持っている。

服装は体にぴったり張り付くような薄手の真っ赤なライダースジャケットだ。

ムチムチと表現したくなるような肉付きの良い身体の線を強調している。

尻からは猫の尻尾が生えていて、その先端は燃えている。

『なんだかきな臭いことになってるみたいじゃないかぃ?

 ・・・おや?』

三毛はボクに視線を向けると近寄ってきた。

鼻がヒクヒクと動いている。

あれ、特に臭いとかそういうことはないと思うけど・・・

『あんた・・・』

三毛がボクに顔を寄せてくる。

『・・・あんたの子供が欲しい。

 ちょいとアタイを抱いてみないかい?』

というとボクの顔は柔らかい谷間に挟まれていた。

「だ、だめ!お兄ちゃんはエルザのなんだから!!」

視界がふさがれているので見えないが、

妙に重いドスドスという音が聞こえ、その度に三毛の身体がわずかに揺れる。

『大恩人のエルザのことももちろん大好きだぞぅ!

 三人で幸せになろう!アタイたちなら良い家族になれるぞ、きっと!』

と、そのとき、天幕の入り口からコントンが飛び込んできた。

『逃げろ!スカート付がすぐそこまで来てやがる!

 ここまで切り込んでくるぞ!!』

ボクは慌てて三毛の胸元から抜け出した。

エルザが慌ててボクに抱きついてくる。

顔を真っ赤にしてボクの胸に押し付けてくる。

『おや、つれないねぇ・・・

 まぁその”スカート付”、だっけか?

 それがアタイの邪魔をしたようだねぇ・・・』

三毛の身体から熱波が立ち上る。

「あんちゃんたちもさっさと逃げろ!

 うちのヨロイが三機とも止められちまった!

 スカート付を食い止める手段がねぇ!

 団長が善戦しちゃいるが、丘向こうからも攻め手がきてやがる。

 そのうち数で押し切られちまう!」

そうこういっている間に、ピジョンが天幕の奥からシルヴァを抱えてきた。

荷物のように肩に担がれているが、本当に寝ているようだ。

少し涎が垂れている。

『・・・参ったな。

 サイカチ村自警団の護衛を受けた上でここまで追い詰められるとは。

 期待しうる中では最良の護衛だったはずなんだが』

『どうも妙なことになっていてなぁ・・・

 あんたとシルヴァの嬢ちゃんは俺が責任を持って逃がす!

 それが俺たちなりの最低限のけじめだ』


その時、天幕が裂けた。

剣というより鉄板と表現するしかないような大質量が、

天幕そのものを両断するように落ちてきた。

あまりのことに固まるボクらの前で、

大きさに比例しない恐ろしい速さで落ちてきた剣は、

三毛の脳天に直撃するコースだった。

ボクらは動けない。

『・・・こんなものでアタイをどうするつもりだぃ?』

剣は止まっていた。

冗談みたいに大きな剣は、三毛の掲げた右掌で止められていた。

『そこの禿!この鉄屑を叩き込んできたのが

 ”スカート付”とか言う奴かぇ?』

三毛の視線はコントンを向いている。

『あ、あんた・・・なんなんだ?』

『そんなことはそこのヒラヒラにでも聞きな!

 アタイは気が短いんだ、グズグズすると禿も消し炭にするよ!』

左手をコントンに向けると、左手そのものが業火に変わった。

『な・・・なんだその妖力・・・

 そ、その通りだ!この剣はスカート付の佩剣だ』

『・・・上等だぁ。

 エルザとダーリンのついでに、貴様らも助けてやろう。

 この天幕の外側は全て焼き払えばいいかぇ?』

「み、三毛・・・それは駄目だ」

「この人たちサイカチ村自警団の人たちには、

 ご飯と寝るところを提供してもらった恩があるの」

こちらに視線を向ける三毛。

なぜか笑み崩れた。

『二人の恩人ならもちろん助けてやるよぅ!

 おぃ、禿、敵を教えるさね!

 とりあえずこのデカブツを黙らせればいいかぇ?』

『スカート付の所には5人の侍衆とうちの大将、シュンテイがいるはずだ』

『・・・判別がつかんな・・・

 禿、ちょっと来い!』

三毛は右腕を剣ごと大きく上に跳ね上げる。

剣は上に跳ね上がるとともに、高温で融解し、三分の二が失われた。

三毛はコントンに駆け寄ると左腕で襟首を掴み、

破れた天幕から飛び出していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ