1-8-2 ヨロイ乗りの見た戦場 2
「どうもお嬢さん。
私の名はアシヤ。
この場限りの顔合わせだとは思いますが、
よろしくお願いします」
私の前に突然、白髪に黒服の男が立っていた。
上下ともコントンの陰陽服を黒く染めたような服。
手には手袋をつけ、手の甲の部分には何か描かれているようだ。
この男はいつ現れたんだろうか。
一瞬、天幕群の先のスカート付に意識を取られたとはいえ、
この黒服は突然ここに現れたとしか思えない。
ここは砲弾が飛び交う戦場で、
ヨロイも走り回っているような危険地帯だというのに、
それをまったく気にしている様子がない。
そう考えていると、目の前の男が振り返った。
ヨロイから平気で目線を切る。
恐怖感がないのだろうか。
「残りのお嬢さん方もいらっしゃったようですね」
林を切り払っていた無双丸と佳人丸がこちらに駆け寄ってきている。
どうやら林はあらたか薙ぎ払い、伏兵を排除できたみたいだ。
結果的にヨロイ三機に囲まれた黒服は、それでもまったく慌てた様子がない。
不気味な態度だ。
「そいつは誰だ、キリハ」
「・・・わからん」
「どうもお嬢さん方。
私の名はアシヤ。
貴女方と敵対しているパロ山脈自由山賊同盟の
軍事顧問兼用心棒をしております」
黒服がこちらに背を向けたまま、
無双丸・佳人丸に向けて大仰な態度で自己紹介をする。
敵なら排除するだけだ。
私は左腕を黒服の背中に向けると、回転式火砲に発射命令を送った。
・・・何もおきない。
「・・・バカな!」
それどころか、グラスが一切動かない。
黒服の背中に左腕を向けた形で完全に固まっている。
「な、なんだこれ!?」
「私の佳人丸が・・・!?」
視線すら動かすことが出来ないが、声から無双丸と佳人丸も
同様に動けなくなっているようだ。
「・・・禁鎧則不能戦。
鎧を禁ずれば、すなわち戦うことあたわず・・・というわけです」
擱座した三機のヨロイを前に、黒服が静かに告げる。
「この四方を殺生石で囲み、禁術結界を張りました。
我々としましては、貴女方さえいなければ
自警団はヒルデガルドで殲滅可能だと考えていますので、
このまま封じさせていただきたいと思います」
黒服が右手を掲げると、黒服の前にひざを着いた格好の4人の女が現れた。
文字通り、その場に突然現れたのだ。
「彼女たちは私のアシスタントをしていますサイ四姉妹です。
特技はテレポートとアポーツ。
貴女方を封じている殺生石も、丘の向こうのヒルデガルドも
彼女たちの能力で運びました。さて」
黒服の合図で女たちが立ち上がると、その眼前に魔動車が現れた。
「この結界は術者である私を倒すか、
殺生石を破壊すれば解けます。
私が倒される可能性が一番高いので、私は逃げさせてもらいます。
貴女方に関してはオスカー氏が”心行くまで楽しむ”といっていたので、
命までは取られないと思いますよ。
それ以外は保障対象外ですが」
ではごきげんよう、と告げて黒服と女達は魔動車で走り去った。
身体は、グラスは完全に動かない。
後方からは爆発音や破壊音が聞こえる。