1-7-3 襲撃 山賊サイド
「グハハハ!撃て撃て撃てっ!撃ちまくれ!!」
岩石を人型に組み上げたような風貌の男が、部下に一斉に射撃を命じる。
部下たちも山賊というより屈強な兵士みたいな風貌をしている。
「おいカール、弾薬も無尽蔵にあるわけじゃねぇんだ。
先生の作戦開始前に撃ちきるんじゃねぇぞ!」
「わかっとるわいナイト!貴様ら、撃ち方やめぇい!」
ピタッとカールの部下が射撃を止める。
こいつら、統制が取れすぎていて、やはり山賊っぽくない。
まぁグスタフ山賊団は元々、どこかの軍隊崩れだという噂もある。
「今回の作戦で悪鬼や女独眼龍を始末できれば、
サイカチ村の金銀財宝は奪いたい放題じゃ!
貴様ら、大筒でやつらの天幕を狙え!撃て!!」
カールの部下が兵装を持ち替えて、天幕を狙い始める。
塹壕から向こうの狙撃兵が顔を出してやがる。
うちの連中で足止めしないといかんな。
「野郎共、真正面、穴倉から顔を出させるな。
ピンポイントで当てようとしなくて良い!
水平に、面になるように射撃しろ!!」
俺の部下たちはカールの部下ほどの統制は取れていないが、
それでも俺の信頼に応えて敵兵を穴倉に押し込むことはできている。
「本来なら攻めのワシと守りのカール、
この布陣で負けることなどありえないのだがな」
カールのグスタフ山賊団とうちのヘルテン山賊団で総勢30名。
対してあいつらは射撃隊が5,6名位だろう。
そろそろ突っ込んでくるだろうヨロイがなきゃ、
すぐにでも蹂躙するところなんだが。
「一騎で戦線を突き崩す化け物を三騎も持っているんだ。
真正面からやれば軍隊とだって良い勝負するだろう。
まぁそんなとんでもない連中だからこそ、
潰せば旨味もあるんだがな。
・・・ち!きやがった・・・グラスドッグだ。
野郎共、カール、少し下がれ!
先生の結界があるとはいえ、
あの犬っころのばら撒く杭は爆炎をばら撒くぞ!!」
元々はもっと大所帯を誇っていた俺の団は、
あいつの炸裂杭・・・と俺たちの呼んでいる、
爆炎を仕込んだ杭で半壊に追い込まれた。
大筒よりもよほど恐ろしい兵器だ。
うまく鹵獲できれば、軍事組織には高い金で売れそうだが。
真正面を見据えると、ダークグレーンの巨体がこちらに向かってきている。
背丈は俺たちの倍位あるが、人の体としてみると、
丸い胴体に寸詰まりの手足がついているような形だ。
胴体から直接生えているかのような首のない顔は、
どこか犬めいている。
鼻面の上には長く前にせり出したようなメガネ状の器具。
左肩には炸裂杭をばら撒く箱が括り付けられている。
両腕の側面には円筒状の部品がついているが、
あそこからは火縄で打ち込むような銃弾が恐ろしい速度で吐き出される。
実際に火縄や大筒を打ち込んで、性能を確認しているとはいえ、
先生の結界に綻びがあったら、俺たちの団は一瞬にして壊滅する。
アレはそれほどの化け物だ。
「しかし、サイカチ村のヨロイをみると思うのだがな、ナイト」
「なんだカール」
「ヨロイとは本来、騎士の誉れ。
強力な兵器であるとともに戦場の華ともいえる存在のはずだな」
「そうだな」
「しかし・・・あの装飾のない装甲、威圧感のないフォルム、奇怪な装備・・・
性能が高いのはわかるのだが、どこか玩具めいているな」
「とんでもなく高性能の玩具だがな・・・伏せろ!炸裂杭だ!!」
犬っころが立ち止まるのが見えたため、俺は警告を発し地面に伏せた。
視界一面が炎に埋まり、轟音とともに林全体が揺さぶられた。
「・・・だが、それだけだ」
俺たちは一兵たりとも被害を出さず、無事だった。
炎は全て、林に施された先生の結界が防いでくれた。
多少の熱波は来たが、本来の威力から考えれば、恐ろしく弱い。
「・・・さっすが先生の結界じゃのう」
「そうだな。
さて・・・先生の作戦の第一段階は終了だな。
俺たちは射撃をしつつ後退、っと・・・」
「先生の読みだと・・・本当に来たな。
残りのヨロイ二騎が・・・あのヨロイもグラスドッグほどではないが・・・
騎士っぽくないのぅ」
「一騎は虫みたいな頭飾りをつけているしな」
グラスドッグの兵器の性質上、先生が林に施した結界があれば、
俺たちに被害を与えることはほぼ出来ない。
こんな結界を張れる先生が味方である事を、
俺たちは天に感謝しなくてはいけないかもしれない。
とはいえ今こちらに土煙を上げて駆け寄ってきている二騎のヨロイ。
あいつらの持っている大太刀を振るわれれば、
この林など草のように刈り取られてしまうだろう。
俺たちは適当に射撃で引き付けつつ、
巻き込まれないように撤収する予定だ。
「よし!野郎共、今の銃に篭めてる弾を撃ち切ったら撤収だ!
狙いは適当に前方に撃てば良い!
どうせヨロイに当たるだけだからな!!」
「貴様ら、撤退戦でも油断せず、規律を守れ!
今回の作戦はすでに成功も同然じゃ!
最後にミスで命を粗末にするなよ!!」
林の先には式鬼に引かせる魔動車も準備している。
「撃てっ!!」