1-7-2 ヨロイ乗りの見た戦場
私の名は九兵衛。
サイカチ村自警団のヨロイ乗りだ。
貴族の護衛なんてろくでもない仕事をしながら、
ここ、ミツマ大草原まで来たわけだが、
山賊共もどうやらケツに火がついたみたいだ。
最初は貴族をさらうなり、
私たちの運ぶ商材を奪うつもりだと思っていたが、
ここまで組織だって襲ってくるとなると・・・
おそらくあの貴族の敵方が裏にでもいるんだろう。
完全に殺しにきている。
とはいえ、天幕にまで被害が出ている。
護衛として、そろそろ最低限の役割を果たさなければならないだろう。
「・・・キューベィ、グラス、出るぞ」
左翼から林を遮蔽に砲弾が打ち込まれている。
キュウキの隊が応戦しているが、絶対的に人数が足りない。
見たところ、敵は30は下らないだろうが、こちらは総勢5名に過ぎない。
寡兵にもほどがある。
私が行って何とかするしかないだろう。
私のヨロイ、グラスはサイカチ村で作成される
ウォードッグという量産型のヨロイのカスタム機だ。
ウォードックは比較的安価で買えるヨロイとして、
騎士を志す地方領主の子女に人気がある。
騎士が代々乗り継ぐような一級品の機体と比べれば、
多少厳しい部分もあるが、粗悪というほどでもない性能を誇っている。
なおウォードックのドックは犬から来ているとのこと。
顔の形状が前に突き出しており、
犬の鼻面に見えなくもない、というのが命名の理由と聞いたことがある。
私のグラスは突き出した鼻面の上に、
照準補正用の装備をつけた形状から、
メガネ犬などとも呼ばれている。
私としては不本意な呼び名だ。
ただメガネという部分には否定し辛い部分があるので、
私はグラスと呼んでいる。
グラスは中遠距離戦に特化している機体だ。
通常のヨロイは、対人用の中距離射撃兵器のほかに、
必ず近距離用の大太刀を持っている。
これは、ヨロイの真言装甲が射撃兵器ではほぼ貫通できないためだ。
ヨロイの、というよりこの国の大部分の射撃兵器は、
真言と符術による陰陽道の補助を受けて作成されている。
グラスのSRMや回転式火砲も、
日ノ本の国の兵器を陰陽道の技術で再現したもの、
といわれている。
SRM、ショートレンジミサイルは爆裂の呪を封じた魔障石を、
鉄製の筒につめ、発射と同時に後部より発炎の呪で押し出したもの、
といわれている。
私も細かい原理まではわからない。
私にわかるのは、これが頼れる兵器である、ということだけだ。
ヨロイ相手には目晦ましにしかならないが、対人用としては優秀だ。
今回はこれで、山賊共の立てこもる林を一掃しようと思う。
そうこう考えているうちに、林の前方、8へクス手前まで移動していた。
後方3へクスには自軍の塹壕が掘られている。
真正面に山賊共の立てこもる林が全て視界に収められる。
私は左腕部上部に取り付けられたSRMに意識を移す。
ヨロイは第二の肉体だ。
操縦には自らの身体を動かすような感覚が必要となる。
ミサイルや火砲は、身体に生えていないので、
動かし方が少し特殊なのだ。
「・・・6連SRM、一斉射。ターゲット・・・ロック!」
私の目となるヨロイのセンサーに、照準補正装置からの情報で
6つの四角が浮かび上がる。
これを林に一定感覚で固定するイメージ。
照準を定めるまで、1秒もかからなかったと思う。
その間にも、林からは大小様々な口径の銃弾が打ち込まれている。
小口径の銃弾は走行を貫通することはないが、
大筒ともなると、衝撃で機体が軽く揺さぶられる。
「・・・発射!」
別に口訣が必要なわけではない。
意識だけでも兵装を動かすことは出来るのだが、
口に出すことでよりイメージを固めることが出来るのだ。
左腕から放たれる火線は、あやまたずイメージどおりに飛び・・・
林の直前で炸裂。
林の木々に光の文字で真言が浮かび上がる。
「・・・馬鹿な!?真言が刻まれているだと!」
いわば木々が真言装甲化されているようなものだ。
呪力を用いた遠距離攻撃では突破できない。
林からの反撃がいっそう激しくなる。
一掃するつもりが、逆に山賊共を調子付かせてしまったのだろう。
一度引くしかないだろうか。
「待ちなよキリハ」
「私たちが林を切り払います。
あなたは弾幕を張ってください」
トウテツ、トウコツの姉妹が追いついてきたようだ。
彼女たちの無双丸、佳人丸は近距離に重きを置いた機体だ。
私のグラスとは違い、この二機しかシリーズのない、独立した試作機と聞いている。
私はグラスを走らせると、踵についた車輪で高速移動を開始。
回転式火砲で弾幕を張る。
火線は真言に阻まれるが、山賊共の砲撃を多少でも止められれば良い。
その隙を突いて、姉妹の機体が突出。
大太刀と剛槍で林を切り開いていく。
林の木々は真言が刻まれているとはいえ、普通の木に過ぎない。
大きな質量を持った武装を持ってすれば、
草刈のごとくたやすく刈り取ることが出来る。
塹壕陣地から正面の林が丸裸になりかけたとき、
後背部の天幕の方から悲鳴が聞こえた。
あわてて振り返ると、天幕右翼の丘の向こう、
天幕の先に大きな影が。
「あ、あれは・・・」
「うそだろ!?偵察はしっかりしたし、スカート付が隠れる場所なんて・・・」