策謀
聖暦 5999年11月 対馬 港 東方州エルフ橋頭堡 将帥館
最近の移民は子連れの雌が増えてきた。これは中国人と呼ばれる種で、里帰りという慣習らしい。
東方州で外人の評判がよくない。言葉が通じない。暴れる。生産性が悪いと、良く選別するようにと言ってきた。協力的な市民団体に聞くと日本人の行くところ近隣外人は必ずセットだそうだ。現行、選別は難しい。東方州でも外人は輸出に回しているようなので、かまっていられない。
雌の割合が増えてきた。40歳を過ぎた雌などどうすればいい? 繁殖には回せないだろうし、労働にも向かない。潰すか?
日本人の雌は年が逝ってもけっこう美味しく食べられます。と、筆頭艦長が言っていたな。クソ! あの女、二日に一度は東方州に戻っているから、しっかりと生の人肉食べやがって! こっちは軍の乾燥人肉ばかりなのに!! 休暇の申請だ。それしかない!
聖暦 5999年11月 西方州 州都 王城
「・・・・・東方州では、順調に移民という形で、人間を手に入れている模様です。雄人が手に入ったことによって種付けも順次成功し、以前の繁栄を取り戻しつつあると・・・」
「・・・ふむ、それは西方州としては面白くないな。しかし、家畜として神に定義された種といえ進んで家畜になりたがるとは。にわかには信じられんな。」
「はい、そこは再度確認を入れています。場合によっては妨害工作の指示も出しております」
「それは、進めておけ。われらの、召還計画のほうはどうか」
「ハイ、日本の情報が入ったお陰で、場所も島も限定できました。イングランド、スコットランド、ウェ-ルズ、アイルランドという諸島にイギリス人というコーカ系の人種がすむ地域があるとか」
「よし、準備できしだい開始しろ」
聖暦 5999年11月 東方州 ブザン半島東端 海上
我々は、生き延びた。正義の剣あるところ必ず悪は滅びる。 竜を失ったのは大きな痛手ではあるが、人間の入手が容易になった今、竜の生産も順調に進んでいるそうだ。多少は安く手に入れられるだろう。
私は、今、船上にいる。大任をはたし、聖なる我らが住む土地への帰還の途にある。海風が心地よい。
「ウチの子供知りませんか? 赤い服を着た5歳の女の子なんですが・・・」
気分を出していると、憔悴した顔の無粋な雌が失礼にも声をかけてきた。先ほども、なんとかと名乗った雌人が一心不乱に子供を探していた。海に落ちたんじゃないのという確率の高いアドバイスを口にせず、エルフらしく華麗に無視するやさしい私だ。
新しい竜を手に入れる為の戦いはもう始まっている。
先ほど、船を一回りすると高く売れそうな子人を2,3匹見つけた。大人はそうでもないが、子人くらいは良く船から落ちるものだ。ウイリーに目配りすると、あっという間に眠らせ、間を置かずラウルが荷袋にしまった。今回の冒険で更に高まったチームワークは健在だ。
対馬の山中で人間に見つかったときにはあせったが、最初に会った市民団体を名乗る連中の話では、冒険者エルフが島で行ったことは、日本政府の陰謀だったことがわかり、全て日本が悪かったそうだ。知らぬまに誤解が解けて私も助かる。
しかし、この市民団体という集団。なにが目的なのかよくわからない。自発的に戒めの首輪をつけたそうだ。 優秀な家畜種とはこういうものなのだろう。
聖暦 5999年12月 対馬 港 東方州エルフ橋頭堡 将帥館
結局、休暇は認められなかった。将軍とはいえ宮使いは辛いものだ。日本政府が移民者の数を増やしてくれと頼み込んできた。東方州は厳しい環境なので若い個体が望ましいと以前から伝えていたのだがリストを見ると、40代どころか60代以上が多い。 日本政府の担当官は土下座と言う彼らの神事を駆使して願い出た。 更に年金問題とか、よくわからない念仏を唱え出した。
前までだったら、断ったところだが、OKした。南方州の輸出要請が頻繁らしい。輸出枠を増やしたそうだが、更に死者が増えて南方の転移門への街道は数万人の死者を出しているそうだ。乾燥した地域が多いので、内臓を裂いてほうっておくと乾燥肉になるとの話しだ。 水だけ渡して、食料は途中の道で、各自に調達させているらしい。共食いだが、耐性のある原種だ気にする必要も無い。
そういった話を聞いているので問題ないと判断した。今では一日当り、この島から5万人の輸送になっている。暫くはこのペースだそうだ。
日本も一息つけそうです。と担当官が話していた。何でも煩い人間が随分いなくなって、北の開発が急ピッチで進んでいるそうだ。
寒さに弱いエルフにはどうでもいい話だ。