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日本召還  作者: ピンガ
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挑戦

聖暦 5999年9月 東方州 ブザン半島 召還陣作製チーム



今年の初頭、最後の雄人が死んだ。人間が種として自然増加する術は失われた。

エルフにとっとも大きな損失だ。人乳から馬乳への切り替えはまだ試行段階にすぎない。チーズといった加工製品の製作も難航している。人間のように幼人に乳を大量に飲ませたあと殺し、放置しておけば体内で自然にチーズを作り出すわけではない。馬の魔因子改良を繰り返してはいるが、いまだ成功はしていない。


「結局、エルフの運命はこの実験にかかっている。そういうことね。」


私が、確認するように同僚に問う。


「そう。そして失敗はできない。南方州ような結果になったらここの関係者全員の首が飛んじゃう」


南方州は、既に召還実験に成功している。南方州全域から集められるだけの高位の魔術師、魔宝石を集め行った召還実験で呼び出された島には、人間はいなかった。亜人といえる種は確認されたが肉質も悪く、家畜化するほどの利点を得られるほど種は確認できていない。家畜化に適した大型の草食動物も得られなかった。


「南方州も召還技術などの、情報を出してくれればいいのに・・・・」 


同僚が呟く。ここ十年でエルフ三州の関係が悪化した。以前なら新たに生み出された技術にしろ情報は相応の対価さえ支払えば得られたものだが、最近は交流がほとんどなく、南方州から有益な情報は得られていない。南方の情報が得られれば、どれほど良いか。


エルフ最大の危機も一部の有力者にとっては、自分の勢力を強める為の機会でしかないのかもしれない。



いずれ魔因子法学で全ての理は解き明かされる。これは魔因子法学の最高権威といわれた偉人の言葉だ。しかし、現実には世の理の一割も解明されてはいない。その一割も解明されていない技術で、我々は、困難に立ち向かわねばならない。


「一定数の原種人間が生息すること、エルフがいないこと。言葉が通じること。評議会の連中も軽く条件を出すよね」


「仕方ないでしょ。家畜化できる人間がいなければ話にならないし、エルフがいれば争いになるかもしれない。言葉は、できれば程度の話でしょ。技術的には一番簡単だけど」


評議会の条件は当然ともいえる。 マイッカ卯月熱の対策は完了していない。原因は魔因子改良によって作り出された種が病気に弱いことが一因とされている。 病気に強い原種であれば簡単には死なないはずだ。また、エルフの召還など拉致誘拐と変らないし、勝手に召還されれば温厚なエルフといえど争いになってしまう恐れも考えられる。争いはエルフ最大の禁忌だ。 言語は家畜化を容易にするためだ。家畜化されていない原種の人間とてエルフに飼われるのが幸せであることに変りはない。 言語に関しての法学はかなり解明されているので、多分問題はないだろう


東方州の高位魔術師、魔宝石。最高のものをかき集めての実験だ。二度目はない。


「さて、これで準備はいいかな。あとは月が満ち力が蓄えられるのを待つだけね。局長に報告しましょう」


私達は、ここでの準備を終え報告のために戻ることにした。



聖暦 5999年9月末 東方州 ブザン半島東端 海上



「あれが、召還された島か。あまり大きくはないな」


長身のラウルが竜の背で立ち上がりながら皆に声をかける。


「魔法局の話では召還されたのは諸島だそうよ。数ある島のうちの一つでしかないわ」


魔術師のウイリーが答える。


「しっかし、どれほど島があるかしらないけど確認は手間よね。」


私が問うと、やはりウイリーが答える。


「いいんじゃない? お仕事多いほうが助かるわ! ウチのパーティはお金がかかるから」


「竜持ちは金がかかるからな!昨今の食料事情では仕事は選べん」


私達は、冒険者だ。仕事であり生き方でもある。東方王生37氏族の生まれだが傍系の私にとっては家よりも氏よりも、仲間のラウルやウイリーそして竜のほうが大切だ。


もっとも、その仲間の食費で働きずめなのはどうにかしたい。なんとかここで一発当てたいところだ。その為にも今回の依頼、召還島の探索及び人間の確保はなんとか成功させたいところだ。もし失敗したら騎乗している三頭の竜の食費もでない。


「ラウル、島に人間がいればその食料問題も解決よ! まだ、個別の確認はできないけど人間大の生命反応は感知しているわ。」


「そうか!! それは期待がもてるな。こいつらにも腹いっぱい食べさせてやれる。」


ラウルが海上を進む愛竜の頭を撫でながら答えた。


本当に今の食料事情は悪い。肉食のエルフが三食に二食は、植物の種子を粉にして練った人間のエサ同然の食べ物を食している。 胃が受け付けず貧困層では体調を崩したり餓死した者も少なくない。


チーズといった乳製品にいたっては本家の上級氏族でさえ、ほとんど食べていないという話だ。


「じゃぁ、あれ食べちゃおうか、乳肉。」


私は、とっておきのホルスタイン種の乳肉を取り出した。干し肉だが、乳肉は栄養価が高く保存食

として最高の素材だ。10年前の冒険者は冒険中三食これを食べていた。


「いいね、食おうぜ!」とラウル


「あら、最後の品じゃなかった? いいの食べて?」とウイリー


「なんか希望が見えてきたし。前祝いで景気付けに食べときましょうよ!」


私が答えると、ラウルとウイリーから歓声が上がる。


・・・・・・・・・


目標の島に大分近づいてきた。


「あれ、もしかして船じゃない?」

「本当だ。それなら大助かりだ!」


ラウルとウイリーがこちらに顔を向けながら話す。 同氏族であるラウルとウイリーだが顔つきは随分異なる。一人の母からなる同一魔因子なのだから、魔因子的にはまったく同じになるはずだか、育った環境でここまで変るいい例ともいえる。


確かに船と思われる白いものは海に白い軌跡を引いて動いている。しかし、帆が無いしオールのようなものも出ていない。何を動力としているのだろう? 文化水準の高い人間の方が家畜として利用価値が高いのは言うまでもないが、エルフの私が理解できないのは少し面白くない。


「もしかすると、エルフがいるんじゃないか?」

「でも、魔力は感じないわよ!」


同じことを思ったのかラウルとウイリーが同じ疑問を口にする。しばらく見ていると、こちらに近づいてきた。


かなり早い。水陸両用の竜より確実に早い。軍船より早いのではないか?


見る間に近づいてきた。大きい。50人は余裕で乗れそうな船だ。船上に数人の人影が見える。30m程の距離を置いて、船上の人間が声を掛けてきた。


「おーい! 大丈夫かー」「xxxx xxxx」 


最初はエルフ語だったがその後は未知の言語だ。とりあえず言葉は通じそうだ。ウイリーに目配りすると頷く。やはり魔力は感知していないようだ。


間違いなく人間だ。我々エルフは救われた!私は感動で色々こみ上げてきた。今までの苦労が報われる思いだ。 


「あんたら、遭難者か?」「xxxxx xx xxx」


白い船は慣性だけで動いているようだ。先ほどの速度はない。見たところ、攻撃的な種族ではないようだ。


言葉は失礼ないいようだがまぁいい! 昔だったら手打ちにするところだが、家を出て私もこなれた。丁寧な言葉を話す人間は上級の氏族に飼われている人間くらいで、多くの農場や一般家庭で働く人間はろくな教育も受けていないし、主人を主人と思わない人間も少なくない。ましてや、こいつらは野生種だ。


「私達をその船に乗せなさい!」



・・・・・・・・・



多少、トラブルはあったが問題なく船に乗ることが出来た。私達は多くの驚きをもって彼らに迎えられた。この船の若い雄人は何が嬉しいのか、エルフモエモエ等、奇怪な言語を発しながら手に持ったケイタイで光を発している。


船長を名乗る、頭にキャプテンマークらしい布紐を巻きつけた雄人は、会話に混ざろうともせずに、先ほどから船の中央にある神体にむかって呪文を唱えている。一切魔力を感じないところを見るとペテンや呪い類いか。魔法局のいった言葉が通じるとはこんなものだ。人間供の言葉の半分も理解できん。


しかし、こいつら魔法ではなないが似非魔法のようなものを使う。ケイタイの光もそうだし船の動力もそうだ。これらについてはパーティの知恵袋のウイリーも頭を捻っている。


この船の名は第八鉄拳丸。漁船だそうだ。これほどの大型船が軍船でもなく商船でもない。このことから外敵もなく、また、商業が活発ではないことが伺える。 しかし、衣類を見たところ色が多彩だ。


この船の船員達は、外観はモンゴ種に非常に似ている。見たことはないが記録にあるモンゴ種の原種に近いのではないだろうか。ただ、残念ながら黒髪は船長だけで、他の船員は茶や金色の髪が多い。雄人の髪は商品価値がないのである意味どうでもいいが。 

 

また、私達エルフだけではなく竜の存在にも驚いている。 三頭の竜は船に乗せることができなかったので海に置いてきた。船の速度にはかなわないが、付いてくるようには言ってある。


船が、彼らの言う対馬に着いたら竜を待って行動しよう。冒険者は慎重でなければ生き残れない

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