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日本召還  作者: ピンガ
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滅亡の危機

聖暦 5990年4月 東方州 とある田舎



牧場の朝は早い。人舎の人達が既に起きて声をあげている。


「もう、たっぷたっぷだよ。早く搾っててば!!」


マーヤが白と黒のまだらなポニーテールの髪を揺らしながら騒いでいる。


「直ぐに準備するよ。00と01はもう起きているかい」


私が声を掛けると返事があった。賢い子だ。搾乳用の壺を二人で抱えて運んでいる。マーヤ00とマーヤ01は、うちの一番の稼ぎ頭マーヤの子供だ。

ここで声をはり上げているマーヤは毎朝、一杯搾っても一晩で乳が張る程の優秀な雌人だ。ホルスタイン種でもここまで優秀な雌人はなかなかいない。30頭ほど飼っている我が家の搾乳雌人の中でも無論一番の生産量を誇る。 


マーヤの子供たちが乳壺を置いたのを確認して、搾乳棚に載せている巨大なマーヤの乳を揉みミルクを搾ってやる。


「どうだ。気持ちいいか?マーヤ」


「・・・・」


マーヤは恍惚とした表情をしている。乳人として特化したホルスタイン種は乳を適切に搾ってあげないと、簡単に病気になってしまい、最悪死んでしまう事も少なくない。牧場の宝であるマーヤには私も気を使ってしまう。


搾乳棚の下では、マーヤ00とマーヤ01がマーヤに抱き付いている。まだまだ甘えん坊か。


今年で10歳になるマーヤ00は来年には種付けできそうだ。身体も大きくなってきたし母親譲りの乳はここ最近成長し、同年代の乳人に比して大きい。私も期待するところ大だ。


「うん?」


ふと見ると、マーヤ01の様子がおかしい。顔が赤い。マーヤ01はマーヤの息子だ。普通ホルスタイン種の雄は乳加工製品の加工用に処理することが多いが良血種人として牧場に残した子人だ。


マーヤの優秀な血統を残すことが期待された、やはり牧場の期待の星というべき子人だ。


熱もあるし相当に汗をかいている。この年代の子人がかかる病気で思い当たるものもない。いや、これは尋常ではないぞ。すぐに獣医を呼ばなくては!


私は、家にとって返し、後のことを家族に頼むと、町に行って獣医を呼ぶ為に人の準備に走った。

町には馬ではとてもいけない。こんな酪農が中心の山間部では、移動は人の足だ。


我が家では、牧草地の作業労働や移動の足としてウール種の雄人を飼っている。私は急ぎ足で雄人の小屋を覗き込む。


「なんだこれは!!」


小屋を覗き込むと、小屋の中の全ての雄人が折り重なるようにして倒れていた。


「死んでいる・・・」


体温を確かめると冷たい、多分昨夜のうちに死んだとしか思えない。


何かが、起こっている。私は、頭を抱えながら、感覚的にそれだけを理解した。



聖暦 5990年6月 東方州都  評議会



「全滅です。ホルスタイン、ウール、モンゴ、コーカ、雑種も含め労働用から種人まで全ての成体雄人が、マイッカ卯月熱での死亡を東方州全域において確認しました」


担当事務官の報告に、大きなため息がもれる。頭を抱える者、手で顔を覆っている議員も多い。


「何かね。来年以降、我々はチーズすら食べられなくなるのかね?」


初老の議員が、事務官に質問する。無論ジョークだが事務官は律儀に答えた。


「ハイ、チーズもですが、今年度の種付けは不可能となりましたので人乳も、あと半年で出なくなります。今のところ雄の子人に精通があった一~二週間で発病するのを確認しています。その間の種付け成功例はありません」


「皮被りのボーヤでは難しいわね!」


有力氏族出身の若い議員が呟く。多少、力ない笑いが漏れるが長くは続かない。乳人は妊娠中か、出産後暫くしか乳を出さない。常時妊娠させる必要がある。


エルフ法受精も可能だが自然受精でも10回の種付けが必要とされており容易なことではない。


「すると、来年の乳製品の入手は絶望的。実質10年以内にマイッカ卯月熱の対策を考えないと人類は絶滅しかねない。 そう考えてよいのだね」


今度は商家出身の議員が確認する。


「はい。現状西方、南方州に確認をとっていますが、確認できている範囲では被害状況は同様です。中央森林地帯に野生種の再確認チームを送ってはおりますが、こちらもなんともいえません」


「野生種など、1000年以上前に絶滅しているわよ。確認するまでもない。」


先ほどの若いが議員が声を上げた。野生種の発見報告はここ1000年ない。以前に絶滅報告があったものだ。


「それでは、我々はどうすればいい。魔因子改造した人間を飼うことで生活が成り立っている。今、人間を失えば、我々とて生きてはいけない。紀元前のような混沌の世界で生きよ言うのか!」


多くの議員が発言するが結論は出ない。このような事態は過去6000年間無かったことだ。特に人間の家畜化に成功して、雑食の人間に植物を食べさせ増やし、人間や人間が生み出す乳製品を肉食のエルフが食する完成された秩序が確立してからは。


・・・・評議会議長は、考えていた。20年前生まれた王達。やはり変革期としか言いようがない。


エルフに変化が必要な時、エルフには王が生まれる。生物で唯一完成種であるエルフには、生物的な変化は必要ない。それは聖書にも記された通りだ。 しかし、エルフに変化が必要な時、突然変異として王があらわれる。1000年周期で起こりえることでそれも聖書に記されている。


王と新たなエルフを生み出す環境を残す為にも、ここは決断しなければならない。


「一つ、提案があります・・・・・・」


そう、議長は切り出した。


それほど、長いお話ではありません。読んでいただければ感謝です。

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