戦車の堅牢なる鱗、装甲について
今回は、左手だけで書いてみたのだ
さて、今回は戦車にとっては重要な装甲の話をしよう、まずは装甲の歴史から
ステップ1「装甲の種類色々」(長め)
装甲の種類はエンジンと同じく多種多様、さらに、一般的なイメージの「洋風騎士」が着ている装甲服の様な物から話したら
途方もなく話が長くなるため、戦車に使われてきた装甲のみを話そう
まずは、どのような物が使われたかを名前だけ書いたあとで、その説明をしよう
・鍛造装甲(叩いて作る、或いは型を作ってそれにはめる)
・表面硬化装甲(表面焼入れや浸炭装甲がある)
・鋳造装甲
・均質圧延鋼装甲
・アルミニウム合金装甲
・複合装甲
今回は作られた時代順に説明して行こう
まずは鋳造装甲の説明から次に表面硬化装甲、均質圧延鋼装甲、アルミニウム合金装甲、複合装甲、といった順番に説明する
因みに、空間装甲(※1)と爆発反応装甲(※2)は補足で説明する
鋳造装甲とは
古く…中世時代から鉄製道具に用いられてきた作り方で、砂や石膏、金板等々で型を取ってそこに鉄を流し込むことで作られる
製造後は主に丸っこく出来てやろうと思えば複雑な形にする事も出来、大量生産にも向いている(金型の場合のみ)
が、不純物が混ざりやすく強度が低くなるために現在では使われていない(形状の優位性があるがそれをも打ち砕く砲弾を使うため)
(使用例:M4シリーズ一部除く、74式戦車の砲塔)
表面硬化装甲とは
この装甲の大まかに説明するとしたら焼き鉄(※3)をして、その走行の厚さを持って外部を固くし内部を軟い(と言っても鉄だから触っただけでは解らないが)装甲にする作業である
これをしなければならない理由は装甲全体が硬かったら着弾時にひびが入りやすくなり、逆に装甲全体が柔かったら跳ね返さずに簡単に車体内部に砲弾が入ってしまうだろう
それを防止するために、着弾時に跳ね返すくらいの硬さで着弾時の衝撃を吸収する柔さが必要となって矛盾が生まれてしまう
そこでこれが出来た
そして、表面硬化装甲を細かく言えば二つの種類が存在し、一つ目は「表面焼入れ」二つ目は「浸炭装甲」があり
前者はただ単にガスバーナーでも何でも良いから兎に角表面を焼いた装甲で、表面だけを硬くする方法である
むろん、表面を焼くだけなので生産性は高いがご術する者よりも強度が低いというのが難点だろう
後者は加工済みの低炭素鋼鉄(※4)を加熱し片面だけを高温の炭素ガスに晒すことで、片面を固くもう片面を軟くする方法で
ゆっくりじっくりするがために、コストも手間も時間もかかってしまうが…1時間で3両作れる木製車と一時間で1台しか作れない装甲車を作るとしたら断然後者の方だろう
…が、この技術が確立した当初は難しいが為に品質を一定に保てずにいた
そして、第二次世界大戦での(主にドイツ)戦車砲弾の進化(材質や原料の品質向上)によってこの方法では防げなくなってしまったがために
中期で表面硬化装甲時代は終わりを告げた
補足だがこの装甲は鋳造装甲等との合わせ技もあるため、戦車のスペックを公表する際には注意が必要である
(使用例:BT-5、M3ハーフトラック)
均質圧延鋼装甲とは
これを書いている『戦車野郎』ですら余り聞いた事のない装甲だったが、師匠から学んできました
どうやら、均質(※5)に作られた圧延鋼板と呼ばれるで作られた装甲で、圧延鋼板には2種類ある
一つは熱間圧延鋼板、もう一つは冷感圧延鋼板であり
前者は鉄を再結晶化するまで熱して、そこで圧延(プレス?)して作られた鋼板で、冷感圧延鋼板の後でされて強度や性質をきめられる事が出来る
一方の冷間圧延鋼板は、逆に再結晶化しない温度で熱して圧延して作られた鋼板で前者の前にされる事が多い鋼板である
これが主に使われたのは第2世代戦車(AMX-30、チーフテン等)で量産性に優れており尚且つ、安価(←此処重要)出会ったため
多用されたが、現在では皆さまご存じ「RPG-7」に使われているノイマン方式砲弾(HERT)やAPFSDS砲弾(羽付き砲弾)など新しい砲弾に対しては
十分な防護能力を持ってなかったがために現在では複合装甲との合わせ技をしている
因みに、表面硬化装甲と決定的に違うのは「焼き入れを作った後で行うか作っている途中で行うか」の違いと簡単に言っておこう
(使用例:BTR-T、T-55)
アルミニウム合金装甲とは
この装甲はアルミを主体とした合金を使用しており鋼鉄製装甲と比べたら、僅か3分の1の重量…すっごく軽い装甲だが
逆に鋼鉄製装甲と比べたら強度も3分の1…鋼鉄製装甲と同じ防御力がほしいのならば3倍にすればいいが重さも同じになってしまい
更に、大型化して発見されやすくなってしまう
しかし、厚みのために剛性(※6)を持つため補強材(柱みたいな物、実際はかなり違うが)を減らせて重量を軽減でき
内部の空間も広々と出来る利点がある、この利点を使えば『軽戦車だけど大口径砲をもてる戦車』や『歩兵支援車両』、『速度重視車両』としての性格を限定すれば…
兎にも角にもアルミ合金装甲を使用することで、『強度』が弱くなるためにRPG-7の様なHEAT弾にはアルミニウムの融点の低さから滅法弱く
火災時には他の金属と比べると強度を失いやすく、現在では殆どお目にかかれない装甲である(と言ってもあると言えばある)
(使用例:M551 シェリダン、M113装甲兵員輸送車)
複合装甲とは
チタニウム合金、繊維強化プラスチック、合成ゴム、挙句の果てには劣化ウラン等…これらを『セラミック』と称するが、それを
鋼鉄板との間に挟んだ装甲の事である、これは最近使用されいてる砲弾はも勿論の事HEAT(RPG-7等の個人携帯火器に使われる特殊榴弾の事)と呼ばれる砲弾もある程度は防ぐ事が出来る
HEATをどのような原理で防ぐ事が出来るのかと言えば、HEATはノイマン効果を使った砲弾で
メタルジェットを一点に吹き付けることによって装甲を圧力で破壊し、内部までその圧力が到達する兵器だが外側の装甲は鋼鉄な為破れはするが
内部に違う物質を挟む事によって、セラミックを破るために威力が低くなったメタルジェットが内側まで行けずに内側に被害を受けずに済む装甲板である
さらに、最近の砲弾はこの装甲と同じような物質を弾芯に用いているため一定の防御力を持つ事ができ安心できる装甲だ
しかしどんなものにも欠点は付き物
弾速が遅い砲弾(榴弾や機銃弾)に対しては挟んでいる『セラミック』が割れてしまう(セラミックは割れやすい)
これの欠点を克服しようとして均質圧延鋼装甲と合わせた装甲板があり、均質圧延装甲を外側に配置して弾速が遅い砲弾を防いで砲弾を内部の複合装甲で防ぐ考え方で作られている
…つまり、前述した均質圧延鋼装甲装甲LV.MAXと考えても良いだろう
(使用例、レオパルド2等)
ステップ2「装甲の繋ぎ方は軍で、話の繋ぎ方は個人個人で」
さて、装甲の歴史についてだが最初に作られた菱形戦車「マーク1」の装甲は、今現在から見たら結構な粗末な物だった
何故なら、装甲同士をボルト・ナット(ネジみたいな物)等で接合している
これならば威力の低い銃弾や破片手榴弾ならばその装甲で防げるだろう、だが大口径の砲弾か銃弾を喰らった場合
ボルトやその破片が車内を飛び回ることとなり車内では跳弾の嵐となるだろう
更にこの方法で装甲を繋ぎとめていると重量がかさんでしまう、これでは重量の削減も何もない
そして、この失敗を踏まえたのが
リベットで装甲を繋げると言う方法だった…これの作り方は簡単、まず鉄板に穴開けて
そこに紅く焼いたリベットを通して入れた先を潰すだけの極力簡単な方法で、ボルトで繋げるよりも頑丈だった
が、その方法だったらボルト式よりも重量が重くなり、しかも衝撃にも弱くて硬度の高い装甲板には使い難かった
…更に、ボルト式と同じく被弾したらリベットが車内を散弾が跳弾したかのように飛び回ります…
で、これらを踏まえて出来たのが電気溶接式だった
これには色々とあるがとりあえず、難しくしないためにもあえて『電気溶接』と言っておく
そして第二次大戦中にあのドイツでさえも(←此処重要)基本的にリベットと電気溶接などの合わせ技を使っていた
…つまり、どう考えても電気溶接を完璧に使用した戦車は二次大戦中では絶対に不可能と明記する(ただしタイムスリップ物をのぞく)
ステップ3「繋げるのがだめなら繋げないの作ればいいじゃない」
というわけでステップ2を踏まえて出来たのがステップ1でも出てきた鋳造装甲である
鋳造装甲と言うのは説明にもあったように型を作ってそこに鉄なりなんなりと流し込むことで作られる装甲で
主に砲塔に使われる技術だが、現在では余り多用されていない
何故なら鋳造するよりも手間と時間がかかるが硬くて分厚い装甲が出来て、電気溶接の技術が成熟したためにこうなったと言おう
ただし、架空戦記で量産を前提とした戦車を作るならばこの方法を『ある程度』多用すれば良いだろう
ステップ4「まとめ、装甲の厚さ=人の命の価値」
これまで装甲の種類やら繋げ方やらを永遠と語ってきたが簡単にまとめた物を書こう
装甲の種類と繋げ方と厚さで、分厚くても簡単に撃破されてしまう装甲もあれば、撃破が難しくなる装甲もある
駄目な例をあげると装甲90mmで電気溶接式のアルミニウム合金装甲…前述したとおりアルミニウム合金装甲は3分の1なので実質30mmが妥当だろう
別の装甲の厚さの例をあげてみよう
BT-5(露) :22mm
2号戦車C型(独) :15mm
九七式中戦車チハ(日):25mm
この数値だけを見ると『チハ、聞いた限りでは弱いと聞いていたけど厚いな!』と思うだろうが
当時の日本の治金技術(※7)はかなり低く、実質は国産の37㎜砲を基準として作っていたためで、ロシア製の45mm対戦車砲やドイツ製37㎜砲で簡単に貫通された…
…他の二車種を見てみると、2号戦車の場合は薄過ぎて対戦車兵器相手ではボコボコにされてしまったものの、ポーランド戦では案外善戦したとか
BT-5の場合、こちらも日本製37㎜砲や日本製75㎜砲でボロボロにされているが、案外役に立っていた
…どれもだめじゃん! と言う事になるが、2号戦車とチハ車が同レベルほぼ同レベルである事もお忘れなく
兎にも角にも、装甲分の重量の増減と言うのは絶対にある事を此処に明記しておく
…余談だが装甲にも厚い部分薄い部分が存在し、砲塔と車体正面は基本的に厚くなっており砲弾をはじき返せる事を前提にしているが、車体背面と車体と砲塔上部(※8)は基本的に薄くなっており、小銃弾や破片手榴弾の破片を防げる程の装甲しか無い事も明記しておく
ステップ5「傾斜装甲(避弾経始)について」(New! 2010/11/18)
傾斜装甲とは名前の通り傾斜している装甲の事で、これが使われた戦車の例をあげたらきりがない程大量にある
そもそも、この装甲の起源はどこだろう? と言う疑問が上がるだろうがその答えは1920年に発明家、ジョン・w・クリスティーが
作ったクリスティー戦車から始まる
そしてこのクリスティー戦車を、始めて量産体制にしたのが知っている人は知っているソ連のBTシリーズだろう
話がそれたが、実際にはどれくらいの角度をつけたらどれくらい防げたのか?
それの計算式があった、調べるのに四日ぐらいかかった…こんな計算式である
傾斜装甲の防弾性能=装甲の実際の厚さ÷Sinθ
この計算式をこの小説の大根役者ともいえる存在、日本戦車の89式中戦車に当てはめてみよう
17㎜÷(多分)Sin55度(0.819)=約21㎜
となる…因みに、Sinの早見表を下に記す
sin15°≒0.258
sin20°≒0.342
sin25°≒0.423
sin30°≒0.5
sin35°≒0.574
sin40°≒0.643
sin45°≒0.707
sin50°≒0.766
sin55°≒0.819
sin60°≒0.866
sin65°≒0.906
sin70°≒0.940
sin75°≒0.965
sin80°≒0.985
sin85°≒0.997
ちなみに、アメリカ軍が使っていたM1903小銃の貫通能力は180mで0.76cmの鉄板を貫通し、550mで0.25cmの鉄板を貫通する事が出来る
小銃相手なら一安心な訳じゃない…戦車と言うのは戦線を突破するために砲撃や機銃弾から防護するために作られた物…つまり人で例えると
『敵がパチンコを使ってきたから段ボール装甲で対応だ! → 相手がマグナム持ち出してきた』
と同じような事である…つまり傾斜装甲でもある程度の厚さが無ければ傾斜の意味がないと言う事である…
さらに、この傾斜装甲には相性は無く表面硬化装甲や均質圧延装甲が良くつかわれているが別に複合装甲でやってはいけないと言うわけではない
むしろ砲弾の進化によって、徐々に傾斜装甲は意味の無い物となってしまったためであった…
それと、傾斜装甲は重量を減らすとか装甲が厚くなると言う物は…断言しよう、デマである
むしろ重量が多くなることがあったり、装甲は逆に薄くなる(嘘だと思うのならば正方形の紙を用意して斜めに切って
▲▼←こんな形になるようにくっつけてそれぞれの横幅を比べたら・・・)
※1
本来の装甲の間に針金で作った籠を付け加えることでRPG-7の様なノイマン効果弾を弱体化させる増加装甲…伝説となったシャーマン戦車の土嚢積み上げも一応これに分類されてしまうだろう
※2
着弾と同時に爆発させることによって砲弾の威力を削ぐ増加装甲、主にロシア製戦車についている四角い物
※3
鉄を焼く事で硬くする事、しかしこれを私生活の場面でやった場合錆びやすくなるため注意
※4
鉄の中に酸素が0.02%以上含まれている鉄で、普通の鉄は2.14%、これの場合は0.3%以下の鋼である
因みに、中は0.3%~0.7%、高は0.7%以上となっている
※5
製品や密度または品質が一定である事
※6
物質の変形のし難さ、針金のような鉄は剛性が無いが逆に工事現場で見るH型鉄筋等は剛性があると言える
※7冶金技術
鉱物から金属を取り出す際に不純物が混ざらないようにする事、これを育てない限りは戦車大国になれない
※8
構造の関係上、上部は軽くしなくてはならないため必然的に薄くなってしまう…そのため上部からの攻撃は滅法弱い
次回、どれにしよう
甲、戦車の命の水(?)、砲弾について
乙、戦車の強靭なる足、キャタピラと懸架方式について
丙、戦車の矛盾点について
丁、戦車の鋭利なカギ爪、副砲について
これ見ている人、作者IDとか読者IDなくても感想書けるので書いてくださいなぁぁぁあああ!!
余談だけど、左手が何故か震えるのだ