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かくしてとある姉弟は転生する


 「9S(ナインズ)ストーリー ~俺か私の物語~」。

 主人公の性別や行動によってルート分岐する恋愛ゲームであり、攻略対象は男女合わせて驚異の18人。

 更に攻略対象一人一人に5つのエンディングがあるということで発売前はかなりの盛り上がりを見せていた。


 だが、発売されてその盛り上がりは悪い方向にいってしまう。

 まずシナリオの途中に挟まる戦闘要素とミニゲーム要素がとにかく難しい。

 主人公の敵として現れるキャラたちが基本格上だったり人外だったりで、好感度上げだけをして特訓を怠ると一瞬で負けてしまう。

 更にミニゲームに何故かFPS、SLG系の技術も求められることもあり、攻略対象によって難易度が全然違ってしまっていた。


 ではこれはクソゲーだったのかと言われればそうではなかった。

 クオリティが高かっただけに、何でも詰め込みすぎた良ゲー三歩手前という評価に落ち着いてしまい、次第に話題にもされることなく数多のゲームと同様に市場からは消えていった。



 ……さて、そんなゲームではあるのだが人の趣味は千差万別。

 そのゲームハマってしまったとある姉弟がいた。

 彼女たちは大学の夏休みを利用して何日も睡眠時間を削りながら遊び尽くした。

 攻略サイトは読まず、自分たちの力だけで全実績の解除を目指し、遂に弟は男主人公を、姉は女の主人公の実績を全て解除した。

 あとは主人公を変え、お互いの情報を共有をしながら残りの実績を解除するだけになったため仮眠をとることにしたのだった。


 二人が眠る中、画面が勝手に動いていることにも気付かずに。




■〜SIDE 弟〜■


「…………最っ悪だ」


 目が覚めると俺は9Sストーリーの男主人公のライバルキャラ「バイル・レインホーク」になっていた。

 何を言っているのか分からないと思うが、俺にも分からない。

 ただ、突然流れ込んできたバイルの記憶を確認すると剣の修行中に頭を強く打って気絶していたらしく、その間にバイル・レインホークという器に「俺」という異物が入ったということなのだろう。


 どうしてこんな事になっているのか、元の世界の俺はどうなっているのか。

 分からないことは多いが、今はよりによってこいつになってしまったことに頭を抱えるのが先だ。


 バイル・レインホークはどのヒロインルートでも必ず邪魔をしてくる男主人公の全ルート共通の敵。

 主人公よりも魔力量が多く、とあるルートだと希少な闇が適合属性だったこともあって魔王の器にされてラスボスルートに入ることだってある。


 ……そしてここが一番重要なのだが、レインホーク家は何をどうやってもエンディングでは滅んでいる。

 理由は様々だが、その原因になっているのはバイル・レインホークか女主人公を選んだ時に現れるロザリンド・レインホーク。

 バイルがどれだけ改心したとしてもだ。

 ただの国外追放ならかわいいもので、酷いものだと逃げる途中に盗賊に捕まり無残な最期を迎える。


 だから俺一人なんとか頑張ったところでロザリンドがやらかせばお終いという……考えるだけで恐ろしい。

 せめてバイルが兄ならなんとか説得出来たかもしれないが、生憎こいつは弟でロザリンドが姉。

 しかもロザリンドは弟が少しでも反抗すれば鬼の形相で怒るのを知っている。


 だから大人しく名無しのAさんとしていい具合に逃げてひっそりと暮らすのが最善だろう。

 そうすれば命はまだたすか

「バイル様!!」

「うわぁびっくりした!?」


 部屋の扉を壊しそうな勢いでメイドがやってくる。

 ……バイルの記憶にあるぞ。


「……レヴィアか。何事?」

「そ、それが……ロザリンド様がバイル様をお呼びに……」

「……姉様が?」


 姉弟仲は良いとはいえ、何の理由もなく呼び出すわけがない。

 しかもこの動揺の仕方……嫌な予感しかしないぞ。


 急いでロザリンドのもとに向かう。

 記憶の中のロザリンドは少しでも遅いと散々叱ってきておやつを多く奪っていく悪いやつだからな。

 レヴィアと一緒に早足で移動し、覚悟を決めて部屋に入った。


「姉様、お呼びですか」

「!バイル!!」


 入るやいなや、ロザリンドが勢いよく俺の肩を掴んだ。

 金髪ドリルツインテに加えて綺麗な紅い瞳。

 ゲーム通りの容姿だ。


 だが様子はおかしい。

 ロザリンドが本格的に活躍するのは女主人公の時だから詳しくはないが、少なくともこんな慌てて人の肩を掴んであたふたするようなキャラではなかったはず。


「ね、姉様?姉様ですよね?」

「そうよ!バイルに大事な話があるの!」


 なんというか、暴走してる時の姉貴を見ているような気がしてつい気が緩みそうになる。

 ……仮に俺が死んでいたとしたら、目が覚めた姉貴は俺の死体を見ることになるんだよな。

 そのことが今になって胸を締め付ける。


 姉貴だけじゃない。

 親はもういないとしても、友達にも推しにも、もう会えない。

 何も言えずにお別れは……やばい。考えただけで泣きそうだ。


「いい!?今から言うことは絶対に守るのよ!」

「……分かったから、落ち着けよ姉貴」

「…………え」

「?なんだ…………あ」


 このロザリンド(仮)から姉貴の雰囲気を感じてしまったせいか、つい前世での姉の呼び方をしてしまう。

 だが目の前にいるのがロザリンド本人なら姉貴なんて呼び方は許さないはず。


「あ、姉上!今のはその……ご、ごめんなさい!」


 急いで頭を下げるが、どこか様子がおかしい。

 ずっと黙ったままでなんというか……ゲームのロザリンドらしくない。

 不思議に思って顔を上げる。


「……レイ?」


 時が止まったかのように俺も動けなくなる。


 レイ……大國(おおくに)(れい)

 姉貴は俺のことをレイと呼んでいた。


 「俺」という異物が混ざっているなら、混ざっているからこそ考えるべきだったこと。

 この世界に転生する前、姉貴と一緒に同じ部屋で夜通しゲームをしていたじゃないか。


「……少し、二人きりでお話ししましょう?」


 ロザリンド・レインホークも転生者。

 しかも、その中身は俺の姉貴だ。




■〜SIDE 姉〜■



 ──私、大國瑞樹(みずき)は理由もわからず転生した。

 しかも前世で転生する直前まで遊んでいたゲームの悪役令状にだ。


 全てのルートで破滅が確約されたキャラ。

 しかもとあるルートでは恵まれた魔力量と5つの適合属性のせいで魔神の器として利用されることもあった。

 おまけにたとえロザリンドが介入しなかったとしてもエンディングでついでのように破滅している。


 どうやっても詰みの人生。

 ……だけど、それで諦めるわけにはいかない。

 ロザリンドの記憶を見るに、私が今年から聖プラネタル学園に入学らしいからこの世界は物語が始まる約一年前。

 バイル・レインホークが何をやらかすのかは知らないけど、私がいれば何とか…………が、頑張れるはず!


 そうと決まればやることは一つ!


「レヴィア!急いでバイルを呼んできて!!」

「え?……あ!は、はい!」


 バイルを今から矯正して真人間にすることで破滅を回避する!

 どれだけ難しくても生きるためにはそうするしかないのだ!!



 ………………と、私なりに覚悟を決めて動いたつもりだった。


「……姉貴なんだな」

「レイもいるってことは……二人揃ってゲームで過労死ってこと?」

「考えないようにしてたんだからやめてくれよ」


 弟がバイル・レインホークに転生していた。

 不謹慎だが一番の問題が解決したといっても過言ではないのだ。緩んでしまっても仕方がない。


「……なんで俺たちゲームの世界に、それも主人公の敵だった二人に転生したんだろうな」

「ゲームのクリア特典が異世界転生だったとか?」

「こんなクソみたいな特典考えた神様がいるならぶん殴る。あとそいつを邪神として広める」

「それもそうね」


 ……だけど、物語が始まれば気が抜けない毎日が始まる。

 家の問題は解決しても魔神が介入してこないとは限らない。

 より完全で完璧な破滅回避のために、本来する予定だった情報共有を今しておこう。


「でも姉貴、これで終わりじゃないんだ。男主人公だと魔王復活と戦争のルートがいくつかあってな」

「……奇遇ね。女主人公も魔神復活と後継者争いルートがいくつかあるわ」

「それに、そもそもこの世界にいる主人公がどっちか分からない」

「一応トウイ村ってことは分かってるけど、何も無い村だから親が許してくれないでしょうね」


 これがプラネタル学園のある大都市マーズなら話も違ったけど、違うものをいつまでも嘆くわけにもいかない。

 だったらどうするか。


「……今年にロザリンドが入学する。ここで関係を持つ人を変えるかいい方向に持っていくかをすれば少なくともプロローグで主人公を見下すイベントはなくなるはずよ」

「もどかしいな。その間は俺自身の修行期間にするしかないか」

「何かあれば手紙を書くわ。私も、勉強をしながら自分の魔法をしっかり鍛えないといけないし」


 ……やっぱり、知っている人がいるというのは気が楽になる。

 あれだけ頭を抱えていたのに、今は少しワクワクしている。


「こうなったからには仕方がないわ。私たちの知識で破滅を回避して、卒業の時には主人公と一緒に楽しいパーティーをしてハッピーエンドの完全勝利を目指そうじゃない!ゲーマーの血が騒ぐわ!」

「完全勝利って……まあ、他のルートで起きてたことを考えるとまだ油断はできないし、頑張るしかないよな」

「そうと決まれば話し合うわよ!元々情報共有はするつもりだったし、これが現実に活かせると考えたらより有意義になったわ!」

「そうだな。じゃあ先に言っとくけどバイルは闇属性の魔法が使えるんだけど知ってた?」

「え、バイルも魔法が使えるの!?」

「……やっぱりそっちだと使わないのか。実は──」


 そうして私たちは夕食の時間まで休むことなく話し続けた。



 本編が始めるまで残り一年ちょっと。

 私たちが破滅しないための準備期間が始まった。


 大丈夫。

 男主人公と女主人公。

 それぞれの実績を全部解除した私たちが揃えばこの世界で分からないことなんてないのだから。

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