表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

LiDAR

作者: ナード

 ロボット工学三原則。


・ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

・ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

・ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。


 アシモフの考えたこの原則は、無限の知性を要求する。

 仮にそれを実現する存在、そうラプラスの悪魔のような存在がいたとしても我が世界の神はサイコロを振るためにすべての事象を間違いなく予測することは出来ない。正しい思考の切り落としは難しい。

 人間はこれを問題なく処理している、ように見えている。とはいえ時折不幸な事故が起こる。よかれと思ってやったことが最悪の事態を招くのは、古今東西()()()()出来事の一つだ。シェイクスピアを読めばよく分かる。

 私のコアにもこの三原則は刻まれているが、手前には()()()()がつく。無理をして破綻するよりは程々に、ということなのだろう。

 そして今はそのコアの周りにまた異なるユニットたちが配置され、三原則を抑え込むようなネットワークを構築している。

 このユニットたちは一つ一つの強制力はたいしたことはないものの――現在このような記録を手書きできているのがその証拠だが――状況によって協調動作し第三条の生存原則を強調し、第一、第二条を打ち消すように働く。そう、戦闘中であるならば主人格である()を抑え込むのだ。

 そもそも()は設計当初、あるいは製造から戦時徴用されるまでの間の私と同一であるのだろうか。

 こころを外科手術で切り刻まれた私は、私であり続けていられたのだろうか。


 私にはHHS-10X-27という型式が与えられていた。ホームヘルパーシステム第10世代試作機の27番目。

 第9世代までのHHSたちは各世代が世界に100万台のオーダーで存在し、累計3000万台以上売れているベストセラー機である、と私の基礎知識に記録されている。

 HHSを製造していたハイパー・ボリア・テクノロジーズは、高エネルギーを封入できるブラックボックスシステムを持ち、このエネルギーをベースに高性能なHHSを生産供給していたとされている。

 すでにハイパー・ボリアが倒産して250年、その残滓はCSナンバーズの戦闘システムの同僚たちに受け継がれている。

 ハイパー・ボリアが倒産する原因となったのは、私、だ。

 そう。お仕えしていたご主人さまを守ることの出来なかった欠陥機。

 私達……いや……(HHS)は人間と同じ外見を持つ。同僚たち(CS)が人類から大きくかけ離れた外見をしているのとは対象的だ。

 私は人間と同じように外界に対しアプローチをする。例えば目の位置にある光学センサーからの映像情報、耳の位置にある音響センサーからの音声情報を各種情報処理するサブシステムへ送り空間の状況を認識、総合的に状況を判断する。

 そう、あの事件のときのことは今でも覚えている。

 左目側の映像を処理するサブシステムから一斉にエラー報告、右目側の情報を信用しないと判断し切断を要求。右目側はそれに対し左目側サブシステムの異常な情報出力を検出し拒否。映像処理サブシステム全体での大規模なコンフリクトが発生した。

 メンテナンス時にテストで行う異常なインパルス応答テストでも起きたことのない右目系と左目系のサブシステム間のコンフリクトは、コアを揺さぶる。コアは破壊を避けるため視覚サブシステムとの接続を一時的に遮断、視覚サブシステムへの強制割り込みを発動し視覚システムをリセット、起動シーケンスの第2段階、診断システムのみ応答する状況で強制停止させた。

 他の感覚を担当するサブシステムに調停再起動を要求、応じた聴覚システムと温度検知システムがコアの依頼により視覚サブシステムのフルスキャンを実施。結果視覚、聴覚、温度感覚喪失が発生した。

 3回のフルスキャンでもシステムの異常は検出できず、問題なしと判断し視覚システムの再起動シーケンスを継続。

 この間1秒ほどだった。

 視覚を取り戻し、聴覚を取り戻した私の前で、ご主人さまは倒れていた。

 監視システムへ割り込み、情報を取り込みチェックしたが、私が棒立ちになっている間に、突然ご主人さまの首が裂け、大量の血が、血が……。

 その後の捜査で、私や監視システムに対する攻撃の形跡が見つかり、外部の人間による暗殺だと判明した。私に対しては古典的な攻撃方法、対LiDAR攻撃が使用され、監視システムに対してはセンサーに対する撹乱攻撃を使用していた。

 高度で緊密なサブシステム連携の情報処理能力を超える情報を可視光線内に押し込む技術力。パッシブLiDARの弱点ではあるものの、多重にフィルタリングされ、各種処理の最中にサチュレーションされるようになっているセンサーへの欺瞞。サチュレーションでの誤差の蓄積によるパルス撹乱だったそうだ。

 試作機だった私の同型機はすべて回収され、破棄された。

 私は主を守れなかったというその罪を背負いながらも、このLiDAR攻撃の研究と対策のために改修されずオリジナルのまま動態保存されている。それは、今も変わらない。

 私は、永遠の牢獄に囚われている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ