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人間殺処分  作者: 風花舞花
第一章 人間殺処分
4/7

2話 多頭飼育崩壊


暖かい。

11月だというのに都心では25度を超える日もあったそうだ。今年は異常気象だと騒がれていた。夏はもっと酷かった。雨が降らずずっと暑い日が続いていた。秋は落ちつくと思ったが11月になった今も少し動けば汗をかく、そんな日が続いていた。

「野原さーんいるー?回覧板届けに来たんだけどもー」

「はーい今行きます!」

「野原さんきいて!熊田さん家また猫が増えたらしいわよ」

隣の家に住んでいる北本さん。

うわさ話が大好きで回覧板を持ってきてはご近所のうわさ話で2時間以上しゃべり続ける主婦。…うちも周りで何を言われてるかわからない、こちらからは下手に話さずうなづいてやりすごそう。

「またですかーこの前も増えたって言ってませんでしたっけ?」

「また子猫が生まれたらしいんよ。んで!この間家の前通ったらくっっさくて!隣の家じゃなくてよかったわー毎日あんな臭いんじゃ耐えられないわ」

「においかーどうにか出来ないんですかね?」

「役所には言ったらしいんだけど全然対応してくれないんだって。困ったわねー。んで!先週越してきた裏ん家の…」

…今日も2時間コースだな。話をききながら回覧板をめくる。

『資源物回収のお知らせ』『成人式のお知らせ』

『交通安全』『特殊詐欺…』

『クマ出没!注意!!』

…クマ?

『クマの目撃情報……暖冬の影響か…十分気をつけて…』

「ちょっと野原さんきいてるー?」

「きいてますよー」

…クマか。そういえばニュースでもよくやってるな。どこかの地域では人が食われたとか言ってたっけ?まぁこの地域は大丈夫だろうけど…




××市役所 市民生活課

「おい新人!まだ打ち込み終わってないのか!はやくしろ!」

入職して8ヵ月。毎日山のような業務に追われていた。終わらない、終わらせなきゃ。昼休みを返上すれば終わるはず…

「これ追加な」

…また山が増える。これじゃ昼休み返上した所で変わらないな。…いいや休もう。昼休みは休むためにあるんだから。今週中に終わらせられればいいだろう。

「ついに隣町にもクマが出たらしいよ」

「嫌だ-こっち来ないでほしいね」

「出たらまた対応に追われるだろうしね」

…そういえば多頭飼育の件で問い合わせがあったな。こっちじゃなくて保健所に連絡すればいいのに。資料どこやったっけ?あ一腹へったー。




最初は1匹の猫だった。

迷いこんだのか私の家の庭に入りこんできた。すぐに追い出そうとした。でもその猫のお腹が大きかった。妊娠していたのだ。猫の知識がなくどうしていいかわからなくあっというまに出産、6匹の猫が生まれた。

命だ。

私はこの7匹を大切を育てようと決めた。ある日私の不注意で2匹家から出て行ってしまった。数か月後戻って来てくれた。お腹を大きくして。

また命が生まれる。

みんなかわいくて愛しかった。3年前夫をウイルス感染症で亡くした。その寂しさを埋めるように愛情を捧げた。きっとこの猫たちは夫が天国から届けてくれたおくりもの。大切に、大切に育てた。みんかかわいくて愛しい。

けどもうどうしていいかわからない。避妊手術をしなかった。動画を見てこんな痛い思いをさせたくないと。ただそのせいでどんどん猫が増えていく。貯金がもうすぐ底をつきそう。働こうと色々調べているが年齢のこともあり厳しかった。何よりこの猫たちが心配だった。仕事行ってる間に何かあったら?週一の買い物でさえ心配でたまらないのに。誰に相談したらいい?どこに相談すればいい?

「ニャー」「ニャーン」

タマとミィが膝の上に乗り甘えてくる。かわいい。どうにかしないと。この幸せを続けられる方法を考えないと。



「行ってくるね、いい子にお留守番するんだよ」

「ニャーン」

かわいい。はやく帰ってくるからね。今日は週に一日の買い物の日。スーパーをはしごして一週間分の食料を買いに行く。急がないとあの猫たちが寂しがるわ。



「よいしょっと……ふぅ」

一週間分の食料を後部席に乗せる。よし、帰ろう。買い忘れはない…あれ?ガソリンメーターが残り少ない。この前入れたはずなのにどうして?…しょうがない。ガソリンがないと運転出来ないし帰れない。スタンドに寄って帰ろう。痛い出費だわ…



いつもより遅くなってしまった。急がないと。

「ただいまー!帰ったよー!」

…鳴き声がしない?

「帰ってきたよ、ただいまー」

…おかしい。いつもは出迎えてくれるのに

「………え?」

リビングに…誰もいない…どうして?二階は?

「…何で…どうして!?」

ちゃんと戸締まりはした!!自分達では開けられないはず!!どうして!?何でいないの!?どこにいるの!?

「急いで探さないと!!」

家の中をくまなく探す…居間…キッチン…トイレ…風呂…庭…物置き…いない…家の外か!?近所の人にきくしかない!?

ピンポン!ピンポン!!ピンポン!!!

乱暴にインターホンを押す!!何で出ないの!?

「すみません!!うちの猫いませんか!?」

ドンドンドン!!

出ない!!本当に留守か!?時間が惜しい!少し遠くに行ってみる!?

「すみません!!熊田です!!すみません!!いらっしゃいませんか!?」

何で出ないのよ!?居留守してんじゃないでしょうね!?くそ!!

「タマー!!ミィー!!どこなのー!?…痛ッッ!?」

…何もない所でつまづいてしまった。…何で…いないの…どこにいるの…

「どこ行っちゃったのよォオオ!!!!」




もう外は真っ暗だ。昼からずっと探してるのに見つからない。腰が痛い、足がパンパン。普段こんなに体を動かさないから体が非鳴をあげてる。体が重い。もう限界だ。座りたい。横になりたい…

「うぅっ………うぅぅぅぅぅっっっっっッッッ!!!!!!!」

明日また探そう。今日はゆっくり休んで…誰もいない家、静かな家。買い物に行かなきゃよかった。そうすればいなくならなかったはずなのに。

庭や家の周りにえさを置いておこう。もしかしたらにおいにつられて帰ってくるかもしれない。

大丈夫…あの猫達は必ず戻ってくる。大丈夫…大丈夫…今日はゆっくり休まないと…

…心配で眠れない。お腹すいているんじゃないか?寒くてどこかで震えてるんじゃないか?もし事故にでもあったら?どうしよう…どうしようどうしようどうしよう…




…ガタッ……ガタガタ………………ガタッ



物音…もしかして!?


「タマっ!?………………………………えっ?」






「野原さーん!回覧板よー!ポスト入れておくわねー!」

『×日…住宅敷地内……襲われ………………死亡…引き続き…クマに注意』

「…はぁ」





「はい××市役所です…はい、クマの件ですね」

「最近クマの問い合わせ多いですね」

「先週被害が出ましたからね。不安になるのもわかります」

やっと…書類の山が終わる…最後は…あ、多頭飼育の件か。でもこの家って確かクマの被害があった…その後はどうしたんだろう?でもその後相談はないし…

「シュレッターシュレッターと!よーし片付いたー!!」



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