22年振りの再会
ピピピ、、ピピピ、、、
遠くで目覚ましの音が聞こえる、
うるさい、、
ピピピ、、ピピピ、、
二度目の音でようやく意識がはっきりしてきた、
ん?俺さっきまでメイビスさんと一緒に、、
そう思った時にようやく頭が働いてきた。
周りを見渡すと実家の俺の部屋だった、
枕元にあった当時使っていた携帯があったから
今が何時なのか調べると。
2008年5月21日
「戻って来れたんだな、俺は、、」
メイビスさんに感謝だな、
やり直す機会をもう一度だけ得ることができた。
そして戻って来てからも感じる、
自分の神力。
死ぬ直前まで持っていた記憶や知識、経験値も
ちゃんとこの身体にも順応していた。
夏凛が死んだのは2010年5月20日。
今から2年後。
それまでに何としても見つけなくちゃならない、
知らなくちゃいけない。
夏凛の死の真相を、
彼女がどんな思いで俺を突き放したのか。
「戻って来たのなら、やっぱ会いたいな、、」
携帯を開き電話帳から夏凛の名前を見つける。
少し深呼吸して電話を掛けた。
受話器から聞こえる歌、
夏凛が好きだったアーティストの歌だ。
当時設定して流してる奴居たなーって思ったら、
夏凛が電話に出た。
「もしもし?どーしたの朝から?」
久しぶりに夏凛の声に思わず泣きそうになる。
「いやその、、今日会えないか?」
膨らんだ思いを何とか押し込んで、
そう伝えると。
「今日って、、そもそも今日学校だよ?
いつも一緒に行ってるじゃん?」
バカか俺は、、
この身体は高校生の俺だから、
その辺も考慮すべきだった。
「そりゃそうなんだけど、、
何か夏凛に会いたかったんだよ。」
これは本心だ20年もそう願ってきたんだ。
「なにそれ笑
じゃあ少し早いけど駅前のカフェで待ち合わせして、
朝ごはん食べてたから学校行こうか?」
夏凛はおかしそうに笑い、
待ち合わせの提案をしてきた。
「わかった。何時頃になる?」
「うーん、、
いつもより30分は早く起こされたから、
7時30分には行けると思うよ?」
「何か悪かったな、奢るよ。」
「やったね!
じゃあまたメールするね!」
「気をつけて来いよ、待ってるから。」
「はーい!」
そんなたわいもない会話をして通話を切った。
「さて俺も着替えますか。」
俺は制服に着替えて1階のリビングに行くと、
当時飼っていた犬のリリが全速力で駆け寄る。
リリはダックスフンドとチワワのミックス犬、
チワックスとかよばれてたっけ?
久しぶりのリリにも感動して、
時間の許す限り撫でくりまわした。
そうこうしてる間に、
7時になったので、
起きてきた母親に
「今日早めに出るから。」
それだけ伝え家を出て駅に向かった。
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久しぶりに自転車に乗った俺は、
少し不安になりながら、
駅へと向かっていた。
確かに身体は当時の俺の物だ、
筋力もこの当時の物だろう、
それなら対応できるかもしれない。
というのも夏凛と付き合ってから当初
2人乗りをしていたからだ。
自分だけでさえふらつくようなら、
手段を考える必要があったけど、
この感じなら問題無さそうだ。
俺は順調に自転車を漕ぎ進め、
ようやく駅前に着き、
ポケットから携帯を取り出すと、
時刻は7時20分。
10分早く着いたらしい。
駅前のモールに自転車を止め、
予定していたカフェの前に待っていると、
「春!」
この声、、
声の方に顔を向けると、
念願だった夏凛が居た。
「おはよう!春!」
夏凛が駆け足で来た、
俺はまた泣きそうになってしまった。
そして目の前まで来た夏凛をそのまま抱きしめた。
「え?春?どーしたの!?」
「ずっと会いたかった、、」
今この両腕の中に夏凛が居る、
この現実に俺の気持ちは胸がいっぱいだった。
そっと腕を外すと、
夏凛が顔を真っ赤にしながら、
「春のバカ、、ここ人通りが、、」
朝の駅前だ人通りは多い。
でも、、
「大丈夫だよ、夏凛は可愛いからな!」
俺は膨らんだ物をまた押し込んで、
夏凛にそう言った。
「うー!このバカ春ー!
朝ごはん奢れー!!」
「はいはい、じゃあカフェ行こう。」
俺は22年振りに彼女に触れ、手を繋いだ。
そうしてカフェに向かったのだった。
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メイビスの神域にて
「春希さん、、
夏凛さんとの時間をちゃんと大事にしてね。」
メイビスが雨宮春希と星崎夏凛の様子を
神眼で見ていると、
来客がやって来た。
「お久しぶりです。メイビス様。」
「やっと来てくれたのね、、夏凛さん。」
メイビスが振り返るとそこに立っていたのは、
星崎夏凛であった。
「ここに春が来たんですよね?」
夏凛は思い詰めた顔でメイビスに聞くと、
「うん、来たよ。そして過去へ返した。」
「春にあの事は?」
「大丈夫よ、何も話してないから。
その変わりに力を解放してあげたけどね。」
イタズラっ子のような表情でメイビスは言う。
「メイビス様、春が真実を知ってしまったら。
彼が壊れてしまうと思うんです。」
夏凛はメイビスに訴える、
切実な思いの丈を。
「夏凛さん、あなたが死んでからの22年間、
彼がどのように生きてきたと思う?」
メイビスが夏凛に問いかける。
「きっと私の事を忘れて幸せになってると思います。」
夏凛はそう言い切った。
「夏凛さんが思うほど、彼は強くは無かったよ、、
あなたが死んでから22年間で、
彼は最初の1年で笑顔を見せなくなった。
3年で必要最低限の会話しかしなくなった。
5年で仕事以外で外へ出なくなった。
10年で何も話さなくなった。
そして死ぬ間際の彼は、
生きた死人のようだった。
これが私が知ってる雨宮春希という人間。」
夏凛は反論する材料がないのだろう、
既に自分は死んでいて、
春に何も伝えることができないのだから。
ただただ、
その目から溢れる涙を止めることしかできなかった。
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2008年 5月21日 雨宮春希の視点
「なぁ、、そんなに頼んで学校間に合うか?」
俺は注文し終えた夏凛に聞く。
「実は昨日夜食べ損ねちゃって、、
朝はしっかり食べようと思いまして。
それに春の奢りだし笑」
「別に奢るのはいいけど、
頼んだ分は食えよ?」
俺もこんな感じが懐かしくもあり、
可笑しくもあり、
これが幸せなんだと思った。
しばらく談笑してる間に、
飲み物や料理が届き、
夏凛は料理が届くと同時に
「いただきます!」
それだけ言うと、
美味しそうにサラダやサンドイッチを食べた。
俺も自分で頼んだたまごサンドを食べようと手を出すと
夏凛が1つ取っていった。
「おい、それ俺の!」
「ケチケチしなさんな笑
私のこれをあげよう。」
そう言って差し出したのは、
サラダに入ってたミニトマトだった。
夏凛はトマトがダメらしい。
他にもナス、イクラ、雲丹、と言うより、
生魚全般NGである。
昔デートに行く時のランチやディナー選びには
苦労したもんだ。
そんな事を考えふけってると、
口にミニトマトを突っ込まれた。
「何すんだよ?」
仕方なく咀嚼する俺。
「目の前で物欲しそうに口を開けてたから笑」
「コノヤロー、、」
そんなこんなで目の前の夏凛との時間を楽しんだ。