表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

もう一度だけ

 2030年6月


 雨が降っている。


 俺は雨に打たれながら、

 帰り道を歩いてる。

 雨は嫌いだ、、

 どうしたって思い出してしまう。

 アイツの事を。


 周りは雨だと言うのに何処か暖かそうで、

 幸せそうな人々とすれ違う。

 あれは家族、恋人、夫婦だろうか?


 雨に打たれたせいか、

 あるいは過去の記憶のせいか、

 俺は雨の日はいつもナイーブになる。

 そんなだからか、

 俺は信号が変わってることにも気が付かなくて、

 そのまま交差点に飛び出してしまい、

 横から加速してくる車に跳ねられてしまった。


 そのまま路上に転がってしまった俺は、

 周りが大丈夫ですか?

 救急車呼べとか、

 遠くの方で聞こえるけど、

 最後まで耳に残ったのはこの雨の音だけだった。



 あれからどれだけ意識を無くしてたのだろうか?

 目が覚めると病室ではなく、

 白い部屋に俺が寝ていたベッドと

 シンプルな壁掛け時計だけがあるそんな部屋だった。


「あのとき、俺は死んだのか?」


 そう呟いたとき、

さっきまでなかった扉が現れ、

ノック音のあと見知らぬ女性が部屋に現れた。


「目覚めたのね、雨宮春希さん。」


「あの、、アナタは一体?」


「自己紹介がまだだったわね、

私は時間と空間を司る女神、

メイビスよ。」


「神様って事は、俺はやはり死んでここへ?」


「えぇ、そうよ。

2030年6月の雨の日にあなたは車に跳ねられ、

救急搬送された2日後に息を引き取ったわ。」


「そうですか、、」


俺は内心ようやく終わる事ができたのだと安堵していた。

アイツの事を今も思い、

雨の音を聞く度に息苦しくなる。

そんな人生を終える事かできたのだと。


「えらく受け入れが早いわね?」


「あのまま生きていたところで、

きっと死んでるのと変わらないでしょうから」


俺は苦笑いして目の前の神様に言う。


「春希さん、私はあなたの事をここから見ていたの。」


「どうして神様が俺を?」


「私は生きながら苦しんでる人を何人も見てきた、

それこそ数え切れないぐらい、、

そこでいつも思うのよ、

時間と空間を司る私の神としての力を使えば

その人々の人生が終わる瞬間にこの世界に産まれて

ここまで生きてきてホントに良かったって

思ってもらえるんじゃないのかな?って。

そしてあなたは私が一番最初に選んだ魂ってこと。」


神様の言葉を聞いて俺は思った、

この神様は何処か人間臭くて、

この世界に生きる人々を幸せに生きさせ、

そして幸せに終わらせてあげたい。

そんな思いが伝わってくる。


「俺を選んだ?っていうのはどうして?」


「あなたが知らないのも無理はないけど、

雨宮春希として産まれる前は私の部下だったのよ。

時空の神力だけなら私と同程度の力を持っていたの。

だからこの神界から転生をしたと聞いたときに、

私は慌ててあなたを探したのよ、

人間界で時空の力を持って産まれてくる人間を

かれこれ1000年近く探して

あるいは待ってきたの。」


話が大き過ぎてまるで頭がついてけない、

1000年探した?

もしくは待っていた?

それに俺は神様が転生した人間?

まったくもって理解ができなかった。


「理解出来たわけじゃないですが、

メイビスさんの話はわかりました。」


「今はそれでいいのよ、、

いつか知ることになるから。」


メイビスは少しだけ悲しそうに、

含みのある言い方をした。


「ところでメイビスさん、

これから俺はどうなるんですか?」


「これからあなたの魂を過去のあなたの身体に戻します。」


「それはどうしても戻らないといけないんでしょうか?」


「もちろんそれは絶対に戻れとは言わない、

でもね?春希さん?

あなたは知るべきだと思うの、、

あなたが大事にしてきた彼女のホントの気持ちと、

あなたに伝えたかった思いを、

そして彼女の本当の死の理由を。」


どうしてメイビスさんがアイツの事を、、

そんな事を思ったが、

彼女は1000年俺の魂を探し、

待ち続け、

見てきたと言ったのだ、

事の全てをきっと知ってるのだろう。


「過去に行けばそれがわかるんですか?

俺が過去に戻ればアイツを、、

夏凛を救えるんですか?」


切実な思いで目の前の女神に訴えた。


「あなた次第で過去も未来も変えられる、

それにあなたの魂の根源は私と同じ、

時空の神なのよ?

その力の一旦を目覚めさせるわ。」


そう言いながら両手を俺の前に出し、

彼女背後に時計の文字盤の様な物が浮かぶ、


「これは魔法か何かですか?」


単純に疑問を言う。


「うふふ、そうね。

あなた達人間から見たら魔法に見えるよね。

でもこれは神法、あるいは神術とも言うの。

さぁ、私の手を取って。」


彼女の両手の間に暖かく力強い光の集合体ができていた。

俺はそっとメイビスの手を取る。


「大丈夫よ、心配しないで。」


メイビスは微笑みながら俺にその光を流し込んでいく。

俺は不思議な感覚に溢れていた、

両手を通して身体全身に巡っていく暖かさ、

メイビスの優しさも感じ取れている。

そして生きていた頃には感じられなかった、

もう一の感覚もこの時初めて感じた。


「メイビスさん、何だか心臓の辺りに。」


俺がそこまで言ったところでメイビスが言う。


「感じたみたいね、それが神力よ。」


メイビスの両手の中にあった光が全て流し終えた。


「ふぅ、、

これであなたにも神力を扱えるようになった。」


確かに胸の内側に今までには無い感覚と、

力をはっきり感じる事ができた。

しかし、、


「力は感じるんですが、

いったいこの力をどうすれば使えるんですか?」


「その前に少し説明するから、

今あなたに送った神力はあなた自身に眠った神力を目覚めさせる為に送ったの、言わば宝箱に鍵を刺した状態。

その宝箱を開くにはまだ時間が掛かると思うけど、

あなたの魂が神力と馴染んだ時に必ず開くわ。」


「そうですか、、」


少し落胆したが、元々無いものが増えるんだ、

増える為の時間と思えばいい。

そう思う事にした。


「そんな顔しないでよ、

ここまでが普通の神ならの話し。

最初にも言ったけど私は時間と空間を司る神、

つまり時間も空間も操る事ができる。

あなたに入れた神力が馴染むまでの時間を

一瞬で終わらす事もできる。

こんなふうに。」


メイビスが指を鳴らすと。

俺の身体に時計の文字盤のような物が浮かび、

その指針が超高速で回ると、

急に胸が熱くなった。


「もう開いたよ。あなたの神力が目覚めたわ。

さっきとは違う何かを感じない?」


メイビスが俺に問いかけると、

確かにさっき流してもらった神力とは違う、

俺の奥の奥から心臓の鼓動のように、

力が躍動している事が感じられる。

だけど、、


「メイビスさん、この力って、、」


「そりゃそうだよね、、

わかっちゃうよね、、

あなたの神力は私と同じ系統だけど、

1つだけ違いがある。

時空を操り、そして新たな時空を生み出すのが

私の神力。

時空を操り、時空を無に返す力。

それがあなたの神力。」


「無って、、無かった事にできるって事ですか?」


「そんな甘い話しじゃないのよ?

無って事は居たはずの人や物、

そういったありとあらゆる存在が消えるということなの」


メイビスが少しずつ説明する。


「あなたが生まれて過ごした時間や、

そこに存在したという空間、

そういった全てが消えてしまうと言えば伝わるかな?」


そこでようやく理解し、

ハッとした。


「メイビスさん、、俺はどうすれば?」


「大丈夫よ、時空を操る分には作用しないし、

それに今のあなたには時空を操るどころか

時を止め、空間を曲げる程度しかできないと思うから。」


「良かった、、」


メイビスはクスッと笑い、

もう一度指を鳴らすと、

白い部屋が消えて、

見渡す限り時計が縦横無尽に散らばった空間に居た。


「ここは私の神域よ。

これからあなたを過去に返します。

そこから先は春希さん、あなた自身で頑張って。」


「ありがとうございました。

メイビスさん、必ずやり直してみせます。」


メイビスは微笑み、


「行ってらっしゃい。」


それだけ聞くと俺は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ