7 妹
昔12年前
中村がまだ学生の頃、中村一家は平凡に暮らしていた。
BPCOUに所属している父と姉は、表向き父はただのサラリーマンであり、姉もただの会社員だったからだ。
母、中村結衣
父、中村たかし
姉、中村文乃
妹、中村さとみ
朝の光がゆっくりと部屋に差し込む前に、早朝からメール三昧だ。
親友の工に流行りの曲を貸すことを伝えて、ちょっとくだらない内容でほくそ笑んだ。
「ははっ、くふふ。あいつねーわ!最高」
ゴトゴトと家族の目が覚める物音がする。
床を踏む足音が響く。
廊下を歩いてると鏡の前で姉が化粧をしているのがチラリと見えた。
一階に降りる。
父はシャツに袖を通し、腕を動かしていて、母はテーブルに食器をセットしていく。
母の振る舞いには優雅さがあった。それも家が平和だということの表れだろう。
遅れて姉が降りて来るとすでにスーツを着ている。
姉が聞く「おはよう、ジャム買っといてくれた?」
母がジャムを手にするとテーブルに置く
「はい、ジャム」
妹がトタトタと降りて来た。
「また、パン~。」
「文句があるなら食べなくていいよ。ほら、わがまま言ってないで食べなさい」
「さとみ」
パンに紫色のジャムを多めに塗って目の前に置いてあげる
「ん、ありがと」
可愛い妹だ。ついつい甘やかしてしまう。
「それじゃあ、行って来ます」
「行って来ます!」
「行ってきまーす!」
キキー!
自転車が家の前で停車する
親友の加藤工だ。
「倫也ー!」
「あ、工が来てる。行ってくるよ!」
「待ちなさい。倫也!」
母が弁当を差し出す
「はい、弁当」
「ありがとう。行ってくるね!」
「いってらっしゃ~い」
「悪い待たせた」
「おう、全然」
「そんでさ~」
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不意にさとみの瞳から涙が流れ出す。
「これは・・・私の記憶?」
ビルの屋上、4大怪物たちは人の姿のまま集まっていた。
父、宇梶が言った
「さとみ、お前が行ってくれると助かる」
「ええ、そうするわ。お兄ちゃんにも会いたいし」
中村倫也の親友、斎藤工も言った
「そうだよ。さとみ、楽しんでおいで」
「うん!じゃあ、行くね」
そう告げるとビルの上から躊躇なく身を投げ出した。
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BPCOU本部室長室で、黒い椅子に深く座り貫禄ある男が答えた
彼の名は遠藤憲一、BPCOUの現場室長を担当している
高橋一生に遠藤憲一が言った
「デストロ・・・いや、中村倫也の両親は元BPCOUの隊員だ。」
「そうなんですか!」
「ああ、4大怪物のうち2名の身元は判明している。旧姓は父、中村剛士と姉、中村文乃だ。親子二代でBPCOUのエリート隊員を務めていた。もっとも文乃のほうがデストロが倒したが、それはいい。人の社会に潜伏する過程で名前を変えたのだろう。彼らは優秀な戦士として活躍していた。だがあの日、謎の怪物に襲われ、吸収された。その彼らが怪物になって戻って来るとは・・・」
遠藤は窓の外を見ると一息、ため息を吐き、続きを話し出した。
「弟の倫也のほうは、二人が隊員だったことを知らなかったようだが、どうやってロストバスターシステムを手に入れたのか・・・まあ、いずれにせよ。やつの行動動機も少しは推測が付くというものだ。怨恨か、私怨か、我々に敵対する戦士、敵であることに変わりはない。西島くん亡き後、君の手腕にこの国の、いや、あえて言おう。人類の未来がかかっている。引き続き任務に励んでくれ。」
「はい!」
警報アラームが鳴り響く
「出動だ!」
「了解!」
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ドボーン!
空から人が降って来ると、地面に着地する。当然人間ではない。
石原さとみ、そうコウモリ怪物だった。
高橋が現場に駆け付けると、
東京都渋谷区、渋谷駅前、渋谷センター街の入口付近に広場、ハチ公前に人が集まっていた。
そこに4大怪物の一角、女性が現れる。彼女石原さとみは、道行くカップルたちを恨めしそうな目で見た。
「あははははははははは!」
「そうなの!」
「すごい!すごい!」
人々の楽し気な声が響いていた。
「ああ・・・いいなああ・・・彼氏がいて、幸せそうで・・・」
「ふん!」
手をかざすと、見えない鞭が一人の女性の首を跳ね飛ばす。
血が噴き出し、
「わわ!わわあああああああ!」
彼氏がしりもちをついて悲鳴をあげ
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
騒ぎに気が付いた人々が悲鳴をあげる。
「はあ!」
さらに見えない鞭を振り回すと、鉄のオブジェが切り裂かれ、人の上に落下、下敷きにした。
あるいは、道行く人の体を切り刻み、血しぶきが飛び散った。
「はははははははははー!はあーー気持ちいいーー!」
狂気の笑みを浮かべで、見えない鞭をもてあそびながら、人込み目掛けてゆったりと歩いていく。
「あははは!」
さらに見えない鞭を振るう
ドシャーーーーー!
「が!」
短い悲鳴が上がり、白いカーディガンを着た女性の背中が弾け飛び、真っ赤な血しぶきが吹き上がる
「ほーらっ!」
ビュン!
遠心力が加わった鞭が、ストレートパーマのかかった黒髪の美女の顔を粉砕する。
ドチュ!
鈍い肉の音が響き渡る。
新たに鞭を振りかぶる。
「そこ!胸が・・・デカい!」
バン!
「あぶえ!」
小さな悲鳴があがり、大きな胸をした女性の胸が弾け飛び、赤いまだら模様が飛び散る。
多くの人々が切り捨てられ、吹っ飛んでいく。
「やあああああああああああああああああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
狂気の笑みを浮かべてさらになる鞭を振るう
「髪が・・・綺麗!」
シュン!
「ぐえ!」
「素材が・・・いい!」
シュン!
「が!」
「黄金比!」
シュン!
「ぎいい!」
最後に大きく振り回す
「全部、消えろおおおおおおおおお!」
長く伸びた鞭が10人の逃げまとう人々をまとめてぶっ叩斬る
ドカーン!
電柱がぶっ倒れ
バチバチバチ!
スパークが巻き起こり、たゆたう電線が人だまりの上に落下して、二次災害を巻き起こす。
中村倫也が現れる。
「石原!」
「ああ、お兄ちゃん、来てくれたのね。うれしい!」
中村は周囲の凄惨な光景を目にする
「これをお前がやったのか・・・」
そんなものどうでもいいかのようにさとみは笑顔で言った
「昔みたいにさとみって呼んでくれるとうれしいなあ!」
「違う!お前は!・・・さとみの体を奪った怪物だ。さとみじゃない!」
中村は思い出す。
目の前で怪物へと変えられて行った家族の姿を、その無念を。
「そんなことないよ!さとみはお兄ちゃんが大好きだよ!」
中村は涙を目に溜めて言った
「ふざ・・・けるな!妹を・・・よくも俺の妹をおおおおおおおおおおお・・・!」
中村がデストロ専用のソフトカードを携帯機にセット
中村が叫ぶ
「神来!」
雷が落ちると同時、綺麗な光の粒子が高橋を包み込みスーツが体に装着された。
「デストロ!起動!」
両目が緑に光る
「うおおおおおおお!」
中村が戦いを挑む
高橋は思った
俺も早く神来しないと!携帯端末を手に取ったとき
「そこを動くなああああ!」
バン!バン!
ドカーン!
「うわ!」
自分が立っていたすぐそばにあった郵便ポストが爆散する。
なんと中村が怒鳴り付け銃撃、威嚇してきたのだ。
その凄まじい剣幕は悠に手を出せないことを物語っていた。
「あくまで自分で決着をつけるってことか!」
「暇なら相手をしてくれるか?」
宇梶剛士が現れると蜘蛛怪物へと姿を変える。
高橋が言った
「蜘蛛怪物!なら最初から全力でいく!」
メモリーカードを手にする。
携帯機にセット、
さらにもう一枚メモリーカード手にする
携帯機にセット
高橋が叫ぶ
「神来!」
雷が落ちると同時、綺麗な光の粒子が巻き起こり、全身にさらなる追加パーツが転送され
ブルー・セイバー・3へと強化する。
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中村が銃をソードへと変形させて構えた
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
怒れる閃光の一太刀が、蛇怪物を縦横無尽に通過していく。
吹きすさぶ嵐のごとき一撃は、彼の内面の激情を発露していた。
高速で振り下ろされる殺陣の雨。その中で中村は何かをぶつぶつとつぶやいていた。
それを高橋は聞き逃さなかった。
「あいつ・・・妹をのことを・・・」
中村は妹との思い出を口ずさんで妹の体を切り刻んでいた。
いくえにもソードが振るわれ、血の代わりに可視化されたエネルギーが火花となって飛び散る。
「お前をいま呪われた運命から解き放つ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
強力な閃光がコウモリ怪物を斬り捨てた
「キイキイキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
ドカーン!
大爆発が巻き起こる。
確実に殺す一撃を振るった
妹は爆発と共に塵となった
「・・・くそおお・・・」
中村の押し殺したような小さな叫びが響き渡った。
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「はあ!」
ソードを振りかざして蜘蛛怪物に向かって突進を仕掛ける
「ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ!」
咆哮、恐怖。
「ひるむな!集中しろ!」
ソードと蜘蛛怪物の攻防、剣と爪がぶつかり合う音が轟く
「はあ!」
蜘蛛怪物の攻撃をかわしつつ、ソードを振り下ろす
ギャイン!
火花が散る
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
蜘蛛怪物が傷つきながらも襲い掛かる
「ぐっ!こいつ!」
ソードによる攻撃は効いていないようにも見える。遠くで戦っている。デストロの剣裁きを見ていると、敵に通用しているのが見えた。
どうして!スペック上じゃカスタムしてる分、デストロよりブルーセイバー3のほうが上のはずなのに!
それはまぎれもなく装着者の絶対的な戦闘センスの差だった。
戦いは激しさを増し、巧みな動きで怪物との距離を取りながら攻撃を繰り返す
「はあああ!」
力強くソードを振るい、蛇怪物の胸部一撃を加える
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
なんとかダメージになっている風には見えるが果たして・・・。
そのとき、蜘蛛怪物が跳躍して闇の中へと姿をくらました。
「逃げたか・・・いや、見逃してもらえたのか・・・」