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第2話:フィーアとノイン


 まだ日が登った直後だったようで、辺りは少し薄暗かった。不気味に思えるほど静かで、ただ地面を踏むサクッサクッという音だけが聞こえてくる……そんな状況だったら、まだ俺も冷静になれたかもしれない。


 “ドオオオンッ!”


「ぎゃああああああああ!!!!!!!」


 すぐそばから響く轟音に、思わず大絶叫。前を走っていた女の人が驚いた様子でこちらを振り返る。


「アハトしっかりして!」


 へたり込む俺に一喝。

 っていうか無茶言わないでください俺つい数分前まで平和大国に居たんですから。

 急にこんな爆音響く荒野のど真ん中に放り出されてるんすから。心の準備ってやつが…


「なんか…子どもの頃に戻っちゃったみたいだね…」


 相手は俯きながら懐かし気に呟く。

 どうやらアハトという人物も、小さい時はこんな感じだったらしい。


「とにかく本部に戻れば安全だからもうちょっとだよ!」


 腕をぐいっと引っ張られる。少し強引な気もしたが、この人なりに心配してくれてるのかもしれない。いい人だ。



 ***



 先導してもらいながら走ること数分。臨時で建てられたであろう真っ白いテントのようなものが目の前に現れた。

 入り口には謎のマークが描かれている。学校でいう校章みたいなやつか?


「入って…ノインさん!いますか?」


 女性の後に続いてテントの中へ。中は外から見た以上に広かった。

 真ん中にそこそこ大きめの丸いテーブルがあり、その周りの一部が白いカーテンで何かを隠すように覆われていた。まるで保健室だ。


「ん?なんだフィーア。そんなに慌てて…」


 カーテンで仕切られた向こう側から、少しトーンの低い女性の声が聞こえてきた。

 そういえば自己紹介されてなかったけど、この桃色髪の女の人はフィーアって名前なのか。


「話は後!一大事!」

「お、落ち着きなさいな…待ってすぐそっち行くから…」


 シャッとカーテンが開く音がして、奥から紫色の髪の女性が姿を現した。ヘアバンドで前髪を全てかきあげ、フィーアさんと同じ隊服らしき服の上に白衣を着ている。

 年齢は、二十歳くらいだろうか。少なくとも年上ではあるようだ。


「ん?アハト…なんか変じゃね?」


 ギクッ。そんなぱっと見で分かるもんなの…?なかなかこの人は勘が鋭いようだ。


「ノインさんどうしよう…私のせいで…」

「ん?待て待て落ち着けフィーア。話ゆっくり聞こうか」


 今フィーアさん、「私のせい」って言った?俺は目覚める直前までのアハトとしての記憶が皆無だし、申し訳ないけどちょっと気になるかも。

 仲間の姿を見て安心したのか、再び泣き出しそうなフィーアさんときょとんとしている俺を、ノインさんがそばの長椅子に座らせる。

 涙目になりながらフィーアさんが話したのは以下の通りだ。


 ・アハトとフィーアさんは二人でツヴァイ(誰かは知らないが多分敵だろう。)と戦闘していた。

 ・フィーアさんが体勢を崩した所を敵が攻撃しようとしたのをアハトが庇って怪我をした。

 ・アハトが放った一撃が敵に大怪我を負わせて撤退させることが出来たが直後にアハトは気絶した。


 …という感じらしい。なるほどね〜…

 それにしても、良かったよアハト(俺?)死ななくて。うん!命大事!


「…となると、アハトがああなってるのはツヴァイの攻撃で記憶が飛んじゃったからと?」

「どうしよう…」

「まあまあだから落ち着きなさいて。幸いツヴァイが撤退して、もうこの戦いも終わりだろうし。ほれ、ココア。アハトも」

「ありがとうございます…」


 とても戦闘には参加できないと判断されたのか、ノインさんは俺たちを外に放り出す気はあまり無いらしい。ありがたい。

 ほんのりハチミツの匂いがするココアをフーフーしながら飲んでると、ノインさんが不思議そうな顔をしていた。

 アハトは猫舌では無かったのかもしれない。


「ところで聞きたいんだけど…」


 フィーアさんがココアに夢中になっている隙を見て、ノインさんが俺に小声で話しかけてきた。


「君、アハトじゃ無いでしょ。…一体だれ?」


 …やっぱり勘がいいなこの人…聞かれたく無いこと早々に聞かれちゃったよ。どうしよ…「転生しました」なんてそう簡単に言っていいのかも分からないし、そもそも信じてもらえるか分からない。

 でもとにかく敵じゃ無いってことは言っとかないとまずいか…。


「誰かっていうのは言えませんけど…敵じゃないってことは言っておきます」

「ふーん…そっか」


 相手は納得したようなしてないような微妙な表情で、気を紛らわすようにテーブルの上に散乱していた資料らしきものを整理し始めた。

 途中で何かぼそっと呟いたのが耳に入ったけど、何を言ってるかまでは分からなかった。


「ま、改めて…」


 急に整理の手を止めて、ノインさんが俺の方を見る。


「私はここの技術者兼軍医。ノイン・セプタ。知ってる人にこんなこと言うのも変だけど、よろしく」

「えっ…よ、よろしくお願いします…」


 急に差し伸べられた手を握って握手。あ、意外と力強い。


「で、隣の…あぁ、今隣で寝てるのがフィーア・エイリル。覚えてるっていうか知らないだろうけど、アハトの幼馴染で、彼女候補」

「へっ⁉︎…ゲホゲホッ…!」


 …急にやめてくださいよノインさん…ココアが変な所に入って…。

 抗議するように目の前の相手を見ると…。

 oh…めっちゃニヤニヤしてるぅ…隣で寝てるフィーアさんに見られなくて良かった…。


「あ、そうだ言い忘れてた」

「なんですか…?」

「リーダーに今の状況連絡しとくから、とりあえず本部に戻っといて」

「え?」


 さっきフィーアさんはここが本部って…ああ、これあれか。臨時のっていう感じなのか。

 そういえば見た目もテントっぽかったし。


「フィーアが起きたらナビゲートさせるから。改めて挨拶っていうか、説明した後がいいと思う」

「……はい、わかりました」

「まあ多分もう知ってるだろうけど(ボソッ)」

「へ?」

「なんでもない」


 ノインさんはそう言って、再び資料の整理を始めた。

 リーダー…なんかカッコいい響きだよなぁ……怖い人じゃなきゃいいけど…。


続けて第二話を…

ここからは定期的な投稿になります

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