アヤとマサヤ
綾は自分のベッドの中で嗚咽を漏らして泣いていた。
彼氏の真也とひどい言い合いをしてしまったのだ。
綾はついに言ってしまった。
「もう真也のことなんか知らない!もう別れるから!!」
そして相手の反応を待たず、電話を切ってしまった。
とてつもない後悔が綾を苦しめていた。
「ヒック・・・ヒック・・・」
綾はそのまま深い眠りについた。
どれぐらい経ったのだろう。
綾はゴソッと起きだした。
目は赤くはれ、泣いた涙のあとが顔に残っている。
ふとスマホを取りだし、LINEを開く。
「・・・!」
友達から個チャで連絡が来ていた。
(綾!!彼氏の真也君だっけ・・・救急車で運ばれたよ!!・・・)
「はっ・・・?」
綾は自分が何を見ているのかわからなかった。
「嘘でしょ・・・」
・
次の日、綾は友達から聞いた、真也が入院してる病院を訪れることにした。
病院は綾の家から少し離れたところにあったので、綾はバスで向かった。
病院の中は独特の雰囲気だ。
向こうから車椅子のおじいちゃんが来る。看護師が歩いていく。骨折した男性が松葉杖で歩いていく・・・。
綾は受付センターへ行ってみた。
「あのっ・・・すみません!」
「はい!どうしましたか・・・?」
「えっと・・・あの小林真也ってこの病院いますか・?」
「あっ、お見舞いの方ですか・・・少々お待ちください。」
すると対応してる人は電話をかけて何か言い始めた。
「大丈夫です。まだ目はさめてませんけど意識は戻っているとの事なので・・・」
綾はホッとした。
「あのっ、会えますか・・・!?」
「もちろん、大丈夫です。今から行きましょうか?」
「はい!」
・
真也の病室は504。
看護師さんは簡単にお見舞いのルールを言うと別の仕事があるということで行ってしまった。
綾はそっとドアを開けた。
病室は2つのベッドがあり、片方は空いている。
綾はなるべく音を出さず、こっそりもうひとつのベッドに向かった。
「真也・・・?」
そこには真也が目を閉じて、寝ていた。
「あのっ、真也・・・」
真也は起きない。綾がベッドのそばに居るのに・・・。
「お願い・・・狸寝入りしないで・・・そう、全部悪いの私だから、真也は全然悪くないから。だからお願い起きて・・・真也・・・!」
でも真也は寝ているままだ。
綾は自分の足に力が入らなくなるのを感じだ。そのままへなへなと座り込んでしまった。
綾の頭には真也が起きなかったショックと自分のしてしまったことが取り返しのつかないことになってしまったことへの後悔しか無かった。
綾の視界がぼやけはじめた。
涙がポロポロ出てくる。
「真也・・・・」
綾は頭を垂れた。涙がどんどん出てくる。
「おい・・・」
声がした。
綾が前を向くと起きている真也の姿があった。
「何めそめそ泣いてんだよ・・・綾らしくないってのに・・・」
そう言うと真也にやっと笑った。
「真也・・・!!!!」
「救急車で運ばれたって聞いて飛んできたんだろ。まぁ今んところは薬入ってるし問題ないんだけど。なんだよ、仲直りに来たのかよ・・・」
「真也・・・・ほんとにごめんなさい!」
「おいおい、綾は真也とごめんなさいしか言えなくなったちゃったのか?・・・俺も悪かった。めちゃくちゃ言いすぎたし。傷つけたし。
ほんとにごめん。」
「じゃ、真也、別れるの・・・」
「ある訳ないだろ!そんなのないよ。正直お腹がめちゃくちゃ痛くなる直前、マジで謝ろうと思ってたから。そんでスマホ持ったらお腹にビリビリって来て・・・・気絶しちゃったってこと。」
「そうだったんだ・・・」
「原因もわかった。大腸がんだってさ。」
「えっ!!!」
「とは言ってもステージ1だから簡単な手術をして取り除ければいいだけ。でも2週間は入院だってさ。予定が急に入ったからね・・・」
綾はホッと安心した。
「なんか色々迷惑ばっかかけて・・・ごめん。」
「何言ってんだよ。俺もめちゃくちゃ迷惑かけたし・・・あ、そうだ!この前やろうと思ってたんだけど。」
すると真也はバックパックの中から1冊のノートを取りだした。まだ新品だ。
「これ使ってさ、綾と交換日記がしたい。」
「えっ!?」
「俺と綾が付き合い始めてもう一年ちょいじゃん?せっかくだしやってみたかったんだよね!この機会に。」
「交換日記・・・」
「で、3日ごとの交代。1日ごとだと大変だし。だから3日ごと。どう?」
「うんいいと思う!!やってみよ!」
「よし!じゃ今日から綾が書き始めるってことで。」
「了解。」
綾が笑顔で言った。
・
交換日記1日目
綾です。
今日はダンス部の練習が3日間連続でありました・・・疲れた・・・1週間後はいよいよ区のダンス大会です。頑張ります!!
友達の茉由子が「お疲れ様!」って言って、放課後、アクエリアスをもらった!めちゃくちゃ嬉しかったです笑やっぱり茉由子は頼りになるし、親友だなぁ・・・真也は元気でやってる?
病院はつまんないと思うし、早く学校行きたいと思うけど、頑張ろ!!真也の友達も帰ってくるのを待ってます!
あ、宿題は英語のセクション1の予習です。
あとはないかな・・・
普通のことしか言えなくてごめんなさい!
次はもっといいネタ持ってきます!
次はMASAYAです!!
交換日記1日目
真也です。
綾、元気???
今日交換日記持ってきてくれてありがとう!
顔が不安そうだったから大丈夫かなって思ったら、
「内容が普通なんだけど・・・」
全然大丈夫です!!!
ていうか日記ってそんなもんだし笑笑
俺ん所はあまり変わりありません。
手術の予定が決まっただけ。
1週間後になりました!
最初の予定日より早くなった・・・・
綾とまた一緒に登校したいし、また学校行きたい・・・
まずは手術に向けた体づくり、頑張ります!
綾、ダンスの大会頑張って!!!
Doyourbest!!!!
and
swag!swag!swag!
綾、はじけちゃって!!!
次は綾です!
交換日記2日目
綾です!
無事に大会終わりました!
参加した17校のうち、3位に入りました!!…
めちゃくちゃ嬉しい・・・その後打ち上げで友達と焼き肉食べに行きました!
やっぱり勝利の焼肉は美味い笑
真也!いよいよ手術が近くなってきて不安になるとは思うけど、絶対大丈夫!!!綾がついてる!!
私も大会不安だったけどベストパフォーマンス出来ました!
だから真也も大丈夫!私でも大丈夫だったんだから。
あ、でも手術は上手くいくかは医者しだいか・・・
でも真也なら必ず治るよ!綾は真也がまた私のところにお泊まり会することができるように、
布団用意してます笑笑
真也頑張って!!!
これしか言えないけど、精一杯伝えます!
ファイト!!
次は真也です!
交換日記2日目
真也です!
僕が綾にこの本を手渡すとき、その日はいよいよ手術の日です。
最後になるかもしれんので笑(ないとは思うけど)伝えておきます。
僕は初めて綾と出会った時、とても綺麗で可愛いな、というのが第一印象でした。
声もちょうどいい高さで明るくて、自分からどんどん行って・・・ポジティブ思考で、泣いてるところもやっぱり可愛くてそして何より笑顔がめちゃくちゃ好きでした。
中2で同じクラスになってまだあんまり喋ったこと無かったのに
放課後に手紙で呼び出して、
付き合ってもらっていい?と聞きました。
すると綾は「いいよ!!」とあの笑顔で言ってくれました。
ほんとに可愛かった。うん。
僕と綾は沢山笑って、そしてそれと同じぐらい口喧嘩もしました。
大半は僕のせいです。ほんとにごめんなさい・・・
でも喧嘩するほど仲がいいって言うようにこういう仲が一番いいのかもしれない・・・
綾は1回「別れたい?」って聞いたことがありました。
その時自分は、自分自身の情けなさ、不甲斐なさにショックを受けました。
もうこれ以上綾にそんな言葉を言わせたくない。
そんな思いでずっと綾と歩いてきたつもりです。
綾。もし僕が死んだら、綾は僕なんかより全然いい人と付き合ってください。
僕の思いは捨てて大丈夫です!
綾の人生が良いものとなるように・・・
心から願っています。
最後に・・・
綾、これからも頑張って!!
そしてもし手術成功したら・・・
これからもよろしくお願いします!!
真也より。
〜完〜