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砂塵の狼  作者: れのん
第9話 傭兵仕事
20/21

【1】

 いまだ砂の多く残る道ではあるが、徐々に鮮やかな緑色を見ることが多くなってきた。近くにオアシスがあるのだろう、大都市に近付いてきたことをおぼろげに感じる。

 大都市に近い道の脇では、民家と思しき建物を見ることが段々と多くなる。この周囲の道はもはや人通りが多くなっており、人間による管理が行き届いている地域になってきた。

 人間による管理が行き届いているということは、邪気が蔓延しづらい場所ということである。レイエンは西へ進む度に身体が軽くなってくるのを感じた。フェイロンやリンシンが、ウテンに着いたらしばらくの間休暇になると言っていた。さまざまな食べ物や娯楽、柔らかい寝台があるらしい。今の状況を整理して、今後の身の振り方を考えるためにも、ゆっくり過ごさせてもらいたい。だが、具体的にどんな休暇にしたいかは思い描くことはできない。とにかく一旦心を落ち着けて休みたかった。


 月華義団はウテンに着く前に、キャラバンサライで泊まることにした。

 フェイロンは何か気になることがあるようで、街に着いてすぐにルーフンを連れて街の様子を見に行った。それ以外のメンバーはその日の宿へ着き、大部屋に集まる。

 リンシンが手続きを終えて部屋に戻ってきたが、何やら彼女もまた渋い顔をしている。

「なんだか慌ただしいわね……」

 どうやら既に多くの宿が満室になっており、その日の宿にありつけない旅人であふれかえっているらしい。月華義団がこうして大部屋に泊まることができたのも、早めに街に着いたおかげである。あと一歩遅ければ、どこかの民家に世話になるか、街の外れで野営をするほかなかっただろう。

 4人が部屋で休んでいたところ、街の様子を見てきたフェイロンが渋い顔をさせながら部屋に入ってきた。

「ただいま帰りました。良い報せと悪い報せがあるのですが、どちらから聞きたいですか?」

 薙刀の手入れをしながら、レイエンは「良い報せしか聞きたくねえな」と呟く。

「そんなわけにもいきませんので、先に悪い報せからお話しますね。……単刀直入に言えば、我々はしばらくの間、ウテンに向かう関所を通ることはできないようです」

「えっ、な、なんで!?」

「マジかよ!」

 リンシンとディジャンが同時に声を張り上げる。

「検閲が混み合っているのです。南の崑崙山にねぐらを持つ山賊がこの街の周辺まで来て、物資を求めて暴れています。その処理に関所の人員の多くが出払っていて、検閲の作業が遅れているのだとか」

 ウテンという貿易都市が近い分、検閲の手を緩めるわけにはいかない。大国がある以上、禁制品の密輸が行われている可能性が大いにある。だから人員が不足していたとしても、すべての荷物を検査しなければならない。

 この街の隊商宿がやけに混雑しているのは、検閲を待機するキャラバンが多いためであった。

「山賊といっても……関所の人員を削る程の数なの? すぐに対応できないのかな」

 訝しげに、ミンミンが尋ねる。対してフェイロンは、首を横に振った。

「山や谷、人里離れた場所で陣地を構える山賊は、殆ど軍隊と変わりません。学のないならず者だけではなく、兵法や武術に長けた専門家もいます。彼らの統率力を考えると、すぐに追い払うことはできないでしょう」

「つまり、いつ関所を通れるのかわからないってことね……」

 顎に指を当てて呟くリンシンに、フェイロンは静かに頷いた。

 宿だけでなく街全体が混み合っている。滞在が続けば、この宿から追い出されてしまうことだろう。いつまでこの建物に滞在できるかわからないのである。

 迂回をするにしても大きなリスクがつく。北には妖怪まみれの死の砂漠、南には山賊と関所兵士の戦場がある。たとえあらゆる死地に足を踏み入れる月華義団でも、今は持っている物資の量に難がある。更に街は混み合っていることから、危険な道を通る分の物資をこの街で調達することはかなわないという。

「それで、良い報せというのは?」

 レイエンが尋ねると、フェイロンは上機嫌に答えた。

「トラブルがあるということはつまり仕事があるということです。良かったですねえ、これでウテンに着くのが遅くなっても、飢えは回避できますよ!」

 フェイロン以外は期待して損したとでも言うように、各々溜息がこぼれる。

 やがて腹が鳴る音が聞こえてくると、その様子を見たルーフンが呟く。

「その暴れてる山賊とやらを食えばいいじゃねぇか」

「それができるのはあんただけでしょぉ!!」

 リンシンにツッコミを入れられたルーフンは怪しく笑いながら、「盗賊の肉はうめぇぞ」と返した。彼にとっては、戦場に散っていく大量の人間の肉が腐っていくことこそもったいなくて仕方ないのだ。

「でもよ、いつ戦が終わるのかわからないってことは、明日終わるってこともあるかもしれないだろ? もう今日は飯食いに行こうぜ、飯!!」

 ディジャンが快活な声で言うと、フェイロンは柔らかく微笑んだ。

「ふふふ、ディジャンらしい。確かにこれ以上考えても仕方ないですね。今日はもう遅いことですし、ご飯でも食べに行きましょうか」

「さんせーいっ!」

 リンシンとディジャンの元気の良い声が部屋に響いた。

 街全体がその日の疲れを癒やしたい旅人で溢れ返っているため、外食も選り好みをすることができない。月華義団は何軒も店をまわり、ようやく6人分が食事を出来るスペースのある酒場に入った。

 店内は大盛況で、何人もの給仕がひっきりなしで客に料理や酒を運んでいる。長い間検閲を待たされている不満を怒鳴り散らしている酔っ払い客や、この旅の停滞と混雑という機会に乗じて小気味よい商談をしている酔っ払い客、更には何もかもを忘れて酒を流し込んでいる酔っ払い客。客の声と酒の臭い、忙しそうな給仕と、とても慌ただしい世界だった。

 給仕が月華義団一行を連れて行った奥の長机には別の客が座っていたが、やっとの思いで腰をついて飯を食える場所にありつけたことから、一行は特に気にすることも無く続いて座っていく。

 フェイロンは隣合った客に軽い挨拶をした。

 同じ長机にいる眼帯をした大男は、溢れんばかりの麦酒が入ったグラスを片手に持ったまま、無愛想な会釈をした。周りにいる商人たちとは違って、いかにも戦士であるというような風貌をしている。ただ彼の身につけている防具は、西域や唐帝国でも見ないような意匠が施されていた。おそらくは西域より遙か西の向こう、地中海と呼ばれる大きな海の近辺にある「大秦(ローマ帝國)」と呼ばれる大国の意匠だ。

 酒を浴びるように飲んでいる眼帯の大男の隣にいる細い男と青年の防具も同様の意匠が施されている。どうやらこの3人は仲間なのだろう、たまに親しい雰囲気の短い会話がやり取りされる。

 遙か西方の大国の兵士が、こんなにも遠い砂漠の地にどんな用事があるというのか、レイエンはぼんやりと疑問に思った。

「ミンミンちゃん、大丈夫?」

 料理の注文を終えた頃、具合の悪そうにしているミンミンにリンシンが話しかける。何やら顔色が良くない。そして鼻をつまみながら、煩わしそうな表情で言った。

「酒臭いぃ……」

「死体の臭いを嗅いでも平気なお前が、酒の臭いでへばるなんて、おかしな話だな」

 ルーフンが注文した肉を食らいつきながら、意地悪そうな顔で言った。

「ばっ、馬鹿にしないでくれる!?」

 ミンミンは、大体酒なんかに浸っている奴がこんなにもたくさんいるのがおかしいのよ、と文句を垂らす。そして甘い味付けを施された冷たい山羊の乳を一気に飲み干した。疲れている彼女は、普段よりも苛々している。月華義団の誰よりも年若いのだから、いち早く宿屋について眠りたい気持ちでいっぱいだろう。

「そこのお嬢さん、良かったら私の横に来ない?」

 すると眼帯の大男の、隣にいる者が、ミンミンに尋ねた。

 色気のある容姿の、中性的な男だった。ウェーブのかかった金髪に、赤いルージュと泣きぼくろが印象的だ。兵士風の軽防具を着ている。

「こっちの二人はお酒を飲まないから、多少は臭わないと思うわよん」

 親しげに話しかける彼に、眼帯の大男が舌打ちをする。

「おい、ラルゴ……」

「何よ。早く席替えしてあげなさいよ、せ・き・が・え!」

「ったく、しょうがねえな……」

 眼帯の男はミンミンと席を替わり、またそっぽを向いて酒を飲み始める。ミンミンは少し控えめな様子であったが、端に来ることをしつこく薦められると、席を移動して、中性的な男の隣にこじんまりと座った。

 やがてミンミンが壁にもたれて眠り始めると、眼帯の大男がフェイロンに話しかけた。酒が回ってきているようで、先程よりもやや機嫌が良さそうな様子である。

「お兄さんたち、どっから来たの」

「遙か東の敦煌から。砂漠の道に乗って交易の旅をしています」

 フェイロンは答えたが、眼帯の大男は怪訝な顔をした。

「んー、どこかわかんねえが。まぁいい。それにしても、こんなちっせえガキ連れて、交易の旅とはねえ……」 

「彼女とは旅の道中で出会いました。外はとても危険ですので、共に旅をしています」

「ふーん」

 実際、ミンミンは脅されて、強制的に加入させられた不憫さを持っているが……建前としては的確な説明である。

 しかしミンミンと出会ったあの日、あの場で彼女を解放したとしても、遅かれ早かれ、何らかのトラブルに巻き込まれていた可能性がある。フェイロンはそれを考慮した上であのような脅迫じみたことを言ったのであった。

 彼女も最近は高圧的な態度がだんだん無くなってきている。きっと心細く、先行きが不安だったのであろう。相変わらず自ら進んでギルドに協調するようなことはしないが、高圧的な言い方はだんだんと減ってきている。

「あなた方も、遙か西の国からこんな砂漠の真中でお仕事ですか。傭兵さんも大変ですねぇ」

「へぇ、わかる? 俺たちの生業。あんたらも察しがイイねえ……月華義団の親分、フェイロンさん」

 眼帯の男は、にやりと微笑みながら言った。

 レイエンは、その場の空気が数秒ほど凍り付いた感覚を覚えた。ちらと、フェイロンの方を見る。いつものポーカーフェイスは崩していないが、何か言葉を探しているのか、眼帯の男を見つめたまま黙っているばかりだった。

 どうしてこちらの正体を知っているのか、レイエンはまったくわからなかったが、この眼帯の男が疑うべき相手だということはわかる。

 向かいの席にいるレイエンがそわそわと戸惑いの表情を浮かべているのに気が付いたフェイロンは、片眼を閉じて目配せをした。

 レイエンは彼の目配せの意図を汲んだが、警戒を怠るべきではないと思った。無意識のうちに薙刀を触れる。

 そんな緊張感に満ちた空気を断ち切ったのは、眼帯の男のとなりに座っている、中性的な男だった。

「わかるに決まってるでしょうが、あたしたちこんなに目立っているのよ。何かっこつけてんの、馬鹿」

 そして次には月華義団の方に顔を向けて、とても朗らかな表情で自己紹介を始める。

「あたしはバルバラ。この図体と態度のでかい眼帯がギディオン、それと夢見がちな新人のカイルくん」

 バルバラと名乗る男の紹介に続いて、ミンミンの向かいの、端の席に座るカラスマスクの青年が軽い会釈をした。

 ギディオンはきまりが悪そうに頭をかいてから、残りの酒を飲み干して、月華義団一行に視線を向けた。

「さすがにお前らもわかっているだろうが、しばらくこの関所から出られねえぜ」

 フェイロンは小さく頷いた。

「えぇ、そのようですね。どうやら異民族への対応で、荷物検査が追いついていないだとか」

「そういうこった。だがそんな時ほど俺たちにとっちゃ稼ぎ時なんだよ、お前たちだって商売の片手間に同じような仕事をしているんだから、わかるだろう」

 それを聞いて、レイエンは隣にいるリンシンに小声で質問を投げかけた。

「なぁ、何でこいつら、月華のことをよく知っているんだ?」

 するとリンシンは苦笑いをしながら答えた。

「……拠点から少し離れたこの地域では、うちらって結構悪名高いの。少しでも情報収集されたら、いろいろ知られちゃうのよね」

「悪名?」

 もう間もなく到着する砂漠の真中の大きな交易都市、ウテン王国。そこは市場の規模が大きいが故に、儲けの臭いを嗅ぎ付ける商人が多く行き交う。あまりにも巨大な市場であるため、個人で利潤を獲得できるような場所ではない。複数人で構成された商人集団、いわばギルドとしてその市場へ乗り込むのだ。月華義団もそのギルドたちの1つである。

 さて、ただでさえ商権の競争が激しいウテンで、新進気鋭の月華義団は、一体どのようなことをして商権を勝ち得たのだろうか。

 まずは麻薬や酒、塩などの密輸を行っている闇商人をすべて蹴落とした。次にギルドの下構成員を搾取している悪徳幹部が多くいるギルドをすべて蹴落とした。そして最後にギルド商権を管理している役人の、闇商人からの賄賂行為を暴露して王に告発した。そういった市場を支配するやり方は月華義団ならでは、スパイ、脅迫、色仕掛けと……何でもありだ。

 こうして大都市の市場の"癌"を取り除くことによって、王からの信頼を得る。そのおかげもあり、月華義団は小規模ギルドでありながら大規模市場の中で確固たる利益を得たのだ。

 一方、ウテンからつまみ出された闇商人たちは、都市から少し離れた場所を商売の本拠地にして活動をしている。だからこそ、月華義団が今いる隊商宿には、"かつて"の商売敵であり、なおかつ月華義団に恨みを持っている商人が多いのである。きっと月華義団がウテンへ帰還途中であるという噂は、早馬に乗って広がっていることだろう。

 そう言われれば、先程から周りの客からの視線が痛いような気もする。

「だがな、協力し合えば俺もお前らも早くここを出られる。俺は早く依頼主に報酬を頂けられるし、お前らはこの安い酒場にいるどんな商人よりも、早くウテンへ着ける」

 ギディオンは懐から小さな木版を取り出した。何か模様が記されてある表面をフェイロンに指し示す。

 その木版を見て、フェイロンは眉を上げた。

「それは……通行手形ですか」

「俺たちの任務に協力しろ。そうすればお前たちを"関係者"として関所を通してやる」

「3人でもこなせない任務なんて、どんな内容なんでしょうかね」

「それは受諾してくれたら、教えてやる」

 するとフェイロンは、ふ、と短く笑った。

「とあれば、戦にて異民族の処理をしろ。なんてわかりやすい内容ではないのですね」

 ギディオンは声を低めた。

「あぁ、そうかもな……」

 しばらく2人の間で沈黙が過ぎる。

 穏やかではあるが、睨み合っているかのような、奇妙な探り合いがそこにあった。レイエンは皆の様子を確認したが、いずれも彼らの沈黙に横入れしようとしている者はいない。

 こちらも"威嚇"を仕掛けるべきなのか? こんな時、子分はどうすればいい。ただ、フェイロンの指示を待つしかない。何か、それを指し示す合図があればいいのだが。

「……約束は守って頂きますからね」

「当たりめぇだろうが。街が寝静まった頃に決行する、こちらの準備ができたら迎えに行くぜ」

 最後の一言は、何故かレイエンに視線を向けながら言った。

 ギディオンが立ち上がると、机の上に銭袋を置いて店から出て行った。

 袋の中身を確認してみると、月華義団が食事をした分の銭が入っている。こうまでされては、依頼を受諾せざるを得ないではないか。

「どうするのよ、兄さん」

 リンシンがフェイロンに問いかけた。フェイロンはにこにこ笑いながら「仕事を探す手間が省けましたね」と言った。

 周りには人も多いことであるし、早速宿に戻って作戦会議となった。そこでフェイロンは、依頼内容の予測を皆に説明し始めた。

「どんな仕事であるか、明らかではありませんが、夜に行うともなれば夜襲です。あるいは情報収集か……どちらにせよルーフンおじさんは絶対に行かせられません」

「んじゃ、部屋で寝てるぜ」

 ルーフンは、酒場で眠ってしまったミンミンを抱えて寝台に乗せると、同時にそのまま寝台に倒れ込み、ものの数秒でいびきをかき始めた。

 派手に戦うしか能が無い戦闘狂のルーフンには、夜襲など器用なことはできない。実際に以前、我慢を出来ずに殺し合いを始めてしまったことがあったらしい。

 レイエンは、「そうなると、俺になるか」と心の中で思った。

 ちょうどフェイロンはレイエンの方に視線を向けた。

「あの眼帯の殿方はレイエンさんに来てもらいたそうでしたが、いかがです。引き受けて頂けますか?」

「あぁ……じゃあ、行くよ」

「決まりですね、それではリンシンとディジャンも休んでいてください。仕事には、私とレイエンさんで参ります」

「あら、そう? じゃあお言葉に甘えるわね」

 リンシンはひとつ大あくびをしながら言った。

 リンシンとディジャンが寝る支度を終えて、寝息を立て始めた頃、扉の叩く音が聞こえた。開けると、目の前にギディオンがいた。

 いつの間に月華義団が寝泊まりする宿屋を知っていたんだ、とレイエンは訝しく思っていると、ギディオンはにやりと笑った。

「へへ、顔に出てんぜ。なーんで俺たちが泊まってる宿屋知ってるんだよ、ってな」

「……うるせえよ」

「わかりやすい奴は嫌いじゃない」

「早く仕事内容を言えっての」

 レイエンがむきになっていると、ギディオンは大きく笑った。しかし奥で寝ている者がいることに気が付くと、ひとつ咳払いをして真剣な表情になった。

「あぁ、わかってる。まずは目的の場所に向かうぞ」

 レイエンとフェイロンは、ギディオンに連れられ、ある商館に到着した。兵士に感づかれぬよう、一度物陰にひっそりと隠れて、様子を伺う。

 その間ギディオンに、なぜお前が着いてくるんだ、とでも言いたげな表情で見られていることに、フェイロンはすぐに気が付いた。

「私は依頼内容を確認して、レイエンさんを見送ったら、遊びに行くつもりですよ」

「あぁ、そうかい。まったく仲間思いなリーダーだな」

 フェイロンは「ふふふ……それほどでも」と言って、軽い会釈をした。

 ギディオンは早速依頼内容の説明を始めた。

「この商館に招かれている商人のお偉いさんが、禁制品を持ち込んでいる可能性がある。具体的にどんなものが持ち込まれているのか情報は得られていないが、どうも怪しいという噂が絶えない。それを確認してくるっつー仕事を、月華義団サマにも手伝ってもらうぜ」

 レイエンは眉を寄せた。

「禁制品かどうかなんて俺にわかるわけが……」

「それに関しては気にするな。警備兵の監視をしている俺の部下に着いていけばいい」

 ほら、さっき酒場にいた、顔に布巻いてる無口なガキだ、とギディオンは付け足して説明した。確か名はカイルと言っただろうか。

「あの新人は勘も良いし、気配を消すのもうまいが、ミスった時に酷くパニクる奴でね。もしもの時のためのサポートをしてくれ」

「何でお前が助けてやらないんだ」

「俺はまぁ……もっと適材適所に別の仕事があるからよ」

 レイエンは何となく、適当にあしらわれた気がした。

 それ以上何も問い詰められぬように、ギディオンはフェイロンに視線を向ける。

「それで、リーダーさんはまだ何か確認しておきたいことでも?」

「いいえ、何も。うちの可愛い新人の、華々しいワンアップにご協力頂き誠にありがとうございます」

 フェイロンは一礼をすると、夜の歓楽街へ去って行った。

 ギディオンも遊びに行こうと思っているのか、「もうひと飲み行ってくる」と言って街へと向かった。

 その去り際、レイエンの肩に手を置いて、

「レイエン、とか言ったな。さっき酒場で俺に警戒心むき出しだったが、気をつけとけよ。考えてることが顔に出過ぎると、いつか足元すくわれるぜ」

 と、低い声で言った。

 偉そうにしやがってと心の中で文句を言いながら、レイエンは商館の中へと入り込んだ。

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