狼さん気をつけて
裸の仕立て屋
「そうするとその、バカには見えない服を着ていたら、わしはバカには丸裸に見えるってことか?」
「はい」
「帰れ」
「そんなこと言わないで下さいよ」
「その、バカには見えない服を着ていると暖かいのか?」
「…いいえ」
「なんかいい肌触りでもするのか」
「…いいえ」
「いい肌触りでなくてもいいから、なんかさわった感じがするのか?」
「……いいえ」
「何の役に立つんだよそんなもの」
「いいえ! それを見せて見えるか見えないかで、その人がバカかそうでないかがわかります」
「だったら、バカには見えない壁掛けでも、バカには見えないテーブルクロスでもいいじゃねえか。なんで服なんだよ!」
「そんなことはありません! バカには見えない水着だったら、暖かい必要もないし、着ている感覚がなければ泳ぎやすいです!」
「…おまえまさか、わしの領土でその『バカには見えない水着』を売ったのか?」
「はい! 若い娘が何人か買ってくれました! その水着を着てビーチに行くと、男たちがみんな『かわいい水着だ』って集まってきて、普通の水着を着ている女たちを見向きもしないと…」
「………大臣! こいつの着ているものを全部はぎとって、バカには見えない服だけを着せてさらし者にしろ!!」
一寸法師とゆかいな仲間たち
一寸法師「39度か…。インフルエンザかなぁ。それとも無理矢理背を伸ばした副作用かな。まあいいや。寝てれば治るだろう」
桃太郎 「見舞いに来てやったぞーっ」
一寸法師「ああ、桃太郎か。ありがとう」
桃太郎 「土産があるぞ」
一寸法師「ポカリか? ティッシュか? 水枕か? 体温計か? ウィンダーインゼリーか?」
桃太郎 「もっと『桃太郎』らしいものだ」
一寸法師「きびだんごか?」
桃太郎 「桃だ」
一寸法師「…まあ、フツーのお見舞い品なんだろうけど、おまえが桃っていうと、なんだか親を食っているような気がするな」
ちからたろう「見舞いに来てやったぞーっ」
一寸法師「なんかいやな予感がするぞ」
桃太郎 「おれもだ」
一寸法師「桃太郎の土産が桃、ちからたろうが何から生まれたかって言えば…」
桃太郎 「まさか…、あれか?」
ちからたろう「あ〇だ」
一寸法師「あ〇?」
ちからたろう「垢…」
一寸法師・桃太郎「帰れ!」
バタン!
ドア「もっとオレにやさしくしろよぉ…」
一寸法師「あぶないところだった」
かぐや姫「みまいにきてやったぞーっ。オミヤゲは…」
一寸法師「ありがとう。おまえの土産は安心して聞ける」
かぐや姫「アタシといえば月、月といえばウサギ! ウサギの…」
一寸法師「ついた餅か?」
かぐや姫「肉」
一寸法師「」
桃太郎 「」
一寸法師「は?」
桃太郎 「ウサギの…」
かぐや姫「肉」
一寸法師「まあ、日本にはウサギを普通に食べる地方もあるから…」
桃太郎 「ああ、お雑煮に入れるのな」
一寸法師「いつか卯年に来た年賀状に、ウサギがお椀の中からコンニチハしている絵が描いてあった」
桃太郎 「シュールだなあ」
金太郎 「見舞いに来てやったぞーっ」
一寸法師「土産はクマか?」
金太郎 「…なんでわかったんだ!」
桃太郎 「クマの肉を食べる地方もあるし…」
金太郎 「なんで友達を食べなきゃならないんだ! ちゃんと生きてる!」
一寸法師「おまえは、生きたクマを持ってきたのか!」
金太郎 「そうだ」
一寸法師「すぐに持って帰れ! あぶなくてしょーがない!」
浦島太郎「見舞いに来た」
一寸法師「ありがとう」
浦島太郎「土産はカレーだ」
一寸法師「カレー? カレイじゃないのか?」
浦島太郎「カレーのルーだ」
一寸法師「竜宮城で、魚ばっかり食ってたから飽きたのか?」
浦島太郎「あのな、タイやヒラメの舞い踊りを見たあと、さっきまで踊ってたタイとヒラメの刺身を食わされるんだぞ! それが嫌で帰ってきたんだ! おれは今でも魚が嫌いだ!」
金太郎 「漁師が魚が嫌いでどーする」
浦島太郎「おまえ、魚が好きなのか? タイとヒラメの躍り食いなんかできるか! これだから静岡県人は…」
金太郎 「おれは神奈川県人だ!」
浦島太郎「足柄山って、静岡と神奈川の県境だろ」
金太郎 「おれが生まれたのは神奈川側だ! 微妙に東京に近いんだ!」
桃太郎 「世界一どうでもいいこだわりだな」
金太郎 「だまれ岡山県人」
桃太郎 「なんだと! 岡山はいいところだぞ!」
金太郎 「神奈川もいいところだ!」
一寸法師「静岡もいいところだぞ」
浦島太郎「静岡人がいくら魚が好きでも、さっき踊ってた魚を食ったりはしないだろう」
一寸法師「静岡の伊豆の、天城いのしし村では、観光客がイノシシの芸を見たあとイノシシの鍋を食うぞ」
桃太郎 「鍋か…、ここにあるもの全部カレーで煮込んだらどうかな」
一寸法師「病人のすぐそばで鍋パーティーをするな! …桃を入れるなぁっ! きびだんごの方がマシだ!」
桃太郎 「キジの肉を持ってきた方がよかったな」
一寸法師「友達を食うな!」
桃太郎 「イヌやサルよりましだろう」
一寸法師「当たり前だ!」
金太郎 「世界には、犬肉のスープとか、猿の脳みそとかを食べる民族がいるから、そういう発言は差別につながるぞ!」
桃太郎 「おまえさっき、岡山を差別してたじゃんか!」
金太郎 「いきなり横浜弁でしゃべるな」
かぐや姫「まあ、アタシから見たら地球の都市なんてみんなオンナジだしぃ」
金太郎 「月よりも岡山の方が都会だ」
かぐや姫「なんでっ!」
金太郎 「東京に近い」
浦島太郎「その『なんでも東京がエライ』的な考え方をやめろ」
金太郎 「そういうおまえはどこの出身なんだよ。着物の上に腰蓑をつけてる漁師なんておまえ以外に見たことがねえよ」
かぐや姫「鍋だったら、シメに餅を持ってきた方がよかったね」
浦島太郎「いきなり食い物の話にもどるのな」
桃太郎 「ダメだ。フツーすぎる」
一寸法師「鍋に入れるものなんだから、フツーでいいんだよ!」
金太郎 「……よいしょ」
一寸法師「生きたクマを入れようとするなぁっ!」
桃太郎 「それでもって、電気を消して、箸でつかんだ物は必ず食べなきゃならないという…」
一寸法師「それは闇鍋だっ!」
ちからたろう「闇鍋だったらおれの土産を…」
一・桃・か・金・浦(登場順)「帰れ!」
こうして一寸法師家の夜は更けていくのであった。オチは無いのである。
白雪姫
小人「王子様、これがわたしたちの主、白雪姫です」
王子「そうか」
小人「待ってください! 『そうか』で立ち去らないでくださいよ!」
王子「なんで?」
小人「この姿を見て、なにか思うことがないんですか!」
王子「なんで棺桶がガラスなんだ」
小人「白雪姫の姿をいつまでも見ることができるようにするためです」
王子「悪趣味だなぁ」
小人「美しいじゃないですか!」
王子「だけど死んでるんだろ。そのうち腐りだすぞ」
小人「あなた! この棺を欲しいとは思わないんですか!?」
王子「死体なんかもらってどうするんだよ。ぼくはそんな変態じゃないぞ」
小人「じゃあせめて、白雪姫にキスしてください」
王子「死体にキスなんかできるか!」
小人「実は、眠ってるんです!」
王子「ウソだろ! ウソじゃなかったとしても、セクハラで訴えられたらかなわん!」
小人「あっ、逃げないで! あなたがキスしてくれたら白雪姫が生き返る…」
王子「うわぁ、あいつら、棺桶をかついだまま、足並みをそろえて追いかけてくる! こわいよぉ!」
ガタッ!
棺 「きゃぁぁぁっ、落ちるぅ!」
リンゴ「きゃぁぁぁっ、落ちるぅ!」
食道「待ってたぜ!」
胃 「お客さんだぁっ!」
小人「ああっ、棺の中から白雪姫が立ち上がった!
別の小人「仁王立ちしてる! なんだかお神輿みたいだ」
さらに別の小人「いきなり走ったから誰かがけつまずいて、棺のバランスが崩れて、白雪姫ののどに詰まっていたリンゴのかけらが外れて、息を吹きかえしたんだ!」
さらに別の小人「説明的なセリフをありがとう」
さらに別の小人「のどにつまるほどあわてて食べたのか?」
さらに別の小人「あれは毒リンゴじゃなかったのか?」
さらに別の小人「みんなが言っちゃったから、おれの言うことが無くなった」
白雪姫「おい…、王子! あたしが死んでると思って、よくも言いたい放題言ってくれたな!」
王子 「いやぁぁぁっ! 神輿に乗ったゾンビが追いかけてくるぅ!」
狼さん気をつけて
赤頭巾「おばあさんの耳はどうしてそんなに大きいの?」
狼「おまえのかわいい声を聞くためだよ」
赤「どうしてそんなにお目々が大きいの?」
狼「おまえのかわいい姿を見るためだよ」
赤「どうしてお口が大きいの?」
狼「おまえを食べるためさ」
赤「………」
狼「…なぜ頬を赤らめる」
バッシーン!
狼「いてぇっ! ひっぱたきやがったこのアマ!」
赤「いきなり何言ってるの! 誓いの言葉が先でしょ!」
狼「なんだ誓いの言葉って!」
赤「知らないの? これだからオオカミは無教養なんだから…。『汝、富める時も、貧しき時も、健やかなる時も病の時も…』」
狼「『死が二人を分かつまで、この女を妻とするや』って続くんだよな」
赤「何だ知ってるんじゃないの。じゃあ、早速教会へ…」
狼「そんなことできるか!」
赤「ひどい! あたしのことは遊びだったの!」
狼「真剣そのものだ!」
赤「信じられない!」
狼「どんな時でも捕食するってのは真剣だろう!」
赤「どんな時でもって、だれにでもそんなこと言ってるの!」
狼「違うわ! 命にかかわることだからだ!」
赤「命がけであたしを愛するってこと?」
狼「おれの命のために、おまえを食うって言ってるんだ!」
赤「だったらあたしも命をかける!」
狼「命がなくなるんだよおまえの方は」
赤「あたしの命とあなたの命が一つになるの?」
狼「そう言えなくはないか。正確にはおまえの命がおれの命の一部になるんだが」
赤「ずっと一緒にいてくれるってことだよね」
狼「そういうことになるのか?」
赤「死が二人を分かつまで」
狼「もう死んでるけどな」
赤「だから、誓いの言葉が先だって言ってるでしょ!」
狼「途中までは話が噛み合ってたのに」
赤「咬み合う。オオカミだけに?」
狼「めんどくせえからつっこまねえぞ! 何回も言ってるけど、おまえを食ってやるってことだ!」
赤「……食べられちゃうんだ、あたし」
狼「わかってるか! おまえはおれの獲物だって言ってるんだよ!」
赤「………獲物」
狼「照れるな」
バッシーン!
狼「いちいち殴るな! ほっぺたがホッカホッカしてきたぞ!」
赤「いいじゃないの、冬だし」
狼「なんでこんなに乱暴なんだ!」
赤「ドイツ人だから」
狼「おまえ以外の全てのドイツ人に謝れ!」
赤「ドイツのみなさん、ごめんなさい!」
狼「まったく、今はそういう特定民族に対するヘイトスピーチって洒落にならないからな。それからすぐに手を出すのもやめろ」
赤「手を出すというより、現在進行形で手を出されてるけど」
狼「なんですぐソッチに行くんだ! 脳みそピンク色なのか!」
赤「誰でも脳みそはピンクだと思う」
狼「やめろ! 想像しちまったじゃねえか!」
赤「あれ? あたしを食べるんじゃなかったの?」
狼「う…」
赤「人間を食べるってそういうことだよねえ」
狼「確かにそうだけど」
赤「人間はね、牛肉みたいに屠殺されて、解体されて、血抜きをされて、カットされて、切り身にされて、パックされて、スーパーのタイムセール売り場に並んでたりしないんだよ」
狼「いやに具体的なことを言うな」
赤「あなたの鋭い牙があたしの頭に突き刺さって、ピンク色の脳髄がむき出しになり…」
狼「やめろ!」
赤「あたしの頭巾が真っ赤に染まり…」
狼「もともと赤いけどな」
赤「………」
狼「すまん、今のはおれが悪かった」
赤「あなたが顎を噛みしめると、眼球が眼窩を飛び出し、視神経でつながっているから顔の上でぶら下がり…」
狼「やめろぉ!」
赤「あたしのかわいい顔が…」
狼「自分でかわいい言うな」
赤「あたし、かわいくない?」
狼「ズーズーしいこと聞くんじゃねえ!」
赤「ねえ! あたし! かわいくない!?」
狼「まあ、かわいいけどな…」
赤「うふ。ありがと。だけどこんなにかわいい顔の、皮膚がペロンと剥げて桃色の筋肉がむきだしになり…」
狼「やめろ! どこのホラー映画だ!」
赤「眼球をぶら下げながら、肌のない顔で、唇をかろうじて動かしてあたしは言うの」
狼「やめろって言ってるだろ!」
赤「『オオカミさん…、あたしを食べてくれてありがとう…』」
狼「やめろ…、やめて下さい…」
赤「やめてほしい?」
狼「そう言ってるだろ!」
赤「なんでもする?」
狼「なんでもするからやめろ!」
赤「…結婚してくれんの?」
狼「言葉づかいまで乱暴になったぞ!」
赤「結婚してくれますか?」
狼「なんでそうなる!」
赤「…オオカミさんは、あたしの筋肉がむき出しになった顔にさらに噛みついて、じゅるじゅる音を立てながら脳みそを吸い上げていって」
狼「結婚しよう!」
赤「もっと丁寧に!」
狼「結婚してください!」
赤「いいわよ。早速教会に…」
狼「いきなり行っても駄目だろ」
赤「大丈夫だよ。神父さんには話を通してあるし」
狼「………てめえ、嵌めやがったな!」
赤「なんでそんなこと言うの」
狼「あ、いや…」
赤「なんでそんなこと言うの!」
狼「いや、すまん…」
赤「情けない…」
狼「…おまえ! 泣くことねえだろ!」
赤「今ごろ気がついたの!」
狼「そっちかよ!!」
めでたし。めでたし。