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9 広くなった洞窟

 メニューを操作し、階層の追加を実行する。

 5000DPを消費し、ダンジョンが鳴動した。

 そして、ボス部屋とコア部屋(ダンジョンコアがある部屋をそう呼ぶ事にした)の後ろに広い階層が出来上がる。


 メニューのダンジョンマップで確認したところ、その広さはボス部屋の4倍くらい。

 すなわち、直径200メートルくらいの円形。

 広い。

 よし。

 早速、残りのDPを使って改造を……


「……いや、待てよ」


 そこで私は、ふと気づいた。

 果たして、本当に改造しちゃってもいいのだろうかという事に。


 迷路とかを作って、トラップとかモンスターを設置すれば、ここは完全にダンジョンになる。

 いや、今でもダンジョンなんだけど、一目でダンジョンとわかるダンジョンになるって意味で。

 そうすると当然、侵入者もダンジョンだと気づいて警戒する訳だ。


 今回の侵入者三人をあっさり殺せた要因の一つに、もしかしたら、ここをただの洞窟だと思って油断したから、っていうのもあったのかもしれない。

 特に落とし穴に落ちた奴は、まるで落とし穴の存在なんて想定してなかったかのように、綺麗に落下した。

 もしダンジョンだと気づいてたのなら、トラップの一つくらい警戒する筈なのに、それはもう綺麗に落とし穴にハマった。

 

 それって、やっぱり、ここがダンジョンだと最後の最後まで気づかなかったから、じゃないだろうか?

 だって、ここは本当に一見ただの洞窟だし、リビングアーマー先輩も、パッと見はモンスターに見えない。

 全身甲冑着た人間に見える。

 特に、ウチのダンジョンの暗がりの中だと、人間との細かい違いなんてわからないだろうし。


 一目でダンジョンとわからず、警戒されないダンジョン。

 これは一つの強みだ。

 でも、改造しないとなると防衛力が……


「うーん……」


 そうしてウンウンと悩んだ結果、大規模な改造はしない事にした。

 迷路(1000DP)だけ設置して、後は弄らない。

 この迷路も、よくRPGとかに出てくるいかにもな迷路じゃなくて、パッと見では普通の入り組んだ洞窟みたいに見える、迷路(洞窟)タイプを選択。

 そして、ダンジョンコアを移動させた時と同じ要領で、ボス部屋とコア部屋を、新しく造ったフロアの下へと移動させた。


 こうして、このダンジョンは、ボス部屋に辿り着くまで、ただの洞窟と変わらない、洞窟に擬態したダンジョンとなったのだった。

 ただし、ボス部屋の入り口は何故か扉になっちゃったから、ボス部屋の前まで進まれると、とりあえず人の手が入っている事には気づかれる。

 少しでも違和感をなくす為に、扉は古ぼけた感じのデザインにしておいたけど(変更代10DP)、これでどこまで誤魔化せるか。

 ……あと、洞窟からダンジョンに進化する時が来たとか言っといてなんだけど、結局、進化できなかったわ。

 うん。

 ダンジョンに進化するのは、またの機会にしよう。


 そうして出来上がったこの設計は、防衛力の凄まじい低下を招いたけど、その分、メリットも大きい。


 まず、侵入者が油断してくれるという事。

 そして、もう一つ。

 こっちが本命なんだけど、侵入者がちょっと探索した時点で「うむ、ここはただの洞窟だな」と判断して帰ってくれないかという思惑がある。


 だって、トラップもない、モンスターもいない、お宝もない。

 こんな張り合いなんて欠片もないような場所で、直径200メートルの迷路を隅々まで探索してやろうなんて思う奴は、どう考えても少ないだろう。

 ただの洞窟を調査するくらいなら、他のダンジョンを調べた方が百倍有意義だ。

 他所のダンジョンなら、トラップもある、モンスターもいる、そして何よりお宝がある。

 普通の感性を持った奴なら、絶対にそっちを探索するわ。


 他のダンジョンがそんな感じの仕様になってるだろうというのは、ダンジョンコアから与えられた情報から推測した。

 ダンジョンコアの本能は、概ねそんな感じにダンジョンを発展させる事を望んでいるのだ。

 お宝で人を呼び寄せ、トラップやモンスターで殺してDPを得る。

 そうして発展していくと。


 でも、普通のダンジョンはともかくとして、ウチのダンジョンは侵入者お断りの姿勢を崩すつもりはない。

 収入は大魔導先輩の凄まじい働きっぷりで間に合ってる。

 故に、引きこもり優先。

 侵入者なんて来なくていい。

 もし来たら殺す。

 ただし、洞窟をちょっと探索する程度なら許してやらんでもない。

 本当は凄く嫌だけど、ここがダンジョンだとバレて、大々的に知れ渡るよりは百倍マシだ。


 という事で、今回の強化はここまで。

 残りの資産は70DP。

 これじゃ、どの道大した事はできない。


 なので、初めての快勝祝いという事で、自分へのご褒美をあげる事にした。


 まずは小さな桶(5DP)を用意。

 それから、侵入者のウエストポーチの中にあったアイテム、小さな杖を二本取り出す。

 鑑定した結果、この二本の杖はそれぞれ『火の魔道具』と『水の魔道具』だという事がわかっている。

 MPを注ぎ込むと、それぞれ火と水の簡単な魔法を発動する仕掛けらしい。


 そうして、ダンジョンの改造をしてる間にMP自動回復で回復したMPを使って、水を出して桶に注ぎ、火を使って水をお湯にした。

 その後、タオル(3DP)を出してお湯に浸ける。

 そして、服を脱ぎ、お湯に濡れたタオルで体を拭いた。


「はぁ~」


 凄い。

 凄く気持ち良い。

 お湯で体を拭ける事がこんなに幸せだったなんて。

 お風呂が当たり前のようにあった日本では、絶対に感じられない幸福だ。


 存分に堪能した後、汚れてしまったお湯を還元して(1DPにもならなかった)桶とタオルを片付ける。

 タオルは乾かしてまた使うつもりだ。


 続いて本番。

 残りの62DPで出せる中で、一番高級そうなご飯を出す。

 カツ丼が出てきた。

 お値段60DP。

 そこまで好きな料理じゃないけど、快勝祝いと考えれば、これ以上ないチョイスだと思う。

 早速、箸(1DP)を使って食べる。


「……美味しい」


 美味しい。

 本当に美味しい。

 勝利の味だ。


 それに、考えてみれば、これが異世界に来てから初めての食事だ。

 今までは何か食べようって気にならなかったから気づかなかったけど、結構お腹空いてたらしい。

 私は食が細い方だけど、今回ばかりは勝利の美酒ならぬ勝利の美食と合わせて、箸が進む進む。

 時々、コップ(1DP)に魔道具で注いだ水を飲みながら、カツ丼を全て食べきった。


 そうして、食べ終わってからも勝利の高揚が抜けずにテンションの上がった私は、なんとなくコップを高く掲げて、大きな声で叫んだ。


「新しい聖域の門出に、乾杯!」


 そう叫んでから、コップの中に残っていた水を一気飲みした。

 ただの水なのにやたら美味しく感じて、なんか幸せな気分になった。



 しかし、この時の私は思いもよらなかった。

 ただの洞窟を偽装する為に行った改造が、まさか、あんな事態を呼び込んでしまうだなんて。

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殺戮のダンジョンマスター籠城記(1)
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