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キラキラヒカル 2(後編)  作者: 大野竹輪
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キラキラヒカル 2(後編)

キラキラヒカル 第2巻 の後編になります。


花園大学附属高校の2クラスを中心に描いています。

3年間に生徒たちが触れるさまざまな社会問題、流行、ボランティア活動などを表現しました。


また第1巻の1クラスと読み比べてみるのも面白いかと思います。



原作: 大野竹輪

第11話


9月に入って最初の授業の日。1限目は倫理だった。


小袋「今日は倫理の高脇先生がお休みなので、代わりに私がやります。」


生徒が全員席に着いた。


西堀「先生大丈夫ですか?」

小袋「おっほん。ま、そりゃ高脇先生の方がベターやね。(^^)/」


生徒たちが大笑いした。


小袋「えーと、では今日は『生きがいとは何か』をテーマにお話します。」


生徒は皆教科書を開けることなく、ただ小袋の方を見ていた。小袋は淡々と話し始めた。


小袋「大学を出て就職しますと、まず自分がやりたい事をやろうと考えます。欲のある人は1つではなく、2つも3つも。まあ多くの人は現実を知って、途中で諦めてしまうのですが、情報の飛び交う現代では、やろうとする前から、『これは出来そうにない』とか、『現実に無理だ、不可能だ』と決めつけて止めてしまう人も多いのが現状です。これではまったく成長がありません。何事も諦めない努力と根性が大切です。」


小袋はプリントを配り始めた。配り終わって、


小袋「これは実際にあった例ですが、ある貧しい青年が、粗大ゴミにあった錆びたハサミを持ち帰り丁寧に磨いて使えるようにしました。或る日ある街で丈夫な紐にからまって困っていた人がいて、その人を自分のハサミを使って助けたのです。その人はお礼に自分が描いた絵をくれました。青年はただでもらうのは申し訳ないと、そのハサミと絵を交換したのです。それから数日後、青年がもらった絵を気に入った別の人が現れ、青年はその人にプレゼントします。その人はお礼にとアンチークな食器を青年に贈りました。そのまた数日後、今度はその食器を是非欲しいという別の人が現れ、またここでバイクと交換することになったのです。このようにして何度か交換を繰り返し、最後はなんと大きな家を手に入れたということです。」

>>実際とは交換の内容を変えています。


桃子「ありえない・・・」


他の生徒も口々に言った。


小袋「私が言いたいのは、ありえない事が現実にあり得るという事なんです。先ほども言いましたが、成功する人はごく僅かで殆どの人は実現できずに終わる。しかし、それでも諦めない事が大切なんです。」

麗子「ただの理想だわ。」

小袋「ところで、自殺願望の人の中には、『自分は何をやってもダメ』と決めつけてる人もいますが、実は全てをやり尽くしてはいないんです。」


いつも小袋の授業は静かだった。彼が話を終わらせるまでは生徒たちは無駄口無く、ただただ彼の話を聞いていたのであった。


小袋「仮に事業に成功したとしても、成功した要因が、そのときの流れに乗って運で成功した人と、コツコツ蓄積して努力し成功した人では、やがて事業が傾き出した時、運で成功した人は元に戻す手法がわからないため、下手をすると1年も経たずに消えてしまうということになります。つまり、蓄積こそ財産だと言う事ですね。だから日々の努力が大切なんです。」


小袋はそう言うと教壇の横の椅子に腰掛けた。


麗子「形ある物よりももっと手に入れたいものがあるわ。」


ため息のでる麗子だった。

桃子は後半の小袋の話をまったく聞かず、勝手に女性週刊誌を教科書に隠して見ていた。


やがてベルが鳴り、小袋先生が教室を出て行った。

ちなみにまさか昨日から2日間、高脇と清水の両先生が神戸へ旅行している事は彼はまたく知らなかったのであった。



季節は秋。

秋祭りが中野神社で行われた。

神社前の広場ではいくつかの縁日が催されていて、「金魚すくい」、「輪投げ」、「ヨーヨ釣り」などの店に幼稚園児と小学校の1、2年の子供たちがたくさん集まっていたのだった。


ここは「金魚すくい」の店です。


子供「おじさんどいてよ。」

光「何で、オレが先じゃん!」

子供「早く取ってよ。次待ってるんだから。」

光「しょうがないだろ、このアミすぐ破れるんだから。」

子供「何枚でやってるの?」

光「うーん、9枚目だな。」

>>へぼ!


泳いでいる金魚たちが笑っていた。

また、「カラアゲ」、「りんごアメ」、「綿菓子」、「フランクフルト」、「たこ焼き」、「広島焼き」、「焼きそば」などの店には、中高生から20代までの若者たちが多く集まっていた。


神社の奥の方では火の見櫓が置かれ、その周りで盆踊りをするために準備がされていた。

ユキとさつきの2人が来ていた。


ユキ「たまにはいいものだね。」

さつき「そうだね、ここ数年来ていなかったから。」


2人はあちこち夜店を見て回った。

そして離れた場所に1軒のリサイクルショップの店を見つけた。

ハンガーにはけっこう中高生向けの最新ファッション柄のTシャツやポロ、スカートなどがぶら下がっていた。


ユキ「へえー、こんな店もあったんだ。」

さつき「まだ新しいんじゃない?昨年は見なかったし。」

ユキ「私はあまりこの辺は来ないから。」

さつき「そうか・・・」

ユキ「あー、私どうしようかな。」

さつき「どうしたの?」

ユキ「欲しい服があるんだ。」

さつき「今度一緒に丸井に行く?」

ユキ「そうだね。私丸井のカード持ってくわ。」


そして小袋が1人ベンチで、周りにエサを求めて群がるハトを見ながらフランクフルトとたこ焼きを食べていたのであった。



秋の芸術祭は例年通り週末に行われた。

今年のテーマは『協調』だった。

今年も昨年と同じく校門前に大きなコラージュアートのはりぼてが見学者を出迎えていた。


さらに講堂では迷惑なくらいやかましい高校生バンドの生演奏が今年も昨年と同じくらいに校内中にズシンズシンと響いていた。


令「おーい!みんな、のってるかー!」

観客「はーい!!」

令「よっしや、次いくぜ!」

観客「はーい!!」


観客たちはみなサーチライトを手に持って準備していた。


令「音楽はー!」

観客「爆発だーー!!」


一方美術室では、新入部員のA1クラス、西堀美紀が受付を担当していた。


美紀「いらっしゃいませ、どうぞ。よかったらこちらのパンフレットをどうぞ。」


美紀は教室に入ってくる生徒やお客さんにアンケート付きのパンフレットを配っていた。

そして礼子とマチコが今年も見に来ていた。

2人はゆっくりと作品を見て回っていた。


礼子「昨年と変わらん・・・」

マチコ「でも来ちゃうのよね。」


やがて礼子は一瞬立ち止まった。


礼子「ん?この絵いいじゃん。」


マチコはじっとその作品を見て、それから作品の下にある名札をのぞいた。


マチコ「あら、そうね、かなり変わってるわ。小柳さんかぁ・・・」


ところで運動部のバザーのブースの一角ではけっこう賑わいをみせていた。

ここはテニス部と体操部の合同ブースである。


ユキが手を強く叩きながら、


ユキ「はいはいはい、よかったらもんじゃどうですか!もんじゃどうですか!」


そこへ猟犬のようなすばしっこい駆け足でハーハー言いながら光がやって来て、


光「やっほーい!ほい!ほい!」

ユキ「何光さん、犬みたいな走り方でまた邪魔しに来たのですか?」

光「まーさかぁー、食べに来たんですよーぉ。」


光はニコニコして小犬が甘えるふりをしながら答えた。


麗子「ちょっと、自分のブースはどうなってるの?・・・ほっといていいの?」


そこに割り込んだのは麗子だった。


光「大丈夫大丈夫V!!オレピザがいいな。」

桃子「ここはもんじゃだけよ!昨年と同じ事を言うな!!」


桃子がテーブルを叩きながら言った。


光「じゃ、たこ焼き!」

桃子「ふざけてんのかあ、こらあ。スーパーにあるでしょ、そこに行ったら・・・ぼけ!」


さらに桃子がテーブルを2、3回叩きながら言った。


光「じゃ、たい焼き!」

桃子「だからここはもんじゃだけだと言っとるんじゃああああああああああ!!!!!!!!いっぺん殺したろうかーあ!!!!!!」

光「ひぇー・・・こ、恐いよ・・・」


さすがに桃子の張り裂ける声にはかなわなかったようだ。


そこに男女カップルのお客さんが来た。


ユキ「いらっしゃいませ。もんじゃはいかがですか?」

客1「私ミックスにしようかな?」

光「あ、それおいしいですよ~♪スカート短くていいですね。」

>>意味不明??


桃子「光!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ー!!!」


桃子はとうとう腕ずくで光をブースから離れさせ、1回蹴りまで入れた。

光はついに追い出された。


客2「オレもミックスで。」


この日ばかりは学校内は年に一度の生徒たちの活躍でバザーの方も大盛況だった。


やがて時も夕方4時をまわり、バザーのブースでは完売した店から次々とぼちぼち片付けに入るブースも出てきた。

それにつれて人だかりも徐々に減っていき、そしてブースの周りの掛け声もそれと共に減っていった。


そしてボランティア部のメンバーが最後にバザー周辺のゴミ掃除をしていた。



芸術祭が終わった後、多くの生徒が文化祭の打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。

そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。


ここはテニス部だけのテーブル。


麗子「はい、みんなお疲れー!」

ユキ「声が枯れてしまったわ。」

さつき「そう言えばユキ、今年も最初から最後までずっと呼び込みしてたもんね。」


テーブルの真ん中にはすでに空になったフライドポテトの大きな皿2つとソフトドリンクの空の山ができていた。


隣の静かなテーブルでは、


マキ「今年の新人、けっこう頑張ってくれたね。」

昌子「そうよね。準備もうまくいったし、受付もしてくれたし。」

マキ「で、アンケート見た?」

昌子「まだだけど・・・」

マキ「ほとんどがふざけて書いてんのよ。で、2、3枚かな、まともなのが。」

昌子「えー最悪じゃん。来年は止めよっか、アンケート?」

マキ「うん、そうしよう。」


マキは右手で頭をなでながら、


マキ「今年もやっぱり昨年と変わんないね。」

昌子「ほんと。」

マキ「何か奇抜なアイディアを出さないと駄目だね。」

昌子「うーん、そうね・・・」

マキ「そう言えば、昌子、同人誌のサークル作ってるとか言ってたじゃん。」

昌子「ああ、『よつめウナギ』のことか。」


マキ「何そのよつめ・・・?」

昌子「サークルのメンバーの名前を寄せ集めてまとめただけだよ。」

マキ「へえ・・・」

昌子「4人でやってるんだけど、その中でウナギのナギが私。」


マキは不思議そうに聞いていた。


マキ「ふうん?・・・なるほどね。で何頼むの?」


昌子は一瞬躊躇したが、でもすぐに、


昌子「お子様・・・」

昌子・マキ「セット!」


店員がテーブルに来た時、


マキ「すいません、お子様セット2つ!」

昌子「え!いいの?」

マキ「いいよ。」


マキは笑顔で答えた。

ところで1年の新人、美紀は用事があるというので先に帰ったのであった。


さて、このとなりのかなりやかましいテーブルについては省略します。



数日後。ここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


校長は座ったまま右手で机の真ん中を軽く叩いていた。

そのリズムが何となく2拍子から急に4拍子に変わった。


校長「この間の芸術祭で、講堂でやっていたバンドの演奏なんだが・・・」

教頭「ああ、女性ボーカルで最近流行のハードロックをやっていた連中ですね。」

校長「それはいいが、近所の住民から苦情が来てね。」

教頭「え?何と・・・」

校長「やかまし過ぎる。言ってる事が無茶苦茶だと。何やら『音楽は爆発だ』とか言って叫んでいたとか。」

教頭「『音楽は爆発』・・・そのまま演奏で爆発してしまったか・・・」

校長「冗談言ってる場合ではないよ。来年は中止してくれたまえ。」

教頭「はっ、承知しました。」


教頭は部屋から急いで出て行った。

校長室の扉を閉めながら、


教頭「『芸術は爆発』だよな・・・まあ音楽も爆発していいか・・・」


教頭は訳の分からない悩みを抱えながら職員室へ戻って行った。



今年最後の授業の日。

やっぱりクラス皆の注目は三角だった。

そして科目は日本史。


小袋「今日は戦後の日本の政治の歴史についてやります。」


小袋はゆっくりと教科書を開きながら、


小袋「えーと、そうそう・・・」


小袋は持って来たプリントを配り始めた。


小袋「歴代の政治家で総理大臣になった人の一覧です。」


生徒はまったく興味を示さず、中にはそのプリントを見ないで閉じてしまい、机の中にしまうやつ、丸めて捨てるやつもいた。


やがて、


小袋「そしてこの4人の総理大臣経験者をまとめて『三角大福』と呼んでいます。」


ここでクラスの皆が大笑いし、そして三角の方を一斉に見た。

やっぱり三角はお地蔵さんだった。

まったく周囲を気にせず、微動だともせず、さらには目も開けず・・・


ユキ「三角大仏だよね。」


それを聞いたさつきが横で大笑いしていた。

当然さつきは写メを撮り、またユキに添付メールを送った。


ユキ「あーあー、まったくもう・・・」


ユキはその画像を見るなり、メールごと削除した。



クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年もイルミネーションが見られることになった。

人の集まりの少ない場所では、


男「久しぶりだな。」

雅子「ほんとね。」


2人はまったく違和感なく話し始めた。


雅子「まさかこの間の同窓会にあなたが出席するとは思わなかったわ。」

男「欠席した方がよかったかい?」


しばらく雅子は考え込んで、


雅子「わからないわ。」

男「何かあまりお天気が良くはなさそうだな。」

雅子「そ、そうでもないんだけど・・・」


雅子は少し落ち着かなくなっていた。


男「なんだい、せっかくのクリスマスなんだから・・・」


男は雅子の肩に手を掛けた。


雅子「ちょっとここは駄目よ。」

男「じゃ、どこかへ行こうか?」

雅子「ねぇ、全然私の事考えてないでしょ。」

男「そんな事ないさ。昔と変わらないよ。」

雅子「よく言うわね。まったくデリカシーがないんだから。」

男「そうかな?」

雅子「だからそこが昔と変わらないのよ。」

男「はて?」


雅子「変わって欲しいとこ変わらないで、変わらないで欲しいとこ変わったのよ。」

男「う~ん、よくわからない・・・」

雅子「だから駄目なんだって。」

男「そこまで言うなよ。」

雅子「言うのは私ぐらいでしょ。他の誰も言ってはくれないわよ。」 

男「わかった。良い方にとるよ。」

雅子「どっちでもいいけどね。今更・・・」


男「昔は昔ってか・・・」

雅子「そうよ。終わったものは元には戻らないんだから。」


2人はしばらくイルミネーションに目が向いていた。そして沈黙が数分続いた。


雅子「あっ、いけない。もうこんな時間だわ。」

男「送ってくよ。」

雅子「駄目。またね。」


雅子はそう言うと急いで人ごみの中へ消えて行った。

男は顎の髭を2、3回左手で触り、1本タバコをくわえると人気の少ない近くの岩に腰を下ろしてしばらくタバコの煙を眺めていた。



今年も年末の大掃除でボランティア部は東中野商店街周辺のゴミの処分をお手伝いすることにした。

町内会長の外村さんはニコニコ顔で、


外村「ほんとありがとう。助かります。」

三角「いいえ、毎年の行事として定着すればいいですね。」

桃子「定着?」


桃子は心の中で思った。

今ボランティア部には2年生だけしかいないので、さ来年で部が消滅してしまうと考えているからだ。

しかも三角はそれを理解していない。


ボランティア部員のメンバーはそれぞれ別れて、持ち場の掃除を始めた。

桃子はゴミを集めながら、


桃子「このままだとボランティア部は消えてしまう。何とかしなければ・・・」


彼女は強く思い込むようになった。




第12話


翌年の2月。今日は13日。

スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が昨年同様リニューアルした新設のコーナーを占拠していた。

勿論目当てはチョコ。

とくに女子高校生の集まりはやはり多く、押し合いもみ合いながらまるで特売日か年末の人手になっていた。


マキ「すっごいね、今年も人だらけ。」

昌子「ほんとだ。」

マキ「ほらほら、またうちの生徒が・・・やっぱ多すぎるわ。」

昌子「ほんと、みんな渡す相手きっと同じじゃない。」

マキ「やはり・・・私もそう思う・・・」


昌子の言うのは大当たりだった。

翌日の放課後、西城の下駄箱の中にはたくさんのチョコが所狭しとギュウギュウに押し込んであった。



3月のやや肌寒い晴れた日の夕方。

ダークブルーのベンツがバス通りを通りかかった時だった。


ベンツは急に路肩に止まった。

そしてベンツから1人の男が降りてきた。


学「雅子。」

雅子「あっ、は、はい。」


雅子は周囲を見回してから男の傍に近づいた。


雅子「い、いいんですか・・・こんなところで・・・」

学「いいよ。誰も見ちゃいないんだから。さ、乗れよ。」

雅子「は、はい。」


雅子はベンツに乗った。

その後車は山手の方に向かって行った。


学「どうだ、元気にやってるか?」

雅子「私ですか?・・・娘ですか?」

学「両方だよ。」

雅子「元気ですよ、どちらも・・・」

学「そうか。・・・・・」

雅子「いつも有難うございます。」

学「そ、そんな言い方はしなくても・・・ふ、普通でいいよ、普通で。」

雅子「そうは言ってもねぇ・・・」


ベンツは駿河台地区の北の山手に差し掛かり、なだらかなスロープをゆっくりと上って行った。

そして頂上の展望台で止まった。


2人はベンツから降りて町並みの見える見晴台まで歩いて行った。


雅子「すっごく久しぶりね、ここ。」

学「そうだね。」


学は急に雅子の腰に手を回した。


雅子「どうしたんですか?」

学「い、いや、別に・・・」

雅子「また喧嘩でも・・・」

学「ま、まあな。」

雅子「しっかりしなきゃ、男なんだから。」

学「そうなんだが、一言言えば3倍返しだ。」

雅子「ふふ、2倍じゃないのね。そこがあなたの面白い所なんだけどね。」


2人は昔の頃を思い出しながら、小1時間程木製のベンチに座っていた。


雅子「この町並みを見てると、どうしても思い出してしまうわ。」

学「オレもだ。」

雅子「ほんとかな・・・」

学「ああ・・・」


----- ここからは回想の世界に入る。


時は19年前にさかのぼる。


ここは明星商事の本社事務所。

1人の女性が尋ねて来た。


雅子「ごめん下さい。」

妙子「はい、いらっしゃいませ。」


受付をしていたのは学の妻でもある妙子だった。


雅子「面接を受けに来た鳥飼雅子です。」

妙子「ああ、事務募集のね。ちょっと待ってね。」


妙子はそう言うと内線電話で、


妙子「社長、新しく面接の方が見えましたよ。」

学「通してくれ。」


こうして雅子は事務所奥の会議室へ通された。

会議室には誰もいなかった。


妙子「しばらくここでお待ちくださいね。」


妙子はそう言うと、お茶を置いてから部屋を出て行った。


しばらくすると学が会議室に入って来た。


学「やあ、お待たせしましたね。」


学は椅子に座るように勧めると、すでに郵送されていた履歴書を見ながら、


学「OLの経験は3年、・・・ああ、あの金城物産ですね。知ってますよ。」

雅子「そうですか・・・」


雅子は多少不安げに返事をした。


しばらく書類を眺めていた学だったが、


学「わかりました。えーと・・・いつから来る事ができますか?」

雅子「来週からなら大丈夫です。」

学「では来週からここに来てください。」

雅子「・・あ・・合格なんでしょうか?」

学「はいそうです。」


雅子に安堵の表情が走った。


こうして翌週から妙子に付いて受付の諸手順を教わり、さらにその2週間後からは妙子に代わって1人で受付をするようになったのだった。

雅子はけっこう美人で、スタイルも悪くなく着こなしも良かった。

だが、その事が逆に学の心を動かしてしまったのである。


1ヶ月後に入社歓迎会という名目で、数人の社員と一緒に居酒屋に集まったのだが、他の社員はけっこう早く切り上げてしまい、結局学と雅子の2人が残った。

雅子は新しい職場でもあったし、とりあえずお付き合いのつもりで酒も少々飲んだのであった。

しかし、これが学との交際のスタートになるとは雅子も考えてもいなかったのである。



翌年、駿河台の展望台にて。


学「どうしたんだ、急に呼び出してさ。」

雅子「私、子供ができたの。」

学「何!」


学は驚いて、


学「そ、そうだったのか・・・」


落ち着かない学だった。


雅子「そんなに慌てなくても・・・」

学「し、しかし・・・」

雅子「わかってるわよ。私1人で育てるから。」

学「す、すまない・・・」

雅子「大丈夫よ。奥さんには言わないわよ。」

学「ありがとう。子供の養育費は全てオレが出すから。」

雅子「お願いします。」


こうして無事女の子が産まれたのである。

なお出産と同時に受付の仕事も止めたため、再び妙子が受付をすることになったのであった。



ーーーーー 現実に戻って、


学「そうか、あの時のオレはまだ若かったよなぁ。」

雅子「ええ、すっごくかっこ良かった。今はちとオッサンくさい。」


学は笑いながら、


学「悪かったな。しかし雅子は変わらないな。」

雅子「それ、褒めてるのかな?」

学「もちろんだよ。」


学ぶはポケットから煙草を取り出した。


学「麗子は元気か?」

雅子「ほら、もう忘れてる。さっき聞いたじゃない。元気すぎるわよ。また新しい写真をメールで送ってあげる。」

学「ああ、待ってるよ。ありがとう。」


学は少しうつむき加減になった。


雅子「そんなくらい、毎月助けてもらってるし・・・」

学「いいんだよ。親として当たり前のことなんだから。」


急に雨がポツリと降り始めた。


学「あ、これはいけない。」


2人は急いで車に戻った。


ベンツは滑らかなカーブを回ってそして下りのスロープをゆっくりと下って行った。

やがてコンビニ弁当屋の前で止まった。


学「今日も店に入るのかい。」

雅子「ええ。でもありがとう。こうして仕事をしている方が・・・私落ち着くから。」

学「たいした事はないさ。どうせこの建物もうちの不動産なんだから。」


雅子は軽くお辞儀をすると、店の中へ入って行った。

そしてベンツは街の中へ消えて行った。



一方こちらは光の自宅。


光「おやじ、ほとんど家に帰って来ないね。」

妙子「仕事ばかりしているからね。」

光「母さん、家の事全部やって大変だよね。おやじの会社の手伝いもあるし。お金があるんだから、誰か雇えばいいじゃん。」

妙子「確かにそうなんだけどね。もういいんだよ。」


実は妙子には雇えない事情があったのである。

かつて光が産まれたときも、仕事をやりながら世話をしなければならなかったので、ベビーシッターを雇った。

だが女好きの学は、妙子が家にいなかった時、ベビーシッターと関係を持ってしまった。

さすがに彼女はその仕事が続けられずに止めてしまった。

学の女癖の悪さは巷で妙に噂になってしまい、妙子はその時から女性を雇うのを止めたのであった。


余計な事かもしれないが、会社の事務と受付の女性は現在まで7、8人入れ替わっている。



1週間後。ここはコンビニ弁当屋。急に店の前にベンツが止まった。


雅子「あら?どうしたの・・・?」


雅子は車に近寄った。


学「今日は泊まりなんだよ。焼肉弁当特盛1つ。」

雅子「あら、1つでいいの?」

学「1人だからさ。」

雅子「めずらしい・・・」

学「おいおい、オレはいつも1人だよ。」

雅子「そうかな・・・けっこう噂されてるよ。」

学「ど、どんな?」


雅子「女遊びが多いってさ。」

学「誰がそんな事を・・・」

雅子「あなたの奥さんよ。」

学「げ!ここに来たのか?」

雅子「違うわよ。娘の学校のPTA役員懇談会で、ちょいと耳にしただけよ。」

学「な、なんてこった。」


学がガクッとなった。そして首を2、3回左右に動かした。


雅子「身に覚えがあるでしょ。」

学「な、ないよ。」

雅子「そうかな。私知ってるわよ。」

学「な、何のことかな?」

雅子「どーしようかなぁ?」

学「おい、雅子・・・」


雅子「ふふん。あのね、昨年京都にドライブに行ったでしょ。」

学「あっ、ああ・・・」

雅子「あの時の背広の香水、私のじゃなかったわよ。」

学「あ、あれは女房の香水・・・」

雅子「ウ・・・・・ソ・・・・・。私奥さんの香水も知ってるのよ。残念でした。」

学「じゃ、あれは・・・えーと・・・」


学はあれこれと考え始めた。


雅子「ほーら、困ってるじゃないの。はい、弁当できました。」


体裁が悪かったのか、学は弁当を受け取るやいそいそと車に戻って行った。

車はすぐに街の中に消えて行った。

雅子は店の中から車が消えるまで見届けていたのだった。




第13話


学年が3年になる。4月、最初の授業の日。

桃子は三角のところに行った。


桃子「三角君。ボランティア部のことなんだけど。」


三角は目を開けて座ったまま、


三角「はい。」

桃子「部員が現在たったの4人。それも3年生だけだと、来年部が無くなるわよ。」

三角「あっ、そうですね。」


三角は言われてやっと気がついたようだ。


桃子「どうするの? このままじゃ・・・」

三角「ん・・・」


三角はまた目を閉じて考え込んでいた。

しばらく沈黙が続いたが、待ちきれない桃子は、


桃子「ねえ、クラブ紹介のチラシを作って今の1年に配るとか、教室のあちこちに張り紙するとかしたらどうかな?」

三角「そうですね。そうします。」


なんとも気の抜ける三角の返事に、このままではまずいと桃子は考え、昌子の所に行った。


桃子「ねえ昌子さ、ボランティア部の入部案内のパンフレット、簡単でいいので作れないかな?」

昌子「いいよ。私も心配してたんだ。」

桃子「やっぱり・・・」


昌子「イラスト入れてさ、今日明日にもマキと一緒に作るね。」

桃子「ありがとう。肝心の部長が動かないからさ、もう・・・」

昌子「わかるわかる。皆でやりましょ。ボランティア部だもんね。」

桃子「そうだね。」


こうしてボランティア部は三角の届かない所で部員がみな動き回り、校内にたくさんの案内パンフレットが貼られ、そして東中野商店街付近にも、商店街の人たちの協力でチラシが設置された。


桃子「集まるといいけどね。」

昌子「そうよね。でも商店街に配るとうちの学校外の人が来たりしないかな?」

桃子「いいよこの際。だって潰れるより、一般の人たちでもいいから継続してもらった方がいいんじゃない。」

昌子「それもそうね。うん、賛成。」


昌子は元気が出てきた様子だった。


後に一般の希望者が2人あって、ボランティア部は何とか消滅をまぬかれた。

しかし下級生の入部はなく、ボランティア部は結局高校から外へ出ることになったのである。



4月中旬。こちらは美術室。

美術部のメンバー3人が集まっていた。


昌子「あー、今年の入部がゼロ・・・」

マキ「どうする? 案内のパンフ作る?」


2人は悩み込んでいた。


美紀「何か小誌を作ってみたらどうでしょうか? 5、6ページのショートでコミカルな内容の・・・」

マキ「そうだね、それはいいかもしれない。」

昌子「やってみる?」

マキ「1人2ページ担当で、繋ぐってのはどう?」

昌子「そうそれいいよね。」

マキ「テーマだけ決めとこうよ。」


こうして3人が話し合い5月の連休明けに集まって小誌を作成することが決まったのである。



テニス部キャプテンの麗子はずっと西城のことが気になっていたが、これといった出会いもなくついにかなわぬ恋と諦めるようになった。

そこでいつも目立っている光にデートの誘いをしてみた。


放課後下校しようとした光は、下駄箱を開けたとき1枚のノートの端切れのメモを見つけた。


光「ん?何これー?」


光はその場ですぐ中を開いて読んだ。


光「ほほほ・・・」


嬉しくなった光。

徐々にテンションがアップしてきたようである。

そのメモには次の日曜日にカラオケ店で待ち合わせの内容だった。



次の日曜日、スーパー「ゲキヤス」にあるいつものカラオケ店前にて。

時間通りに着いた光だったが、そこには待ち合わせる女子が誰もいなかった。


光「何だよ、誰も来ないじゃんかよ。」


麗子は苛立つ光を電柱の影から見届けると、急ぎ足で光に近づいてきた。


麗子「ごめんねぇ・・・待った?」

光「なんだ麗子かよ。」

>>誰だと思ったのかな?


麗子「私じゃダメなの?」


ムッとした麗子。


光「い、いやそんなことはない。さ!入ろうぜ!」


光は喜んで部屋に入って行った。


入れ違いに豊が出てきた。

豊は昔の中学時代の幼馴染と一緒だった。

が彼らは学生ではなく社会人ぽかった。

さらにかなり近寄りがたいような目つきやら雰囲気が感じられた。


こうしてこの日から光と麗子はしばらく付き合うことになった。

しかし実は光は以前から夏美のことがずっと気になっていたのだった。



5月中旬。こちらは美術室。

やはりメンバー3人が集まっていた。


マキ「どうよこれ?」

昌子「いいねいいね。」

マキ「美紀も綺麗だね。」

美紀「ありがとうございます。」


3,4時間かけてようやく小誌の原稿が完成した。


昌子「表紙どうする? カラーコピー?」

マキ「うーん・・・予算が・・・」

美紀「あっよかったら、うちの父の仕事場にコピー機があるので。」

昌子「えーいいの?」

美紀「ええ大丈夫です。」


美紀は自信満々だった。

そして表紙のページがカラーになり、100部コピーされたのである。



6月に入った。ここは西堀家。

父と源太が夕食後TVを見ていた。


父「またか・・・」

源太「どういう事なのかよくわからないよ。」

父「国会議員は〇〇費という経費を給与とは別で無条件に月100万もらってるんだよ。」

源太「ゲ!月100万も・・・」

父「ああ、つまり年間1200万ってことだな。給与を合わせると2000万にもなる。」

源太「そんなにもらってんの?」

父「そうだよ。それも我々の税金だからなあ・・・」


源太「その経費って何に使うの?」

父「名目は地元の応援者との交流とか理屈を言ってるけど、事実はまったくわからない。誰も調べないからなあ。」

源太「そうっかあ、だから外車を買う新人議員がいたんだ。」

父「そうそう、選挙中は自転車で遊説していたくせにね。」

源太「これが現実なのかァ・・・」


父「残念だけどな。真面目な人ほど損をするようになってるのさ。」

源太「じゃあ皆悪い人ばかりになっていくね。」

父「そういう事だな。」


源太はかなりショックを受けてしまった。


父「源太、しかしうちだけでも真面目に頑張ろうじゃないか。」

源太「うん、そうだね。」

父「世の中1000人いたら、そのうち2人くらいはまともな人がいるって・・・」


TVのニュースではまた新しい独立法人ができたとキャスターが台本の棒読みをしていた。

この日、父はいつもより多く酒を飲んだのであった。


一方こちらは母と美紀。


美紀「母さん明日の天気は?」

母「晴れだって。」

美紀「そうかァ・・・じゃ体育だ。」

母「いやなの?」

美紀「うん。だって嫌いなバスケットボールなんだもん。」

母「ふぅ~ん。中学の時はそんなに嫌がってなかったでしょ。」

美紀「急に嫌いになる事もあるの。」


母「よくわかんないわねぇ・・・」

美紀「で明日の夕食は?」

母「オムライスとポテトサラダのフルーツあえです。」

美紀「よし、早くお風呂入って寝ようっと。」

母「急に元気になるのね。」



ある日のここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


頭を抱えた校長が、椅子に座ったまま机に両肘を突き、両手を組みその上に顎を乗せながら、


校長「もうすぐ合同キャンプだよな。」

教頭「そうですね。」

校長「君も知っているだろう。」

教頭「ええ、毎回何人か問題になっています。」

校長「頼むよ今回は。」

教頭「は、はい。頑張って問題が起きないように、心得ております。」


校長は椅子を半回転させて、


校長「よろしく。」


教頭は困った顔つきで、


教頭「他にご用件は?」

校長「それだけだ。」

教頭「では失礼します。」


教頭は部屋から出て行った。

校長室の扉を閉めながら、


教頭「ああ、またいやな時期がやって来たわ。」


そうつぶやいていた。




夏休みの最初、3年に1回の学校の行事で部活の合同キャンプがあった。

これは運動部の部活同士の横のつながりを深めることが目的だった。

学年も1年から3年まで多くの運動部が参加した。

このとき3年のグループには光、西城、夏美、麗子、さつき、ユキが参加した。


担当の山中先生が小さなハンディ拡声器を持って話しかけた。


山中「午前中はオリエンテーリングで、森の中をぐるっと歩いてもらいます。」


山中は生徒代表の1人に地図をまとめて渡した。

その代表は生徒に1枚ずつ地図を配った。


山中「地図にあるポイント地点にはそれぞれスタンプが置いてあるので、この地図の所定の所にそのスタンプを押してください。」

光「おもしろそうだな・・・」

>>実はよくわかっていない。


夏美「あー朝から何で・・・ややこしいことをするんだろう。」

西城「ポイントが20もある。多くないか?」


西城の横に麗子がいた。


麗子「ほんと、朝から疲れそうだわ。」


ため息の麗子。


さつき「ユキ、一緒に回ろ。」

ユキ「うん、いいよ。」

山中「昼までに全部押して戻って来て下さい。では、スタート!」


生徒たちは塵々バラバラになって歩き出した。


あるポイント地点で麗子がスタンプの場所がわからずにあちこち探していた。


麗子「うーん、どこだろう???」


ちょうどそこへB2クラスの今野豊がやって来て、


豊「ここですよ。」


豊は親切に麗子に場所を教えた。


麗子「あ、ありがとう。」


麗子はバレーの練習でみかけた男子としか覚えてなかったが、この時から気になってしまいキャンプの終わりまでには友達を通じて、彼が1年後輩の『のぼる』であることを知った。


やがて昼過ぎには多くの生徒がゴール地点に戻って来た。



キャンプ2日目はフィールドアスレチックだった。

爽やかな快晴の空の下、鮮やかな森の緑が当たり一面を覆っていた。


山中「今日のコースは男子がBコース、女子がAコースです。さあどんどん進んでください。」


女子のコースでは男子と違い、2つの難関である途中のロック・クライミングと最後のウンテイが省かれていた。


光「なんだなんだこれは?」


男子のコースでは最後の8メートルもある、長くややアーチ型になった大きなウンテイが難関だった。

何せその前までで疲れがピークになってしまっていて、何度も落ちてやり直す生徒が続出したのだ。

なお、ウンテイのそばではすでにゴールした女子生徒が集まっていた。


そこへ豊がウンテイに挑戦し始めた。

さすがに疲れているのか、何度も落ち、女子の中には、


「もういいんじゃない。」

「かわいそうだわ。」


と言う生徒がでてきた。

そして麗子がウンテイに近づいて、


麗子「頑張れ!豊!」


麗子は豊を応援していた。

少し無理をしたが、それでもその声に励まされて豊は何とかゴールした。



こうして2日間のキャンプは無事終了した。

この後麗子と豊はクラブ活動の時間に時々鉢合わせすることも多くなった。

そして、そのたびに2人は仲良くなっていったのである。


それからもう一つ大きなニュースだが、高脇先生と清水先生が結婚するという話がどこからともなく聞こえてきたのであった。



ある日の日曜日。ここは麗子の家。

雅子は店に行く準備をしていた。


麗子「お母さん。この仕事って楽しいの?」

雅子「仕事に楽しいものなんてあるのかな?」

麗子「じゃ、いつまでやるつもりなの?」

雅子「働けるうちが花よ。」

麗子「働けるうち?・・・どう言う事?」

雅子「人間いつか死ぬんだし、それがいつなのかは誰もわからないでしょ。だからさ。」


麗子「ふう~ん。まあわかったような、わからないような・・・」

雅子「いいよわからなくても。今は・・・」

麗子「今は・・・」

雅子「そうよ。」


そして雅子はいつもの店に行きかけた。


雅子「麗子、今日は遅くなるから勝手に買って食べてきてね。」

麗子「いいよ。」

雅子「そうだ。ついでに買ってきて。」


雅子はそう言って、麗子にメモを渡した。


雅子が出かけて数十分後、麗子はスーパー「ゲキヤス」に行ったのであった。


やがて買い物が済んだので隅にあるフードコートに立ち寄った。

麗子はテーブルで買ったサンドイッチを食べていた。


ちょうどその隣がカラオケ店になっていた。

そしてその店に光と夏美がやって来た。


夏美「待った?」

光「全然。」

夏美「じゃ、入ろうか。」


麗子はこの2人を見つけてしまった。

光と夏美が中に入って行った。


麗子「あ・い・つ・ら・あ・・」


麗子は夏美に光を取られたのがかなり悔しかった。

ちょうどそこに豊とメンバー数人がやって来た。


麗子「豊!」

豊「あ、ああ、やあ・・・」


豊はちょっと照れくさそうにして、他のメンバーに何か一言二言話してから、すぐに麗子のそばに来た。


豊「やあ。」

麗子「なあにあの人たち?」


少し不思議そうにする麗子だった。


豊「いや、中学時代の同級生だよ。」

麗子「ふうん・・・何か学生っぽくないけど。」

豊「みんなもう働いているからさ。」

麗子「そうなんだ。で、今日ひま?」

豊「ああ、いいよ。」

麗子「一緒にカラオケ行かない?」

豊「行くよ。」

麗子「ちょっと用事が済んだらすぐ行くから、先に部屋に入ってて。」


豊は軽くうなずいた。

やがて麗子は用事を済ませるや否や、急いでカラオケの店に入って行った。


こうして光と夏美のデートを目撃してしまった麗子はしかたなく光を諦め1年後輩の豊と付き合い始めた。




第14話


秋祭りが中野神社で行われた。

神社前の広場ではいくつかの縁日が催されていて、「金魚すくい」、「輪投げ」、「ヨーヨ釣り」などの店に幼稚園児と小学校の1、2年の子供たちがたくさん集まっていたのだった。


ここはまたしてもあの「金魚すくい」の店。


子供「おじさんどいてよ。」

光「何で、オレが先じゃん!」

子供「早く取ってよ。次待ってるんだから。」

光「しょうがないだろ、このアミすぐ破れるんだから。」


子供は光をじっと見て、


子供「あー、このおじさん。昨年もいた・・・!!」

光「いたら悪いかよ。」

子供「もしかして9枚でも取れないの?」

光「うーん、12枚目だな。」

>>へぼへぼへぼ!


泳いでいる金魚たちが大爆笑していた。

また、「ジューシーカラアゲ」、「りんご&いちごアメ」、「フルーツ綿菓子」、「ジャンボフランクフルト」、「ジャンボたこ焼き」、「広島焼き」、「焼きそば、モダン焼き」などの店には、中高生から20代までの若者たちが例年通り多く集まっていた。


令と桃子の2人がカラオケに行った帰りに見に来ていた。


令「何か今年の夜店は、かなり食べ物の種類が変わったね。」

桃子「ほんと、でもやっぱ高いね。」

令「確かに。」


2人は夜店で買ったカラアゲの1袋を2人で分けていた。


令「小袋先生残念だったね。」

桃子「ほんとびっくりしたわ。しかし高脇先生って・・・全然格好良くないよ。」

令「違うよ、きっとお金よ。」

桃子「お金?」

令「高脇先生の家ってさ、病院でしょ。だからさ・・・」

桃子「女は顔より金かァ・・・」

令「そういうことよ。」

桃子「私には理解できないわァ・・・」

令「私、なんとなくわかる気がする。」


そしてカラアゲはきれいになくなってしまった。


桃子「そう言えばうちのパパがね、令のお父さん最近見ないって。」

令「ああ、そうそうもう株式投資を止めたんだって。」

桃子「そうだったんだ。」

令「だいぶ元気なかったからなあ。」

桃子「失敗すると大変だってパパが言ってた。」

令「その失敗じゃない・・・」


桃子「あらあ・・・」

令「最近夕食のおかずが変わったし、外食もめったに行かなくなったし。」

桃子「あー、聞かなきゃよかったね。」

令「別にいいよ、桃子だから。お父さん残業増えたみたいだし。」


令の父は株式投資の失敗でかなりの損をしたようだった。この後2人はさらにお腹を満たすものを探しながら歩いていた。


神社の奥の方では火の見櫓が置かれ、その周りで盆踊りをするように準備がされていた。


ここで麗子と豊がデートしていた。

2人は神社の境内からゆっくりと右に進んで、奥の方へ向かっていた。ちょうど大きな杉の木が見え出したとき、


豊「麗子さん、これ以上先は何もないですよ。」


豊はいつもよりかは早口で軽く話しかけた。


麗子「そう・・・」

豊「戻りません?」

麗子「わかった。」


麗子は豊の言うとおりに歩く向きを変えた。

と同時に豊に抱きついてキスをした。

驚いた豊はしばらく思いっきり麗子を抱きしめていた。

麗子は持っていた内輪とヨーヨーを下に落としてしまった。



秋の芸術祭の季節がついにやって来た。

今年のテーマは『信頼』だった。

今年も昨年と同じく校門前には大きなコラージュアートのはりぼてが見学者を出迎えていた。


さらに講堂では例年には無く一転して美しいコーラスのハーモニーが聞こえていた。


美術室では、


礼子「昨年よりレベルは断然上がってる。」

マチコ「ふうん、そうなの。」

礼子「これからの若い子たちがどんどんレベルの高い素晴らしい作品を見せてくれたら、私たちにも励みになるのよね。」

マチコ「へえ・・・」


やがて礼子とマチコは教室の外へ出て行った。


入り口の受付では、


昌子「マキいよいよ今回で終わりだね。」

マキ「だね、最後かと思うとちょっぴり淋しくなる。」

昌子「そうだよね。でも私たち卒業しても一緒に何かやりたいね。」

マキ「うん、いいよ。」

昌子「よかったら私たちのサークルに入らない?」

マキ「あ、あのウナギ?」

昌子「そう、仲間に聞いてみるから。」


マキ「ありがとう。でも私ついていけるかなあ?」

昌子「大丈夫よ、そんなにレベルの高いサークルじゃないし。」

マキ「じゃ、よろしくね。」


一方美紀は小誌のパンフが効果を発揮しなかったことがショックで、うつになって窓の外を見ていた。


さてこちらはグラウンドにある運動部のバザーのブースの一角です。


ここはテニス部のブースである。

ユキが手を強く叩きながら、


ユキ「はいはいはい、よかったらもんじゃどうですか!もんじゃどうですか!」


そこへ猟犬のようなすばしっこい駆け足でハーハーゼーゼー言いながらやっぱり光がやって来て、


光「やっほーい!はっはっはっ・・・・・」


光はちょいとばかり息が切れたみたいだった。


ユキ「何光さん、疲れ切った犬みたいな走り方でまた邪魔しに来たのですか?」

光「まーさかぁー、今年は本気で食べに来たんですよーぉ。」


光はニコニコして答えた。

>>本気で食べるって、どういう食べ方なのかな?


麗子「ちょっと、自分のブースはどうなってるのよ?・・・ほっといていいの?」


そこに割り込んだのは麗子だった。


光「大丈夫大丈夫V!!オレピザがいいな。」

麗子「ここはもんじゃだけよ!ピザしか知らんのかい、昨年と同じ事を言うなって!!」


麗子がテーブルを連続叩きしながら言った。


光「じゃ、たこ焼き!」

麗子「ふざけてんのかあ、おいこらあ。スーパーにあるでしょ、そこに行ったら・・・ぼけあほかす!」


さらに麗子がテーブルを2、3回叩きながら言った。


光「じゃ、たい焼き!」

麗子「おんどりゃあ~!!だからここはもんじゃだけだと言っとるんじゃああああああああああ!!!!!!!!いっぺん殺したろうかーあ!!!!!!」


麗子は両手にペットボトルを持ち、光に向かって投げる姿勢になった。


光「ひぇー・・・こ、恐いよ・・・」


さすがに麗子の張り裂ける声にはかなわなかったようだ。


そこに男女カップルのお客さんが来た。


ユキ「いらっしゃいませ。いかがですか?」

客1「私ミックスにしようかな?」

光「あ、それとてもおいしいですよ~♪スカートちょー短くていいですね。」

>>意味不明??


麗子「光!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ー!」


麗子はとうとう腕ずくで光をブースから離れさせた。

光はついに追い出された。


客2「オレもやっぱミックスでいいや。」


この日ばかりは学校内は年に一度の生徒たちの活躍でバザーの方も大盛況だった。

やがて時も夕方4時をまわり、バザーのブースでは完売した店から次々とぼちぼち片付けに入るブースも出てきた。

それにつれて人だかりも徐々に減っていき、そしてブースの周りの掛け声もそれと共に減っていった。


そしてボランティア部のメンバーが最後にバザー周辺のゴミ掃除をしていた。



芸術祭が終わった後、多くの生徒が打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。

そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。


ここはテニス部だけのテーブル。

麗子が両手を挙げてバンザイをしながら、


麗子「はーい、みんなお疲れー!」

ユキ「声が枯れてしまったわ。」

さつき「そう言えばユキ、今年も最初から最後までずっと呼び込みしてたもんね。」


テーブルの真ん中にはすでに空になったフライドポテトとホットケーキとチーズケーキの大きな皿とソフトドリンクの空の山ができていた。


隣の静かなテーブルでは、


マキ「あーやっと終わったね。」

昌子「ほんとに疲れたね。」

マキ「お疲れ様でした~♪」

昌子「乾杯~♪」


マキは100%オレンジジュース、昌子は野菜ジュースで乾杯した。


マキ「サークルの話、ほんとにいいのかな?」

昌子「いいよ。ほら持ってきたんだ、同人誌。」


昌子は数枚のチラシをマキに見せていた。


マキ「わあ、すっごいキレイ!」


やがて2人はジュースを飲み切ってしまった。

そこにちょうど店員さんが通った。


マキ「お子様セット2つね。」

店員「お子様セットにはドリンクが付きますが、どれにしますか?」

マキ「私はオレンジジュース。」

昌子「私はカルピス。」

マキ「あっ、やっぱり私もカルピスにする。」



クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年もイルミネーションが見られることになった。


雅子「何々? こんな所に連れて来るなんてさ。」

学「いいじゃないか、けっこう暗いんで気づかれることはないよ。」

雅子「へえー、心配してんの?」

学「そりゃそうだろう。誰に出会うかわからないからなぁ。」

雅子「じゃ帰る?」


学「おい、せっかくイルミネーションを見に来たんだから、しばらく見ておこうよ。」

雅子「あなたって、そんなロマンチックなとこあったのね。」

学「昔からこんな性格だよ。」

雅子「よく言うわ、女たらしの・・・」

学「わっ、それは言わないでくれ。」

雅子「だって言わせるんだもん。」

学「ゴメンゴメン・・・」


学はすぐに謝った。

そして雅子の透き通った目をじっと見ていた。


雅子「あれ? イルミを見るんじゃなかったの?」

学「イルミをお前と見ることが嬉しいんだよ。」

雅子「うふふ、そう言って何人騙したのかな?」

学「まいったなぁ・・・」


学はそう言って雅子の左手をしっかりと握って2人でゆっくりと歩き始めた。


雅子「私このあと予定ないわよ。」

学「わかった。一番良い部屋予約しておくよ。」

雅子「今から?」

学「アハハ、実はもうとってあるんだ。」

雅子「やっぱりね。」


雅子はいつもの学だと関心していた。

この時2人の横をすれ違うカップルがいた。


男「どうしたんだよ。こんな所に?」

妙子「だって、急に会いたくなる事もあるでしょ。」

男「何かあったのか?」

妙子「別に何もないけど・・・」

男「そうかな? そうは思えないけどなぁ・・・」

妙子「女の心は複雑なのよ。」


男は顎の髭を2、3回左手で撫でながら、


男「お前って結構単純、単細胞だったじゃないか。」

妙子「それは小さい頃の話でしょ。今は大人なんですよ。」

男「へえー、どんな風に大人なのかな?」

妙子「もう、バカ。」


2人は寄り添って歩いていた。

そして妙子が男にもたれかかった。

このあと2人はネオン街の方へ向かって行った。



今年も年末の大掃除でボランティア部は東中野商店街周辺のゴミの処分をお手伝いすることにした。

町内会長の外村さんはやはりニコニコ顔で、


外村「毎年ほんとありがとう。助かります。」

三角「いいえ、毎年の行事として定着すればいいですけどね。」

桃子「定着・・・あーあー・・・」


桃子は心の中で思った。

今ボランティア部には3年生だけしかいないので、来年で部が消滅してしまうと考えているからだ。

しかも三角はそれを未だに理解していない。


ボランティア部員のメンバーはそれぞれ別れて、持ち場の掃除を始めた。

桃子はゴミを集めながら、


桃子「このままだとボランティア部は消えてしまう。何とかしなければ・・・しかし昨年もそう思って今日になってしまったなあ・・・」


彼女はこれ以上強く思い込むのはやめることにした。


大掃除が終わったあと、三角以外はさっさと帰宅していった。

外村さんがやや重苦しい表情で、


外村「いやあ、ほんとにありがとうございました。」

三角「いいえ、これでいいんですよ。」


その時急に車が境内の前に止まり、そこから1人の女性が出てきた。

そして、小さなゴミ袋を持ち、境内のゴミ箱に入れた。

そしてすぐに車に戻り、さっさと車は行ってしまった。


それを見た外村さんが、


外村「ある町でそこの会長さんと食事をしたときの話なんですが、家で出たゴミはスーパーやコンビニへ持って行き捨てて、そしてスーパーへ入ると試食、試飲のコーナーを探し回り、夜には図書館が閉館する時間になると、車を止めて去ってゆくのが毎日の光景だと言ってました。」


三角は不思議そうに聞いていた。


外村「ゴミは有料のゴミ袋に入れて捨てなければいけないんですが、袋1枚18円、月150円から200円かかるそうです。車は駐車料金が月8000円。こうした話はめずらしくないらしいです。」

三角「すると、ゴミも駐車もタダで済まそうということですか?」

外村「そうです。スーパーのフードコートにはその店かどうかはわかりませんが、半額で買ったお弁当をその場で食べて帰る客も多いとか。今は図書館で新しいビデオやDVDが毎日観ることができるので、レンタルビデオ屋さんも閉めたそうです。」


三角「一体何が原因なんですか?」

外村「それは、何でもかんでも全てにお金がかかり過ぎだからです。お金に対する考え方が、政治家は『使うためにある』と言って税金を気ままに使い、自分の給与はしっかり貯金します。我々庶民は毎月わずかながら、ささやかな貯金をいざという時のために蓄えているんですよ。」

三角「信じられないよ。」

外村「でも現実なんですよ。ただ、この町の人たちはそんな事はないですけどね。」


2人が話している途中で、また別の車がやって来た。

急に神社の前で止まり、1人の女性が助手席から出てきた。

その女性は両手に手提げ袋くらいの大きさのゴミ袋を2つ持ち、そして周りをやや気にしながら境内にあるゴミ箱に入れるや、すぐに急ぎ足で車に戻った。

そして車は去っていった。


外村「とうとうこの町にもやってきたか・・・」

三角「僕たちって家庭で出たゴミを集めてるんですか?」

外村「そうなるね。」

三角「残念ですね。」

外村「本当に残念だ・・・」


2人は境内の溢れそうになったゴミ箱を眺めながら話していた。



大晦日の中野神社ではかなりの冷え込みがあったが、まずまずの初詣客が来ていた。


マキ「昌子と一緒にイラストが描けてよかったよ。」

昌子「来年も一緒にやろうね。」

マキ「うん。頑張るよ。」

昌子「じゃ、来年のイベントに一緒に行こう!」

マキ「OK!」


2人の白い息が今日の寒さを感じさせた。


少し離れて、不釣合いのカップルが並んで歩いていた。

そしてすぐ傍にあった自販機で吉永がコーラのペットを買った。


麗子「何で私となの?」

吉永「誰も相手してくれないからよ。」

麗子「夏美とのうわさはどうなったの?」

吉永「まったく見当たらない。」

麗子「そうかもね。夏美は綺麗だし、相手選ぶよね。」

吉永「オレなんか、これといってとりえが無いから。」

麗子「男はもっとしっかりしなきゃ!ほら!」


麗子はそう言って吉永の背中を軽く叩いた。


吉永「まあ、頑張るよ。」

麗子「まあじゃダメだと思うよ。」

吉永「そりゃそうと麗子は1人なのか?」

麗子「失礼ね、いるけど今日は向こうが都合悪かっただけよ。」

吉永「やっぱり・・・」

麗子「頑張ってお祈りしなさい!」


麗子は吉永の右肩を軽く叩いた。


吉永「うん。」

麗子「元気の無い奴。」


吉永はコーラゼロのペット500を飲みながら1人で去って行った。

>>この寒さでコーラですか・・・




第15話


翌年の2月。今日は13日。

スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が再びリニューアルした新設のコーナーを占拠していた。

勿論目当てはチョコ。

とくに女子高校生の集まりはやっぱり多く、押し合いもみ合いながらまるで特売日か年末の人手になっていた。


マキ「すっごいね、毎年毎年人だらけ。」

昌子「ほんとだ。」

マキ「うちの生徒がやっぱり多すぎるわ。」

昌子「ほんと、みんな渡す相手同じじゃない。いい加減あきらめればいいのに。」

マキ「そうよね、もうすぐ卒業だし。」


昌子の言うのはまたしても大当たりだった。

翌日の放課後、西城の下駄箱の中にはたくさんのチョコが押し込んであった。


光と西城が下駄箱にやって来た。


光「おいおい何これ。」


半分ムカついた表情をしながらさすがに昨年の失敗からか、今年はイタズラはやめたようだ。


西城「まったく・・・」

光「いいよな、もらえるんだから。」

西城「やるよ。」


西城はそう言うとチョコのほとんどを光に渡した。


光「おお、サンキュウー・・・。あ、それも。」


光は西城の持っていた3つばかりのチョコも横取りした。


西城「しょうがねえなぁ。」


西城は完全に呆れてしまった。

光は楽しそうに足早に1人で帰って行った。


何故か翌日の光と豊の下駄箱にはチョコがそれぞれ1つずつ入っていた。




花園学園大附属高校の卒業式に今年は特別に大野竹輪がゲストとして招かれていた。


山中「只今より第40回花園学園大学附属高校の卒業式を行います。一同起立!」


校長が中央の教壇に進んだ。


山中「一同、礼!」


校長が礼をした。


山中「着席!」


校長があらかじめ用意しておいたメモ原稿をそそくさとポケットから出した。


校長「では簡単に祝辞を述べたいと思います。・・・」


校長の話は意外や長かった。

その後役員のこれまた長い話やどうでもいい行事での優秀者の表彰があって、続いてゲストの大野竹輪が壇上に立った。


大野「みなさんこんにちは。私が大野です。ご存知の方も多いと思いますが、今年ミステリー賞という大きな賞を頂きまして、現在も『もう1人の自分』に続く作品を現在執筆中であります。・・・」


大野氏の話は短かった。



やがて卒業式が終わった。

講堂から親と一緒にそれぞれの卒業生が胸に何か新しいものを抱きながらぞろぞろと出てきた。


桃子「結局ボランティア部は消えちゃうね。」

三角「残念ですね。」


桃子はこの時ムッとした。

何故なら新入部員の募集活動には三角はまったく参加していなかったので、


桃子「昌子たちも頑張ってくれたんだけどね。」


三角はほとんど喋らなかった。


桃子「で、三角君。大学行くの?」

三角「九州に帰ります。」

桃子「九州?」

三角「実家が福岡なんで。」

桃子「へえー、初めて聞いた。」

三角「はい、誰にも話してないですから。」


確かにそのとおりだった。

三角とまともに会話をしたのは桃子ぐらいで、しかもこの日が一番長い会話になったのである。


桃子「じゃあ頑張ってね。」

三角「はい。桃子さんもお元気で。」

桃子「ありがとう。」


だが、この日以降三角の消息はクラスの誰一人として知る者がいなかったのであった。


マキ「入学式の日には長い3年と思ったけど、今は早かった3年に思うよ。」

昌子「そうだね。お互いいろいろやったけど、とってもいい思い出になってるよ。」

マキ「昌子ありがとう、いろいろ教えてくれて。」

昌子「何でよ、私こそいろいろ・・・」


2人の母親たちは娘たちの会話を聞きながら笑っていた。


マキ「就職はどこに決めたの?」

昌子「デザイン事務所、渋谷にあるの。『オフイス・サンバード』って言うの。マキは?」

マキ「私は花園学園大学で事務。」

昌子「そうかあ。でもたまにはどっかで会おうね。」

マキ「いいよ。」


こちらは仲良しの2人組。


ユキ「あー、卒業っかあ・・・」

さつき「長いようで短かったなあ。」

ユキ「そうだね。昨日入学したような。」

>>それは極端でしょう。


さつき「どっか行く?」

ユキ「どこも人が多いから、あのカフェにする?」

さつき「そうだね。そうしよう。」


さつきの携帯が鳴った。


さつき「あ、ママからだ。」


さつきの母たちもすでにカフェにいるという連絡だった。

2人はそのまま「リラックス11」に向かった。


向かう途中3年間お地蔵さんの写メを撮り続けてきたさつきは、携帯の画像を1つずつユキに見せながら、


さつき「どうどう、どうよ。」


さつきは大爆笑していた。


ユキ「まあこれも記念・・・しかしこれずっととっておくの?」

さつき「そう、だって同窓会の時の話題になるじゃん。」

ユキ「も、もうそこまで考えてんの・・・」

さつき「もち。もっとも価値はゼロだけどね。」

ユキ「確かに・・・」


ユキは持ってて何の得になるのか理解に苦しんでいた。

そしてさつきの元気はさらに広がっていったのである。


さつき「あっ、そうだった。もう1人変なやつがいたのよ。」

ユキ「光のこと?」

さつき「それが違うのよ。」


さつきはそう言うと再び写メをユキに見せた。


さつき「これこれ、こいつよ。」


ユキは考え込みながらさつきの携帯を横から覗き込んで、


ユキ「誰? この人?」

さつき「1年先輩のピングー。」

ユキ「何そのピングー・・・?」

さつき「あのね、私服はいつもピンクのカーディガンを着てるのよ。それでピンクがピングーに訛ったの。」

ユキ「ふう~ん・・・」

さつき「さらにこいつ、いつも同じギャグ飛ばしてやんの。」

ユキ「ギャグ?」

さつき「トゥース!」

ユキ「な、何それ!」


ユキは驚きながら呆れていた。



こちらは共に親が忙しくて式が終わり次第さっさと帰った2人は寄り道して近くの公園にいた。


夏美「あー終わった終わった。」

吉永「なっちゃん。」

夏美「な、何よ気持ち悪い。」

吉永「そ、そう・・・」

夏美「だいたい慣れ慣れし過ぎるわよ。ほんと女性の気持ちをまったくわかってないんだから。」

吉永「そ、そうか・・・」

夏美「何?1年のときのガッツはどこ行ったの?」

吉永「あは、あ、あれれ?」

夏美「何とぼけてんのよ。」


夏美はそう言ってさっさと自分の家の方角に帰って行った。

吉永はそれを黙って見送っていた。


すると後ろから、


麗子「やっぱダメだね、それじゃ。」

吉永「麗子。」


麗子は呆れた様子で、


麗子「おい、何で私は呼び捨てで、夏美はアレなんだよ?」


吉永は少しあせった様子で、


吉永「し、自然とそうなるんだよ。」

麗子「まあ、頑張れ。私には関係ないし。」


そう言うと、麗子は吉永の肩を軽く叩いた。


吉永「麗子さん。」

麗子「キモイ~!!そばに寄るな!!」


麗子もさっさと自分の家の方角に消えて行った。


そしてそこには吉永1人突っ立っている光景が、空を横切る黒い2羽のカラスにも馬鹿にされているようにも見えた。

そばのゴミ箱には3本のコーラのペット500が捨ててあった。



その後の三角の消息は誰もまったく知らなかったのだが、1年後にどこからともなく高齢者介護施設「特別養護老人ホーム」で働いているのではないかという噂が流れていたのであった。



最後にこの話の主人公です。

校門前にダークブルーのベンツが入ってきた。

やがてベンツは1階入り口の駐車場に止まった。

そこには光と母親が待っていた。

出迎えた召使2人にドアを開けさせると2人は車に乗った。


周りの人たちは一斉に彼女に注目した。

そして母親は気取りながら髪を1、2回触った後で運転手に声をかけた。


ベンツはゆっくりと校門を出て、狭い道路をすり抜けるように走っていった。




―― 光からのショートメッセージ


光「この話は麗子のストーリーになってないかあ?」

作者「気のせいです。」

光「そうかなあ・・・あまりオレが登場しないけどなあ・・・」

作者「気にしない方がいいと思います。」

光「まあいいか、吉永よりは出ているみたいだし。」

>>わかってんのかな?


<< 付録 >>


第16話 香水について


フレグランス(香水、オードパルファン、オードトワレ、オーデコロン)の一つ。アルコールに溶かした香料の割合が高い順、香りの持続時間が長い順に香水(5~7時間)、オードパルファン(5時間)、トワレ(3~4時間)、コロン(1~2時間)。それぞれおおよその時間です。


登場する香水。


シャネルNo5

シャネル

ジェニロペ

クロエ

ランバン

グロウバイジェィロー

サムライウーマン

エクラド

パシャ

ドルチェ


ー 完 ー



この小説は「キラキラヒカル」全集の第2巻(後編)です。


キラキラヒカルは新しいカテゴリ、「4次元小説」の1冊で、これまでにはない新しい読み手の世界を考えて描いてあります。


なお、「もくじ」は配布している冊誌の表紙裏を入れました。


このシリーズでは、「登場人物一覧」以降は「ハンドブック」に記載しています。そちらをご覧ください。



<公開履歴>

2016. 1. 1(2-1)配布

2018. 4.23 yahoo掲示板にて公開(2-2)


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