【三話 悪魔の森の仔~蒼と赤紫~】
さて、次はウーサーに関わった事で色々狂ってしまった、哀れ不幸な人物の一人の話をしよう。
その人物は君を含め世界中の誰もが知っている、あの魔術師が魔術師になる前の話であり、二人の出会いでもある話。
あぁ、そうだ。なんか今さらだけど忠告ね。
彼等の出会いに小説や漫画みたいな、美しいご都合主義的なモノはあまり期待膨らませない方がいいよ、マジで・・・・・。
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内容を大幅変更完了しました!
その森は【アヴァロン】から追放された《悪魔》達が封じられた『悪魔の森』呼ばれていた。
彼等は強力な結界により森には出られなかったが、森から入って来た人間や動物を片っ端から殺していったと言う。
それに気付いた人間達はその森には誰も近付かなかった。
それから森の《悪魔》に殺される犠牲者はいなくなる。
森に近付かなくなり十数年たった頃、ある者が言った。
誰も近付かなければ《悪魔》達は糧を得られず、腹を空かせて結界を破り人間を狩りに来るかもしれない、と。
それを聞いた人間達は再び『悪魔の森』を思い出し恐れ始めた。
ある者は言った。
餌が喰えなくなり餓えて暴走した《悪魔達》が封印を破り出てこないように、罪を犯した人間を処刑と称し森に放り込めば良いのでは?と。
それから人間達は『悪魔の森』に罪人を送る様になる。
最初は数名だったが時が経つにつれ、数十、数百と増えていった。
いつしかその森は『悪魔の森』から『喰罪の森』と呼ばれるようになり毎日の様に罪人が送られた。
そして今日も一人の罪人が森に喰われてくのであった・・・・・
* * * * *
「『悪魔の森』の封印が解けた」
ブリテンの小国の一つ『■■■■』。
一人の精霊から『悪魔の森』の異変の報告を受け、その国を治める王は直ぐ様封印が解かれた原因究明と、森から悪魔が出てきたら直ぐ対応出来るよう、一人の年老いた魔術師に命じた。
王の命を受けた老人の名はエムリス。
『■■■■』で随一の宮廷魔術師だ。
彼は只の年老いた宮廷魔術師ではない。
人間と妖精の混血で普通の人間の何倍もの長い時を生きていた。
その長い時の中、彼はこの国の何代もの王を支え続ける現役宮廷魔術師兼王の相談役と結構高い地位のある重要な人物だ。
しかしこのジジイ、よく仕事を弟子に押し付けるわ、誰にも見付からない所で好物の甘いお菓子を食べてサボってるわ、妖精とウーサーの兄を巻き込んで城の者にえげつないイタズラを仕掛けるわとかなりの問題ジジイだったのだ。
いやー、私も昔時々仕事サボっちゃう時あったけど流石にイタズラとかはしないわ~。
え?仕事しろ?もー!話聞いてた?「昔」って言ったじゃん!今は真面目に仕事してるよっ!
・・・・・・・・だってサボったら処されるもん。
ゴホンっ!!で、当然、彼のイタズラの餌食になった被害者達は怒り狂いマジでジジイを殺さんと、とても世間様には見せてはいけない程のヤバい形相で追い掛けているのが毎日の様に目撃されていた。
その様子を初めて見た弟子とその他お城で働いている人達は、あんなちゃらんぽらんなジジイに最高管理職を任せているこの本当国大丈夫か?とドン引きながら呟いたとか・・・・・。
そんな有能だがトラブル製造機のエムリスは、森の調査をする為数名の弟子達と五部隊の騎士と共に森の調査へ向った。
『悪魔の森』に到着し、まずは外から様子を見る。
大きな黒緑の木々が不気味に密集している森。
・・・・・結界が無くなっている以外は何も変わっていない。
(ふむ・・・・・。《彼女》の言った通り、見事にキレイさっぱりに結界が消えておる。これは確かに一大事じゃな。
じゃが、それ以前にあの森は・・・・・)
一通り森を観察したエムリスは、紫水晶の目を閉じ思考する。
率いてきた弟子と騎士達はその様子を静かに見守り、彼の指示を待った。
彼が思考の海に沈みそこから浮上したのは、日が彼等の真上に上った頃。
現実から戻ってきたエムリスが彼等に最初に出した指示は、
「森に入るのは儂一人だけ。皆はそのまま待機じゃ」
と、にっこり笑って言った。
それを聞いた彼等の反応は様々だった。
何か企んでるなこのジジイと警戒する者(主に騎士達)、とうとうボケが進行してしまったかこのイタズラ爺、と失礼な事を冷静に思っていた者もいた(主に弟子達)。
真面目な者は何を言ったいるんだと、彼を本気で心配していた(二名だけ)。
一応、全員一人で行くのは危険だとエムリスを止めようとしたが当の本人は聞く耳持たず、制止も聞かないならばと強引に着いて行こうとすると魔術で足止めされてしまい、エムリスはそのまま森へ入ってしまった。
日が沈み夜の帳が下りた頃、エムリスは戻ってきた。
そして、心配して駆け寄る弟子達と騎士達に簡単に森の様子と彼が背負っているモノの報告をした。
「あの森は既に死んでおった。
唯一の生き物は森で拾ったちっこいコレ以外なーんもいなかったよ」
と、背中のボロボロの黒い塊を見せた。
* * * * *
────────半年後
薄暗い地下。
そこに一つ頑丈な木の扉。
扉の前には何やらとてつもなく不穏な空気を纏う者だ立つ。
その者は今年めでたく十歳の誕生日を向かえ、過酷な訓練「最強騎士を目指す(略)」"おさんぽ編"から"ピクニック編"にランクアップしたウーサーだった。
そして────
「いい加減出てきなさーい!!」
ドゴオオォォォォン!!!!
「ぎゃああああぁぁぁっ!!!!」
ウーサーの言葉と同時に、一緒に連れて来た妖精達の容赦ない風の魔術が放たれた。
分厚い扉は凄まじい轟音を立て木っ端微塵に破壊する。
その風圧と何かの波動で、一人小さな黒髪の少年は壁際まで吹っ飛んでいった。
ウーサーは部屋に浸入すると、ズンズンと黒髪少年の方に進み、彼の目の前で立ち止まる。
「私と兄が騎士団の訓練に行っていた一週間。
浴場に行かず資料室に結界張って引き籠っていたらしいですね?」
「っテメ、ふざけんなッッ!なんで細目に体洗わなきゃなんねぇんだよ!!」
「ちゃんと話してるじゃないですか。最近各国で病が流行りだしたと報告が上がっています。なので衛生面は徹底的に管理するようにとお達しがあったでしょう?
だから身体は清潔に保たなくてはいけませんよ」
「んなのオレには関係ねぇだろ!!」
「・・・・・・・・「関係ねぇ」、ですか?」
「!?」
「・・・・フフフ、ずっと何度も私が懇切丁寧に説明したのにも関わらず「関係ねぇ」とまた言うのですか?」(何か黒いのが出る)
「」
「どうやら貴方にはもう一度、ちゃあんと、身体に教えこまねば行けないようです・・・・勿論、身体も徹底的に、隅の隅まで綺麗に洗ってあげますから、だから安心して私に身を委ねて下さいね?」(黒笑)
「ヒィっ!」
ウーサーの周りに黒いオーラが発生!
“ブラックモード”が発動!
少年は恐怖で身体が動かない!
少年は動けないので逃走不可能だ!
ウーサーが笑顔(黒)でゴキリと指を鳴らし攻撃体勢に入った!
※“ブラックモード”とはウーサーと彼の母含めたご先祖様達のみが発動できる特種スキル。
ある条件を満たしてしまうと、普通の人にはそんなに害は無いが何か悪い事しちゃった人には加減と色の濃度によって、トラウマ作るほどの効果絶大な何か知らんが視認できてしまう黒いオーラを放出した状態になる。
黒いオーラは無害な者以外が見たり触れたりしたら―――――――――――――――――になる。
・・・・・この状態にしてしまったおバカさんは、発動した人物の"何か"が治まるまでこのおっかない"黒"から逃れられない・・・・・・・・。
「さぁ、教育的指導の時間です!!!」
ブリテンのとある小国に、今日も灰色の雲だけしか見えない空の下、少年の元気な声が響き渡るのであった・・・・・。
ウーサーは今日も元気に、浴場をバックれ地下室に逃げ込んだ少年を問答無用で、『人間洗濯の刑』に処した。
無事に少年を綺麗に洗い終え、グッタリしている隙に、身体を拭いて最後に、背中まである黒い艶のある長い髪を拭く。
「はい、拭き終わりましたよー」
「・・・・・・・・・・・・」
「もう、何時までブスくれているんですか?
こうなるの分かっているんですから、ちゃんと体洗えばいいじゃないですか」
「・・・・・・・・・・・・」
「一人で浴場行くのが嫌なら、誰かに頼んで一緒に行ってもらえば良いでしょう?ここの人達は皆、貴方の事情を知ってますから言えばちゃんと行ってくれますよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「黙りしてばかりですと、(背が)大きくなれませんよ」
「誰がチビだぁ!!ぶっ殺すぞテメェ!!」
「チビとは言ってませんよ」
この口が悪くてウーサーより頭一つ分背が低く、目元には青黒い濃い隈とガリガリに痩せた明らかに不健康そうな黒髪の少年が、この国に来て半年。
仲良く()ウーサーと喋っている彼だが、初めてこの国に来た時はそれはもう酷かった。
* * * * *
─────半年前
「ふーむ、困ったもんじゃのう・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
宮廷魔術師のエムリスは珍しく、飄々とした余裕のある表情を崩し何処か疲れた顔をしていた。
原因は七日前、エムリスが例の『悪魔の森』の調査の時其所で拾い、彼自らが名付けた子供だ。
あの森の調査を終えた後、そのまま彼は周囲の反対を押しきってマーリンを連れ帰った。
その時はマーリンは気絶していて、何事も無かったのだが問題が起こったのは、王に森の調査結果を報告している最中の時だった。
マーリンを寝かせていた部屋から獣の様な悲鳴とも絶叫とも言える叫びが城中を駆け巡ったのは。
エムリス達は報告を中断し、直ぐ様マーリンのいる部屋に向かう。
部屋に着き、其所で彼等が見たものは三人の大人の騎士に押さえつけられている少年と、腕から血を流し扉の近くで座り込み震える侍女だった。
押さえつけられているマーリンは訳の分からない言葉・・・・・否、もはや言葉なのかどうかも分からない音を発し、大の大人が本気を出して押さえ込むほどの力で暴れていた。
「さすがエムリス。お前の連れてくる者はつくづく面白くて飽きないな。
─────しかし、我が国の民に害を成すのは流石に頂けんが」
と、一緒に来た王は帯刀していた剣に手をかけた。
王の微かに発する殺気で自分を仇を成そうとする事に気付いたのか、マーリンは更に暴れだす。
ただならぬ事態に周りに緊張が走る。
その中、いち早く動いたのはこの国最古参の宮廷魔術師だった。
彼は静かに王の前に跪き、
「お待ちください王よ。この者を連れてきたのは私でございます。故に責は私が代わりに負います故、どうかご容赦を・・・・・」
「ほう?珍しいな。お前がそこまでして止めようとするとは・・・・・。それで?その理由は何だ?」
「それは─────・・・・・」
* * * * *
あの時のエムリスの説得によりマーリンの処罰は免れたがそれは一時しのぎでしかない。
王は許すのは一度だけと言い、同時にある条件をエムリスに言い渡した。
「一月以内にアレを少しでもこちら側に戻しまともにしろ。
片方だけではない。両方だ。
出来たらお前の望み通りにしよう。
出来なかったら問答無用で切り捨てる。
あと、期間内に何かを仕出かした時も、だ」
あれから七日が経過。
エムリスは根気強く、暴れ発狂するマーリンとの対話を試みた。
しかし、マーリンの瞳から狂気の色は消えず、更に一気に自分の周りの環境が変わったのとエムリスの鎖に縛られてから、益々狂暴に酷くなっていく。
このままだと、王の提示した期限内でマーリンを引き戻す処かまともにする事は出来ない。
─────と言うか時間が全く足りない!
「(期限が足りないのを分かっていて、あの王は一ヶ月と無茶振りな期限つけたんだがのぉ・・・・・)」
王がエムリスに沙汰を言い渡した時の顔。
彼はもの凄く良い顔で笑っていた。
その表情から生まれたときから見ているエムリスは王が何て言っている事が分かった・・・・・分かってしまった。
「(宣言したんだから絶対例え無茶でも死物狂いでやれよ?
と言うか、子供斬るの面倒だし何より一番愛しい彼女が悲しむ。それは絶対ごめん被りたい!!
あと、お前が苦労する姿見るの凄く面白そう)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・王よ。
・・・・・王の表情から、自分本意丸出しの本音を読み取ってしまった自分を恨むエムリス。
因に無理難題を申し付けてきた王は、もう一回王妃にお仕置きされれば良いのにと思う、本当マジで。
そして始まったエムリスとマーリンの壮絶な戦いの日々は始まったのだが、今のところ結果はご覧の通り惨敗続き。
幼い子供とは思えない程の力で暴れ始め、それはこの国で上位の実力を持つ騎士三人で抑えなければならないものだった。
同時にマーリンは人間が話す言語処か、獣の鳴き声とも判断しがたい意味の解らないし音か発していなかった。
しかし、彼は一日だけ大人しかった時があった。それは彼を連れてきた四日目の事。
何時もだったら血走った目を爛々と光らせ、自分の体の自由を封じた───エムリスが特殊な術を施して作った鎖を引きちぎろうと激しくもがいていた。
だがこの日だけはあるトラブルがあり、危うくマーリンを殺すところだった。
あの時の彼の表情は恐怖と嫌悪・拒絶の色がそれはもう色濃く出ていて、人間として当たり前で正常な反応をしたのだ。
今までとは違う反応を顕にしたマーリンに、驚きつつもエムリスはこれを好機とばかりに対話を試みようとしたが、それは叶わなかった。
エムリスが口を開こうとした直前にマーリンは過呼吸を起こし、そのまま呼吸が停止。昏睡状態に陥りそれ処では無くなったからだ。
その場はエムリスのお陰で何とか昏睡状態から脱したが、その四日目以外マーリンは発狂状態のまま、正常に戻る事はなかった。
あの四日目の様にこちらに戻ってこない。
症状は酷くなる一方だった。
連日惨敗続きだが、彼はただ負けているだけではない。
この七日間ただマーリンの暴走を抑えたり、介抱をしつつマーリンを観察した。
そしてその結果、幾つか分かった事があった。
・出された食事に手を一切付けない。
・常に発狂し暴れる。(疲れないんかのぅ?)
・人語ではなく解読出来ない言語(若しくはただ叫んでるだけ)しか発さない。
・誰かが部屋に入ると更に殺気と狂気を剥き出しにして警戒体制に入り攻撃してくる。(但し鎖に縛られているので被害は無い)
・どんな些細な音でも過剰に反応し暴れだす。
・明るいのを嫌い朝は夜より大暴れする。なので部屋は常に薄暗くしている。
・ある程度実力のある騎士三人以上は必要でそれでやっと抑えられる。魔術師の場合、エムリス以外は無理。(回避能力が高いから)
※四日目に判明
・一番危険なのはある二つのものを目にしてしまう時
“女性”と“林檎”
これら二つのどちらかを目にすると今までとは違う反応を示す。
上記以上に発狂し、暴走、更には自分の体を傷つけ、一番酷い時は過呼吸をお越し呼吸が停止する。
「(最後のは本当の坊やのものじゃろうな。あの坊や女という生き物と林檎、余程深いトラウマを埋め込まれてしまったのかもしれんな・・・・・)」
以上の事が分かったが、それはただ分かっただけであって、何故こんな幼い彼がここまで酷い状態になってしまった経緯は分からない。
原因を探ろうにも、当の本人はまともに会話する事は出来ない上、見た目年寄りのエムリスにも容赦なく攻撃してくる始末。
マーリンの過去を覗こうにも、発狂しているせいかそれが視えずそれも出来ない。
これでは本当に期限内にマーリンをこちらに引き戻しまともにする事が出来ない。
正に八方塞がりの状態。
エムリスは今日で一番重い溜め息を吐いた。
マーリンは自分が処刑されるかもしれない危機に陥っている事は知らず発狂し暴れるだけ・・・・・。
「すみませーん。誰かいるのですか?」
緊迫した部屋に何とも緊張感の無いのんびりとした幼い子供の声と、コンコンと控えめなドアをノックする音と共に入ってきた。
声の主はあの無茶振りな命令を吹っ掛けてきた王の次男。
例の名前がもの凄くダサい訓練の"ピクニック級"から帰ってきたウーサーだった。
「(む!?これは?)」
彼の声が入ってきたその時、この部屋に変化が起こったことをエムリスは見逃さなかった。
さっきまで発狂して暴れていたマーリンの声がピタリと止まった。
そしてマーリンの瞳が僅かだが、四日目のあの時みたいに正気の色に染まりこちらに戻っていたのを─────。
今まで様々な音や声に過敏に反応していたマーリンが、何故一度も会った事がないウーサーに別の反応をしたのは分からない。
だが、これは好機。エムリスは直ぐに動いた。
「?返事がないです?やっぱり空き部屋だから誰もいないのでしょうか?」
「ウーサー様、何かご用でしょうかの?」
「あれ?エムリスさん?何で空き部屋にいるのですか?」
「いやぁ、最近森で子猫を拾ったのですがのぉ。
これが中々の暴れん坊で、誰も傷つけん様にこの空き部屋に隔離しておるんですじゃ。
あと、もう一つ困ったことに汚れた体を綺麗にしてやろうにも、水場に行くのが嫌なのか暴れに暴れて全く洗えませんのじゃ」
「なるほど子猫ですか!だからこの部屋にとてもバッチい気配がしたんですね。
エムリスさん迷惑じゃなきゃ私も手伝いますよ!」
バッチイ気配と言うものがどんな気配なのかは分からないが、それより今は目の前にいるチャンスを逃さない事だ!
「(よろしいのですか?)その言葉を待ってましたぞ!」
「んぬ?何か心の声と台詞が逆に聞こえたような??」
「どうぞお入り下さいですじゃ!」
ウーサーのツッコミを全力でスルー。
そしてマーリンを刺激しないようにドアを開け彼を招き入れた。
ただ、この時のエムリスは七日間マーリンを殆ど寝ずに介抱やらなんやらしていたので糖分不足、ウーサーに彼が発狂して暴れてしまう事を説明するのをすっかり忘れてしまってる様だ。
まぁ、一か八か何かあってもウーサーだから大丈夫!的なよく分からない信頼?予感?があったからかもしれない・・・・・。
「おじゃまします・・・・・ってエムリスさん。
本当に子猫拾って来たんですか?この部屋の荒れ模様どう見ても子猫がやったものに見えないのですが?」
「子猫ですぞ。ほれ、あの隅に縮こまっておりますのがそうですじゃ」
「んん?」
薄暗さに目が慣れていないウーサーは、目を凝らしてエムリスが指した方向に視線を向ける。
そこには何故かウーサーをこれでもかと赤紫色の瞳を大きく開き、固まっている黒く汚れてる上術を施した鎖に繋がれたマーリンがいた。
「わっ!目茶苦茶黒くてバッチイじゃないですか!
それに何ですかあの細い体!?殆ど骨と皮ですよ!
しかも身体中にあちこち傷があるし、あんなバッチイのに傷口にバイ菌が入って化膿したらどうするんですか、もう!!」
彼の姿を見るなり直ぐ様反応したウーサーは、マーリンが壊した机や椅子などの破片を、薄暗くて視界が悪い床を注意して避けながら進む。
ウーサーがマーリンの元へ向かって来る最中、彼は今だ岩の様に動かずただウーサーを凝視するだけ。
その様子を警戒しながら見ていたエムリスも予想以上のマーリンの反応に驚いていた。
エムリスが驚いている間に、ウーサーはマーリンの直ぐ目の前にまで来た。
そして、彼を封じた鎖に目をとめる。
「────エムリスさん。この鎖外しても宜しいですか?」
「ふむ・・・・・構いませんぞ」
本当は今は外してはいけない物。
しかし、エムリスはウーサーの静かな、だが何処か強制力のある言葉に逆らえなかった。
ウーサーは彼を縛る鎖を解いた後、同じ目線に会わせるようにしゃがみ、彼に手を差し伸べた。
「さぁ、立ってください。まずはそのバッチイ体を洗ったら直ぐ傷の手当てをしましょう。その後何か食べましょう。今は重いものは無理そうですから、お腹の負担にならない物を、ん?あれ
───────────あっ、まず・・・・・」
蒼と赤紫、少年二人の視線が重なった時だ。
赤紫色の瞳を限界まで大きく広げ、突然身体をビクン!と大きく揺らし、そのままバタリとマーリンは倒れた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
静寂と沈黙。
緊迫した空気が一瞬で消え、代わりに何とも言えない気不味い沈黙が部屋全体を覆う。
それを破ったのは勿論この状態を作った犯人。
「はい!何で気絶したか分かりませんが、今の内にその子を洗っちゃいましょう!
あ、すみませんが洗ってる間に彼の服用意してくださいっ!」
「いやいやいやいや!さっき、ウーサー様「あっ、まず・・・・・」って言っちゃってましたぞ!一体どういう事ですかな!?
はっ!まさか、あの"黒いオーラ"で・・・・・!?」
「え?出してませんよそんなオーラ。と言うか何ですかそれ?」
「幾ら黒くてバッチイからと言って発動してしまうとはのぅ・・・・・・・・・・・・・黒だけに」
「エムリスさん大丈夫ですか?休んだ方がいいですよ(特に頭を)」
「しかも全く黒いオーラの気配処か視認すら出来ないとは・・・やはり妃様以上の“教え”の継承者と言われる事だけはありますなぁ」
「もしもーし?話聞いてます?本当に早く休んだ方がいいですよ。顔色真っ青ですよ?」
「これはもしや新たな“暗黒の時代(特に一部の男には地獄)”到来の前触れなのやもしれんのぅ・・・・・」
「・・・・・仕方ありません。先にこの子浴場で洗ったら、エムリスさんを回収するか、途中でお弟子さんに会ったら回収して貰いましょう」
と、まだブツブツ言ってるエムリスを諦め、そのまま放置する事にした。
気絶したマーリンをよいしょ、と丸太みたく肩に担いで部屋を後にし、浴場に向かうウーサーなのだった。
そして言わずもがな、これがウーサーと後のアーサー王をブリテンの王にした、あの偉大な魔術師マーリンとの最初の出会いさ。
・・・・・・・・・・そんな目で見ないでよ。
しょうがないじゃん!全部本当の事なんだからさー!!
《キミ》が本当の事知りたいって言ったから包み隠さず、話してるんだから!
ていうか、ウーサーが産まれた時の話からもうアレだけど、こんな馬鹿げた話この先、普通に幾つもあっるんだよ?もう綺麗な話は期待しないで聞いた方が楽になるよー。
* * * * *
目的地に着いて直ぐに身に纏ってるボロ布を剥ぎ取って、綺麗な水の張った大きな石造りの浴槽に静かに入れる。
体全体を濡らしてから、綺麗な布で傷が開かない様に丁寧に洗うのだが、予想以上の汚れに悪戦苦闘していた。
その間洗われているマーリンは全く目を冷まさず気絶したままだった。
余談だがウーサーは脱がず服のままで入ってます。残念だったな!!
「うわぁ・・・・もう、凄い垢が出ますよ。髪の毛も全く水が油に弾かれて濡れてくれません。
あっ、水がもう汚れてきてしまいました!」
一体何年位体を洗っていなかったのか、始めに浴槽に入れた時身体と髪を水につけただけで、マーリンを中心に透明だった水があっという間に黒茶に濁っていった。
「これは予想以上の闘いになりそうです・・・・・!
今日はまともに道具を用意していなかったから、全部洗いきるのに一日以上、完全に汚れを落とすのは二日掛かもしれません。
ですが!負けません!どんな頑固な汚れでも丁寧克つしっかり洗えばちゃんと落ちるのは(悪霊で)実証済み!
この子も垢一つ残らないよう綺麗に洗いきってみせます!!
おっと、つい熱が入ってしまいました。
すみません。新しい水に入れ換えないといけませんね。
はい、お願いします!」
ウーサーが何もない空間に話し掛けると、それに答えるかの様に汚れた水が渦を巻きながら宙に登り、そのままだんだん細くなり消えてしまった。
代わりに浴槽の下から綺麗で透明な水が沸き上がり、あっという間に浴槽を満たす。
「ありがとうございます」
水を代えてくれた者に礼を言うと、ウーサーはマーリンの体を洗うのを再開する。
「え?どうしてこの子達も私の『中』に引きずり込んだ、ですか?
それはえーっと、あの部屋に来る前物凄く不快なモノを視てしまいまして・・・・かなり頭に血が上ってしまって、『中』の蓋がちょっと開いちゃってたんですよ。
そんな状態でその反吐が出る程不快なモノを視せた元凶の【ゲテモノ】発見して、物凄ーーーーーーーーーく嫌でしたが私の『中』に引きずり込んで潰そうとしたんですけど・・・・・。
あの子達と繋がっているのを見落とした上、蓋が余分に開いてしまっていたので、うっかり一緒にあの子達も『中』に引き込んでしまったんですよ」
実はあの部屋に入る前、何故かウーサーの機嫌はすこぶる悪かった。
表情には全く出てはいないが、内心どす黒い怒りとその他色々で染まっていた。
因みにそれが少しだけ表に出ていたのか、部屋に向かうまでの道中彼とすれ違う何人かが、一瞬物凄い悪寒を感じたらしい。
怒りの状態で、【ゲテモノ】だけを引きずり込んだハズがうっかりマーリン達も引きずり込んでしまったのだ。
それにより我に返ったウーサーは、慌ててすぐに彼等を慎重かつ丁寧に『中』から追い出した。
それでも追い出した時の反動はあったようでマーリンは倒れたのだが。
「今回はほぼ100%あの屑が原因ですが、彼等の状況に気付かなかった私も悪いので、彼等のあの“眼”を正常に戻しておきました。
ええ、勿論この子達の"眼"の“視線”の矛先と“視点”も調整して変えましたけど。
これなら私がいくら気を抜いていても、『中』を視られる事はありませんので大丈夫。
"線"と"流れ"の調整とかは元々得意ですからね」
そう、【ウーサー】に産まれる前からやっていた事だから・・・・・。
そう言って少しだけ"前"の事を思い出しながら、身体を洗い終えた後に、二度目の洗髪と取り掛かる。
「ですが、あの【ゲテモノ】の方は駄目ですね。
アレは切り離した後、再起不能にしました。
ええ、色々、いろいろ、ですよ?」
【ゲテモノ】を自分の『中』に引きずり込んだ時はそれはもう酷かった。
引きずり込む前は、彼等の『中』を我が物顔で蹂躙し、散々嬲っていたようだ。
その証拠に引きずり込まれながらも余程彼等に執着があるのか、無理矢理、深く、繋がった、状態で来たのだ。
もう一度言う。文字通り、本当に、繋がっていた。
それを見て、一秒にも満たない早さで『中』のウーサーは【ゲテモノ】を自身の持つ“権化”の一部を使い一刀両断。
同時に彼から【ゲテモノ】を斬り離したついでに細切れにした。
勿論、繋がっていたマーリンは無事だ。
全ての“脈”を支配し管理する【生贄竜】がそんなヘマをするハズない。
後は先程言った通りマーリンを無事に『外』に追い出した。
そして切り離した【ゲテモノ】は・・・・・、
「【ゲテモノ】の切り離しました。
私の『中』に絶対に残したくはないので、後は【ナマモノ】さんとよく報告に使う『夢』の一部を借りてちゃんと封じていますよ。
【保護者】の元に返すまで退屈でしょうから、【ナマモノ】さんに頼んでちょっと『夢』に色を着けて貰いました。
何色に染めて貰ったかは内緒です。
貴女は知らなくていい色ですからね·····」
ふふふ、と妖しく笑う。
一通り洗い終えたマーリンの体を浴槽から出し、濡れた体を別に用意した布で傷が開かない様丁寧に拭いていく。
「それにしても·····本当に頑固なモノですね。
汚れは粗方落ちましたが、急拵えで用意した消臭効果のある薬を染み込ませた布で洗っても中々取れないですよ、
この子の『中』にまで染み込んだ腐った林檎の不愉快な臭いは」
おまけ
気絶したマーリンを連行中・兄とばったり
「ウーサー、何だその汚れたの?」
「エムリスさんが森で拾った子だそうです。あっ、名前を聞くの忘れました!」
「ふうん。で、ソイツ何で気絶してるんだ?」
「私と目が合ったら気絶しました」
「はっ!?気絶って、まさかソイツあまりの汚さにキレたお前の"黒いオーラ"にやられて・・・・・っ!!」
「確かに凄く汚いですけど、流石にキレませんよ。と言うか、兄さんも何でエムリスさんみたいに"黒いオーラ"とか言うんです?出してないのに」
「嗚呼、弟が段々母上みたく黒くなって行く・・・・・」
「もしもーし、兄さん話聞いてますかー!」