【十九話 悪魔の森の仔 〜湖色の訪問〜】
新キャラ登場します。
昨夜のマーリン捕獲作戦の次の朝。
今日はネーミングセンス最悪の超地獄の訓練が一緒に参加するはずだった兄とウーサーが体調を崩し参加不可。
じゃあ、全魔術師が匙を投げてるが一応教えてくれる魔術の授業がエムリスがぶっ倒れたままだった為、これも無くなった。
予定が無くなってしまったウーサーは一人部屋でのんびり読書をしている最中、
「御機嫌よう、ウーサー」
彼一人しかいないのにどこからか美しい女性の声が自分の名を呼び挨拶をする。
挨拶された本人は特に驚く様子もなく、本から目を離し声がした方に向けた。
彼が向けた視線の先には、碧い湖色の長い髪をゆるく結い上げ、それと同じ色の瞳を楽しそうに細める美しい貴婦人が立っていた。
「御機嫌よう、イグレインさん。
珍しいですね、今の時期“趣味”で忙しい貴女がそれを中断して私の所に来るなんて...。
『向こう』で【ナマモノ】さんが何かやらかしましたか?」
精霊の貴婦人───イグレイン。
この世界の住人で唯一、ウーサーと【ハジメカライタモノ】の存在を知る者であり、彼等を【アヴァロンの果】へ導く“協力者”。
彼女はマーリンがこの国に連れてこられる前に起きた“ウーサー誘拐事件”の犯人で、後に誘拐された本人と主従の契約を結んだ精霊でもあった。
主人は勿論ウーサーで従者はイグレインである。
ただ、被害者のウーサーは特に事件の事は気にしていなかったから、最初主従の契約ではなく縛りのない普通の契約にするつもりだったのだが、彼女と【ナマモノ】はそれを良しとしなかったのでその契約になったのだ。
二人曰く、
「ただの契約だと、以前の醜い大罪人の“私”まま。
あの“私”はまた罪を犯すわ。
私はあの様な罪を二度と犯したくない。
その為の手段が、貴方の様な内部でも外部からでもどこにも属さない、未知の強者による強固な縛りと封印付きの契約が一番有効なのよ」
「私も彼女に賛成だね。
折角得た【アヴァロンの果て】を知り私達の案内役を引き受けてくれた協力者だ。
彼女を最後まで正常でいさせる為にも、その契約の方が断然良いと思うよ」
と、説得され渋々ウーサーは彼女の提案を受け入れた。
その契約の効果のお陰か、今現在何事もなく普通に現し世で暮らしている。
ある一点……“趣味”がアレでなければ、もうちょっと日常は平和なんだが……。
まぁ、その“趣味”は彼女が暴走してもコメディみたいなドタバタ程度で特に実害は無い。
害では無いが、ある時期のある期間限定でウーサーや彼女とその“趣味”が合う者と、時々【ナマモノ】が彼女の“趣味”に徹夜で付合わされるだけだ。
幸い彼女の“趣味”はウーサーが嫌悪する様な悪趣味なものではなかったので、双方、本人が楽しければそれでいいのでは?との事でよく巻き込まれるウーサーも【ナマモノ】も咎めはしなかった。
───その絶賛現し世満喫中のイグレインは、肩の荷が降りたと言う様に肩を仕草を見せ、“趣味”の進み具合と『白い夢』での経過も話す。
「“趣味”の方は落ち着いわ。
『向こうの方』も特に問題もなく彼が作業してるから問題ないわよ」
【ナマモノ】がサボってお菓子を食べながらウーサー達の様子を視ていたとは言わない。
言えば、怒った彼が凶器を片手に『向こう』に襲撃しに行ってしまい、あの話が聞けなくなるからだ。
「貴方の所に来たのは…フフフ、その、頭の上のモノについてと昨夜の事よ」
「………」
ちらり、とイグレインがウーサーの頭の上に出来た、大きな二つのタンコブを見た。
「フフフフ、立派なタンコブね」
「……昨日、兄さんとマーリン君(赤紫)にゲンコツをお見舞いされました………」
「あらあら、短気な赤紫の子猫ちゃんはともかく、弟に優しいお兄さんからゲンコツを貰うなんて余程の事ね。
それで?昨日の夜に何があったかを聞いても?」
「質問を返すようで悪いのですが、イグレインさんはどこまで知っているのですか?」
「そうね……簡単に言うと、お腹を減らして暴走しちゃった橙色の子猫ちゃんが、貴方のお兄さんに夜這いを決行して失敗。
同時にそれを止めた貴方は、エムリスの激甘ドリンクで屍状態になりつつも無事…ではないけれど子猫ちゃんを捕獲した……というところまでかしら?」
半魔マーリンの暴走事件の際下準備で力尽き、早くも戦線離脱してしまったエムリスの代わりに色々裏で協力してくれていた夢魔達から聞いたと、付け足す。
「彼らも一応心配で部屋の中の様子を視ていたから、その時の様子を聞いたのよ。彼らが言うには───」
“また一つ、この国に恐ろしい恐怖の伝説が誕生した”
“あれは、本当に記憶に残る恐怖だった......出来れば、二度とお目に掛かりたくない!”
“兄君は…本当に色々お悔やみも仕上げます!
ですが!貴方の大いなる覚悟のお陰で、あの可哀想な半魔の暴走と、犠牲(?)になった騎士達、そして事後処理に回る我々の“食事”の平穏が戻ってきたのだ!”
“犠牲は甚大だったけどな。精神的にも物理的にも……”
“物理は兄君の部屋だったな。
あの二人が兄君いるのにも関わらず、いきなりバトったから兄君の部屋が半壊しちゃったんだよね”
“てか、ウーサー様何なの?いくら弱ってるからって飢餓状態で暴走した夢魔の術全く効いてないんだけど!?攻撃系の術だって全部素手でカウンターで返してたんだけどっ!!?”
※カウンターで返しはしたがマーリンには当ててない
“まぁ、最後は半魔の子が生命力おも使った強力な術を使う直後、ウーサー様が締めて落として終わったけど…本当に凄まじかった…”
“精神的被害は主に兄君だよね。あれは一種の公開処刑だった。やっぱりヤバイなウーサー様”
“それに今回のウーサー様、ホラータイプで来たかぁ……あれ、初だよな”
“始めて視たけど、最初は“ブラックモード”のウーサー様よりは数万倍増し!と思っていた自分がいました…。
どうしよう、あのウーサー様が夢に出て来たら……そう思うと、夢に行けない……”
「………」
「でも、どれも大雑把な報告で、その間にあった細かい事やその後の事を皆頑なに話そうとしてくれないの...。
貴方のその二つのタンコブの事も含めて、ね。
だから、その場にいた貴方に話を聞こうと思ったのよ。
本当、私の“趣味”の方が終わった後で良かったわ。
途中でそんな面白い事件が私の耳に入ってしまったら、気になって“趣味”を進める所じゃなかったもの...」
そう言いながら手を頬に当て、はぁ...、と悩ましげにため息を吐く。
事件が起こったあの部屋にいたのは三人。
兄と(半魔)マーリンそして、ウーサーだ。
人間のマーリンは知っての通り、半魔のマーリンに強制的に意識の最下層に沈められていたので、現実で何が起こったのかは分からないから除外。
本当はウーサー以外の二人にも聞きたいが、あの二人は絶対に話さないだろうと、イグレインは確信している。
理由は、兄はまぁ...あのトラウマ製造機のウーサーが何か盛大にやらかしたので、相当なダメージを負ったと聞いた。
そんな満身創痍の兄に、流石のイグレインも聞こうとは思わない。
もう一方の半魔のマーリンの方は絶対に聞く事は出来ない。
それどころか、彼女は会うことすら不可能だ。
理由は、以前にも少し触れたが、マーリン達は重度の女性恐怖症。
少しでも姿が視界に入れば、少しでも香りを感じ取ってしまったら、パニック状態になり自傷行為をしたり、暴れて周りにいる者を傷つけたり、最悪死にかける事になるからだ。
だから、今も彼の周りにはウーサーを含め男性しかいない。
夢魔達も態々、男性体になり彼等の様子を伺っている程。
イグレインも事情を知っているからこそ最初から、マーリンに聞く気はサラサラ無い。
なので、消去法により残ったウーサーに昨日の夜の事件の全容を聞きに来たのだった。
「それで?あの夜一体何があったのかしら?」
早く話せと言わんばかりに美しい湖色の瞳をスッと細め、先程と同じ質問を投げ掛けた。
いつまで続くかわからないおまけ
〜Q&Aと没話〜
Q:ウーサーとイグレインの関係
A:主従契約の関係&協力者(案内人)でそれ以外なにもない。
だがビジネスライクの様なスーパードライな関係でもない。
互いに過去を含めある程度事情を知っている者同士、気軽に会話できる関係。友人、戦友、みたいな感じ。
ただ恋や愛などの感情が彼等には一欠片も無いだけ。
それは今後一切ウーサーが物語に退場するまで発生する事はない。
Q:何で王はともかく王妃とウーサーが暮らす城に夢魔が住んでいるのか?
A:国を守ってもらう事・民に危害を加えるような“食事”をしない事を条件に、彼等は安心安全に“食事”を出来る環境と住める居場所を提供してもらった。
国の方も彼等に危害は加えない・魔術等による強制行為もしないようにとも約束している。
どっちかが条件を破れば、例の怖い王族二人のどちらかに処されます。
ボツ話(中途半端)
↓↓↓
城内に住む者たちに危害(性的など)を加える悪魔を見つけたら即“ブラックモード”になって口にすることさえ恐ろしい粛清を下す二人が、ソッチ方面で有名な夢魔だけは何もせずに、しかも普通に城内に住み着かせているのだ。
これは何も知らない者なら誰だって目玉が飛び出るほど驚くだろうさ。
何故彼等が最凶の二人(又は黒くてヤベェ存在)のいる城に普通に暮らしていられるのかは、人間にとってはよくある困った事情を解消してくれるからだ。
その困った事情というのが言わずもがな生理現象の事だ。
ちょっとお恥ずかしい話だが、妻又は夫や恋人がいない大人と思春期真っ盛りの人間達は全てではないが欲が幻想種より(悪魔は除く)溜まりやすい。
それを発散するにも一人でするのも限界があり、相手もいない、娼館に行くにしったってお金が掛かる。
だからといって誰かを無理矢理襲うのは以ての外(多分そうなる前にどちらかの性が強制終了する(闇に葬られる))。
と、言うことで対処にかなり困るのだった。
そこで白羽の矢が立ったのは夢魔達だ。
彼等は特に人間の精を好み糧にしている幻想種。
彼等も幻想種の中では珍しく、食欲があり性欲も人間並み又はそれ以上にある者もいる。
その彼等に生理現象問題を解決して貰ったのだ。
“食事”の幾つかの条件を守っていれば、好きなだけ『庭』か相手のお誘いで食べられるので彼等は直ぐOKした。




