【十八話 悪魔の森の仔〜灰色その他の“食事”評価、その結果は〜】
「……………やだっ」
枝に伸ばしかけた手を引き戻し拒絶の意を示す。
蜜の香りの誘惑から逃れる為、彼は手を固く握りその痛みで回避した。
マーリンの細い指の隙間から赤い血が流れている。
「.....ぅ、そうですよね。いきなり知らないモノを食べて下さいと言ってもハイ!食べます!ぅくっ、なんて警戒心の強い橙色のマーリンくんはしませんもんね(後でマーリンくんの手の手当てをしなければ)」
マーリンが拒絶するのを予想していたウーサーは特に気にもせず話を続ける。
「でもマーリンくん、赤紫のマーリン君の『中』から少し覗き見していたなら知っていると思いますが、ふぐぅ...このままだと貴方達は処刑されてしまうのですよ?」
そう、既にマーリンの暴走は父に知られている。
このまま約束の期限にマーリンの暴走を止めないと本当に処刑されてしまう。
彼等のお世話係二号に任命されたウーサーにとってそれは何としても阻止しなければならない。
もう一つおまけとして、“ブラックモード”が解除されてしまったウーサーの状態が徐々にグロッキーに戻りつつあるので、ぶっ倒れる前に決着を付けないと色々ヤバい。
ぶっ倒れなくても普通にヤバいが...。
「だから何?そんな脅しでボクが言う事素直に聞くと思ってるの?」
「思ってませんよ。貴方はこんな、うっ、言葉程度で屈しないでしょう。あとっ、これは脅しではなく、貴方達を心配して言ってます...」(ふらふら)
「ハッ!心配?心配してるって言ってるなら肩離して其処どいてよ。
今からおにーさんを食べたらお前のその心配が解消されるからさ」
「それは出来ません...うぷっ」
いくらマーリンの処刑の危機でも、兄が大切にしているモノを無理矢理奪う様な行為は流石のウーサーも看過できない。
「ふーん。ボク等の事心配しているって言ったくせに邪魔するんだ」
「(ぼーー)......はっ!ええ、そうですね。
本当、だったら、貴方達悪魔や夢魔の“食事”邪魔する事は無いのですが、今回に限って、は...そうもいっかないので止めています、うぅ、マーリンくんの“食事”に関、してある一部、の方々...から苦情が来ていますので」
「は?苦情?ああ、ボクが食べた奴等ね。
精気はまぁまぁだったけど、魔力の方は全然だったよね彼奴等。
というか、何?別に怪我とかさせてないじゃん。
寧ろイイ思いさせてあげたのに何で文句言われなきゃいけないの?」
「いえ、まぁ...彼等も一応?被害者ですが...別の方々からで...」
「別?」
「.....はぁ(やはり、自覚が無い。いえ、今迄の屑共の拷問のせいで、食事をする直前に精神を守る為、無意識下で防衛本能が働いてそうなっているのでしょう。
それは仕方が無い事。
ですが、このままだとこの国の人間と彼等の共存バランスが崩れてしまう。
悪魔としてのプライドが高そうなマーリンくんには申し訳ないですが、ここは前よりもハッキリ言って今の食事方法を変え自己暗示を解かないと、すべての問題が解決しません)」
ウーサーは覚悟を決める様に、小さな溜息を吐き調子の悪い身体を落ち着かせる。
兄の部屋にまた静寂が訪れた。
「何?ちょっと、急に黙ってどうしたのさ?」
返答が返ってこない事に不安を感じたマーリンは、様子を見たくはないが恐る恐る後ろを振り返る。
「!?」
顔色は相変わらず滅茶苦茶悪いが、そこに無はなかった。
代わりにマーリンを心の底から憐れむような同情するようなものになっていた。
「え?(あれ?コイツのこの表情どこかで...)」
思い出そうとするが、何故か思い出してはいけないと心の何処かで拒否をする。
これを思い出したら多分...
「マーリンくん」
残念だが時間切れだ。
「な、なに?(嫌な予感がする...)」
声が上ずる。
この時やっとマーリンはこれは聞いてはいけない話だと思ったが、もう遅い。
「いいですか?もう一度言います。よく聞いてく下さい。
マーリンくんは被害者の方々の精気や魔力、夢の一部を一切食べてはいないのです」
「は?何言っているの?ボクはちゃんと“下拵えして”彼奴等を食べたよ?」
ちゃんと彼は覚えている。
夜、奴等の部屋に侵入してより強力な催眠と誘惑の魔術を掛けて食べやすくして奴等の肌にも触れて食べた事を...。
「はい。“下拵え”まではマーリンくんがやったのは本当ですよ。
ですが、その先が違うのです。
───“食べた”という部分が」
「は?何が違うのさ。ボクはちゃんと食べたよ。
彼奴等の精気と魔力、夢の味と…体液の味だって全部覚えているもん」
「いいえ。貴方はちゃんと食べてはいませんよ」
食べた時の食感も味覚の記憶もしっかりあると、マーリンは言うが、ウーサーはそれも違うとバッサリ否定した。
ますます彼が何を行っているのか理解出来ず、マーリンは苛立ち始める。
「貴方がそう思っているのは、彼等を食べる前に無意識に“食べた”と自己暗示を掛けたからです。
本当の“食事”記憶をごっそり書き換えている今の貴方はそれを否定するでしょうが事実です。
私も半信半疑でしたが実際に現場に赴き、この目で苦情を入れてきた彼等と一緒に見ましたので間違いありません」
「はぁっ!!?見たのっ?!」
マーリンの顔がカッと怒りと羞恥で赤く染まる。
まぁ、無理もない。お約束だが悪魔の“食事”の方法の一つには成人向けなハワワ〜///、なものがある。普通だったら未成年の子供が現場に来て軽々と見ていいものではない。
まぁ、実際ウーサーの中身はもう成人なんぞ軽く超えている人外なんだが...多分ダイジョウブナハズ?
「見たくて見たわけではありません。
あまりにも彼等が切羽詰まった状態で訴えてきたので様子を見ざるおえなかったのです。
ぶっちゃけて言いますと、訴えられた内容の真意その他諸々を確かめる為に貴方の“食事”を四回は見ました。
大丈夫です。あの後、被害者の騎士の方には勝手に見てしまった事ついての謝罪しに行きましたので」
全くもって、全然、絶対に大丈夫では無い(主に騎士達)。
謝罪された騎士はこの国の幼い王子の一人に「貴方達の“食事”風景を勝手に見てごめんなさい!」と態々赴かれて謝りに来られた時の心境は、憤死するのでは?と思うほどに体中の全部の穴から汗やら羞恥の炎が盛大に吹き上がったとの事...。
ウーサーに謝罪された騎士の四人には心からお悔やみ申し上げる…。
「っな!なぁ!?」
まさか見られているとは知らなかったマーリンは顔の色が赤から青に染まった。
あまりの事にもう、何処から文句を言えばいいか分からないようだ。
口を魚の様にパクパク動かすも言葉が出ないマーリン。一方、ウーサーの若干青く染まっている口から発せられる言葉は止まらない。
「これも数日前にも言いましたが、貴方は覚えていないと思うので、もう一度ハッキリ言いましょう。
私を含め彼等の貴方の“食事”の仕方の評価は─────
本当に、哀れレベルのド下手くそでしたよ」
いつまで続くかわからないおまけ
〜今日の白い夢では〜
【ナマモノ】
「あらら~、駄目だよウーサー君。「ド下手くそ」の前に「子供向けの“食事”が」って入れなきゃ。
と言うか、マーリンくんがそっちの“食事”がド下手くそなのは、全部【奴等】のせいなんだけど」(バリバリと煎餅を食ってる)
?????
「お邪魔するわ、【ナマモノ】」
【ナマモノ】
「アレ?珍しいね。キミがここに来るなんて...。
ハッ!まさかウーサー君に言われて私が《鍵》作りをサボって無いか見張りに来たのっ!?」
?????
「ふふふ、残念ながら違うわ。あの趣味の悪い木偶の坊から、どんな形の《鍵》が出来るのかは興味はあるけれど」
【ナマモノ】
「ほぇ?じゃあ何しに来たんだい?」
?????
「勿論コレの為よ」
(バサリと何かを取り出す)
【ナマモノ】
「え"っ。ソレって...まさか」(薄いアレな書物)
?????
「7日後、“お披露目会”があるの。一つ目ははもう仕上げたわ。
でも、二つ目はまだ間に入れるアレが出来上がってはいない状態なのよ。
“お披露目会”までに、全て完璧に仕上げなければならないの。だから、【ナマモノ】手伝いなさい」(圧)
【ナマモノ】
「あの、えと、私今から《鍵》作りの方を再開しないと〜」
?????
「さっきまで、まあるい茶色の菓子を食べながらあの子達の様子を視てサボっていた、とウーサーに言っても宜しいのだけれど?」
【ナマモノ】
「誠心誠意、手伝わせて頂きます」(土下座)
?????
「分かれば宜しい」
【ナマモノ】
「でもですね、コレっていつもの様にウーサー君にやって貰えば」
?????
「あら?貴方は今さっきまで何を視ていたの?
その目は干乾びて小さく縮んだ、マシュマロなのかしら?
あの子は今、可哀想な半魔の世話をしている最中よ。
手伝わせる訳にはいかないでしょう?」
【ナマモノ】
「あ、ハイ。ソウデスネ」
?????
「ほら、早く手を動かして。予定では二十枚必要よ」
【ナマモノ】
「え?そんなにいるの??」
?????
「ええ、今回はかなり濃い物にするつもり。
流石に私もウーサーには手伝って貰えるような物ではないわね」
【ナマモノ】
「ウヒイぃぃぃ...」
終了!




