【二十八話 アクマの森の仔〜暁〜④】
別タイ:緑柱石、石になる。
「───それが私と兄が初めてメルリヌスくんに遭遇した夜でした。そしてその日を境にメルリヌスくんは執拗に兄を狙うようになった時でもあります」
「なるほどね...」
ウーサーの話を聞き終えたヴォーティガンは少し考える仕草をした後、兄の方を見た。
「確かにそれは兄ちゃんにとってはとても深刻な問題よね。なにせ幼い【アクマ】の混血種の子に“ハジメテ”を狙われてしまっているのなら、ね?
でも、メルリヌスちやんは見たことないけれど、マーリンちゃんの顔可愛いから案外大丈夫じゃないのかしら?」
「!?」
「叔父上っ!恐ろしい事言わないで下さいっ!」
ヴォーティガンの洒落にならない台詞に、椅子を蹴って立ち上がり抗議する兄の顔は青かった。
するとウーサーとエムリスも兄に続いて抗議しだす。
「そうですよ。マーリンくんが兄さんから距離引いちゃったじゃないですか」
「それはどうでもいいわ!」
「ヴォーティガン様、流石の儂でも殿下の“ハジメテ”を幼い子供に任せるなど賛同致しかねますのぅ」
「エムリス?」
「それに殿下はどちらかと言うと年上の儚い美人系がタイプなので、“ハジメテ”は殿下の意向に沿った相手の方がよろしいかと思うんですじゃ」
「確かにそれもそうね」
「兄さんそういう方がタイプだったのですね!」
「もうお前ら全員黙れ...!」
これ以上兄をからかうと可哀想だと思った大人たちは(一名本気)話題を変える事にした。
「兄ちゃんの“ハジメテ”希望については後で聞くとして、貴方のその様子から見てメルリヌスちゃんにあの手この手で毎日襲われているのかしら?」
「.....」
ヴォーティガンの質問に兄は青い顔をしたまま座り直して、無言で首を振った。
「襲われてはいませんが、毎夜毎夜、気配だけは感じます。ただそれだけなのですが、やはりいつ襲ってくるのかとヒヤヒヤしています」
「襲ってこないの?とても貴方にご執心なのに?」
「ウーサーを常に側に置いて置きましたから」
「兄さん、物みたいに言わないで下さい」
ウーサーがすかさず突っ込むもスルーされ話は進む。
「ああ、それなら納得」
「メルリヌスはウーサーを恐れているので、一日中連れていればまず襲ってくることはないかと...」
「え?一日中?」
「はい」
兄曰く、朝昼晩、ご飯を食べる時も、政務をこなす時も、鍛錬する時も、用を足す時も、寝る時も等などずっと側においているとの事。
それを聞いたヴォーティガンは流石に兄に少し引いて、それからウーサーを心配するように問う。
「ウーサーちゃん、一日中散れ回されて大変じゃないの?」
「大丈夫ですよ。寧ろ仕事や鍛錬を一緒にできますし、夜は本を読んでくれるかお喋りもしてくれますから楽しいです!」
と、当の本人は気にしてなさそうだった。ただ、一人横にいるマーリンは不服そうな顔でジロリとウーサーと兄を睨む。
メルリヌスが出てくる前はウーサーはマーリンと毎日一緒にいて、存外その時間が嫌じゃなかった彼は己の片割れのせいでその時間を兄に奪われたのが不服だったんだよ。
特に夜は自分の安定剤にもなっていたウーサーがいないので、マーリンの精神がぐらついしまって、その隙にメルリヌスにあっさりと体の主導権を奪われてしまうという悪循環に陥っているのだけどね。
「メルリヌスちゃんがウーサーちゃんを怖がっているのはわかったのだけれど、それならマーリンちゃんの所にウーサーちゃんを置いたらいいのじゃな.....って、ああそれじゃ駄目ね」
ウーサーとマーリンを一緒にと言いかけたヴォーティガンだったが、あることに気付いて言うのを止めた。
「はい。最初はこのままウーサー様をマーリン坊やと一緒にいさせようかという案もあったのですがのぅ。しかし、それではメルリヌス坊やが出てこなくなってしまってそれではいかんとなったのですじゃ」
「あの野郎、オレが干渉できねぇ位に深く潜っちまうから話そうにも話せねぇんだよ」
苦虫を噛んだような顔をして苛立つように言ったマーリン。
実質、二人の言う通り、ウーサーが近くにいるとメルリヌスは【中】の奥に引っ込んでしまって全く出てこようとしなくなってしまったんだ。
これでは埒が開かないから、嫌そうな素振りを見せるマーリンを説得して、メルリヌスが出てきそうな状況にはしたのさ。
ウーサー達が思った通り、メルリヌスは出てくるようになったけれど、上手くいったのはそこまで。
出てきたところを捕らえようとしたのだけれどどれも失敗。どうやらメルリヌスはかなり警戒心が強いようで、特にウーサーの気配に敏感になっていて、少しでもいると分かればそっちの方には現れず、別の所にに行っては別の獲物を襲うのさ。
何度か兄自身を囮にして、メルリヌスを誘き出して捕らえようとしてもウーサーが近くにいる限り出て来なかった。
逆にウーサーが完全にいない状態で誘き寄せる案も出たんだけどこれは兄が頑なに拒んじゃった為、駄目だった。
兄曰く、
「ウーサー無しでやったら確実に!絶対に!100%!あの発情半魔に喰われる未来しかないだろうがっ!!」
因みに兄の言う通り、エムリスや他の者の場合は、鉢合わせても直ぐに結界を突破され、出来なかったら幻術で惑わしその隙に逃げてしまうから、こちらも上手くいってない。
そうなると兄が頑なに拒んでしまうのも無理はないね。
ウーサーは深い溜息を吐きながら、
「父の命はマーリンくんとメルリヌスくんの問題を解決させる事です。メルリヌスくんが出てこないまま期限を過ぎてしまったら、間違いなく二人とも処刑されてしまいます。それだけは絶対に阻止したいのですが....何故か私はメルリヌスくんに怖がられてしまって、私の前には現れてくれないのです」
とちょっと肩を落としながら言った。すると今度はマーリンとエムリスが呆れたように溜息を吐いて言う。
「そりゃお前がアイツにあんな事言ったせいだろ」
「そうですな」
「えぇ...?」
「あら?ウーサーちゃん、メルリヌスちゃんに会えたの?」
「はい。兄さんと一緒に会った月の夜にですが───「止めろ話すな」....はい」
ウーサーが言いかけたところでマーリンが割り込んで会話を中断させた。
「?何で話を止めちゃったの?面白そうな事聞けそうな予感だったのに」
と、言ってる割に楽しそうな笑みを浮かべて言うヴォーティガンに、少し彼に慣れたマーリンは面倒臭そうに言った。
「この話題を出すとアイツが拗ねて余計厄介なことになりかねねぇんだよ」
「ふぅん...ますます気になってしまうけど、ややこしくなってしまうようなら、解決した後にでも聞きましょう。それで?色々試したけど、全部失敗してしまった。その後はどうするつもりなのかしら?」
「「「「........」」」」
ヴォーティガンの鋭い問いに皆沈黙してしまった。
「策がないのね。ところで、義兄ちゃんの提示した期限まであとどれくらいなの?」
「後五日ですな。ヴォーティガン様何か思いついたのですかのぅ?」
万策尽きている一同は縋るようにヴォーティガンの次の言葉を待った。
「そうねぇ...。エムリスちゃんこれも一応聞くけど、メルリヌスちゃんが兄ちゃんと他の子を襲う頻度は日に日に多くなっているのかしら?」
「そうですなぁ、ヴォーティガン様の言う通り、襲う頻度は増えていますのぅ」
「毎日、夢魔の方々が大活躍していますね!」
「大活躍().....」
「大活躍().....」
フンスと誇らしげに言うウーサーを余所に、夢魔達が活躍()する意味が分かっている兄とマーリンは無表情で遠い目をしてしまう。
そんな彼等をスルーしてヴォーティガンは一つ頷いた。
「OK、それなら大丈夫そうね!」
「叔父上、勿体ぶらずに早く話してください」
「落ち着きなさいな。そんなに焦ってしまっては成功するのも成功できなくなってしまうわよ?」
「.....っ」
ヴォーティガンの言葉に兄は言葉をつぐみ黙って頷き、話の続きを促す。
「私が考えたのは簡単な事よ。兄ちゃんに囮になってもらうのよ」
「はい?」
「はぁ?」
「叔父上、それは....」
「失礼を申し上げますが、それはもうやっておりますぞ」
「こらこら、人の話は最後まで聞きなさい」
同じ事をしてどうするのだと言いたげな一同に、ヴォーティガンは何故が悪戯をしようとする子供のような笑みを兄の方に向けて言う。
「今度はウーサーちゃん無しで囮なってもらうのよ」
「...........え?」
衝撃的、最悪に恐ろしいヴォーティガンの言葉に兄はビシリッと石のように固まった。
いつまでつづくか分からないおまけ
〜没シーン〜
「色々試してメルリヌスくんと接触しようとしたのですが、どれも失敗に終わってしまいまして...一度兄さんに囮になってもらった事もありましたが、ダメでした」
「おそらく弟が近くにいるのを感じ取って出てこなかったのでしょう。余程弟の“黒いオーラ”が恐ろしいのでしょうね(俺もだが)」
「兄さん、何度も言いますけど私は“黒いオーラ”なんてものを出してませんよ。そもそも本当に“黒いオーラ”って何ですか?」
ぷくぅと頬を膨らませて怒るウーサーを皆心の中で
「(お前本気で言ってんのか?)」
と一緒に同じツッコミを入れた。
何度か言っているけど何故かウーサーは自分の放つ“黒いオーラ”の存在に気付いてないらしく、これには『白い夢』から覗いている【ナマモノ】ですら「なんで!?」と不思議がっていたよ。
話が逸れてしまったけれど、メルリヌスはウーサーと接触した日を境に彼の前には現れなくなってしまった。
だけど、ウーサーの目の届かない所では糧となる活きの良い男達を襲い、ついでに何故か目を付けられてしまった兄も執拗以上に狙って襲うようになってのだ。
これには流石の兄も頭を抱えながら、
「何で俺なんだっ!?」
「夢魔さん達と他の幻想の住人さん達曰く、兄さんの魔力と精気って彼らから見たら、とても魅力的で美味しそうなんだそうです。勿論、悪魔と悪霊からもとのことです」
そう、兄は極上の魔力と精気を持って生まれ、やたら幻想の住人達に構われ、同時に悪魔と悪霊にも多く狙われた。どうしてか幼い頃は分からなかったが、メルリヌスの件でやっと分かったのだった。
「一番うれしくないっ!」
「今まで妃様や儂等が守っていましたから滅多に向こうから手出しは出来なかったのですがのぅ...メルリヌスの坊やにはその守りは何故か効かないようでしてのぅ。今の所一番効果があるのは、ウーサー様ご自身なのですが、ずっとこのままでいる訳にはいきませぬし、期限もありますのじゃ。それに放置しっぱなしでは、何れ隙を突かれメルリヌスの坊やに殿下の“ハジメテ”が奪われる未来が来ますでしょうな」
「最悪だなっ本当っっ!!」
ダンッ!と両手で机を叩きつけた兄を落ち着かせようと何故か頭を撫でるウーサーを見るヴォーティガンは、少しだけ考えるようや素振りを見せた後、エムリスを見て言った。




