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生贄竜の見る色は・・・・・  作者: 終夜イブキ
アクマの森の仔〜暁〜編
32/45

【二十七話 アクマの森の仔〜暁〜③】

別タイ:緑柱石の本気、ほぼ空気の灰色

「最初の被害者は城内で見回りをしていた、若い男性騎士のお二人です。発見された時の状況は、知らない魔力で発動された強力な眠りと魅了の魔術が掛かけられ倒れていました。そしてその後お二人は───」

「ウーサー様、ここは儂から説明致しましょう」


ウーサーが次の言葉を発する前に、エムリスがスルリと話を遮り続きを語り出す。


「魔術があまりにも強力なものでした故、少し他の異性に魅せられぬ状態だったので、儂が不可視の魔術を使い救護室へと運び、後から呼んだ眠りと魅了に精通している強い夢魔の者達に解呪してもらいましたのじゃ。.....どうやって解呪したのかは.....お察し下さいですのぅ」


因みに解呪した夢魔達の感想は、


「中々ハードで解呪大変だったけど、楽しかったし、何より久しぶりの若い子相手だったから新鮮で美味しかったよ♡」


と、語る夢魔達の肌はとてもツヤツヤで凄く満ち足りた感じで言っていた。

一方、被害にあった若い騎士二人は逆にゲッソリとやつれてはいたが、顔は真っ赤に染まり小さな声で、


「.........もう、お婿にいけない。普通に戻れない......」


シクシク泣き腫らしながら言った。.....心中お察しいたします、強く生きよ若き騎士よ。


「あらあら、それはその子達ご愁傷さまだったわね。でも、その時点で犯人がメルリヌスって子だと分からなかったのよね?」

「はい。二人の騎士は直ぐに魔術に掛かってしまったようで犯人は見ておりませぬ。まぁ、遠くから掛けたのなら見つけるのも困難だったと思いますな。

そして、残されていた二つの魔術は見た事の無い魔術式だった上、魔力も儂が知っている者達の者とは全く該当せぬものでした。

更に厄介でしたのは、彼等の身体と“夢”には食された痕跡が一切無かったことですな。これには皆首を傾げましたぞ」


もし犯人が外から来たたちの悪い夢魔或いは悪魔だっのなら魔術に掛かった後、その場で直ぐに問答無用で“夢”と魔力と精気を根刮ぎ喰われていただろう。

その際何かしらその犯人に繋がる痕跡の魔力と“縁”が残ってしまうのだが、二人の騎士にはその痕跡が何一つ見つからなかったのだ。


「一応、彼等の名誉のために言っておきますが、あの二人は昏睡と魅了に対抗する訓練を受けておりますし、万が一の為にそれらを無効化する護符も持たせております」

「それでも掛かってしまったのよね?」

「...はい。言い訳にしか聞こえませぬかもしれませぬが、その魔術はかなり強力なものだったのです。証拠に持っていた護符は炭になった状態で発見されました」

「あらまぁ...」


頬に手を添え面白そうに目を細めるヴォーティガンに、同盟国と仕方ないとはいえ自国の失態を話すエムリスは内心苦虫を噛んでしまう。

エムリスと同じ思いなのだろう、兄の方も悔し顔を隠すように俯せていた。

話が止まってしまったエムリスに代わって、一人平常なままのウーサーが話し出した。


「それが皮切りになり、そこから同じ様に被害に遭われる方々出てきました。

それも同じく魔術と魔力は同じもので、痕跡がないものでして、犯人の顔も見てはいないとのことでした。

不快な気配がしなかったので私も母も察知すらできません。

犯人が誰か分からないまま被害が増えるばかりでしたので、これは解決するのにかなりの長期戦になるかと誰もが思っていたのですが.....」

「何か犯人と分かる切っ掛けになる事件が起こったのね」

「はい。それが被害が出てから六日後の夜に起きました。あの時は私が丁度夜の散歩をしていた時の事───」


◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇


───三日月の夜。ウーサーは何時ものように人目を盗んで部屋を抜け出し、城内の散歩をしていた。

だけど、極度の方向音痴で体力もやしのウーサーは、案の定迷子になりウロウロと広い見慣れている筈の城内を彷徨った果て、体力が底をつき何処かの廊下のど真ん中に生き倒れてしまったんだ。

そこへ偶然護衛をつけた父王の仕事の手伝い帰りの兄に発見され、お小言を言われながらもおんぶされたウーサーは自室へと運んでいってもらった。

でも、後少しで目的地に着くところで、城内を騒がせている事件の犯人に出くわしてしまったのさ。


彼等の立っている所から数メートル離れた先にいたのは、ウーサーより身長が低めの幼い子供だった。


月明かりに照らされた薄桃色の長い髪。

前髪の隙間から覗く怪しく光る橙の瞳。

華奢な体からほのかに香る甘い香り。


弟と同じ年頃の子供なのに妙な色香を放つのを感じ取った兄は直感した。


「(───コイツが例の事件の犯人だ)」


と、兄が答えを導き出したと同時に、緑柱石と橙二つの色が合ってしまった。

瞬間、兄の身体は視えない何かに拘束されたように動きを封じられてしまう。前方を歩いていた護衛も兄と同じ様に動けなくなっていた。

何が起こったか分からず、混乱する彼らの周りにはいつの間にか薄いピンク色の靄のようなものが囲っていた。

その靄からは子供が放っていた同じ香りを更に濃くした、甘ったるい花の蜜又は熟した果実のような香りがした。当然の如くその発生源は例の目の前の子供からだ。


「(これは、不味い!)」


ドサリッ!


「!?」


兄が甘い香り香りの正体に気付いた時、護衛が力無く倒れてしまった。

月の明かりでなんとか倒れてしまった護衛の様子が見えたが、どうやら眠らされただけで毒の類ではなかったようだ。

ただ、護衛の顔は真っ赤に染まり息も荒いんだけど、息遣いは官能的でまるで発情した様なものだった。

更に決定打だったのは下半身の...男性の象徴が異様に膨らんでいるのを見て、子供が魅了の魔術を使っているのに気づいた兄は慌てて息を止めた。


「(このピンクの靄と匂いは魅了のものか!真逆こいつが例の?)」


魅了と昏睡の魔術の発生源である子供を睨む兄に対し、彼は子供らしくない怪しく艶めいた笑みを浮かべながら、


「おかしーなぁ?何でおにーさんだけ術が効き辛いんだろう?」


そう言いながら子供はゆっくりと兄の方へ歩みを進める。

兄は何とかして身体を動かそうとしたが、金縛りみたいな術は解ける気配がなかった。

そうこうしている内に子供は兄の目の前まで来てしまう。

視界が靄の色一色に染まり、甘い香りが一層濃くなる。


「アハハ♪おにーさんよく見たら、今まで見た中ですっごく魔力と精気美味しそう♡」

「っ!!」


子供の台詞にいよいよ不味いと感じた兄は息を止め靄を吸わないようにして、唇を切って痛みで理性を保とうと努めた。


「おにーさん、ガマンしないでボクにぜ~んぶ身を任せちゃいなよ?そうしたら後はボクがおにーさんをすっごく気持ちの良い“夢”をたっぷり魅せてあげるから♡その代わりに〜、おにーさんの魔力と精気をお腹いっぱいになるまでたっぷりもらうから♡」


兄の抵抗を嘲笑うかのように、子供は兄の耳元に唇を寄せ、甘い吐息を吐きながら言った───瞬間、


───パァン!


「!?」


兄の魔力が一気に放出され、子供の魔術を弾く。

魔術を弾かれた反動で子供は何歩か後ろへと後退した。


「ッ誰が!お前みたいな、のにっ我が身を任せるかっ!!」


口元から血を一筋流す兄は、何とかして声を振り絞って拒絶の言葉を吐いた。

兄の抵抗に最初は驚いた表情を見せていた子供だったが、直ぐにまたあの艷やかな笑みに戻り、魔術を展開しながらまた歩み寄ってくる。

今度は先程よりも更に靄と香りを濃く強くして。


「ビックリした〜!おにーさん凄い抵抗力だねっ!

ますます欲しくなっちゃったよ♪

だから───ボクもちょっと本気出しちゃうね?」

「っ!?」


靄と香りが体内に強引に入ってくる感覚がして、兄はビクリと身体を硬直させた。何とかして外に出そうと魔力を放出し続けるも、さっきの全開放出で魔力が少なくなり上手く出来ない上、体の力も段々抜けていってゆく。


「フフフ♡さっきので抵抗力が一気に落ちちゃったね♪もう諦めて抵抗するのやめちゃいなよ?」

「っ!」


再び兄の前に立った子供はそう言いながら、兄の頬に白い小さな手を伸ばし触れようとした時、兄の背中で何かがもぞりと動く感覚がして───



「───駄目ですよ。メルリヌスくん」



兄がよく知っている声が、幼子に注意するように静かに言いう。

声の主───ウーサーが背中越しにメルリヌスと呼んだ子供を見ると彼は、


「ひっ!?」


と、短い悲鳴を上げて、一瞬でその場から消えた。

残されたのは滝のように冷や汗を流す兄とその背におぶわれているウーサーと術にかかったまま倒れている護衛の三人だけ。


「逃げた、のか?」


アメリにも突然であっけない終わりに、兄は今までのは夢幻だったのではと思ったけど、まだ微かに残るあの甘い香りが鼻に残っていた為、これは本当にあった事だと嫌でも思い知らされる。


「はーーー....」


ともあれ最悪な事態から逃れられた兄は大きく安堵の息を吐く。

そして、背中におぶっている自分の弟に声をかけた。


「ウーサー、お前あの子供に何をした?それと奴の事何か知っているのか?」

「うにゅ...むにゅむにゅ......」


質問の返答は変な寝言だけだった。

呑気にむにゅむにゅ眠る弟に少しだけ呆れた兄だったが、そこでふとあの子供が逃げた原因に思い当たりが浮かびポツリと声に出して呟いた。


「...まさか、寝ぼけて“ブラックモード”になったのか?」


そういう事なら、あの子供が“黒いオーラ”に恐れをなして逃げた事に納得が出来る。

そんな結論に至った兄は再度ウーサーの“ブラックモード”に恐れを抱き、


「流石、“継承者のブラックモード”...とんでもなく恐ろしいな....!」


その恐ろしさを再度認識した兄はブルリと体を震わせる。しかし、直ぐに気を取り直して、携帯している笛を鳴らし、助けをを呼ぶ。

笛の音で駆け付けた夜警をしていた騎士達が招集し、三人は保護され、危険な夜は終わったのだった...。


いつまでつづくか分からないおまけ


〜没シーン:【兄は見た】〜



─────それは2年前、とある月の無い夜の事。

何故かその日だけ眠れなかった兄は、気分転換に中庭に散歩に出ることにした。今日は月が出ていなかったのでランプと、自衛の為剣を携えてから中庭へ散歩に部屋を出た。

中庭に着くとそこには小さな先客がいた。


その先客は弟のウーサーだった。


後ろを向いているので、兄が来たことに気づいていないようだった。

兄は声を掛けようとしたが、はっと気付いて口を閉ざす。

今日は月が出ていないので、周りは殆ど闇で見えない。なのにウーサーは明かりを持っていないのにも関わらず、姿ははっきりと見えていた。

おそらくウーサーと共にいる《彼女》が何かの術で、姿をはっきり見せているのだろう。


しかし、兄が言葉を発せなかったのはそれが原因ではない。

ウーサーが手に持っているものを見てしまったからだ。



───左手には洗濯板、右手には大きな黒い物体。



よく見ると黒い物体の正体は最近城に入り込み、ここで働く侍女数名に害をもたらした悪魔であった。

悪魔は中々知恵の回るヤツだったため、騎士団総出で捜索に当たっていたが、全然捕まえらない。

そのせいで暫く侍女を含めた女性達は“護符”を貼った部屋に閉じ籠る羽目になり、主に女性がやる業務が一部一時停止して大変な事になっていたのだった。


その元凶の悪魔が今何故かボコボコにされ、ウーサーに捕まっている。

かなりダメージを食らっているのにも関わらず、悪魔はなんとか逃げようとジタバタと暴れていた。

だが、成人ぐらいの体格なのに幾ら必死に踠いても、小さなウーサーの体は微動だにしない。更に頭をガッチリ掴むその小さな手も外れない。


ジタバタと足掻く悪魔を鬱陶しいと思ったのか、ウーサーは下げていた左手をスッと上げた。


──────持っている洗濯板が悪魔に見えるように。


暴れていた悪魔が洗濯板を見た瞬間、ピタリと暴れるのを止めた。

・・・・・やはりここでも洗濯板が効果覿面だった。

動きを止めた悪魔にウーサーは顔を近づけ、少し距離があるので見辛く多分だが何かを囁いた。

すると動きを止めた悪魔が再び動き出した。

しかしそれは、暴れるものではなく、ここからはっきり見えるくらいブブブブブと音が聞こえるんじゃないって位、とんでもない振動で震えてだしたのだ。


尋常じゃないほど震えている悪魔を重さも気にせず、そのままズルズルと引きずってウーサーは何処かへ連れていってしまう。


兄はその様子を呆然と見ることしか出来ない。

追いかける勇気なんて・・・・・全くなかった。


「・・・・・よし、戻ろ!」


その日は、結局一睡も出来なかったのは言うまでもない。


あの恐怖の出来事から七日に二度。

真夜中に笑顔で鼻歌を歌いながら洗濯板をぶん回し、ぶん殴った悪魔とついでに悪霊も丸め、袋に詰めてズルズルと引きずって何処かに連れていくウーサーの姿が目撃されるようになった・・・・・。

とは言ったものの、その場面に遭遇するのは極めて稀であり、恐らくこれを知っているのは最初に目撃してしまった自分と、不幸にもそれを目撃してしまった可哀想で真面目な見張り番の騎士達少数だけ。

唯一幸運なのは洗われた(退治された)悪魔の断末魔が聞こえないの事。

多分、一緒に連れてるイグレインが珍しく空気を読んで、音を遮断しているからだろう─────ありがたや・・・・・!!


最後にその現場を目撃した一部の者は三日間、血塗れの洗濯板に追いかけられて追い付かれたら白い袋に食われるという謎の悪夢に魘されるという。



・・・・・今のところこまだ死人は出ていない。


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