【二十一話 アクマの森の仔〜黄昏〜⑧】
別タイ:赤紫の慟哭
───少し先の話
あれはそう、あの時と同じキレイな蒼い夜だった。
アイツは【案内役】達と共に故郷を出ていく。
アイツが何処に行き何をするかは解っていた。
多分此処には戻ってくる事は二度とないだろう。
だから、今しかないとアイツに■■を伝えた。
それを聞いたアイツはキレイな【蒼】の瞳を少し見開いたのを見てオレは少ししてやったりと笑った。
するとアイツ───【灰色の竜】は困ったように笑って返し、言った。
「私は貴方の■■である■を与える事は出来ません。
それは私は解らない。解ってはいけない。
その■はこの『宇宙』『星』『世界』のモノ。私達の■とは全てが違うのです。
私が■■のは私と同じモノであり、私が■■■■■■■■のみ───だから、ごめんなさい。
私は貴方の■にはなれません」
柔らかで優しい残酷な拒絶の答えだった。
分かってはいたが、オレはアイツに失望し、憤って酷い言葉も言った。
元からオレとアイツは存在・理・概念全てが違うのだ。
それでも、自分は欲しかったアイツからの■を。
その思いはアイツの前の過去を知った時、更に大きくなった。
■■■/■■■■■欲しかった、自分の■/■を.....。
どんなに拒絶されてもどうしても欲しかった!
だから、オレは──────
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「.....夢?」
とてもリアルで、キレイで、虚しくて、苦い夢だった.....。
夢の余韻がまだ少しあったが、赤紫の子供はまだ少しの違和感と怠さは残ってたが、ゆっくりと身体を起こした。
そこは最初に自分を鎖に繋ぎ、閉じ込めていた地下室と思われる部屋だった。しかし、少し空気が違う。
今更気づいたが、この部屋には小さな窓があり、そこから見える満月の光が差し込んでいた。
月光で照らされて見えたのは、赤紫の子供(【ペット】)が暴れて壊した机や棚が新しい物に取り替え置かれていた。
床に散らばっていた木片と食べ物の残骸も綺麗に片付けられ、一欠片も落ちていない。そして、赤紫の子供が横になっていたきちんと整えられた柔らかくて上質なベッド。
「(今まで猛獣扱いだったのに、今更人間扱いかよ...)」
と、心の中で自嘲気味に嘲笑いながら皮肉を言うと、無意識に真っ白なシーツに置いた手を握りしめた。
「っ!」
力を入れた途端、手の平と手首に鈍い痛みが走った。痛みの元を見ると、そこには真新しい真っ白な包帯が巻かれていた。反対側の手の平と手首にも同じ様に巻かれている。
赤紫の子供はいつの間に?と思いながら、恐る恐る包帯に触れようとした。
「両手首、両足首どちらも擦り傷と捻挫で、全治二週間だそうですよ」
「!?」
のんびりと声掛けられたと同時に机に置かれていたランプの灯りが一人でに灯った。
突然の事に驚いた赤紫の子供は驚き、反射で声がした反対側の方へ飛び退き、声の主を睨む。
「おはようございます、マーリン君。と言いましても、もう夜ですが」
「........」
そこには果物の乗った皿と水の入ったコップ二つが置かれた小さな丸い机と、一つの椅子にはあの【灰色の竜】と同じ色の灰色の髪と【蒼】の瞳を持つ子供が座っていた。
因みに今は奇妙な格好はしていない。
「他にも傷はありましたが、今一番酷いのはその箇所だけです。最もそれをやったのは【ゲテモノ】ですが。あっ!マーリン君の傷が治っても再度拘束することはありませんから安心してくださいね。
誰だって鎖で繋がれるのは嫌ですからね」
“鎖”と“枷”の単語を言った時嫌そうな顔になる灰色の子供。
彼の表情を見て赤紫の子供───マーリンと呼ばれた少年は、
「(確か【灰色の竜】も何本もの鎖や管に繋がれてたな.....)」
あまり長くは視れなかったが、中には適当に手足に喰い込む程強引に巻かれたのもあった気がする。
【灰色の竜】の記憶を辿っていると、ふと視線を感じてマーリンは思い出すのを中断して、そちらに目を向けて一言。
「.....何だよ?」
ぶっきらぼうに言ってマーリンは、自分に視線を送る灰色の子供を睨むが向こうは答えず、ただジッとマーリンを見ているだけ.....否、マーリンの眼を見ていた。
「.....」
それに気づいたマーリンは警戒する。
「(.....オレの眼に何があるんだよ?)」
こんな壊れ汚されたゴミクズの様な何の価値も無い眼に.....。
マーリン達の眼はあの娘達の手によって、何度もバラされ汚された。その影響でマーリン達の瞳に映る世界の【色】と形は禍々しく名状しがたい極彩色とその中に蠢く黒白の物体だった。
ただ、娘達と【王】の姿だけは正常なままで視える様になっていた。おそらく、自分達の姿が醜く映るのが嫌だったからなのだろう。
これが原因でマーリン達が極度の女性恐怖症が発症してしまったわけなのだが...。
ともかく、マーリン達の映す日常の世界はそんな異常な世界だった。
『アクマの森』に放り出された時も、この国へ連れてこられ【ペット】の気紛れでほんの少しだけ外に出された時も、見える世界は変わらなかった。
(【アクマ】も黒白の蠢く物体に見えたが、嫌な気配はしなかったので平気だった)
吐き気がする程気持ち悪い『世界』
自分達を見下ろしながら妖しく輝く『星』
それらを囲う不気味に蠢く色の『宇宙』
全てが名状しがたい極彩色に染められた悍ましい【色】の景色
それが今まで自分達の眼に唯一映すことを許された世界の【色】だった
キレイな蒼い夜空の瞳の【灰色の竜】を視るまでは───
「(あの【竜】の【蒼】だけは....え?何でオレ、【色】が認識できてるんだ?)」
此処でようやくマーリンは、自分の眼が正常な色を映している異変に気付いた。
あれ程目にしたくない程見せられた極彩色の世界は何かに洗い流されように綺麗さっぱり消され、赤青黄緑紫白黒などの色に分けられた鮮やかな【色】の世界になっていたのだ。
あまりにも突然のことで愕然とするマーリンの目元に温かな何かが触れた。
その温かなものの正体は、灰色の子供の手だった。灰色の子供の白くて小さな手は、マーリンの目の状態を確かめるように優しく触れ、そして安堵したように言った。
「あぁ、良かったです。マーリン君達の眼はちゃんと正常に機能してきますね」
「..........は?」
自分の事のように嬉しそうに笑っていう灰色の子供からマーリンはバッと反射的に身を引く。
そして理解した。目の前にいる奴は自分達の眼を弄って何かしたのだと。分かった瞬間、最初に湧き上がったのは極彩色の世界からの解放の喜びと安堵ではなく───
「っテメェ!オレにっ、オレ達の眼に何をしたっ!?」
怒り、嫌悪、失望だった。それら負の感情全て灰色の子供にぶつける様に怒鳴るマーリンに灰色の子供は臆する様子もなく落ち着いて彼に謝罪するのだが、
「申し訳ありません。勝手ながらマーリン君が気絶している間、眼の汚れを洗い流して、その後調整を───「っあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」───っぐぅ!?」
灰色の子供が「調整」と言葉を口にした刹那、マーリンは彼に飛び掛っていた。その反動で二人は椅子ごと後ろから床へと倒れる。
背に床に叩きつけられた灰色の子供は、痛みに顔を歪めた。一方マーリンの方は両手足に怪我があるにも関わらず、素早い身のこなしで、灰色の子供の身体の上に跨り、そのまま彼の首を痩せこけた細い手で絞めた。
「かはっ!」
「───っふざけんな!ふざけんな!!ふざけんなぁ!!!(コイツは、コイツは、コイツだけはっ!違うと思っのに!!同じだっ!!)」
灰色の子供───【灰色の竜】も奴らと同じだとマーリンは絶望したのだった。
「オレをっ!オレ達を弄んだクソ共とテメェは同じじゃねえかっ!!」
マーリンの視界は怒りで赤く染まり、落ち着いていた心の中は思い出したくもない忌々しい極彩色の【色】がドクドクと溢れ出て、過去に受けた苦痛、恥辱、喪失、恐怖、耽溺、絶望の地獄のような狂気の日々が蘇り制御ができなくなっていた。
「オレ達を解放したのも、テメェもあの女達と【ペット】がやったように、オレ達を切り刻んでっ、蹴ってっ、殴ってっ、刺してっ、犯してっ、生き物としての尊厳を何度も何度も踏み潰すんだろっ!?っクソ!
何でただ生まれただけなのに、オレ達かこんな目に遭わないといけないんだよ!?オレ達が何をしたって言うんだ!?」
【灰色の竜】から二度目の、永遠の“解放”と“自由”を貰い、戸惑いもしたが感謝もした。しかし、【灰色の竜】から発せられた「調整」という言葉を聞き、マーリンは、
「(オレ達は結局地獄から解放されてない...!ただクズが差し替わっただけだったんだ!)」
と悲観した。だか、こうも思った。今ならここから逃げ出せるかもしれない、と。その相手は【灰色の竜】だが、何故かマーリンと同じ年の子供であり、マーリンよりそれ程強い力は感じられない。
「...っ.....まぁ、り....んっ」
下から苦しそうな掠れた小さな声がマーリンの耳に入るが無視する。
「はっ!今更苦しそうな声出してんじゃねぇよ。テメェ等だって、オレ達の苦しんで叫んでる声出しても止めもしねぇで、寧ろそれを聞いて愉しんでたもんなぁ!?」
苦痛に歪む灰色の子供の顔を見ず、彼の首を絞める自分の手元だけを見ながらマーリンは声を荒げながら言った。
マーリンが灰色の子供の顔を見ないのは、彼が苦しんでいる様子を見て喜んでいた奴等と同じ事などしたくなかったからだった。
もう一つ、あのキレイな蒼い夜空の瞳に、醜く汚れた自分達の姿を映されているのを見たくなかったから。
「見るな視るなみるなミルナっ!!その【蒼】でオレをみる───」
─────ふわり
マーリンは顔の近くで空気が微かに動いたのを感じた。それに気付きバッと顔を上げると、いつの間にかマーリンの手を抑えていた灰色の子供の片方の手が離れ、マーリンの頬に触れようと近づいていた。
「っ!!?」
「うっ!」
あと数cmのところだった。頬に触れようとした灰色の子供の手をマーリンは一切加減なくガっ!と噛み付いた。
マーリンの口の中いっぱいに血の味が広がる。歯に肉が深くい込んでいく生々しい感触に彼は更にパニックになり、手に力が入ってしまう。
灰色の子供の首辺りから骨の音がミシミシと軋む音が耳に入る。
このまま力を入れ続ければ、灰色の子供の子供は首の骨が折れて死ぬか、或いはその前に窒息して死ぬだろう。
そうなればマーリン達はこの悪夢から逃げられる。これが悪夢から逃れられる最後のチャンスかもしれない。
「(早くコイツを殺して、そう、簡単だ。あと少し力を入れれば───)」
このままマーリンは灰色の子供の息の根を止めようと、さらに力を入れようとした。
だが、この時マーリンは無意識だったのかそれとも本能からだったのか、灰色の子供の首に向けていた目線を外してしまう。
マーリンの赤紫色の黄昏の瞳はその【色】と合わさり視てしまった───
───焦がれてやまない、キレイな蒼い夜空の【色】を.....。
それは、喜び、怒り、哀しみ、楽しみも何も宿していない。ただ、マーリン達に優しく寄り添うように二人を見る【蒼】。
「ああ.....(もう駄目だ、無理だ.....)」
もう、【蒼】を殺すことは出来ない.....。
だって視てしまったのだ。自分達を見る【蒼】を
自分はまたその【蒼】に魅入ってしまった、■して/■■■■■■■■しまった
だから、自ら自分から【蒼】に囚われることを選んだ
「─────っああああああぁぁぁ!!!」
気付いた時にはマーリンは、手に噛み付いた口と首を絞めていた両手を離し、灰色の子供の胸に思いっきりしがみつき、今までため込んでいたモノを全て吐き出すかのように大声で泣きじゃくっていた。
いつまでつづくか分からないおまけ
〜没シーン:首絞められてる時のウーサーの視点〜
「...っ.....まぁ、り....んっ」
首を思いっきり絞められているせいで、息が殆どできないし、声もまともに出ない。
だから、代わりに激昂するマーリンを落ち着かせようと晴れの頬に触れようと顔の方に手を伸ばすのだが、
「っ!!?」
「うっ!」
それが余計にマーリンを刺激させてしまい、伸ばした手に噛みつかれてしまった。
肉を引き千切るのではないかと思うくらい強く噛み付いている。同時に首を絞める手も強くなり、ウーサーの耳の中で自分の血管がドクドクと脈打つ音と、首の骨がミシミシと軋む音がダイレクトに響く。
そんな危機的状況にも関わらず、ウーサーの青い瞳は自分の首だけを睨むマーリンを見ているだけだった。
まるで何かを待っているように.....。
息ができなくて苦しい、痛みで泣いて嫌だと声を出したい、組み敷いている身体を跳ね除け逃げたい、とウーサーは一切思わない。
そうしたいのは目の前にいるマーリン達なのを知っているからだ。
だけど、諦めすぎている今のマーリン達にはそれが本当の意味で分からないし出来ないだろう。おそらくウーサーが言葉で言っても分からない。
だから、今ウーサーがやれる事は、苦悶、苦痛の表情と声を出すのを止め、唯マーリン達を見て二人が気付くまで“その時を待つ事”。
「(貴方達がちゃんと子供に戻って泣くことが出来るまで、私は待ちますよ.....)」




