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【十二話 湖の貴婦人⑨】

別タイ:湖色と瑠璃色と白色達の別れの言葉

〚おかあさま〛


暫く抱き締め合っていた二人の親子だったけれど、先に言葉を発したのはランスロットだった。

彼はゆっくりと少しだけ彼女から離れイグレインに謝る。


〚おかあさま、とつぜんきえてしまってごめんなさい。さいごまで、いえずにいってしまってごめんなさい……!〛


泣きながら何度も謝るランスロットを再度抱きしめるイグレインは


「貴方は何も悪くないわ!悪いのは母様の方なの……!精霊である私が創った異界に生身の人間を住まわせてはいけなかったのに、私は、貴方の母になったのに浮かれてそれを忘れて、貴方を現世に戻さずここに留まらせてしまったから、ランスロット、貴方をっ!」


それ以上何も言えずイグレインの湖色の瞳から再び涙が溢れ流れ始める。


〚いいえ、いいえ!わたしはおかあさまといられてとてもしあわせだったんです!だからっ、じぶんをせめないでください!〛

「ランスロット……」


ランスロットが悪くないと言っても、イグレインの表情は曇ったまま……。すると、それを見かねたのか、ずっと彼女を守るように周りにいた白いのの一つが近づいて、


〚そのこのいうとおりだよ!おかあさまは、ぜんぜんわるくないよ!〛

「あなたは……」

〚そうだよっ!おかあさまはぼくたちをアイツらからたすけてくれた!〛

〚きれいなおしろにすまわせてくれて、おいしいものいっぱいたべさせてくれたもん〛

〚おかあさまとようせいさんたちといっしょに、おままごとしてくれたのたのしかった〛


と、近づいてきた白いのがそういうのと同時に、他の白いのが次々と二人の周りに集まり始め過去にイグレインがして来たことを口々に言ってきた。そしてそれは、まだまだ続く。


〚みじかいあいだだったけど、ぼくたち、とってもうれしかったし、とってもしあわせだったよ!〛

〚わたしも!〛

〚ぼくも!〛

〚おれも!〛

〚あたしもだもん!〛

「───っあなた達」


白いの達は、イグレインが今まで攫ってきてはランスロットと同じ様に泡になって消えてしまった子供達だった。

ランスロットを失い、狂いながらもランスロットを探し【色】が近い子を見つけては歌で誘い『湖の城』へと招いていったのだが、その子供たち全員、本当の親に愛されず暴力を毎日のように受け命が危うくなったところを攫っていった子たちだった。

そして全員ランスロットと呼ぶも、子供達の受けた身体と心の傷を歌で癒やし母のように愛したのだった……。

ちなみにだけど、攫った子供の親たちは容赦なく呪いをかけ、瀕死の重傷を負わせる又は死にまで追いやっていた。その手に掛けた親達が今回イグレインに憑いていた死霊と生霊だんだよ。


「でも、私はあなた達を〚だから───〛?」

〚〚〚〚〚ありがとう!おかあさま!!〛〛〛〛〛

「!こちらこそ、ありがとう。ごめんなさい……」


と、子供達に笑顔ででも悲しそうに感謝と謝罪の言葉を述べるイグレインだったが、それをお気に召さなかったのか、子供達は二人の周りをグルグル早く周り始め、


〚おかあさまー!ここは「ありがとう」だけでいいんだよー!!〛

〚そうだよ!ぼくたちさっきもいったでしょ!おかあさまはなにもわるくないってっ!〛

〚もうっおかあさまってばわすれちゃだめだよ〜!〛

〚かれらのいうとおりですよ。おかあさまは、あやまらなくていいんです〛


プンプン怒りながら、イグレインに講義しだした。それを見たランスロットは苦笑して彼等に同意した。


「あなた達、ランスロットも……そうね、駄目ね私。もう一度、言い直していいかしら?」

〚〚〚〚〚〚うん(はい)!〛〛〛〛〛〛

「じゃあ、改めて───ありがとう、可愛い私の子供達。あなた達と一緒にいられてとても楽しくて幸せだったわ。あなた達のキラキラした温かい【色】を私に視させて触れさせてくれて、私に様々な感情をくれて本当にありがとう。大好きよ!」


イグレインの心からの感謝の言葉を感じ取り、くるくる踊るように周り始める子供達。


〚うん!どういたしまして!〛

〚わたし、おかあさまといっぱいあそんだおもいで、たからものにするね!〛

〚ぼくも、たくさんごほんをよんでくれたひのこと、だいじにする〛

〚おれはおかあさまがつくってくれた、おいしくてあまいおかしのあじぜったいわすれないからな!〛

〚かわいくてきれいなおようふく、いっぱいきせてくれたことずっとあたしおぼえてるから!〛

「ええ、ええ……!」

〚わたしも、おかあさまとずごしたあのあたたかくおだやかなひび、おかあさまのうでのぬくもりけっしてわすれません。らんすろっとはおかあさまのきしになれてほんとうにうれしかったです。


───おかあさま、ずっとこれからも、らんすろっとはおかあさまのことをあいしています!だいすきです!!〛


「!」


〚らんすろっとはおかあさまのことをあいしています!だいすきです!!〛、ランスロットがイグレインに最後まで言えなかった言葉だった。

それを漸く言えたランスロットの表情と【色】はとても晴れやかで、キラキラと輝きとても綺麗だった。


「もう、逝ってしまうのね……」


イグレインはそんなランスロット達を眩しそうに視た後、少しだけ寂しそうにポツリと呟く。

その言葉にランスロットもイグレインと同じ表情になるも、はっきりと頷く。


〚はい。【りゅう】のかたにいわれました。この『せかい』にながくとどまってはいけないと。ずっといるとわたしのそんざいそのものと、おかあさまとすごしたひびのおもいでをぜんぶうばわれて、わたしじしんもべつのものにかえられてしまうといわれました。わたしはおかあさまをまたかなしませ、きずつけたくはありません。だから───いきます〛

「そう……」


ずっと彼等を見守るように見ていたウーサーにイグレインは視線を向ける。

それが合図だったかのように、ウーサーは再び蒼い魔力を使い大きな扉を形成させた。


「扉……?」

〚【りゅう】のおにいちゃんのにってることは、よくわかんないけど、おかあさまとのおもいでがあぶないやつにとられちゃうってことはなんとなくわかったから、ぼくたちぞんなのぜったいにいやだから、あのとびらのむこうにいくんだ〛

「でも大丈夫なの?扉の向こうには何があるか気にならない?怖くない?」


心配そうに蒼い扉を見るイグレインだったが、逆に子供達は方は怖がる様子もなく、一人一人扉の方へと向かう。その中の何人かの子供達は平気だとイグレインを安心させるように言った。


〚きになるけどこわくはないよ!だってとびらのむこうはそごくあんぜんだからだいじょうぶだって【りゅう】のおにいちゃんがいってたもん〛

〚それより、おれたちがわるいかいぶつになって、おかあさまをきずつけるほうがずっとこわい!とびらのむこうならそうならないって【りゅう】のおにいちゃんいってたからな!〛

〚あのなまっぽいひと(?)はちょっとこわかったけど、【りゅう】のおにいちゃんとおんなじ、あのひとたちのようにぜんぜんいやなかんじはしなかったよ。なにより、あたしたちとおかあさまをあわせてくれたから、しんようできるもん〛

「そうなのね」


少しあの二人に不安はあったが、ランスロットと子供達の言い分を信じたイグレインは、二人を信じることにし、そして子供達を安心して送り出すことに決めたのだった。


「いってらっしゃい。向こうに行ってもあなた達が元気で健やかにあることをずっと祈っているわ」

〚〚〚〚〚〚うん(はい)!〛〛〛〛〛〛


イグレインはランスロットと子供達に最大限の祝福と祈りの言葉を贈る。

それに元気良く返事をした子供達は扉の前まで行ったのだが、一人だけ一番小さな白いの……子供がイグレインの元まで戻って、


〚あのね、おかあさま。おねがいがあるの〛

「あら?なにかしら?」


優しくイグレインは微笑んで女の子かと思われる白いののお願いを聞いた。


〚わたしのほんとうのなまえ、いってほしいの。あと、ほっぺにいってらっしゃいのきすしてほしいの〛

「貴女の本当の名前……(そういえば私、この子たちのことを全員「ランスロット」と呼んでいたわ……)」


あの頃、正気を失っていたイグレインは子供達を全員「ランスロット」と呼んでいた。しかし、呼ばれてしまっていた彼等は本当の名前で呼ばれなかったけれど、決して嫌がりもせず、寧ろそれを受け入れていた。

それでも、最後の別れくらいは本当の名前で呼ばれて行きたかったのだろう。


「いいわ、お安い御用よ!さあ、こっちに来て貴女の本当の名前を教えてくれる?」


内心子供達に謝りながら、イグレインはそのこの願いを叶えるために名前を聞いた。


〚!?うん!わたしはね、「あん」っていうの、おかあさま!〛

「ありがとう、アン。そして、行ってらっしゃい」


白くて丸い体をそっと両手に包み、教えてもらった名前を口にした唇で優しくアンにキスをした。


〚うふふ♪ありがとう!おかあさま、いってくるね!〛


明るく返事をしたアンは嬉しそうにイグレインから離れて、クルリと回って挨拶をするとそのまま扉の向こうへと旅立った……。


〚ぼくもしてほしい!〛

〚わたしも!〛

〚おれもおれも!〛

〚ぼ、ぼくもなまえときす、してほしい、です!〛

「ええ、勿論良いわよ!でも、一人ずつちゃんと順番に並んでね」


アンとイグレインのやり取りを一部始終を見ていた子供達が一斉に彼女のもとに戻ってきては、自分も自分も!と再び集まり、アンと同じ様に名前を呼んでもらうのとキスをしてほしいとねだり始めた。

ぴょんぴょんと興奮して跳ね回る子供達を宥めつつ、イグレインはチラリとウーサーの方を見る。

彼等の気持ちを察したウーサーは「いいですよ」と言うように頷く。ウーサーの許可を貰ったイグレインは子供たち一人一人の名前を言い、キスをして彼等を扉の向こうへと送ったのだった。


「いってらっしゃい、オリバー。あまり食べ過ぎちゃ駄目よ?」

〚た、たぶんだいじょうぶ!ありがとう!おかあさまもげんきでね!さようなら!〛


最後の子供を見送り。この場に今残っているのはイグレイン、ランスロット、ウーサー、あと気絶した【ナマモノ】だけだ。


〚さいごはわたしですね……〛

「ランスロット……」


愛しい息子を前にして、様々な感情が再び込み上げてしまい、異ブレインの瞳に薄っすらと涙の膜が張っていた。そんな母を見てランスロットは困ったように笑って言う。


〚おかあさま、なかないでください。らんすろっとは、おかあさまにはえがおでみおくってほしいのです〛

「っええ、そうよね。ごめんなさい」


あの時のように驚愕と絶望の混じり合った表情ではなく、旅立つ子を母として送るため、イグレインは指で涙を拭い、美しい笑顔で別れと愛の言葉を息子に送った。


「さようなら、ランスロット。ずっとずっといつまでも大好きよ。貴方と過ごした幸せな日々と視せてくれた【色】は絶対に忘れはしないわ」

〚ありがとう、おかあさま。らんすろっともおかあさまのこと、ずっとずっといつまでもだいすきです!さようなら、いってきます!〛

「ええ、行ってらっしゃい」


そう言って、イグレインはランスロットの額に優しくキスをした。

少しだけ照れくさそうにだけど嬉しそうに笑ったランスロットは、イグレインからそっと離れそのまま子供達の後を追うように小走りで蒼い扉の方へと向かって行く。

その息子の後姿を一瞬も見逃すまいと、目を逸らさず見送るイグレイン。

だが、ランスロットは扉の前に来た所で急に立ち止まってしまった。


「?」


急に立ち止まったランスロットにどうしたのだろうと不思議そうにするイグレインと、扉の横にいたウーサー。すると、ランスロットはウーサーの方に向き直り、


〚【りゅう】のかたもやくそくをまもってくれてありがろとうございました。あなたのおかげで、おかあさまをおすくいし、またあうことができました。みんなのだいひょうとしておれいをもうしあげます〛


きちんと一例をして感謝の言葉を述べるランスロットに、まさか礼を言われるとは思わなかったウーサーも流石に驚いたようだったが、直ぐに困ったように笑い、


「私に感謝する必要はありませんよ。私はランスロットさんの背中を押しただけですから。……それに感謝される資格など私にはありませんから」


最後の言葉だけランスロットには聞こえないようにウーサーは小さく呟いた。それに気付か謝意を行け取らないウーサーにランスロットは再度感謝を言うのを止めなかった。


〚いいえ!【りゅう】のかたがなんといおうと、このごおんはわすれません!ほんとうにありがとうございました!〛


と、もう一度ペコリと可愛らしく一礼した後、ランスロットはイグレインの方に向き直り、大きく手を振りながら蒼い扉の中へと入っていった。

イグレインもランスロットに向かって手を振り返し、それは扉が消えるまでずっと振っていたのだった。


蒼い扉が消え、一人いなくなり、残ったのは三人だけ。

ウーサー、イグレイン、そしてまだ気絶したままの【ナマモノ】。


先程まで戦闘の緊張から子供達の賑やかな笑い声で騒がしかった空間は一変して、静寂に包まれた。

しかし、それは長く続かず最初にその沈黙を破ったのはイグレインだった。


「それで?【蒼灰の竜の者】とそこに倒れている生っぽいモノ、貴方達は私に何を望むの?」

いつまでつづくか分からないおまけは今回は本当にお休みです。

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