【十一話 湖の貴婦人⑧】
別タイ:瑠璃色の小さな騎士
死霊と生霊の怨嗟と呪詛の声が私の【中】で延々と響く……。
もう、半分くらい奴等の穢れに侵されているから、ソレ以外の声しか殆ど聞こえない。視界も紫黒の瘴気で覆われていて見えない、視えない……。
「あぁ…私、駄目ね。このままじゃ本当の妖妃になってしまうわね。でも……もうそれでもいいかしら……?」
この『世界』にあの子がもういない事にあの蒼い者に気付かされてしまったから……。
諦めろと言われてしまった気がしてしまったから……もう全てどうでもよくなっちゃった。
「(だから……)〚おかあさまーーーー!!!〛───あ」
幻聴?いいえ、確かに聞こえた!声が、声がしたの……!懐かしくて愛しいあの子の声が!
声が聞こえた方に目を向けようとしたの。
そしたら、それを奴等が邪魔をするように激しく喚いてきて、瘴気と穢れの濃度も上げてきたけど、それがどうしたというの!?
私は元とは言え【アヴァロン】の女王イグレイン!
こんな、たかが弱い死霊・生霊如きが私の邪魔をするな!呪いの痛みも瘴気と穢れの苦しみも全部押しのけて、私はゆっくりと今度こそ…と祈る気持ちで顔を上げ───
「───嗚呼っ」
涼やかな薄水色の髪と綺麗に磨かれた様な瑠璃色の瞳の男の子がいた!いたの!
そして、この世で一番私の大好きな私と同じ湖色、朝日が指してキラキラ輝く【色】の私の子───
「ランスロットーーー!!」
今度こそ、今度こそ本物のランスロットだ!
私は嬉しくて、嬉しくてランスロットの声に応えるようにありったけの思いであの子の名を呼んだわ!
〚!?〛
私が答えたことにあの子は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、直ぐに真剣な表情に意を決し、私のいる方に向かって駆けてきたわ!
「(駄目!今の私は───)駄目よ、ランスロット!こっちに来ては駄目ーーー!!」
あの子にまた会えた嬉しさで失念してしまった。私の身体は今酷く穢れている。
そんな私に触れてしまったらあの子まで穢れてしまう!最悪、奴等に取り込まれてしまう!
「こっちに来ないで!!来ちゃ駄目よ!!」
私はランスロットに何度も来ないように言ったけれど、あの子の足は止まらずそれどころか更に加速して真っ直ぐにこっちへ駆けてくるの!阻止したいけれど、水の魔術は蒼い者に封じられて使えないのが歯痒くて仕方がなかった。
「(ならせめて、私の中にある魔力でこいつらを)───っ!?」
奴等を私の魔力で抑え込もうとしたのだけれど、一歩遅かった!死霊の一体が私の身体の中から飛び出て、ランスロットに向かって襲い掛かって行ってしまった。
「止めなさい!ランスロット逃げてーーー!!」
私の声も虚しくランスロットに向かっていった死霊の口が大きく開きあの子に噛みつこうとしているのを、私はただ叫んでみることしか出来ない!
〚っ!〛
「ぎゃあ!!?」
「え!?」
それは死霊の歯がランスロットの肌に触れる前に起こったの。あの【みず】が死霊を囲うように現れそのまま拘束し閉じ込め、それがランスロットの後ろの方にいる蒼い者の方へと飛んでいったの。
そしてそのまま、蒼い者の小さな手に収まり、丸められて………いつの間に出したのかしら?白くて大きな袋に入れられていったわ……。
「………」
何が起きたのか分からなくて思わずポカンとしてしまった私。それに気付いた蒼い者は「ランスロット君は大丈夫です。安心して下さい」とでも言うように、ニッコリとした笑顔を送ってきたわ。
確かに蒼い者が言った(?)通り、私の身体の中から次々と出て来てはランスロットと蒼い者に襲いかかっていったけれど、全て攻撃が届く前にあの【みず】に捕まり、蒼い者に丸められて、白い袋に入れられていったわ……。当然二人は無傷だった、良かった……。
私が安堵している間にランスロットはもう私の目の前に来ていたの。
「ランスロット……(嗚呼、今、私の前にあの子がいる……!)」
私は歓喜で震え、泣きそうになってしまう。駄目よ、ここで泣いてしまったら、この子の顔と【色】が涙でよく視えなくなってしまうわ、と思っていたのだけれど
〚おかあさま、いまおたすけいたします!〛
「え?」
次の瞬間ランスロットは、いつも私がやっていたようにぎゅっと優しく、でも力強く抱き締めてきたの。
「ランスロット!?駄目よ!死霊達が私の身体から殆ど出ていったとはいえ、まだ奴等と穢れと瘴気が残っているの!触れてしまったら貴方が〚だいじょうぶです、おかあさま!わたしにはあの【りゅう】のかたからかしていただいた【みず】のかごがあります!〛」
ランスロットの言った通り、あの蒼い者の【みず】がこの子の体を通して静かに浄化の水のように私の身体に染み渡るように入ってきたわ。
そして、【みず】は私の身体の中に残っている死霊と生霊を次々と捕らえ身体から追い出し、穢れと瘴気もどんどん浄化し洗い流し、ついでと言わんばかりにあの人間の王に受けた傷も癒やしていったわ。
全てが浄化され身体が言えた頃、ランスロットは私の方に埋めていた顔を上げて、最後に見た時と同じ様に、
〚おかあさま。らんすろっとは、おかあさまのきしとして、おかあさまをまもりたすけることができました。らんすろっとは、りっぱにおかあさまのきしとしてのつとめを、はたせたでしょう?〛
花がぱあっと咲くように誇らしく笑ってくれた。私はその笑顔を見て今度こそ涙が溢れ泣いてしまった。
いつの間にか私の腕を拘束していた【みず】の縄は消えていたから、自由になったその腕で私も思いっきりぎゅっと抱き締めていったわ。
「ええ、ええ!貴方は立派に騎士の勤めを果たせたわ!ランスロット、私の小さな騎士様……」
いつまでつづくか分からないおまけはお休みします。
ちょっとコメント残すなら、例の袋に入れられた連中は速攻でパワフルコースで洗われることでしょう。
そして、忘れられた【ナマモノ】はあの熱っっっいベーゼのショックで、身体をピクピク痙攣させながら泡吹いて気絶しています。南無南無……